第6.5章 年明少女 -A premonition-
第6.5章1話 Who is she?(前編)
冬休みも終わり、学校は三学期が始まった。
ありすもこの国に冬休み中に戻って来たので、当然いつも通り学校へと行くこととなる。
初日は始業式だけですぐに終わった。授業は翌日からだ。
……で、その授業開始の初日。私は
当然、ただの好奇心とか授業参観気分でやるわけではない。
話は二日前――冬休み最終日にさかのぼる……。
* * * * *
「……ドクター・フーが、わたしの知り合い……?」
ありすが帰国した翌日=冬休み最終日。
どうしても気になることと話さなければならないことがあったので、私はありすたちに集まってもらった。
まぁ皆して一か所に集まる必要もないので、時間を確保してもらったらマイルームに集合、ということなんだけど。
”うん……あいつ、はっきりとありすの名前を口にしてたからね……”
「ですわね。わたくしも聞きましたわ」
「俺もだ。三人揃って聞いたってことは……まぁ聞き間違いとかじゃねーだろうな」
気になることというのは他でもない、ドクター・フーのことである。
既にありすにはムスペルヘイム戦についても全て話してある。もちろん、ドクター・フーが現れ、ムスペルヘイムに『何か』をしたということも。
あいつ、去り際にありすの名前を出したんだよね……。
――ああ、楽しみだなぁ。
シチュエーションさえ違えば、旧友がどんな顔をするか楽しみだ、という風にも取れなくはないけど……まぁそんなことはあるまい。
結果としてムスペルヘイムは無事に倒せたし現実世界に影響もなかったけれど、本当に洒落にならない事態に陥った可能性だってある。
フーの言葉には『悪意』しか感じられない。
「……んー……」
ありすは首を傾げている。心当たりがないのだろう。
まぁそりゃそうか。仮に恨みを持っていたとしたって、自分自身を危険に晒してまで嫌がらせしようなんて相手、普通は心当たりはあるまい。
「そういえば、フーと最初に会った時に途中で出てきた……フランシーヌ? もわたしとトーカの知り合いっぽかった」
”あー……”
「そうですわね……」
と、私と桃香は揃って苦笑い。
実はこの冬休みの間に、フランシーヌの正体の方はわかってしまったのだ。というか、本人が自分で告白してきたのだった。
ま、フランシーヌについては敵になるかもしれなけれどフーのような危険人物というわけではないし、今は放置しておこう。
”フランシーヌについては、後で話すよ”
というわけで、フランシーヌについては一旦放置だ。
また後程――他にも色々とあった冬休みの出来事について語るついでにでも。
今はドクター・フーの話の方が重要だ。
私の言うことを理解してくれたのかくれていないのかいまいちわかりづらいけど、かくんと首を傾げるありすだったがそれ以上フランシーヌについては尋ねてこなかった――理解してくれたのだと思おう。
”うーん、でもドクター・フーに関しても、ありすは心当たりないんだよね?”
「ん……」
”桃香の方からは?”
「……流石に、わたくしからも……」
ありすの交友関係はそれほど広くない。
主に学校――特にクラス内に集中していると言ってもいいだろう。まぁその辺は小学生なら当然と言えば当然だ。
だから一番疑わしいのはクラスメートなんだけど……。
「みーちゃんにも聞いてみましょうか?」
”そうだね、まぁ美々香には別に今でなくてもいいよ――というか、多分桃香と同じだろうね”
「ですわねぇ」
桃香よりも更に交友関係が広そうな美々香なら、何か気付けることもあるかもしれないけど……まぁそれは学校が始まってからでも遅くはないだろう。
「……けど、ドクター・フーって一体なんなんすかね?」
千夏君の疑問はもっともだ。
とはいえ私もそれは聞きたいくらいなんだけど……。
”ちょっとフーについてまとめてみようか。
皆、思いついたことを言ってみて”
フーと遭遇したのは『冥界』、そしてあの名もなき島の二回。
桃香と千夏君はそのどちらとも遭遇している。
「ん……何か、おかしな力を使っている」
「そういえば、わたくしもその変な力で動きを止められましたわ!」
ああ、『謎の宝石』の力でヴィヴィアンの動きが完全に止められたことがあったな。
あれが魔法の力なのか、それとも何か別の力――具体的にはあの『宝石』の持つ効果なのか、はわからないままだ。私としてはおそらく後者なんじゃないだろうかと推測はしているけど。
それとありすが言うおかしな力は、『冥界』でジュリエッタと戦った時になぜか攻撃をことごとくかわした、あるいは受け止めた時のことだろう。
……あの時は『重力』を操っているのではないか、とありすたちは推測していたけど、それだけなのかどうかはわからないままだ。
「……ちょっと疑問に思ったんすけど」
”うん、何?”
