第6章39話 Thirty Seconds To Inferno 3. 暗黒の太陽
花畑まで後退したところで、リスポーン待ちとなっていたジュリエッタたちのリスポーンを開始。
……相変わらずリスポーンには時間がかかるけど、こればかりは仕方ない。
リスポーン開始してからそういえば『リザレクションボトル』とかいう便利アイテムがあったことを思い出したけど、まぁ今回はいいか……速攻でジュリエッタをリスポーンさせたところで、今後の方針も何も立っていないし……。
皆が復活するのを待っている間、ヴィヴィアンは小型の召喚獣を呼び出してムスペルヘイムの監視、および調査を行ってもらっていた。
結果わかったことは――
”まず、あいつは今動いていない……”
「はい。わずかに収縮を繰り返していますが、移動したりはしないようです」
朗報と言えば朗報だ。
もしムスペルヘイムが移動をしてしまうようなら、本当に安全地帯というのが無くなってしまう。
……まぁ、その場に留まっているとしても色々と問題があるんだけどね。
「次に、ムスペルヘイムの熱バリアの範囲ですが、徐々に広がっている模様です」
これが問題点だ。
最初の大爆発で結構な範囲に熱バリアも広がったみたいなのだけど、その後もどんどんと拡大していっているというのだ。
その上、熱バリアによるダメージが以前の比ではない。
試しに、と突っ込ませた召喚獣が、ムスペルヘイムへとたどり着くことも出来ずに燃え尽きてしまったというのだから……。
”むぅ……厄介だね……”
何が厄介かって、熱バリアがある限りこちらから攻撃することがほぼ出来なくなった、ということだ。
ジュリエッタたちはおそらく最初の大爆発でやられたんじゃないかとは思う。仮に生き残っていたとしても、熱バリアに耐えきれるとは思えない。
なにせ召喚獣がやられるくらいの熱量なのだ。いくら炎防御をしたところで、ユニットでは耐えきることは無理だろう。
そうなると……一体どうやって攻撃すればいいんだ、ってことになる。
ジュリエッタの魔法は基本的には接近しないとほぼ意味をなさない。だが、熱バリアの範囲はドラゴン形態だったころよりも広がっているのだ。射程距離が全く足りていない。
プラムやキンバリーの魔法だって同じだろう。特にプラムは相性的に圧倒的に不利な『植物』の魔法なのだ。
頼みの綱の《ケラウノス》はもう使ってしまっている。このクエスト内では使うことは出来ない。
「……殿様」
”ジュリエッタ! 良かった……”
と、そこでジュリエッタのリスポーンが完了する。
続いてプラムたちも次々と復活してきた。
タマサブローたちにも確認したけど、皆今回が初のリスポーンだったみたいだ。ジェムが足りなくてリスポーン不可、という最悪の事態はとりあえず免れただろう。
……でも、二回目以降はどうなるかわからない。
”……さて”
皆が揃ったところで、今後どうするかの話し合いが必要だろう。
タマサブローとライドウとは少し話したんだけど、使い魔だけで決断するにはちょっと事態が深刻すぎる。
”早速で悪いんだけど、ジュリエッタ”
「うん」
”ぶっちゃけ……どう思う?”
きっとジュリエッタのことだ。身近でムスペルヘイムと対峙して何もしなかったわけではないだろう。
どんな些細なことでもいい。情報が欲しい。
私の意図はわかっていたのだろう、小さく頷くとジュリエッタは話し始める。
「ムスペルヘイム……前よりヤバい。ジュリエッタのライズも、メタモルも、全然防げなかった……」
”溶岩龍でも?”
