第6章5話 七燿桃園・紅梅海斗(前編)
ということで、私たちは再度桜邸――というかその隣の鷹月家へとやってきていた。
『最近は見てないとは言え、レイダーやった人なら会ってみたいっす! というか、生芸能人とか初めて会うっす!』
と意外にも乗り気であった。彼も、ありす程ではないにしても昔レイダーをよく見ていたらしい。男の子だし普通だよね?
なので私たちは初詣を終えた後に皆揃って鷹月家へとお邪魔することとなった。
「ああ、戻って来たな」
「ただいま戻りました、お母さん」
あやめと
鮮美さんは鷹月家の玄関前でタバコを吸って私たちを待ってくれていたようだ。
「坊やなら
「はい。もちろんです」
「あたしはまたおっさんたちの方に戻るわ。……ったく、いつまで飲んだくれてるんだか。
……ああ。あんたたち、遠慮しないでゆっくりしていきな。何かありゃ、あやめに言えばいい」
「そのぅ……お父様たちは相変わらず……?」
桃香の言葉に鮮美さんは『フッ』と鼻で笑う。
「まぁ今日くらいは大目に見てやるけどな。向こうに行ったらめんどくさくからまれるから気をつけな」
……大人としてそれはどうなんだろうという気はしなくもない。
美々香と千夏君も本当はお邪魔するのだから挨拶はすべきなのだろうが、鮮美さんが言うのだから仕方ないか。
「それじゃ、お邪魔しまーす」
「……お邪魔します」
桃香(と私)、あやめが鷹月家へと入っていくのに、美々香と千夏君も続く。
美々香は慣れているのだろう、元気よく挨拶をして家へ。
千夏君は若干遠慮気味に鮮美さんに頭を下げてから入っていった。
「さて――それじゃ、あたしも行くか」
私たちが玄関を潜るのと入れ替わりに、鮮美さんはタバコの火を消してから桜邸の方へと向かって行った。
こちらは子供しかいないとはいえ、桜邸はすぐ傍だし何かあっても駆けつけられる距離だ。
まぁ何か悪いことをするわけでもないし、あやめもいるから大丈夫だろう。
「……き、緊張してきた……!」
”だ、だね”
海斗君のファン二人――私と美々香は流石にちょっと緊張する。
反対にあやめと桃香は別に普段と変わらない感じだ。
……まぁ桃香がイケメンとは言え男性にきゃーきゃー言ってる姿なんて想像もつかないけど……。
一方で千夏君は何か考え事をしているように見える。
”千夏君、どうしたの?”
「あ、いえ……
”?”
もしかして、何だろう?
気にはなるけど今の私たちはそれを気にする余裕もない。
鷹月家の二階に上がり、突き当りの部屋――こちらの家にあるあやめの部屋の隣だ――の扉をあやめがノックする。
「カイ、入るよ」
『……アヤちゃん?』
んん?
何か、やけに親し気というか……。
あやめのノックに応え、中から扉が開けられて現れたのは――
「久しぶり、アヤちゃん」
「うん。カイも元気そうで良かった」
にこやかな笑みを浮かべた好青年――紛れもなく、紅梅海斗その人であった。
* * * * *
事前にファンの子たちを連れて来る、というのをあやめは鮮美さんを通じて伝えていたらしい。
海斗君は戸惑うこともなく、もちろん嫌な顔をすることもなく快く美々香たちを迎え入れる。
ちなみに私は流石に今はぬいぐるみのフリをすることにした。くぅっ、残念……!!
「えっと、初めまして。俺は紅梅海斗」
知ってる知ってる。
でも、改めて本人の口から名前を言われると……何て言うか、『うわぁ、本物の芸能人だぁ!?』って感じになってくる。
前世でも私、芸能人とか会ったことないし、何だか変な感じだ。
「……桃香ちゃんだよね? おっきくなったね」
「……はい?」
私たちの顔を一通り見回した海斗君が、桃香へとにっこりと微笑む。
あれ? もしかして桃香のことを知ってるのかな? いや、まぁ桃香自身はこの地元では有名だろうから不自然ではないけど……口ぶりからすると、小さな頃を知っているようだし……。
「あはは、流石に覚えてないかな」
「えーっと……申し訳ございませんわ」
桃香も流石に海斗君に対しては千夏君に対する程ではない。
若干距離を置いているようにも見える。おそらく、本来の桃香の他人に対する態度ってこういう感じなんだろう。
戸惑う桃香、それに私たちにあやめから説明がされた。
「カイ――海斗は一時期この家に住んでいたのです」
「うん。ちょっと俺の家の事情でね……。
まぁ住んでたって言っても、全部合わせて一年くらいだっけ? たまに遊びに来ることはあったけど」
「桃香も会っているはずですよ。最後にカイが来たのが……四年か五年程前でしたか。桃香は幼稚園に通っていた頃でしょうか」
「…………そ、そういえば、小さい頃あやめお姉ちゃんと、後誰かと一緒に遊んでいたような気が……」
そのころだとあやめたちは中学生くらいかな? まだ小さな桃香の面倒を、あやめと海斗君の二人で見ていたってことなのだろう。
で、桃香本人はさっぱり覚えていない、と……ま、これは仕方ないか。
ふむ、どうもあやめと海斗君は一緒に住んでいた時期もあってかなり親しいみたいだ。幼馴染と言えないこともない間柄、かな?
