第6章1節 ありすのいないお正月

第6章2話 季節外れの大掃除

 桜家のお正月は穏やかに過ぎていく。

 鮮美あざみさんが作ってくれたお雑煮を食べて、しばらくはリビングでのんびりしていたんだけど……。


「……大人が大分うるさくなってきたので、部屋へ戻りましょうか」

「……そうですわね」

”だねぇ”


 朝から――いや、下手したら昨夜から……?――お酒を飲んでいた大人たちは、大分酔いが回っている。

 鮮美さんだけはお酒飲んでなかったので素面だったのだが、彼女は彼女で酔っ払いの相手で忙しい。

 テレビも大人に占領されて特に見れるものもないしということで、私たちは桃香の部屋へと退散することにした。


”……おや?”


 桃香の部屋に戻ってすぐ、私の視界の隅に『ゲーム』からのお知らせを報せるアイコンが表示された。

 お正月までご苦労様なことだ。ま、『ゲーム』の運営は多分この世界の人間じゃなさそうな気はしてるし、私たち現実世界の都合なんてお構いなしなんだろうけどさ。

 さて一体どんな内容だろう。無視するのはそれはそれで怖いので確認してみることにした。




アップデートのお知らせ

 ・期間限定『福袋』の販売を開始しました。

 ・『トロフィー』機能を実装しました。

   -過去の実績を遡り、各種『称号』『記念品』を付与しています。




 う、うーん……何かこの運営、若干迷走し始めてないかい?

 まぁ今回のお知らせの言いたいことは何となく伝わってくるけど。


「『ゲーム』からのお知らせ、なんでしたの?」

”ああ――”


 とりあえず桃香たちに内容を伝えてみる。

 最初の通知は、まぁ特に不明な内容はない。お正月にありがちな、『福袋』の販売――ジェムと引き換えだろう――が始まったというものだ。

 期間限定を謳いつつ、いつまでの販売なのかとか、幾らで買えるのかとか肝心なことが何も書かれていないことについては、もう突っ込むのにも疲れた……。

 二つ目の方は、ゲームをやってる人ならピンとくるものがあるんじゃないだろうか。

 私もこの世界でドラハンをやるようになったから、どういうことなのかすぐわかるようになったけど。


「『トロフィー』機能ですか……?」

”うん。称号とか記念品とか言ってるから、多分特定のモンスターを倒したりしたら自動的に貰えるんじゃないかな”


 特に悪さをする機能ではないし、知らないことで致命的なことにはならないだろうけど……微妙に厄介な機能だ。

 何が厄介かというと……。


「……ありすさんが張り切りそうな機能ですわね……」

”……やっぱりそう思う?”


 桃香も私と同じことに思い至ったらしい。

 何か、ありすってこういうのコンプリートしたがる方だと思うんだよねぇ。

 ドラハンでも無駄に素材を集めたり、使いもしない武器を作りまくったりしているし……。

 私たちは顔を見合わせて苦笑いする。

 ……まぁ、わざわざ実装したってことは、もしかしたらこれも『ゲーム』クリア――あるいは勝利者となるための条件になっているかもしれないのだ。収集すること自体に損はないだろう、多分。


「『福袋』、ですか……」


 とあやめは何か思案顔。

 この世界でも初売りやら福袋販売はやっている。そのことを考えているのであろう。

 ちなみにだけど、私はそこまで拘りはない。前の世界でも『福袋』とかはわざわざ買いにはいかなかったなぁ。そんなことよりお正月は寝ていたかったし。


「買いましょう!」

”……桃香は決断が速いなぁ”


 まぁ今回に限っては私も買うでいいかなぁとは思っていたけど。

 実際にお金払うわけじゃない。ジェムが減ってしまうのは痛いと言えば痛いけど、『嵐の支配者』戦で貰った150万にこの間の『冥界』クエストのクリア分もあるため、正直ジェムはかなり余っている状態なのだ。

 ユニットの成長に使うとはいっても、もう三人ともかなり成長させ終えている。一回の成長に必要なジェムも十万単位になってきたうえに伸びも大分緩やかになってきているため、そこまで急いで成長させる必要もないだろうというので意見は一致している。

