第6章45話 最終戦:ジュリエッタvsプラム

「メタモル《狂傀形態ルナティックドール》!!」


 対戦開始と同時に速攻でジュリエッタが動く。

 宣言通り、『全力』だ。いきなり《狂傀形態》から来るとは……。

 身体が大人の女性並みになることでリーチが伸びるだけではない、各種ライズも自動で使われるため飛躍的に身体能力が向上している。

 加速したジュリエッタが一気にプラムとの間合いを詰める。

 こと格闘という面について、私はジュリエッタ以上の能力を持っているユニットを知らない。

 ヨームのところの凛風リンファが魔法を使ってステータスを上げれば何とか渡り合える、というくらいだろうか。それにしたって、ステータスで上回れるというだけで格闘能力が向上するわけではない。

 一足飛びに間合いを詰め、あっという間にジュリエッタの得意とする間合いとなった。

 だが、


「……グロウアップ《龍樹ナーガールジュナ》」


 プラムは慌てず騒がず、すぐさま魔法を発動させる。

 彼女の足元から突如巨大な樹が生え、ジュリエッタへと向かって伸びていく。

 いつの間にか――おそらく戦闘開始すぐだろう――足元へと『無色の種ブランクシード』を放っていたらしい。

 しかしその程度で怯むジュリエッタではない。

 真正面から伸びて来る樹に対して回避する様子など見せず、拳を振るって破壊しようとする。


「!? 硬い……!?」


 樹どころか岩すらも易々と砕けるであろうジュリエッタのパンチが、プラムの魔法に弾かれた。

 一体どれだけ硬い樹なんだろうと思ったけど、それは間違いだった。


「……これは……!?」

、っていう……約束、だから、ね……」


 

 最初に伸びた勢いだけではない。まるで蛇のようにのたうち動いているのだ。

 ジュリエッタの拳を弾いたのもただ硬いだけではない。自らが動くことによって弾いたというのもあるだろう。


「《龍樹》――いきなさい」


 プラムの号令と共に、《龍樹》の先端ががばっと『顎』を開く。

 それはまるで、『龍』のようだ。

 なるほど……名前の通り、龍のような樹――龍型のウッドゴーレム、ということであろう。そんなものまで作れるのか、プラムの魔法……。

 自ら意志を持つ《龍樹》がジュリエッタへと襲い掛かる。

 それと同時に、プラムも動き出す。


「グロウアップ《大噛含羞草ミモザバイツ》、インプルーブ《狂暴化サベージ》」


 ジュリエッタから距離を取るように後ろへと退きつつ、更に魔法植物を作り出す。

 スルト戦でも使った巨大オジギソウを作り出すと共に、それに獰猛な攻撃性を付与させる。




 プラムの持つ魔法、グロウアップは既に何度も見た。通常ではありえないような魔法植物をも作り出すことが出来る魔法である。

 もう一つのインプルーブは、どうやら植物に対して新たな力を付与する魔法のようだ。アリスの『ab』に近いものがあるかもしれない。まぁアリスほど無茶苦茶な付与は出来ないとは思うけど……。

 《龍樹》と《大噛含羞草》の二つの巨大植物に左右から襲いかかられ、ジュリエッタはプラムを追うことが出来なくなってしまう。


「むー……邪魔。メタモル!」


 一方で防戦になるジュリエッタではない。

 すぐさま《狂傀形態》を諦めて解除、新たにメタモルを使う。

 彼女の右腕が燃え盛る『槍』へと変化――ムスペルヘイムから吸収した炎の力を使った新しいメタモルだ。


「ライズ《アクセラレーション》」


 更に加速を付与。

 しつこく噛みつこうとする《大噛含羞草》へと炎の槍を振るって焼き切ろうとする。

 プラムの魔法の弱点その2が、『植物という性質上炎に弱い』というのがある。

 ムスペルヘイムに対して若干……いや、かなり不利だったこの性質を突くには、ジュリエッタの今のメタモルは限りなく正解に近いだろう。

 現に《大噛含羞草》の葉はあっさりと焼かれてしまっている。


「グラフト《毒玉鳳仙花バルサミーナヴェノム》」


 そこでプラムが更なる魔法――グラフトを使用して焼かれた《大噛含羞草》を別の植物へと変える。

 炎で燃えてしまった箇所を切除、そこから毒々しい色の鳳仙花が咲き、至近距離からジュリエッタへと猛毒の弾丸を飛ばす。


「ライズ《ポイズンコート》!」


 しかしこの魔法は一度ジュリエッタは見ている。

 すぐさま毒耐性上昇のライズを使って防御――だけでなく、まだ効果の残っている《アクセラレーション》の機動力を使って回避、次の《龍樹》へと炎の槍を振るう。


「……」


 ……何だろう、ジュリエッタが結構攻めている側だというのに、プラムにはやけに余裕があるように見える。

 憂鬱そうな表情はいつものことなので、正直追い詰められているのかどうかは顔からはわかりにくいんだけど……動きもそこまで早くないし、焦っているように全く見えないのだ。