「それで、こちらが桃香の友人たち――そしてカイの
「後輩? ……ああ、『剣心会』の」
おや? 千夏君のことかな。
ということは、海斗君も『剣心会』に入っていたということか。
「――ああっ! 思い出した!」
と、そこで今までずっと何か考え込んでいた千夏君が大声を上げる。
彼に視線が集まるが、それを気にせず興奮した様子で千夏君は続ける。
「『最強の世代』!!」
「……いや、まぁ……確かにその世代にはいたけどね」
「だ、大先輩じゃないっすか! うわぁ、何で今まで気づかなかったんだろう……」
興奮したと思いきや今度は頭を抱えてしまう。
何だろう、有名なのかな?
私の内心の疑問を読み取ったか、若干苦笑いしながらあやめが皆に説明する。
「『剣心会』の歴史の中で彼の世代は、唯一団体戦で全国大会優勝をしているのです。
だから、後の世代からは『最強の世代』と呼ばれているのです。
ちなみに、カイも当時はレギュラーでしたので全国大会に出場していましたよ」
「……まぁ、俺は最後負けちゃったんだけどね」
へぇ、それは凄い。
その後も『剣心会』は結構な強豪らしいけど、海斗君のいた時代が最も強かったってことかな。
「あ、すんません。俺、蛮堂千夏って言います!」
ようやく我に返った千夏君が慌てて名乗る。
おっと、そういえば海斗君の紹介はしてもらったけど、こちら側の自己紹介はまだだった。
「……みーちゃん?」
だが千夏君の後が続かない。
不審に思った桃香が隣に座る美々香をつついてみるが……。
「あ、あう、あぅ……」
……ダメだ。美々香は海斗君本人を目の前にしてガチガチに緊張しちゃっているみたいだ。
いや、気持ちはわからなくもない。
テレビの画面越しに見ていた時もかっこいいなぁとは思ってたけど、実際に目の前にするとそれがダイレクトに伝わってくるのだ。
実物を見ると意外にそうでもない、ってことはあるらしいけど、海斗君に至ってはそんなことはない。むしろ、実物の方が更にインパクトが強い。
呆れたように桃香が息を吐くと、美々香を代わりに紹介する。
「こちら、わたくしのクラスメートの美藤美々香さんです。紅梅さんのファンだそうですわ」
「そうなんだ。あはは、緊張しちゃってるみたいだね」
「あうあうあう……」
彼も気を悪くしたわけではなく、朗らかに笑っている。
その笑顔を向けられ、更に緊張しる美々香。
……桃香も結構アレだと思ってたけど、美々香も大概だなぁ……まぁ桃香に比べれば全然健全だけど。
「……で、君がラビ、だよね?」
”……はひぃっ!?”
海斗君の眼が、真っ直ぐに桃香に抱かれた私へと向いた。
え? あれ?
「……あれ、アヤちゃん、説明してなかったの?」
「……うっかりしてました」
うっかりあやめぇ!
相変わらずきっちりしているようでどこか抜けているなぁ。
というか、私のことを話したのか……。
「しょうがないなぁ」
苦笑いする海斗君。
……うはぁ、苦笑すらかっこいい……!
「驚かせてごめんね。アヤちゃんには言ったんだけど――俺もあの『ゲーム』の参加者なんだ」
…………え?
一瞬、彼の言っている言葉の意味がわからなかった。
あまりに意外な言葉に、桃香たちも驚いているようだ。
……って、本日二度目のびっくりだよ!
”えーっと、君……じゃなくて、あなたも……ユニット……?”
「うん。初めまして、ラビ」
そう言ってにこりと微笑む海斗君は――やっぱりかっこよかった。
……じゃなくて!
慌ててユニット捜索モードを切り替えて見てみると、確かに本人の言う通り『既にユニットとなっています』と表示されていた。
”ちょ、あやめ!?”
「……お互い、『ゲーム』の関係者だということがわかっていれば、ラビ様もカイと話すことが出来ると思いましたが……余計でしたでしょうか?」
”………………いや、よくやった!”
本人の承諾なく情報漏らすのは褒められたものではないけど、今回は許そう!
となれば、私ももうぬいぐるみのフリをする必要はないわけだ。
”そ、その……ラビでしゅ!”
…………噛んでしまった……。
どうやら私も美々香のことを笑えないようだ……。
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