 なのでジェムは余り気味だし、この際マイルームに置けるアイテムに手を出してみようか、と相談していたところだ――内装に関してはありすの意見も聞きたいため、今は保留中だけど。


”ま、買うつもりだったし……そうだね、買っちゃおう”

「はい♡」


 幾らだかわからないけど、まぁ今の私たちに買えない額では流石にないでしょ。

 自分で言うのもアレだと思うが、多分他のプレイヤーよりもずっとジェム持っているはずだし……私たちで買えないようなら、他のプレイヤーはきっと手が出ないと思う。


「…………それはそうと、初詣に行きませんか?」

”……唐突だね、あやめ”


 福袋というキーワードから何でそこに辿り着いたのかは興味があるが、唐突にあやめは私たちに初詣へ行こうと提案してきた。

 この世界にもやっぱり初詣はある。それ自体は知っていた。


「いいですわね! ラビ様、どうでしょうか?」

”え? うーん、いいんじゃない? 確かこの近くに神社あったよね”

「はい。流石に私たちだけで遠出するのは難しいので、近所の神社へと行こうと思っています。

 ――桃香、折角ですから美藤さんを誘ってみたらどう?」

「ええ、早速電話してみますわ!」


 言うや否や、桃香は美々香へと電話を掛けて初詣のお誘いをし始めた。

 ふーむ……。


”うーん、千夏君にも声掛けた方がいいかなー”

「そうですね、蛮堂さんもお呼びしてよろしいのでは?」

”……桃香嫌がらないかな?”


 互いに嫌いあっているというわけではないとは思うんだけど、桃香は何か千夏君に当たりキツイ時あるしなぁ……彼が大人なので受け流してくれているけど。

 私の懸念にあやめは微笑を浮かべて応える。


「大丈夫ですよ。少し年上のお兄さんが近くにいて、テンションが上がっているだけですから」

”……そうなの? 桃香って男の人苦手なんじゃないの?”

「……まぁ異性として意識するかどうか、という意味においては男性は苦手なようですが……普通に付き合う分には問題ありませんよ」


 そうなのか。まぁあやめが言うならそうなんだろうけど。


「みーちゃんも大丈夫だそうですわ! ただ、準備が全然なので集合は一時間後くらいでどうでしょうか?」

”うん、いいんじゃない”


 言ってる桃香の方だって着替えはしているけど出かける準備なんて全然してないしね。あやめの準備だってある。美々香が準備してから桃園に来るまでを考えて、まぁ一時間後に集合というのが妥当だろう。

 ふーむ、私には準備なんて必要ないし、だったらこの一時間の待ち時間でさっき運営から通知が来たやつの確認でもしてようかな。

 私の考えを伝えると二人はあっさりと了承してくれた。


「お姉ちゃん!」

「……はいはい。お出かけの準備は私の方でやっておきますので、ラビ様は桃香をお願いいたします」


 どうやら桃香は福袋の中身を確かめたいみたいだ。

 ……考えようによっては、桃香って物凄く運がいいみたいだし、いいものが当たるかも?


”わかった。それじゃ、私たちはしばらくマイルームにいるから。そんなに時間かけないで戻ってくるつもりだけど”

「はい。私はこちらでお待ちしております」


 あやめを置き去りにしてしまうことには罪悪感はあるが、彼女は気にしてないだろうか……。

 悪いとは思いつつ、私たちはマイルームへと移動していった。




*  *  *  *  *




「っす。あけおめ」

「あけおめですわ、千夏さん」

”うん、あけおめー”


 マイルームに着いてすぐに千夏君にも連絡。

 彼の方も大丈夫ということでマイルームへと集合、時間が来たら一緒に初詣へと行くこととなった。

 心配していたけどあやめの言った通り、桃香はあっさりと千夏君も行くことを了承してくれた。


『な、仲間外れにするのも気の毒ですし……仕方なくですわ!』


 とかなんとか言ってたけど。




 それはともかくとして、マイルームに皆で集まった当初の目的を果たそう。


”……たっか!?”

