第6.5章2話 Who is she?(中編)
* * * * *
――それじゃあ、まずお名前とお歳を教えてくれるかな?
「は、はい。えっと……桜桃香、10歳ですわ」
――こういうこと初めて? 緊張してるね。
「そう……ですわね。わたくし、緊張しています……」
――身長と体重、スリーサイズは?
「身長は130cm、体重は秘密ですわ♡ スリーサイズ……は測ったことがないのでわかりません」
――普段は何をしているのかな?
「はい、学校に通っておりますわ」
――学校では何を?
「お勉強をしておりますわ♡ あ、あとクラスでは学級委員長をしておりますの」
――学級委員長! それはすごいね。大変じゃない?
「確かに大変なこともありますけれども、お友達も助けてくれますし、全然平気ですわ!」
――その経験が、どのように活かされると思いますか?
「え!? えっと……その、委員長の経験を活かして…………り、リーダーシップを発揮して、皆のまとめ役とか……? 出来ると思いますわ……」
――そうですか。
――それでは……脱いでみてもらっていいですか?
「は、はい……は、恥ずかしいですけど……がんばりますっ」
そう言って桃香は座っていた椅子から立ち上がり、服のボタンに手をかけ……って!
『”君たちは一体何をやってるんだ!!!!”』
私の怒鳴り声が聞こえたのだろう、桃香と――私と視界を共有しているありすがびくぅっと身を震わせた……。
* * * * *
『”何やってるの、全くもう……”』
『ん、インタビューごっこ』
『最近クラスで流行ってるんですのよ?』
……子供って妙なものが流行る時があるよね……。
いや、それはともかく何でまたこんなみょうちきりんな遊びが流行るんだよ……まるで、その……アレなビデオみたいじゃないか。
その上なんでちょくちょく就活の面接みたいな質問に変わるんだろう?
『”んもー、流行ってるからって変な遊びしちゃダメでしょ!”』
『ん、でも流行らせたの、トーカ』
『”……桃香?”』
『お兄様の部屋のビデオを見て真似してみようかと♡』
うわぁ……
あの兄ちゃん、爽やかイケメンの癖にそういうビデオ持ってるかぁ……いや、まぁいい歳した男なんだしそのこと自体は別にいいんだけど……。
『”……最後まで見たの……?”』
恐る恐る尋ねる私だったが、
『いえ、途中であやめお姉ちゃんに見つかって……続きがどうなったのか気になりますわ!』
『”……気にしないでいいから”』
よし、よくやったあやめ! この点に関しては褒めてあげてもいい。
しかし……これ私が止めなかったら本当に服脱ぐつもりだったのだろうか?
『”教室には男子だっているんだから、いきなり服脱いだりしちゃダメでしょ!?”』
流石にもう後数か月もすれば高学年になるんだし、この子たちくらいの年齢なら男子の前で服脱ぐとか嫌がりそうなもんだけど。
『次、体育だから』
『”……そういうことはもっと早くに言いなさい!”』
私のお説教に反応して、ありすがそう言うと共に教室をぐるっと見渡す。
……確かに女子ばっかりだ。
…………しかもそのうちの何組かはさっき桃香とありす、後インタビュアーやってた美々香みたいなことやってるし……本当に流行ってるのかよ……。
流石に女子の着替えを覗くなんてことはする気はない。私はさっさと視界共有を打ち切り、授業が始まるのを待つこととした。
むぅ、タイミング悪かったなぁ……。
* * * * *
しばらく待っていると授業開始のチャイムが鳴り、ありすたちのクラスが校庭へと出てきた。
だが、彼らの表情は一様に暗い。
なんでだろう? 寒いからかな? ……と思っていたら、理由はすぐにわかった。
『”……マラソンかぁ……”』
『……ん、マラソン』
『マラソンですわぁ……うぅ……』
冬休み明けて早々でも手加減はしてくれないらしい。
そういえば、小学校とかだとこの季節の体育ってマラソンやった記憶があるなぁ……。
マラソン大会とか、何でやるんだろう? 未だにアレの存在意義がわからないや。
まぁとにかく私が走るわけではないし――走ったとしても身体に見合わない超スタミナ持ってるからなんてことないだろうけど――ありすたちには頑張ってもらうとしよう。
今日の目的は、白鳥院さんのチェックなんだけど、流石にマラソンしている間は余裕はないだろうなぁ。
さて、ありすたちは準備運動を終えた後、マラソン開始だ。
今日のところは学校外へと出ることはなく、校庭をぐるぐると回り続けるだけみたいだ。
まぁマラソンなだけあって、一体何週やらされるやら……って感じだが。
”ほうほう、やっぱり美々香早いなー”
校庭に生えている木に登って隠れつつ、私は自分の目で彼女たちの様子を見ていたんだけど……。
一番早いのはどうも美々香みたいだ。『勉強も運動もできる完璧超人』というのがありすの評だったけど、それに偽りはないみたい。
他の子も手を抜いて走っている様子は見えないんだけど、それでも美々香がダントツで早い。このままだと周回遅れとかも出るんじゃないかな……? 途中で体力が尽きなきゃいいけど。
……んで、うちの子たちはどうかというと……。
”おや、ありすも意外と頑張ってるねぇ”
大体中間層くらいの、団子になっているグループからは一歩先へと進んで美々香を追いかけている。
最後のラストスパートまでこの差を維持できれば、そしてダッシュするだけの余力が残っていれば、ひょっとしたら最後に逆転できるかもしれない。そんな位置だ。
”……桃香は……まぁ、うん。がんばれ”
歩いてはいないものの、ペースは物凄く遅い。
というか、クラス内でビリっけつだ。
それでも不貞腐れることなく、諦めることもなく走り続けているんだから、やっぱり桃香は見た目とは裏腹に根性がある。それはまぁ『ゲーム』内での行動からも知ってはいたけど、現実世界でもやっぱり変わりはないらしい。
『”お疲れ様、二人とも。がんばったね”』
授業時間全部がマラソンというわけではない。ある程度走ったところでマラソンは終了。
整理運動をして体をほぐしつつ残った時間は自由に遊んでいいということだ。
『ん……疲れた』
『はい……』
……遠隔通話だと一応普通に喋れているんだけど(頭の中で話してるんだから当然と言えば当然)、実体の方はというと息も絶え絶えと言った感じだ。
ありすは表情が全然変わらないからわからりにくい。笑顔の美々香と普通に喋っていることから、まぁ息は上がっていてもまだ余力はあるといったところか。
対して桃香の方はというと、少し離れた木の上から見ていてもわかるくらい、消耗している――いや、あれはもはや虫の息と言ってもいいかもしれない……。
『ごふぅっ』とか『げひゅっ』とか……何か女の子どころか人間が出しちゃいけないような、そんな声にならない声を出しているかのように見える(あとでありすに聞いたら、やっぱりそんな感じだったらしい)。
うーん、人には向き不向きがあるとは言え、もうちょっと体力つけないと辛いんじゃないかなぁ……。
『ラビさん。ハクチョー』
『”ん? ああ、今大丈夫そう? なら視界共有するね”』
『ん』
当然桃香とも視界共有できるけれど、まぁ今桃香はちょっとアレだから……。
いつも通りありすと視界共有をしてみる。
『”どの子?”』
『わたしの正面の、女子四人組……』
『”ああ、いるね”』
『あの中で、一番髪の長い子』
『”ふむふむ……”』
ありすに言われた子を探してみると、誰が白鳥院さんなのかはすぐにわかった。
女子四人組が、やはり疲れた顔をしながらも体をほぐしている。
確認する必要もないだろう、いわゆる『グループ』というやつだ。
で、その四人の中で一番髪の長い子……もすぐわかった。というか、他の三人が皆髪が短い子だったからだ。せいぜい肩までくらいの長さである。
……ふーむ、あの子が白鳥院さんかー。
『”んー、どれどれ、っと……”』
これもある種の覗き見なんだよなぁとわずかな罪悪感を抱えつつも、私はありすの視界を通してスカウターを使って彼女を見てみる。
――…………あ……。
* * * * *
「え!? 白鳥院さんじゃなかったの!?」
時間は進み昼休み――給食を食べ終わって自由時間となった時、ありす、桃香、美々香の三人と私は目立たない場所で合流して、白鳥院さんを見た結果を話した。
”うん……白鳥院さんも、念のため周りにいた子たちも見てみたけど、そもそも全員がユニットじゃなかったよ”
前にありすのクラスに一人だけまだユニットになっていない子がいたが、その子ではなかったようだ――まぁ顔も覚えてなかったしね。
とりあえず、これで白鳥院さん=ドクター・フーという線はかなり薄くなったと思っていいだろう。
「んー……」
ありすは微妙に渋い顔をしている。
別に白鳥院さんのことを本気で疑っているわけではないのだろう。
むしろ、千夏君も交えて話した時に上がった通り、ドクター・フーがユニットではない可能性もありうるのだ。
だとすると、スカウターで見てユニットじゃなかったからと言って、ドクター・フーではないとも断言できないという結構ややこしい状況について渋い顔をしているのだ。私も、桃香も同じである。
”まぁ、でも私の目から見た感じでは、あんまりドクター・フーだとは思えなかったかなぁ”
「だよねぇ。白鳥院さん、恋墨ちゃんとは相性悪いけど……流石に自分も巻き込んで嫌がらせしようとか、そこまで根性曲がってないよ」
ちなみに美々香にもムスペルヘイム――あの島での顛末については語っている。
どっちかというと美々香は海斗君の方が気になってたみたいだけどね。
私は私でトンコツを問い詰めたいことがあったので、冬休み中、美々香たちが戻ってきてから一度話しているのだ――その時の様子についても、まぁまたの機会に。
んで、白鳥院さんを見ていた私の感想なんだけど、今言った通りだ。
確かにありすとはあんまり仲が良いわけではなさそうだった――というかむしろ向こうがありすを避けているようにも見えた。
でも積極的にいじわるしてくるわけでもなく、遠目からひそひそと仲間内で悪口言い合う……あのイヤーな感じもあるわけでもなく……『不干渉』と言う言葉がぴったりの間柄に私には思えた。
それに、他のクラスメートに対しては普通に接していたし……やっぱり自分の安全を度外視してムスペルヘイムを暴走させたり、『冥界』の蟲たちを操ったりということをしそうなキャラには到底思えなかった。
「残念ですわね……」
”だねぇ……うーん、まぁ一発でフーの正体がわかるとは思ってなかったけど、完全に手がかりがなくなっちゃったね……”
元々期待値の低い手がかりであったとは言え、何もないよりはマシだったとは思う。
今はとっかかりすらなくなってしまった感じだ。
……まぁそもそも、ありすへの嫌がらせをするためだけに自分すら巻き込んで桃園台を壊滅させよう、とか思えるのが普通の人間とは到底思えないんだよね……なんか『破滅的』とかそういうのすら通り越している気がする。
”フーの正体がわかったからと言って何か解決するわけでもないけど……うーん、仕方ないか”
別にフーの本体に対してどうこうしようなんて思ってもいないし。
もし話して和解できるようであればそれに越したことはないが……相手が普通の人間とは思えないしなぁ。
「……ラビさん、そういえばわたしのクラス、もう一人ユニットがいる……って言ってなかったっけ?」
”え? ああ、そうだね。それが白鳥院さんだと思ってたんだけど……”
残念ながら違ったみたいだけど。
「どの子かわかる?」
”えー? うーん、流石に名前はわからないなぁ……”
「じゃあ、念のためその子も見てみる?」
そもそも白鳥院さんを見ようとしたのは、『弱い』ながらもありすに対して何かしら思うところがあるらしいという『動機』の面からだ。
でも動機とか細かいことは考えず、とにかく『ありすを知っている人物』であるという点に絞って考えるなら……確かにクラスにいるもう一人のユニット候補を見てみるのは無意味ではないかもしれない。
”…………そうだね。一応その子も見てみようか”
「ん。じゃあ、次の授業もラビさん見てて」
「授業参観みたいですわね♡」
「いいなー二人とも。あたしも授業参観したーい」
……そうだよね、授業参観ってテンション上がるよね。
盛り上がる三人を見て、午後の授業ももう一人のユニット候補の子を見るために視界共有を続けることを決める私であった。
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