「あの島であいつと戦った時……対戦開始の表示なかったっすよね?」
”そうだね”
あの時は直接戦闘したのはジュリエッタともう一人の相手――ロボット少女『ルールームゥ』だった。
確かに千夏君の言う通り、対戦開始の表示もなくいきなり戦闘は始まり、ルールームゥの攻撃でジュリエッタはダメージを受けていた。
あれもかなりおかしな事態だとは思う。
考えたって答えがわかることではないか、と私は半ば放棄していたんだけど千夏君はそうではなかったみたいだ。
「『冥界』の時はどうでしたっけ?」
”……どうだったっけ……? 最初にアビゲイルたちと会った時には表示されていたんだけど……”
言われてみて思い出そうとするけど、はっきりと覚えていない。
うーん、確か出なかった気はするんだけど……。
ただ『冥界』の場合だと、最初にアビゲイルたちとの乱入対戦が始まり、それが終わらないまま延々と続いていったという可能性があるんだよね。
その可能性を口にしてみると、『そっすね』と千夏君は呟き思案顔に。
「ん、なつ兄、何に気付いたの?」
「そうですわ! 言ってくださらないとわかりませんわ」
「え? あー……んー……いや、間違っているかもしれないけど……」
”いいよ、別に正解なんて私たちにわからないんだし、思ったことを言ってくれて”
慎重で生真面目な性格なんだろう、うっかり間違ったことを口にしてその考えに私たちが縛られることを気にしているみたいだ。
でも言葉通り正解なんて私たちだって知らないのだ。
今は色々な可能性を検討してみるべきだろう。
「それじゃ……まぁ俺の直感だし、ちょっとありえなさそうなことなんで忘れてくれていいっすけど――」
と自信なさげに前置きしつつ、千夏君は思いついたことを口にする。
「俺たち、あいつのことを同じユニットだと思い込んでましたけど、ひょっとして――
”ユニットじゃ、ない……?”
「はい。だから乱入対戦が始まったわけじゃないのに攻撃出来たりした、とか」
「ん、ステータスが見えないってのもあった」
「なるほど……ユニットではないのであれば、ステータスは見えませんわね」
……むぅ、言われてみると何となくそんな感じはしてくるな……。
一点ネックなのは、スカウターを使ってステータスが見れないって点なんだけど……それでも千夏君の言う『ユニットのように見えるがユニットではない』という発想には無視できないものを感じる。
”うーん、ありすたち『ユニット』、それと戦う『モンスター』――後はまぁ私みたいな『
「ありえなくはない、と思う……ん」
その可能性を指摘すると、
「ん、可能性はある」
「ちょっと具体的なチートの内容はわかりませんけれど……」
「後、多分クラウザーじゃないな」
最後の千夏君の言葉が少し気になる。
「クラウザーのやり口って……まぁ何というか、チートは使うものの結局『自分が』戦うことにあると思うんすよね」
”……確かに”
ヴィヴィアンの時は彼自身も戦ったし、ジュリエッタの時は――まぁ言葉は悪いが借金を返すための捨て石として利用していたのだろう。ついでにアリスたちを倒せれば万々歳だっただろうが、流石にそこまでは望んでいなかったと思う。
……あの時に現れた謎のユニットも、そういえばステータス見えなかったんだっけ……というか、そもそも名前すらわからなかったんだけど。
あの謎のユニットが後々ドクター・フーになった――いや、うん。ないな。あまりにイメージが違いすぎるし、千夏君の言う通りクラウザーとドクター・フーが結びつかない。
”ドクター・フーは明らかに何らかの思惑があって動いている感じがある。
うーん、でも確かにクラウザーの関係者って感じもないね。何か、クラウザーって勝手にユニットに動かれるの嫌がりそう”
顔を合わせた回数は少ないけど、ヤツがどういうタイプかはおおよそ推測がついている。
おそらく、何でもかんでも『自分がコントロールしないと嫌』というタイプだ。
一言でいうなら、『ワンマンリーダー』って感じかな? ……前世でもこのタイプには何度か遭遇したことあるけど、なかなか面倒くさいタイプの性格だと思う。まぁ中には確かにワンマンなんだけど、能力も比して高いので上手く仕事が回るという人もいたけど。
――話が逸れた。
とにかくクラウザーの性格とドクター・フーの性格は正直噛み合っていないと思う、というのが私たちの見解だ。
だからといって奴らが全くの無関係である、という証拠にはならないけど……。
「……怪しいのは、ヘパイストス……」
「それと、アストラエア、でしたっけ?」
そう、その二人もかなり怪しい。
ムスペルヘイム本体――仮称スルトが口にした名だ。
特にヘパイストスについては最有力である。