 確かにジュリエッタが前に出るのと合わせて徐々に後退していってはいるのだが……。

 そうこうしているうちに、ジュリエッタに迫っていた《龍樹》にも炎の槍が突き立てられる。

 これでプラムの守りは無くなった――と思うのは早計だったか。


「グロウアップ《槍蓮華ランゼロータス》」


 一体いつの間に『無色の種』を撒いたのか、少し距離が離れているはずのジュリエッタの足元から鋭い『槍』が幾つも伸びる。


「うぐっ!?」


 足元からの攻撃が来るとは予測していなかったか……いや、《龍樹》が突き刺された炎の槍を離すまいとジュリエッタの腕を締め付けていたせいだろう。

 回避が遅れたジュリエッタの足や脇を槍が掠めていく。


「グラフト《毒玉鳳仙花》」


 槍が掠めると共に再び鳳仙花へと変更、今度はかわしきれずにジュリエッタが毒を諸に浴びてしまう。

 直前に毒防御を使っていたことが幸いし体力はそこそこ削られただけで済んだが……これは結構拙いかもしれない。

 ジュリエッタは格闘戦に強い割には体力ゲージ自体はそれほど高いわけではない。

 こうやって徐々に削られて行く戦いを強いられると少し辛いところがある。特に今回は紳士協定とは言え、回復アイテムに制限を付けている対戦なのだ。小さいダメージの積み重ねだとしても、そう何度も回復はしていられない。

 ……まぁ小さいダメージだからこそ、逆にジュリエッタが強烈な一撃をぶつけることが出来れば、それだけで一発逆転できるという考え方もできるけど……。


「メタモル!」


 今度は左腕を火龍の口へと変え、炎弾をプラムへと向けて発射。

 ついでに右腕の炎の槍と合わせて周囲一帯の薙ぎ払って邪魔な植物を一掃しようとする。

 自分に向かってきた炎弾を横に跳んでかわすと共に、プラムがその手に沢山の『無色の種』を握るとジュリエッタに向かって投擲する。

 ……あ、これは拙いかも。


「チッ……メタモル!」


 炎の槍を今度は竜巻触手に変え、投げつけられた種を払いのけようとする。

 そう、プラムの魔法の恐ろしいところは、相手に直接種を植え付けることが出来る、という点にある。

 あのスルトとの戦いの時にそれは実感できた。ムスペルヘイムのような身体そのものが超高温でもない限り、周囲の環境に関係なく発芽させられるというのは結構脅威だ。

 今のギリギリせめぎ合っている状況で直接種を植え付けられた場合、ジュリエッタは致命的なダメージを受けることになるだろう――まぁジュリエッタなら一撃必殺でなければメタモルで脱出可能かもしれないけど……。

 嵐によって払われた種は幸いにもジュリエッタに届くことなく、あちこちに吹き散らされてしまう。

 ――というところまで、だったのだろう。


――《龍樹》!」


 それは、ジュリエッタにとってかなり致命的な魔法だった。


「こ、れは……!?」


 周囲へと散った種から遠隔でプラムが植物を生やして来るであろうことはジュリエッタも想定していただろう。

 だが、それが来るとまでは思っていなかったに違いない。私だってそうだ。

 地面へと散らばされた無数の種――数える気になれないほどの数の種から、一気にドラゴン型ウッドゴーレムが現れジュリエッタへと殺到する。

 ……ブルーミング……一斉開花魔法、とでも言うべきだろうか。おそらく複数の『無色の種』に対して使えるグロウアップ、なのだろう。

 …………いや、これかなりスゴイ魔法なんじゃない? 魔力消費は相当なものだろうけど、種さえ無事なら――まぁ種も霊装扱いだろうから基本壊れはしないだろうけど――広範囲に渡って一気に魔法植物を作れるのだから。

 うーん、つくづく思うけど、プラムとムスペルヘイムの相性最悪だったにも関わらず良く戦えたよなぁ……ムスペルヘイムが相手でなければ、プラム一人で封殺できたんじゃないだろうか。まぁ、だからこそプラムは私たちに協力をお願いしたんだろうけどさ……。