「5万っすか。これで中身が大したことなかったら詐欺っすね」

「鬱袋ですわね……」


 流石に5万ジェムに見合わないなんてことはないだろうけど――値段だけは流石に超えると思う。例え回復アイテムの詰め合わせとかでも……。

 んー、買っても全然余裕のある額だけど、流石に万単位ってのは腰が引けてしまうなぁ。


”……そ、それじゃ買うよ!?”

「っす。ガツンと行っちゃってください!」

「はい♡」


 二人に後押しされ、私はついに5万ジェムの福袋を購入してしまう。

 ああ……買っちゃった……買うつもりだったとは言え、一瞬で5万かぁ……『嵐の支配者』戦後に危惧していたことだけど、金銭感覚狂って来ている気がするなぁ。


「それで、中身は?」

「早く開けてみましょう!」

”う、うん”


 福袋は私のアイテム欄へと入って来た。ちなみに、私のアイテム欄が一杯の場合は自動的にアイテムボックスへと送られる。

 さて、福袋を選択――開けてみると……。


”……お? おお?”


 ずらりと獲得アイテムの一覧が表示される。

 これは――結構当たりだったかもしれない。


「何が入ってましたの?」

”えーっと、ちょっと待って……かなりいっぱいあって……”


 とにかく大量のアイテムが福袋の中から出てきた。私のアイテム欄はあっという間に埋まってしまい、アイテムボックスに自動的に送り付けられている。

 で、獲得したのはというと……。


”キャンディとグミが超沢山。後は、『ポータブルゲート』が幾つか”


 バトーたちが使っていた『ポータブルゲート』が貰えたのはありがたい。ショップでも一応買えたのだけど、有用なせいか値段がちょっと高いんだよね。

 ……福袋代払っていることを考えると、結局タダで手に入ったわけじゃないのはわかっているけど、少し得した気分にはなる。

 他には――


”……お!? これスゴイ! 『リザレクションボトル』だって!”


 ショップで見かけたことのないアイテムだ。

 効果は――何とリスポーン代を使わずにユニットを即時復帰させられるというものだった。

 名前の通り、いわゆる『復活の薬』ってやつなんだろう。ただし、使えるのはクエスト限定みたいだ。ま、対戦でこれ使えたら酷いことになりそうだしね。

 私たちのチームは、アリスが二回、ヴィヴィアンが一回、既にリスポーンしてしまっている。

 二回目以降のリスポーン代は10000ジェムだった。払えない額ではないが結構痛い額だ。

 というよりも、リスポーンの何が問題かというと、選択してから復帰が完了するまでの時間が長いことだ。アトラクナクア戦の時なんてかなりギリギリだったし、即時復帰というのはかなり助かる。

 いざという時なんて来ない方がいいに決まっているが、今後『嵐の支配者』やアトラクナクアみたいなとんでもないモンスターが出てこないわけがないし、備えておいた方がいいだろう。


”他は、見たことあるアイテムの詰め合わせと……あ、何か記念品が貰えてるね”


 福袋購入の記念品が含まれていた。早速、新機能が使われたわけか。

 それで思い出したけど、もう一つの運営からの通知も確認しようか。


「はぁ、称号と記念品っすか」


 運営からの通知内容について千夏君にも説明する。

 彼はありすほどゲームをするわけではなくピンとは来てないようだ。それか、単に興味がないだけか。

 試しに私は三人のステータスを表示してみる。


”……うおっ!? 何だ、この称号……!?”


 アリスのステータスを確認――本人がいなくても見るだけなら出来るのだ――して思わず変な声を出してしまった。


「な、なにがありましたの?」

”……『神殺し』、だって”

「何それかっこいい……」


 若干羨ましそうに中二男子が反応する。

 物騒なような、確かにかっこいいような……何とも反応に困る称号である。


「……『嵐の支配者』を倒したからではないでしょうか」

”確かに。それしか思い当たる節はないねぇ”


 『嵐の支配者』の分類は『神獣』であった。

 神獣だけなら他にも風竜やらヴォルガノフやらがいるけど、あれらを倒したからと言って『神殺し』と呼ばれるとは思えない。


”それに……うん? 『資格者クオリファイア』……?”


