第6章47話 勝利の報酬 ~海斗からの報酬
色々とあった怒涛の三が日も、そろそろ終わりかな?
タマサブローたちと別れた私たちは、再び現実世界――元・海斗君の部屋へと戻ってきていた。
『ゲーム』的な意味では今回の件は完全に終わったと思っていいだろう。
残るは――
「えーっと、それじゃ……俺にお願いしたいことって?」
海斗君自身からの報酬の受け取りだ。
騙し討ちのような形で私たちを巻き込んだことを気にしていたのだろう、
もちろん、海斗君自身がどうにかできる範囲に限られてはいるけれど。
「わたくしは後で結構ですので、ラビ様からどうぞ♡」
”う、うん……”
とはいっても、私自身が海斗君へとお願いすることって一つしかないんだよね。
”あのさ、海斗君”
「うん、何だい?」
”…………さ、サインください!”
……まぁ、こんなくらいだ。
実は昨日のうちにあやめにお願いして色紙とかは用意してもらってある。
『ラビ様がお願いせずとも、私が何百枚でも書かせますよ?』とかなんとか、微妙におっかないことを口走っていたあやめだったけど、まぁ別に他にお願いしたいことってないしね。
このお願いは想定の範囲内だったのだろう、海斗君は笑顔を浮かべて快諾してくれる。
”あ、一個だけ注文つけていい?”
「いいよ。何?」
”私へじゃなくて、『ありすへ』ってして欲しいんだ”
今回、ムスペルヘイムとかいうとんでもない相手と戦うことになったけど、ありすは参加することが出来なかった。
後で桃香たちにも言い含めておくつもりだけど、ありすにはムスペルヘイムのことは黙っていようと思うんだよね――隠し通せるかは怪しいところだけど。
その代わりと言ってはなんだけど、海斗君のサインをありす宛てに書いてもらおうと私は考えていたのだ。
……ありすが海斗君のファンかどうかはわからないけど、『マスカレイダー
「ありす?」
”……ああ、そっか。海斗君には説明してなかったっけ。私のところの、桃香と千夏君の他にもう一人ユニットがいるんだ。今はちょっと遠いところにいるんだけど……”
「! そ、そっか……」
一瞬驚いたような表情を浮かべた海斗君だったけど、すぐに神妙な表情へと戻る。
……あれ? もしかして私の言い回し微妙だった?
「うん、わかった。いいよ。ていうか、ラビの分のサインも欲しければ書くけど――」
”!! 是非!!”
即答だった。
いや、だってそりゃ貰えるなら欲しいよ! 替わりにムスペルヘイムの神核返せって言われたら喜んで返すよ?
私宛のサインは、どうしようか悩んだけど『ラビへ』としてもらった。
……流石にここで海斗君に私が前世で異世界の人間だった、とか色々と説明するのもなんだし。それに、今の私は『
「ジュリエッタ……じゃなくて、蛮堂君は?」
「え、俺もっすか? じゃあ、俺じゃなくて弟にでいいっすかね?」
「いいよ。弟さんの名前は?」
「
律儀だなぁ。まぁそういうところが彼のいいところなのかもしれないけど。
それはさておき、千夏君には弟がいるとは知っていたけど、名前は初めて聞いたかな? 前に美鈴と話した時には彼女が『むったん』とか呼んでいたけど……なるほど、睦月だからむったんか。
慣れているのだろう、さらさらっと私たちの分のサインを書いてくれる。
……うへへ、やった。これはもう家宝にするしかないね。美奈子さんにお願いして飾ってもらおう。
「それじゃあ、桃香ちゃんはどうする?」
さて、いよいよ問題の桃香のお願いだ。
色々な意味でこの子の場合、何を言い出すかわからないから不安だ……。
桃香も桃香であやめのことが大好きみたいだし、『あやめお姉ちゃんに金輪際近づかないで!』とか言い出さないだろうか……。
「うふふっ♡」
と上品――とはとても言えない笑みを浮かべ、桃香は海斗君へのお願いを伝える。
「わたくし――『合コン』がしたいですわ!!」
…………。
「……えっと……?」
海斗君が戸惑う。まぁ当たり前だけど。
私とあやめは桃香が何を考えてそんなことを言い出したのか何となくわかるので、揃って小さくため息。千夏君はまだそこまで桃香のことを理解していないのだろう、首を傾げている――いや彼の場合、もしかしたら『合コン』が何かわかっていない可能性もあるか。
「桃香ちゃん……本気? え? 小学生、だよね……?」
合コンの意味を正しくしっているであろう海斗君は、
……まぁ歓迎すべきことではないと個人的には思うけど、最近の小学生なら知っている子もいるだろうし中にはやっていることもいるかもしれない――まず間違いなく真っ当なことではないが。
でも桃香がそういう子かと言われると、流石に違うとは思う。
桃香の狙いは――
「う、うーん……事務所の同期とか後輩とか、声をかければ集められないこともないけど……流石に小学生と合コンやりたいって男はそうはいないんじゃ……」
……いないわけじゃないと思うけどね。ノリノリで小学生と合コンやりたいって男、取っ捕まえた方が世の中のためだと私は思うが。
まぁそれはともかく、桃香が芸能人とは言え男の子との合コンなんて望んでいるとは私たちには思えない。
案の定、不思議そうな――いや何で不思議そうなのか理解できないけど――顔で首を傾げて海斗君の考えを否定する。
「? どうして男の方を集める必要があるんですの?