「うん……爆発は何とか耐えたけど、その後の熱バリアは溶岩龍でもダメだった……。
それに、頑張って竜巻触手使ったけど……
むぅ……想像以上に向こうの火力は強烈なようだ。
ジュリエッタの《フレイムコート》、それに溶岩龍の鱗でも耐えきれないとなると、正直なところ誰であっても耐えることは無理だろう。
それに竜巻触手が燃え尽きた、というのも気になる。
「私見を述べさせてもらえば、姫様の《
”うん。そんな感じがするね……”
アリスの《終焉剣・終わる神世界》は炎耐性があろうがなかろうが無関係に相手を焼き尽くすことが出来る、という割と酷い性質を持っている。
今のムスペルヘイムの炎も、おそらくはそんな感じなのだろう。召喚獣や魔法そのものを燃やすというところを見ると、そう的外れではないと思う。
……となると、正直なところ《ケラウノス》が使えたとしても果たしてどこまで通じるか怪しい感じだ。
「……おいおい、じゃあアタシらの攻撃が通じないってことかよ!?」
「……認めたくないけど」
ムスペルヘイム本体に攻撃が届くのであればその限りではないかもしれないが、現状そもそも近づくことすら困難なのだ。
実質攻撃が通じていない、と言っても過言ではないだろう。
「――畜生が! 折角ここまで来たんだぜ! 諦められっかよ!!」
そういうなりオーキッドがムスペルヘイムのいるであろう方向へと向けて走り出し、大砲を召喚して砲撃を開始する。
彼女の気持ちもわかるけど――いや、今は放っておこう。流石に無意味に突進するようなことはなさそうだし、今は話の方が重要だ。
”ねぇ、皆”
オーキッド以外はここに揃っている。
とにかく話を続けたい。
……けど、正直私もここから先はノープランだ。まさかムスペルヘイムがあんなことになるとは思ってなかったし。
”今私たちには……幾つか選択肢がある”
「そう、ね……一つ、は……どうにかして、ムスペルヘイムを……倒す……方法を、考える……」
うん。それが一つ目。
ドーン、ドーン!!
「あー、クッソ! だが諦めねーぞ!」
「ふぅむ……もう一つは、別のユニット――いや、ムスペルヘイムを倒せるユニットがこのクエストにやってくるのを待つ、という手だな」
”そうだね”
でもこれは期待薄……かな……。
『嵐の支配者』の時も何組かは参加してくれていたんだけど、結局最後まで残ることはなかった。
今回もきっと同じだろう。現実の方に影響が出始めているとしたら、避難したりとかそっちの方が重要になってくるだろうし、迂闊にクエストには挑めまい――特に今回はモンスターのレベルすらわからないのだ。よっぽど腕に自信のある人でなければ、現実世界で避難してやり過ごそうとするんじゃないかな。
”ねぇ、ラビ? あなた……さっきから戦うこと前提で話しているけど、このまま撤退する、っていうのはダメなの?”
と、思ってはいたものの口にするのが憚られていた思いを替わりに言ってくれたのはタマサブローだった。
ドーン、ドーン、ドカーン!!
「オラァッ!! これでどうだ!? ……ちっくしょー……!」
”……わからない。ドクター・フーの言うことが正しいんだとすると、きっと放置していたら現実世界がどうにもならなくなっちゃうんだと思う。
でも、そうはならない可能性に賭けて……現実の方の安全を確保するっていうのは一つの手かもしれない”
「……その賭け、きっと分が悪い……」
ジュリエッタに言われるまでもない。
ムスペルヘイムを放置していても、現実世界ではちょっと揺れるくらいで済むっていうのなら、彼女たちの本体の安全を考慮して戻るというのが最善なんだろうけれど……。
そうならなかった時の方が問題なのだ。
私たちの手で桃園台を守る、なんて大それたことは考えちゃいない。
けれども……そうしないととんでもないことになる。そんな気がするのだ。
「くっそー、主砲……は流石に使えねーか……なら、まとめて全部いっけぇぇぇぇっ!!」
ドドドドドーン!!
…………。
皆が黙りこくる。
進むも退くも出来ない、割と絶望的な状況に言葉を失ったから、というだけではないだろう。
「……はぁー……」
やがて、やれやれと言わんばかりにため息を吐くキンバリー。
「あー、我が盟友よ? 今少々真面目な話をしているので、もう少し静かにしてもらえまいか?」
「キャプテン、うるさい」
「空元気も元気のうちではございますが、少々空気が読めていないのではないかと」
と一斉に口撃に晒されてしまうオーキッドであった。
うん……まぁ、この状況で諦めずに攻撃し続けるその姿勢は買うけれども、ちょっとシリアスな空気をブチ壊しにかかるのは止めて欲しいかな……。
「あーん? わーったよ!
……くっそー、もうちょっと大砲に威力があればなー……」
皆に責められ、しぶしぶと言った様子でオーキッドが大砲を収めて戻ってくる。
…………え!?
”ちょっと待って! オーキッド、今のもう一回!!”