「く、そっ……!」


 無数の《龍樹》に四方八方から襲われ、ジュリエッタは防戦一方に追い込まれてしまった。

 直前に炎の槍を解除してしまったのが痛い。《狂傀形態》、炎の槍、竜巻触手と立て続けに使ったために、肉の消費もそうなんだけど魔力消費がかなり大きい。

 もう一度炎の槍を使うことは残魔力量からして不可能ではないが、また別のメタモルやライズを使うのが難しくなってくる。

 回復をしたいところだけど、《龍樹》の数からしてキャンディ一個使うのも致命的な隙を晒しかねない。

 ……何よりも、またプラムがジュリエッタに直接種を投げつけてきた場合、状況によっては竜巻触手で薙ぎ払いたくなることもあるかもしれない。




*  *  *  *  *




”……むぅ、プラム本当に強いな……”


 『やろうと思えば何でも出来る』という点で、アリスやヴィヴィアンの魔法にかなり近い性能を持っている。

 ジュリエッタをまるで寄せ付けず、戦いの主導権をプラムが握り続けていると言っても過言ではないだろう。

 本当に相性さえ悪くなければムスペルヘイムも一人で何とかできただろうな、これは……。

 対人・対モンスターどちらにも非常に有効な魔法を持っていると言える。


「……妙ですね」


 戦いを観戦していたヴィヴィアンが首を傾げる。


”うん? 何かあった?”

「はい。プラム様の様子を注視しておりましたが……魔力を回復する素振りを一切見せておりませんので」

”……確かに”


 言われてみて気付いたが、プラムはアイテムを使っての回復を全く行っていない。

 魔力消費量が少ない魔法ということだろうか?

 いや、だとしても今使ったブルーミングは相当な魔力を使うとしか思えない。

 一回で魔力を使い果たすところまで行かずとも、それまでに使った魔法と合わせて考えるとそろそろ回復しないと魔力切れを起こしかねないと思えるのだが……。


”うーん……これもプラムの魔法、かな……?”


 実はジュリエッタには遠隔通話では教えていないのだけど、改めてプラムのステータスをスカウターで確認してみたところ、彼女は合計で5つの魔法を持っていることがわかった。

 そのうち、グロウアップ、インプルーブ、グラフトは見えていて、残り二つはマスクされていて情報がわからなかった。

 うち一つは今使ったブルーミングだろう。

 となると、残り一つが……?

 ちらっとタマサブローの方を見てみると、


”……まぁ、教えちゃってもいいかしらね。ジュリエッタに教えたりしないでしょ?”

”約束だからね。というか、教えたらジュリエッタに怒られちゃうし”


 単に私の好奇心を満たすためだけの疑問だ。別に答えてくれなくてもいいんだけど、どうやらタマサブローは教えてくれるみたいだ。


”疑問が残ったままってのも気持ち悪いわよねぇ。色々迷惑かけたお詫びもあるし、教えてあげる。

 プラムの5つ目の魔法――それは『フォトシンス』。光を浴びている場合に限って、魔力の自動回復速度が速まるっていう自動魔法パッシブスキルよ”


 ついつい忘れがちになるけど、ユニットの魔力は何もしなければゆっくりと自動で回復していく。

 ただそのスピードはかなり、いやすさまじくゆっくりなのであまり当てに出来ないものなので普段は意識することはないのだ――『冥界』の時みたいな長丁場ならば、安全さえ確保できるのであれば活用できることもあるかもしれないが。

 私からは見えないプラムの最後の魔法は、どうやらその速度を実用に耐えうる程度に上昇させてくれるものらしい。

 ……まるで光合成だな。いや、実際プラムの魔法って植物に関連したものばかりだし、プラム本人も植物的な性質を表す魔法を持っていても不思議ではないけど。


「なるほど、納得いたしました。

 ……対戦フィールドではなく、この島での対戦を承諾したのはそういう事情もあったのでしょうね。やっぱり腹黒です」


 う、うーん……。

 タマサブローと私が現実世界で顔を合わせられない、あるいは合わせにくいからという事情もあるんだけど……ヴィヴィアンの言う通りの計算をプラムがしていないとも思えない。

 ……こりゃ本当にプラムは『本気』で勝ちに行ってるな。

 卑怯とは言うまい。ジュリエッタの願いはプラムに全力で戦ってもらいたい、というものだ。

 ジュリエッタが事前にモンスターの『肉』を吸収して備えていたように、プラムも己が万全の調子で戦えるようにフィールドを調節したと考えられるだろう。

 仮にこのことをジュリエッタが知っても、彼女ならば喜びこそすれ卑怯と怒ることはないだろう。


”長引けば長引くほど、ジュリエッタがどんどん不利になっていくね”