わたくし、『ふわりん』さんと合コンしたいですわ!」
『ふわりん』って言うのは、現在絶賛放映中の『マスカレイダー フィオーレ』の主演女優さんの愛称だ。
本名――というか芸名は『
『美少女』という言葉がこれほど似合う子はそうはいないだろう、ってくらいの美少女なのだ。男性のファンは物凄く多いのは理解できるけど、女性ファンも結構多いらしい。
「ふわりん……ああ、不破さんか……」
一方で桃香の言いたいことがわかったのだろう、海斗君が渋い表情で唸る。
所属している事務所は違うはずだけど、『マスカレイダー』の映画版で共演しているし顔は合わせたことくらいはあるはずだ。
「……ごめん、桃香ちゃん。流石にそれは無理だ……」
「な、なんでですの!?」
「不破さん、俺より先輩だし、そんな気軽に誘えないよ……」
あー、そうなんだよねぇ……。
海斗君はレイダーが役者デビューで、本当に最近になってデビューしてきた『新人』なんだけど、ふわりんはずっと前から子役としてデビューしてたんだよね。
良く知らないんだけど、確か芸能界って実年齢は関係なく、業界にいた年数によって先輩後輩が決まるって聞いたことがある覚えが。
仮に知り合いだとしても、ペーペーの新人が年下のベテランに『女子小学生と合コンしませんか?』なんて声をかけられるわけがないよね……。
「それに、あの人……見た目あんなだけど、めちゃくちゃおっかないんだよ……」
ふわりんは愛称の通り見た目はかなり『ふんわり』とした、おっとりとした可愛らしい子なんだけど、どうも性格は結構キツイようだ。
まぁそうでなくても、後輩から合コンに誘われて、しかも相手が年下の同性とか言われたら……普通はいい気はしないだろうし。
海斗君の言葉を聞いて、みるみるうちに桃香が萎れていく。
……この子は、もう……本当に……。
「……え……じゃあ、いいです……みーちゃん宛にサインください……」
美々香の扱い雑だなー。
ちなみに彼女は今日もいない。祖父母の家に出かけて、そのまま家族旅行に行っているようだ。
「う、うーん……昔は桃香ちゃん、『お兄ちゃんお兄ちゃん』って懐いてくれてたんだけどなぁ……」
「全く、これっぽっちも、記憶にございませんわ♡」
桃香もなぁ……千夏君やら海斗君への態度からすると、別に完全な男嫌いというわけではないんだろうけど……。
今のところ実害があるわけじゃないからいい……とも言い切れないけど……。
結局、桃香は美々香へのサインでお願いは妥協するようだった。
ほんと、こういうブレないところは凄いとは思うけどねぇ。
その後はあやめが入れてくれたお茶を飲んで少しまったりとしていた。
海斗君は明日の夕方くらいに
で、明日はシオちゃんの方も都合がつくようなので、あの島でまったりと過ごすつもりみたいだ。
……去年末くらいからはオーキッドたちがやって来たり、今年に入ってからはムスペルヘイムが復活したりでのんびりと出来なかったことだし、一日くらいシオちゃんとゆっくりしたいんだろう。
私たちも明日はあの島へと向かうことはしない。流石に海斗君たちの邪魔をするほど野暮でもない。
ふと気になったけど、海斗君自身はシオちゃんのことどう思ってるんだろう? 嫌ってはいないみたいだけど。
「うん? シオちゃん?
甘えん坊で可愛いよね」
……これが言う人によっては犯罪臭漂うんだけど、海斗君が言っているとなるとほんとに『子供かわいいね』って意味なんだろうと思えてしまう。
「最初のころはねー、ちょっと我儘で俺の言うこともタマサブローの言うことも全然聞かなかったんだよね。
……ムスペルヘイムを封印した後くらいからだったかな? あんな風に甘えて来るようになったの。何か裏があるんじゃないかって最初は思ったけど……まぁあんな風に甘えられて悪い気はしないかな」
それはひょっとして……ムスペルヘイムを封印したプラムの実力にビビって大人しくなった、とかなんじゃないだろうか……?
い、いや、突っ込むまい……何だかんだで今は良好な関係らしいし、私から見てもシオちゃんが本気でプラムに甘えているように映ったし、掘り下げる意味なんてないだろう。
「あ、そうだ。一つ言うの忘れてたことがあったんだ」
”ん? 何?”
海斗君の携帯に彼の姉妹から連絡があり、そろそろお婆さんを連れて家に帰ると言われたところだ。
彼もお婆さんたちと一緒に家に帰るので、じゃあ皆して解散しようとした時に、ふと思い出したように海斗君が言った。
「ラビたちに渡したムスペルヘイムの
あれか。
そういえば私も一個だけアレについて海斗君に聞きたいことがあったんだった。
もしかして同じことかな?