「は? もうちょっと大砲に威力があれば……って」
”……待って……え? 威力があれば、って――
「お、おう。何か前の時より柔らかくはなってるみたいだけどよ、なんつーの? スライム……ほどじゃないけどなんかプルプルした塊でさ、当たっても大したダメージになって――」
途中からオーキッドの声は耳に入らなくなった。
待て待て待て……召喚獣すら近づくことすら許さず焼き尽くし、ジュリエッタのライズや溶岩龍の鱗ですら防げない炎が常に張り巡らされているというのに、
「……わかっ、た、わ……!」
「そういうこと……」
「――なるほど」
”あああああああっ!! そうかっ!!”
プラム、ジュリエッタ、ヴィヴィアン、そして私の四人が同時に答えに辿り着いた。
思わず大声を上げてしまい、皆の視線が私へと集まる。
でも興奮しているから気にもせず、私はそのまま続ける。
”
霊装は、ものすごく頑丈に出来ている。だから、モンスターの攻撃でも壊れることは早々ない――これは前にも述べたことだ。
そうなっている理由は、多分だけど魔力が無くなりかけた時とかでもユニットが戦えるように、という配慮なんじゃないかと思う。まぁジュリエッタの『狐のお面』みたいに武器として全く使えない霊装とかどうするんだって感じだけど。
それはともかく、霊装ならば頑丈なのでムスペルヘイムの炎で燃やし尽くされるよりも前に攻撃を届かせることが出来る。そういうことなのか……?
くっ、でも――
”……ダメだ、威力が足りない……!”
オーキッドの大砲は本人も言っている通り威力不足で通じない。唯一通じそうなのは『エンペルシャーク』の主砲だけど、今ムスペルヘイムは空中に浮かんでいるため狙い撃つことは不可能だ。
ジュリエッタの魔法はスティールすることも出来ないし、仮にヴィヴィアンの召喚獣をスティールしてもやっぱり威力不足なのには変わりない。
……唯一使えそうなのは《ケラウノス》だけど、これはもうこのクエストでは使うことは出来ないし、仮に使えたとしても今のムスペルヘイムは大分小さくなってしまっている。熱バリアの範囲外から狙撃するのはかなりの賭けとなるだろう。
もしこの場にアリスがいたとしたら、神装を連発し続ければ何とかなったかもしれないけど、それは今考えても仕方ないことだ。
くそぅ、希望の光が見えたと思ったけど、このままじゃダメだ。
”ヴィヴィアンの召喚獣を片っ端から霊装化して攻撃……いや、それじゃ皆の身が持たない……!”
リスポーンできるとは言っても、やられる瞬間に苦痛を感じないわけじゃないのだ。そんなことはさせるわけにはいかない。
というよりも、私はジェムがいっぱいあるからリスポーンはまだ何度もできるけど、タマサブローたちにそこまでジェムに余裕があるかは疑問だ。
「……
やや言いにくそうにキンバリーが切り出す。
”キンバリー? 何?”
何だろう、言い出したはいいが何か躊躇っているように見える。
「キンバリー……言いにくい、なら……私、が……言う、わ」
「キンの字、多分同じようなこと、ジュリエッタも思いついた」
どうやらプラムとジュリエッタも作戦を思いついたみたいだ。
……キンバリーが言い出しにくい、ってことは――
二人のかけた言葉に対して、キンバリーは首を横に振る。
「いや――我が言うべきだろう。
……導く者よ、霊装を用いた攻撃ならばムスペルヘイムへと通じる可能性が高い、そうだな?」
”……うん。確証はないけど、オーキッドの大砲が届いたってことは、そういうことなんだと思う”
ほんと、確証ないんだけどね。
でもすさまじく頑丈な霊装ならば攻撃が届く、というのはそう筋の悪い考え方ではないと思う。
問題は霊装
「…………であれば、我らが取れる方法はただ一つと思われる」
”それは……?”
そこでキンバリーは一度大きく深呼吸をし、やがて決意した表情でオーキッドの方へと視線を送る。
「ん? どうした、キンちゃん?」
オーキッドは話に着いていけていないのか、砲撃を中断させられてやることがないのか、暇そうにしている――この状況でその態度って、やっぱりこの子って大物なのかもしれない。
……いや、それはまぁいいや。
キンバリーがオーキッドへと視線を向けた、その行動で私も大体察してしまった。
「我らが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます