第6章3話 星明神社にて(前編)

 マイルームから出た後、私たちはお出かけの準備を整えて桃園の入口前で美々香と合流。

 それから桃園台南小前で待つ千夏君とも合流した。


「バンちゃん先輩、あけおめでーす!」

「おう。あけおめ」


 今更だけど美々香もいつのまにか千夏君と打ち解けているみたいだ。

 元々彼女の兄と姉が『剣心会』の道場で一緒だったというし、千夏君的には特に違和感はないのだろう。事前にありすや桃香と言った小学生ズと絡んでいたというのも大きいかも。

 美々香の方も全然人見知りしないし、流石というかなんというかコミュ力が高いみたいですぐに馴染んでいる。

 ……この辺り、ありすにも見習ってもらいたいなぁと思いつつも、よく考えたらありすはありすで千夏君とすぐに馴染んだしなぁ……表に出てこないだけで意外とあの子もコミュ力あるのかな。


「で、初詣ってどこ行くんすか?」


 この辺りには以前にもちらっと述べたけど、神社は二つある。

 そのうちの一つ、大きな神社の方は『月神社』と言い、意外と有名らしい。地元だけではなくそこそこ遠方からも初詣に来る人もいるんだとか。

 ただ、今日はそちらの方へは行かない。


星明しょうみょう神社ですわ」

「…………そっか……」


 んん? 何か千夏君の反応が微妙だな? 月神社の方に行きたいってわけでもなさそうだけど……。

 二つある神社の内、小さな神社が『星明神社』だ。

 こちらは……ぶっちゃけマイナーすぎてほとんど人がいないらしい。年に一度、秋に祭りをやるくらいで後はほとんど閉まっているも同然なのだとか。

 公園の敷地内には遊具も置いてあり、通称『神社公園』と呼ばれていて子供たちは結構遊びに行ったりするみたいだけど。

 ……ちなみにだけど、私がこの世界に来た時に最初に目覚めた場所が、星明神社の敷地内だった。そのことに何か意味があるのかどうかは、今もわからないままだが……。


「ま、いいや。んじゃ、行きますか」


 千夏君の反応は気になるけど、星明神社にした理由はちゃんとある。

 月神社の方が大きいし人気もあるけど、とにかく人が多いのだ。

 そんなところに地元での有名人でもあろう桃香を連れて行くのは色々と問題があるかなぁ、という配慮もあり星明神社を選んだのだ。

 言うや否や、千夏君が先頭に立って星明神社へと歩き出す。


「それでは、わたくしたちも参りましょう」

”うん。行こうか”


 いつ誰に見られるかわからない。

 私は既にぬいぐるみのフリをしているため、桃香たちに運んでもらわないとならない。

 電信柱ごとに誰が私を持つかでじゃんけんをしながら、私たちは星明神社へと向かって行った。

 ……ぬいぐるみのフリをしているとは言え、完全に私は荷物扱いだなぁ……いや、まぁ別にいいんだけど。




*  *  *  *  *




 星明神社は桃園台南小の正門を出て、西側へと真っすぐ進んだ先にある。桃園とは正反対の方向だ。

 歩いて五分程で私たちの行く先にこんもりとした森が見えてきた。

 住宅街の中に突如木々が現れているのだから違和感が半端ない。ま、でも神社って言ったら何となくそんなもんっていうイメージはあるけど。




 ここでほんの少しだけだが、この国の神話について語っておこう。

 とは言っても私もあんまり詳しく調べたわけじゃないから、本当に簡単に触れるだけだけど……。

 ありすたちが住むこの国は、私の知る日本とほぼ同じく特定の宗教――国教とでも言うのかな? とにかくそういうものはないみたいだ。

 こっちの世界で言う仏教やらキリスト教やらに似た宗教はもちろんあるし、きっと冠婚葬祭も大して違いはないのだろうと思う。

 で、『神社』というと……日本だと神道しんとうになるのかな? それはこっちの世界でも同じらしい。


 八百万の神々とは言うけど、それについてはやっぱりこっちでも変わりないようだ。

 ただ、こちらの世界では神々に明確な序列のようなものがあるらしい――日本の神道もそうなのかもしれないけど、残念ながら私はあんまり詳しくないので割愛だ。

 この国の神話において、神々は大きく分けて三つのグループに分けられる。

 一つは、大地や海――地上の神々。

 一つは、疫病や災害、それにあの世と言った『負』の側面を司る神々――ただし、これらの神々も別に『邪神』とか『悪神』という扱いではないことは注意だ。

 そして残るは天の神々だ。

 神々の中で最も『格』というか『位』が高いとされているのが、最後の『天』に属する神々である。この位については、日本の廃仏毀釈とかなんとか、多分それに似たようなことが起こった際に当時の政府が決めたんじゃないかなと私は思っている。ま、この国の歴史は千夏君とかから聞いただけなので間違っているかもしれないけど。