 一見するとギフトっぽいものもあった。

 これも一体いつ取得したのかはさっぱりわからないが――


”……これ、何でヴィヴィアンとジュリエッタにもあるんだろう?”


 更によくわからないのは、アリスだけでなくヴィヴィアンたちにも『資格者』の称号が付いていることだった。

 『神殺し』はアリスにしかついていないし、パーティー全員で称号を共有しているわけではなさそうだが……。

 ま、考えたってわかるものではないか。


”うーん、他はモンスターを倒した系の称号ばっかりだね”

「……あー、そっか。アトラクナクアにとどめ刺したの、アビゲイルだし……だから俺にその手の称号がないのか」

”なるほど、そうかもね”


 『神殺し』が『嵐の支配者』を倒したことによって貰った称号だとすると、確かにアリスがとどめを刺しているから納得だ。

 アトラクナクア辺りもきっと『冥界の支配者打倒』とかなんか称号がつきそうだったけど、残念ながらジュリエッタにそういうのはない。きっと、千夏君が言う通りとどめを刺したのがアビゲイルだからじゃないかな。

 逆にヴィヴィアンの方には『災害の撃退者』というのがある。


「…………あのムカデ、じゃないでしょうか……」


 思い出すのも嫌だ、と言わんばかりに桃香が顔を歪める。私だって嫌だよ、あんな気持ち悪いの思い出すの……。

 ヴィヴィアンが戦った中で『災害』と呼べそうなのは、あの超巨大ムカデくらいか。

 『冥界への復讐者ジ・アヴェンジャー』やアンジェリカに取りついていた妖蟲は……一体何だったのかわからないけど、それらしき称号がないことは確かだ。


「……これ、ありんこがうるさいでしょうねぇ」


 千夏君も私たちと全く同じことを考えたらしい。

 まぁ流石に称号のためにとどめを譲れ、とか緊急事態に言い出す子ではないと思うけどさ。


”……うわぁ、福袋開けちゃったら、アイテムボックスが大変なことになっちゃった……”


 大量のアイテムは5万ジェムに見合うだけのことはあったけど、その代償としてアイテムで溢れかえってしまっている。

 これはちょっと整理しないといけないかなぁ。


「まだ時間はありますし、わたくしたちもお手伝いいたしますわ♡」

「だな。年明けちゃいましたけど、大掃除しますか」

”……そうだね。悪いけど、二人とも手伝って……”


 アイテムボックス、無限にアイテムを格納できるという機能はいいのだが、UIが腐っている。

 ソート機能とかがないので、自分でアイテムを並べて行かないといけないのだ。不便にもほどがある……。正直、称号だの記念品だのよりUI改修を先にやってもらいたいもんだ。

 ともかく大量のアイテムの山を私たちは手分けして並び替えていく。

 良く使う回復アイテムとかを先頭に、滅多に補充しない『脱出アイテム』とかは後ろ。新しく追加された記念品なんかはまとめて奥の方へと追いやってしまう。


「お? この『黒い石』ってアイテム何っすか?」

”あー、それは――”


 懐かしい。そういえば天空遺跡のクエストで貰ったやつだっけ。

 ……これももしかして記念品扱いなんだろうか? だとするとあの黒晶竜とかもやっぱり『ゲーム』のイベントだったのだろうか……?

 そういえば二人には黒晶竜のことを含めて天空遺跡のことは話してあったけど、この謎のアイテムについては話してなかったっけ。

 クエストで貰ったアイテムだということを説明する。


「へー。その黒晶竜……ちょっと興味あるっすね」


 彼もありすほどではないにしろ好戦的だなぁ。

 まぁ黒のドラゴン、なんて言ったら中二心をくすぐるものもあるし仕方ないっちゃ仕方ないか。


”んー、でもあのクエスト、あれっきり行けないからなぁ”

「そりゃ残念……」


 レイドクエスト自体は相変わらずポツポツと週末付近に出てきているんだけど、天空遺跡が舞台となるクエストはあれ以来出てこない。

 ありすも再戦したがっているし、いつかリベンジに行くことになるとは思う。クエストが出てくれば、だけど。

 ……今なら当時よりも成長したし、ヴィヴィアンとジュリエッタもいる。何とかなるんじゃないかなという気もする。


「あら? ではこのアイテムもでしょうか?」

”え? どれのこと?”