「ええ。

 ……まぁ、おそらくそろそろ決着かと思われますが」


 同じ数の回復アイテムを持っていても、自動回復を頼ることのできるプラムの方が圧倒的に有利だ。

 そもそも相手に回復を許さずにいれば、それだけ有利に立つことが出来る。

 プラムの魔法を一気に薙ぎ払えるだけの魔法をジュリエッタが使えないのであれば、今の状況が覆ることはないだろう。

 そしてそんな魔法が使えるのであれば、長期戦などするべきではない――フォトシンスのことをジュリエッタが知っていないにしても、相手の手数の方が多いのは分かり切っている。ジュリエッタだってそれはわかっているだろう。

 ヴィヴィアンの言う通り、いずれにしても決着の時はそう先のことではないと思われる。




*  *  *  *  *




 《龍樹》に囲まれ、次々と襲われるジュリエッタだったが、驚異的なことに彼女はそれを魔法を使わずに捌いていた。

 正確には新たなメタモルを使わずに、である。

 左手の火龍の炎で焼き、右腕の竜巻触手で弾き、あるいは引き裂く。

 それらで対処できない《龍樹》は巧みな体捌きでかわしている。

 ……プラムの魔法も規格外だが、改めてジュリエッタの格闘能力もまた規格外だと思い知らされる。

 ジュリエッタの善戦により《龍樹》の数は次第に減っていっている。


「グラフト――」


 しかしプラムがそれをただ黙ってみているわけがない。

 ジュリエッタによって破壊された《龍樹》に対して即座にグラフトを使って別の植物へと変え、追撃を仕掛けていく。

 特に厄介なのが《毒玉鳳仙花》へと変えての広範囲への毒散布だ。

 こればかりは動きでかわすにも限界があり、ジュリエッタも幾らか食らっている。

 対処法がライズでの毒防御しかないため、魔力の消費を強いられてしまっているのだ。

 徐々に削られる体力と魔力。そして回復する隙もない――一度プラムのペースに嵌ってしまうと、抜け出す術はそうそうなさそうに思える。


「…………プラムが、強くて」


 ――だが、この状況においてジュリエッタは不敵に笑みを浮かべる。

 今のところ手も足も出せないような状況にも関わらず、期待通り、いや期待以上にプラムが強いことを彼女は心の底から喜んでいるのだ。

 ……ジュリエッタもアリスに負けず劣らずのバーサーカー気質だ。今の状況で笑えることを呆れるやら感心するやら……。


「えぇ、私も同じ、こと……思ってるわ。

 だから――全力で行くわ」


 ジュリエッタの呟きが聞こえたのだろう、プラムもまた笑ってそう返す。

 今までだって十分すごかったのに、ここからまだ更に上があるっていうのか……?




 ともあれ、ヴィヴィアンの予想通り、決着の時は近い。

 ジュリエッタは劣勢を覆すためには一撃でプラムの魔法を跳ねのけ、そしてプラム自身に刃を届かせるしかない。

 プラムもそれは予測済みだろう。ジュリエッタのやろうとすることに対応するのであれば、結果的にはジュリエッタを倒すのとほぼ同義になると思われる。


「グロウアップ《最果ての黄金竜果ヘスペリデス・ラードーン》――ムスペルヘイムにとどめを刺した魔法、よ……」


 プラムもここで決着をつける気なのだろう、新たな魔法植物を作り出す。

 地面に植えた種から生えた一本の樹に生った『黄金のリンゴ』を手に取り、それを齧る。

 リンゴを齧ると共にプラムの身体に黄金の光が宿る――どんな効果かは想像がつく。おそらくあれは自己強化魔法だろう。

 それにしてもムスペルヘイムにとどめを刺した魔法、か……これは本気でジュリエッタを仕留めに来ているな。


「メタモル……《災獣形態・焔ビースト》!!」


 ここでジュリエッタも最後の勝負に出る。

 使ったのは五尾の狐に変身する《災獣形態》――のアレンジ版だろう。全身が炎に包まれた赤い獣へと姿を変える。

 吸収したムスペルヘイムの力を足した、炎攻撃特化のメタモルだと思われる。

 もちろん炎だけではなく、その他の能力も通常時のジュリエッタよりも上がっているはずだ。

 ジュリエッタは襲い掛かる魔法植物たちを無視して突っ切り、プラムへと向かって行く。


「……《龍樹》、戻りなさい」


 プラムは冷静に残った《龍樹》に攻撃を止めさせ、自分の元へと集めさせる。


「【収穫者ハーヴェスター】!」


 《龍樹》ではジュリエッタの突進は防げない、と判断したプラムがギフトを使用。

 集まった《龍樹》がギフトによって姿を変え――プラムを覆い隠すように木製の『社』を作り出す。

 ……でも、いくら魔法植物で作ったとは言っても、木製では今のジュリエッタの攻撃は防ぐことは難しいんじゃないかな……? そんなことがわからないプラムじゃないとは思うんだけど……。