「アレ……もしかしたら俺の気のせいなのかもしれないけど――」
”う、うん……”
「……多分、アレ――『石』とか『金属』とかじゃなくて……『
”種……?”
言われてみれば、あの形状……種っぽく見えると言えば見える。例えとして適切かはともかく、一番近い形状は『梅干しの種』じゃないだろうか。
「種、ですか? それでは、地面に植えたら綺麗なお花が咲くんでしょうか?」
「いやー、もしかしたらムスペルヘイムが生えて来るかもしんねーぞ?」
そ、それは嫌だな……。
海斗君も苦笑いしつつ、でもその可能性を否定しない。
「そもそも、神核を使って魔法の強化が出来るかも、って気付いた理由が『植物の種』だったから、なんだよね。
ほら、変身後の俺って植物全般に関わる能力を持ってるじゃない? だから、何となくそういう特殊効果のある植物ってわかるんだよね」
”なるほど”
オーキッドが『
うーん、でも植物の種かー……海斗君の意見が絶対に正しいってわけではないけど、否定する材料もないな。
神核=種ってことに何か意味があるのかどうか、それさえも今のところは私たちにはわからない。推測する手がかりすらない状況だ。
”……わかった、ありがとう海斗君。気に留めておくよ”
「うん。俺もそれにどんな意味があるのかわからないから何とも言えないけど……」
う、何か微妙に厄介なものを押し付けられたんじゃないかって気がしてきた……けど今更返すわけにもいかないし……。
「やっぱり腹黒ですわね」
「そ、そうかな?」
呆れたような桃香の言葉に対する反論は、若干弱弱しいものだった。
ま、受け取ったものは仕方ない。もし危ないようなら、マイルームのボックスに放り込んでおけばいいだろうし、これからは『嵐の支配者』の方の神核と一緒に時々注意して見てみよう。
そうこうしているうちに、海斗君のお姉さんがお婆さんを迎えに来た。
お姉さんは車で来たようだ。
「それじゃ、ラビ、桃香ちゃん、蛮堂君。今回は本当にありがとう。
それにラビには色々話聞いてもらえてすっきりしたよ」
”まぁ私は聞くだけだったけどね。最後に決断したのは海斗君自身だよ。
……その、現実の方もまだまだこれからなんだし、もしまた悩んでいるようだったら話くらいなら聞くよ”
この身体じゃあ話聞くことくらいしか出来ないけどね……。
と、海斗君が笑みを消し真面目な表情で私たちの方へと視線を送る。
「俺はあんまりこっちには戻ってこれないから機会は少ないかもしれないけど、もしラビたちが困っていることがあるなら、今度は俺が必ずそれを助けるって約束する。
だから、その時は遠慮なく呼んで欲しい――まぁタマサブローがどこにいるかわからないから、アヤちゃんを通してってことになるとは思うけど」
”……うん、わかった。その時はよろしく頼むよ”
海斗君の手を煩わせたくない――特にこれから受験シーズンになるんだし――けど、もし手助けしてくれるというのであれば、これほど心強い助っ人もいないだろう。
逆にまた海斗君たちが困ったことになったら、その時はまた私たちも手助けすることは厭わない。
……今度は隠し事なしにしてもらいたいなぁってのは思うけどね。
「……何をかっこつけたことを言ってるんですか。カイはまず自分のことをどうにかすることを考えなければいけないでしょう?」
……と、最後の最後まで海斗君の決意をバッキバキにへし折るあやめなのであった……。いや、まぁ確かにその通りではあるんだけどさ……。
* * * * *
海斗君もお姉さんの車に乗って帰り、私たちの方もいい時間となったので解散することとした。
”千夏君も今日はわざわざこっち来てくれてありがとうね”
「いえ、とんでもないっす! 紅梅先輩と顔合わせられるのも今日で最後でしたし、俺のわがままで来てもらったようなもんですから」
そうは言っても、千夏君の家から桃香の家までは結構距離がある。
この寒い中移動するのは結構辛かろう。
「ふむ……蛮堂さん。もしよろしければ私が車でお送りしましょうか?」
”えっ!?”
「え……?」
「マジっすか!?」
突然のあやめの申し出に歓喜の声を上げる千夏君だったが、私と桃香は何とも言えない驚きの声を上げてしまう。
そりゃあね、あやめの運転がどんなものか知ってるしね……私たちは。
止めるか……? いやでもそうすると寒空の中、千夏君は結構な距離を歩くことになっちゃうし……。
「あ、あやめさんさえよければ、是非お願いするっす!」
車で送ってもらうことを悪く思う気持ちと、あやめの車でドライブするということを天秤にかけ、どうやら後者の気持ちが勝ったようだ。
「…………よろしいのではないでしょうか」
”…………うん、まぁ本人がいいって言うなら”
乗り気になってる二人を見て、もはや止めることは出来ないだろうと諦めた私と桃香は、生温い視線を送るしか出来なかった……。
『……アニキもお嬢も、二人してひでーや……』
あやめが車で千夏君を送ってから一時間過ぎたころ、千夏君からそんな遠隔通話が来たのだった……。
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