「ユニットのアバターを作った開発者なら……もしかしてユニットのように見えるけどユニットじゃない『何か』を作ることも出来る、かもしれないっすね」
”だね”
断定は出来ないけど、現状最も疑わしいと言わざるをえない。
『冥界』での黒幕候補でもあったし、そこでもフーは出てきたのだ。
……断定は出来ないがその想定でいた方が安全かもしれないなぁ。
「ん……? じゃあ、フーを探すのは意味ない……?」
”いや、そんなことないよ。だって、ありすのことを知っているってのには変わりないんだから”
「そっか」
フーがユニットではないとすると、どうしてありすのことを知っているのかの説明が付けづらくなるんだけど……チートを使ってユニットっぽいものを作り、ユニットと同じ仕組みで現実世界の人間を巻き込んでいる、という可能性は考えられる。
どちらにしろフーがありすのことを知っている、これだけは事実だ。
「うーん……ありすさんのお知り合いで、ありすさんのことを恨んでいる人物ですか……」
「おめー、実はいじめっ子だったりしねーよな?」
「……いじめっ子じゃないもん。なつ兄のいじわる」
ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませつつ、ちくビームで反撃するありす。
「…………そのぅ……ドクター・フーかと言われるとかなり疑問はあるのですが、ありすさんとあまり仲が良くない方はいらっしゃいます……」
遠慮がちに桃香がそう言う。
おそらくありすの方に遠慮してのことだろう。
でも黙っていることも出来ない……そんな板挟みの心情がみてとれる。
「……ん、もしかしてハクチョーのこと?」
「はい……」
”んん? それは誰のこと?”
おや、もしかして二人とも知っている?
「えっと、わたくしたちのクラスメートの、『
「んー……ずっと同じクラスなんだけど、ハクチョー、苦手……」
おや、これはまた珍しい。ありすがはっきりと『苦手』と言うとは……。
話を聞いてみると、ありすとは小学校に入った当初からずっと同じクラスだった女の子で、仰々しい名前から想像する通り結構なお金持ちの家の子らしい――ただ、まぁありすたちのクラスには桃香っていう本物のお嬢様がいるしね……。
苗字に『鳥』が含まれているものの、『七燿藍鳥』ではないらしい。ま、それは別にどうでもいいと言えばどうでもいい。
”んー? 何でその子と仲悪いの?”
「あはは……それが……」
「んー……」
桃香は苦笑い、ありすは困り顔。
「その……白鳥院さんが好きな男子が、ありすさんと仲が良い……ので、嫉妬されているのではないかと」
「ん、メーワク」
”な、なるほど……?”
まぁ小学生らしいっちゃ小学生らしい。
二人の心当たりはその白鳥院さんくらいらしいんだけど……むー、でもその程度で桃園台を壊滅させかねないことしでかすかなぁ?
「さすがにちょっとスケールが違いすぎるっすね」
”だねぇ……”
千夏君も私と同意見のようだ。
というか、仮に白鳥院さんがドクター・フーだったとして、意中の男子と仲がいいから程度で桃園台を壊滅させようとするだろうか? もしやるとするなら、ありす本人に攻撃を仕掛けるんじゃないかなぁ、って気はする。
……それに『冥界』で初めて出会った時、ありすに反応しなかったし……。
”うーん……何か考えれば考えるほど、ドクター・フーってわけわからない存在だねぇ……”
不可思議な力を除いても、どこか『矛盾』した存在のように思える。
ありすのことを知っているらしいけど、なぜか初対面の時は触れなかったし――『冥界』後にありすに恨みを持つようになったという可能性は……あまりないかな? 割とすぐにムーに行っちゃったし。
ユニットのようでユニットではない存在の可能性はあるが、だとすると現実世界の人間が本体とは限らない。でもありすのことは知っている……。
……うーん……。
「それじゃあ、一回アニキが見てみればいいんじゃないっすか?」
「それもそうですわね。明日から学校が始まりますし」
”……そうだね。手がかりを増やすためにも、動いてみるべきか”
思い悩む私だったが、千夏君と桃香の言葉でとりあえず動くことを決心した。
こうして、私はありす、あるいは桃香と視界共有をすることでクラスメートを見てみることにしたのだった。
……ヴィヴィアンを捜索する際に、そういえば一人だけまだユニットになっていない子がいたのを見たのをこの時思い出した。
それが白鳥院さんだったのかどうかも、次に視界共有すれば判明するだろう。
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