 私の予想通り、炎獣と化したジュリエッタは『社』へと突進、あっという間に壁を破壊してしまう。


「……ここで終わらせる!」


 社の中にいたプラムが露わとなる。

 周囲を囲ってしまっていたのが仇となった形だ。もう逃げることのできない距離までジュリエッタが間合いを詰めている。

 五本の燃え盛る尻尾が変形、鋭い刃――炎の剣と化し一斉にプラムへと襲い掛かった。

 自己強化魔法を使っていたにも関わらず、成す術もなくプラムが炎の剣に貫かれる。




 ……が、これで終わりではなかった。


「!? 偽物!?」


 炎の剣に包まれたプラムが炎上、一瞬で燃え尽きたが様子がおかしい。

 ……というか、明らかに偽物、『木』で作られた人形だったみたいだ。


「グラフト《禁封黒茨ソーンアルカトラズ》》」


 社の天井の方に潜んでいたのであろう、本物のプラムが封印魔法――あのムスペルヘイムを封じ込めた魔法を使うと、【収穫者】によって社へと変わっていた植物が一斉に漆黒の茨へ。四方八方からジュリエッタへと巻き付く。

 プラムの狙い、さっき【収穫者】を使ったのは社に籠もってジュリエッタの攻撃を防ぐことではない……プラムの姿を一時的にでもいいから見えなくして、偽物とすり替わること。

 そして社へと突っ込んできたジュリエッタの動きを完全に封じることだったのだろう。


「ヴァンキッシュ・ストライク!!」


 動きを封じられたジュリエッタには肉を切り離して逃げる猶予も与えない。

 黄金の魔力光を纏ったプラムの必殺技――『マスカレイダー ヴァンキッシュ』のフィニッシュブローが《災獣形態》の首へと突き刺さり、へし折る。




 ――それでも尚、諦めないのがジュリエッタのスゴイところだ。

 人間、あるいは普通の生き物なら首の骨をへし折られたら生きてはいられないだろう。仮に生きてたとしても、まともに動くことなんて出来るわけがない。

 でもメタモルを使っているジュリエッタならば、そしてこの『ゲーム』内であれば、体力が残っている限りは動くことが出来るのだ。


「……メタモル……《光神剣態クラウソラス》……ッ!!」


 辛うじて茨に巻き付かれていなかった尻尾の一本だけが変形する。

 それは巨大な『剣』だった。

 ……昨日のムスペルヘイムの戦いの時に、霊装以外が通用しなくなったことを受けてジュリエッタが新たに開発した、特殊なメタモル――吸収したムスペルヘイムの能力だけではなく、その他諸々『硬い』モンスターの能力と各種ライズを掛けた、一撃必殺の『神剣』を作り出すメタモルである。

 流石に霊装と同じだけの強度は作れなかったけど、それでも並大抵の防御魔法では防げないほどの硬さ……そして破壊力を持った神剣を、プラムの頭上から叩きつけようとする。

 ヴァンキッシュ・ストライクを使ったばかりのプラムを真っ二つにする勢いで振り下ろされた神剣――だったが、


「……」


 それを何と、プラムは二本の指だけで挟んで止めてしまったのだ。

 真剣白刃取り……ではない。

 自己強化魔法を使っているとはいえ、まさか指だけで白刃取りをするとは……。

 どうやらプラムは完全にジュリエッタの攻撃を見切っていたみたいだった。


「……やっぱり、プラム……強い」

「あなたも、ね……ジュリエッタ」


 ポツリと呟いたジュリエッタに、ほんのわずかに笑みを浮かべたプラムが応える。

 その後、叩き込まれたプラムの立ち回し蹴りが神剣を蹴り砕き、ジュリエッタの体力ゲージがゼロとなり対戦は終了した。




 ……うん。マジでプラム強いな……本当に相性さえ悪くなければ、一人でムスペルヘイムを倒せたんじゃないかって思えるほどだ。

 上には上がいる。そんな当然のことを私は思うのであった。

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