 千夏君と話していて片づけの手が止まってしまっていた――大掃除あるあるだよなぁ。

 それはそれとして、桃香が手に持っていたアイテムは……あれ? なんだ、これ?


”…………い、いや。見覚えないなぁ……?”


 桃香が手にしていたのは、大きさは野球のボールくらいの小さな白い物体だった。

 ただ、大きさはボールくらいなんだけど形としては何かゴツゴツとしていて球体とは言い難い。

 アイテム名は――『????』。


「……何でしょうね、これ……?」

”うーん? 流石にこんな目立つ名前のアイテムを手に入れてたら気が付くと思うんだけどなぁ……”


 怪しさ満点の名前だし、見逃すとはちょっと思えない。

 だとすると……いつの間にか勝手にアイテムボックスに放り込まれていたとしか考えられないが……。


「何かの記念品なんじゃないっすか?」

「だとしても、名前が不明っていうのは……」

「……そうだなぁ」


 記念品ならそうとわかるような名前がついていてもおかしくない、というよりついているべきだ。

 実際に他にも幾つか記念品があったけど、『テュランスネイル撃破』だったり『ヴォルガノフ撃破』だったりと何がきっかけで取得したものかわかるような名前・造形となっている。


「じゃあ、黒晶竜の前に出てきた氷晶竜の記念品とか?」

”……まぁそれは確かにありそうだけどね”


 色合い的にはまぁ氷晶竜も『白』系統だったし、そうでないとは言い切れない。

 うーん、でも……だったらせめて『白い石』とか名前が付くんじゃないかなぁ……。


「…………もしかして、それも『嵐の支配者』関連では?」


 少し考え込んでいた桃香が指摘する。

 確かに、色だけで考えるなら『嵐の支配者』も真っ白だったし合っているか。

 でも『嵐の支配者』を倒した記念品は別にあるんだよなぁ。ますますわからない。


”うーん……とりあえず、アイテムボックスに入れておこう。『黒い石』と並べておいて”

「はい」


 残念ながら『アイテムを捨てる』ということは出来ない。一度手に入れたら、ずっとアイテムボックスか私のアイテム欄に残り続けてしまうのだ。

 何か気持ち悪いけど、どうすることも出来ないし、とりあえず放置しておくほかないか。




 その後も私たちはアイテムを整理し続けた。

 そんなに長い時間かかったわけじゃないけど、決して短くはない時間だ。

 マイルームには時計もないし時間がわからないのが不便だ。


”さて、大分片付いたしそろそろ戻ろうか。ありがとう、二人とも”

「はい♡ 呼んでいただければいつでもお手伝いいたしますわ♡」

「っす。重い物とかあったら俺が運ぶっす」


 ……私も好きでアイテムボックスを放置していたわけではない。

 『黒い石』が顕著だけど、私の体格でどうにかするのは難しいアイテムがあったからだ。アイテム欄に入れるにしても出すにしても、メニュー画面からどうにかすることは出来ずに一度手に持たないといけないのだ。本当に不便だなぁ……。

 まぁ今回は福袋の大量のアイテムと追加された記念品があったし、二人に手伝ってもらって助かった。


”それじゃ、千夏君。また後で”

「っす。桃南の前でっすよね」


 千夏君の家から桃香の家まで来てもらうのも時間がかかるし、ということで待ち合わせ場所は桃園台南小の正門前としておいた。

 美々香と合流次第、私たちも一度そちらへと向かう予定だ。


「では参りましょう、ラビ様」

”うん”


 千夏君が戻った後、私と桃香も現実世界へと戻る。

 うーむ……あの謎の白い石っぽいやつは気になるけど、考えても仕方ない。

 私はあのアイテムのことを頭の隅へと追いやるのだった。

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