 それはともかくとして――

 『天』に属する神々とは、要するに『星』の神を示している。


 最高位に位置する神が『太陽』の神。日本で言うと『天照大御神』……だっけ? それに当たる神様だ。

 とにかくこの太陽神の位が高い。なんせ、太陽神一人で昼の世界全てを照らしているのだから、まぁ他の星々よりも強い神様っていう解釈がされるのもわからないでもないかな。

 で、太陽神が休んでいる間、つまり夜の世界を管理するのが第二位の神である『月』の神様。

 そして月神に仕える無数の星々の神が続いていく。


 太陽神を祭る神社は、この国には一つしか存在しない。古代遺跡マニアの千夏君曰く、いつか行ってみたいけどちょっと遠い、ところにあるみたいだ。

 先程名を挙げた『月神社』は、月神を祭っている。これは全国に何か所からあるみたいだ――もしかしたらその中には勝手に名乗っているだけの『偽物』もあるかも、とは言われているらしいが。

 私たちが向かっている『星明神社』は、月神の配下である星神のうち、どこかの星を祭っている神社となる。

 星神の神社はもう全国各地に無数に存在する。『神社』って言ったら基本的には星神の神社だと思っていいくらいらしい。


 ちなみにだけど、大地神のグループや冥府神のグループについても神社はもちろん存在している。

 こちらは五穀豊穣だの子孫繁栄だの、いわゆる『現世利益』のための神社って感じかな。私が想像する神社は、むしろこっちの方に近い――そりゃ、大半の人が神社いって何かお祈りするのって、『学業成就』『恋愛成就』とかだよねぇ。天の神々の神社でも一応そういうのを『ウリ』にしているところはあるみいだけど……神社業界も色々あるみたいだ。


”そういえばさ、これから行く星明神社って何の神様を祭ってるの?”


 星の数ほど、という言葉がある通り、一口に『星の神』と言っても色々だ。

 わかりやすい星――例えば一等星とかの明るい星や、惑星なんかは多分全国に同じ神を祭った神社がありそうだ。

 我らが桃園台にある星明神社はどうなんだろうというのはちょっと気になる――別に何の神様だろうと、まぁ私たちにはあんまり関係ないんだけどね。


「えーっと……何だったかな……?」

「? 神社って皆おんなじなんじゃないの?」


 実に小学生的な意見の美々香。まぁ、私も子供のころはおんなじようなことを思っていたけどさ。

 千夏君もよくわからないらしい。


「……確か、『ミカ』という神の神社だったかと」

”……んー? そんな星あったかな……”


 あやめが代わりに答えてくれた。ひょっとして、この桃園台のことについては何でも知ってるんじゃないだろうかとさえ思える。

 うーん、でも『ミカ』ってのはわからないなぁ……。

 あくまで私が知っているのはあちらの世界の話なので、こちらの世界では同じ星が違う名前で呼ばれているなんて可能性もあるけど。それによく考えたら私が知っている星の名前って、大体が外国語の名前なんだよね……。

 ともあれ、そんな話をしているうちに、私たちは目的地である星明神社へと到着した。


「……あら? 思ったより人が多いですわね?」


 到着してすぐ、桃香の言う通り人が多いことが目に付く。

 混雑して通れないという程ではなかったけど、まぁそれなりに……って感じかな? ここからは私は喋らない方が良さそうだ――あやめと美々香には必要であれば桃香か千夏君から伝えてもらおう。


「……」


 千夏君は何か段々と渋い顔になっていっている。何だろう、星明神社に嫌な思い出でもあるんだろうか……?


「それでは、早速参拝していきましょう」


 千夏君の様子に気付いているんだかいないんだか、あやめが桃香たちに小銭を渡して参拝を促す。

 ま、それが今日ここに来た目的だしね。


「蛮堂さんもどうぞ」

「あ、いや。俺は流石にいいっす。小銭用意してきてますし」


 と言いつつポケットから用意していたお賽銭を取り出している。参拝していく気はあるようだ。

 私たちが入って来たのはどちらかと言えば星明神社の裏口に当たるらしく、うっそうとした木々に覆われた少し広めの広場には幾つか遊具が置かれている。

 なるほど、確かにちょっとした公園だな……砂場何かはないんだけど、ブランコや滑り台が置いてあるしベンチもあるから公園と言えないこともない。

 そこそこ広い敷地は背の高い木で覆われており、昼間であっても薄暗く感じる。冬場はともかく、夏なんかだと結構涼しいんじゃないかな。

 敷地の中心には人工的にかはたまた自然のものかはわからないけど、『小山』がある。周囲を石垣で固めているのを見ると人工的なのかもね。

 で、その『小山』の上に神社の建物があるという構造だ。

 ……私がこの世界で目覚めた時に見た石垣と神社が、やっぱりここなのだ。

 公園側には石段はなく、反対側に回らなければならない。手水所とかもそっち側みたいだ。

 今日は特に公園で遊ぶつもりもないし、私たちはお参りをするために社へと向かおうとする。

 その時だった。


「あ! バンちゃんにゃ!!」

「うげっ!?」


 突如、他のお参りのお客さんの間から、一人の巫女服を着た女の子が現れ――走り出した勢いそのままに千夏君に飛びついてきたのは……。

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