第5章99話 エピローグ ~魔法少女たちのクリスマス
* * * * *
12月25日、時刻は15時、場所は桜邸にて――
「メリークリスマスですわ!」
なぜかトナカイの着ぐるみパジャマを着た桃香に私たちは出迎えられた。
いや、まぁ可愛いけど……。
「ようこそいらっしゃいました」
あやめは普通の格好をしている。ミニスカサンタとかだったらどうしようと思った。
「ん……メリークリスマス」
「メリークリスマス! お邪魔しまーす」
「えっと……俺、来て良かったんすかね……?」
面子はありす、美々香、そして千夏君に私。
何をしに来たかというと……まぁ言うまでもないだろう。仲間内でのクリスマスパーティーである。
会場は桃香の部屋となる。
千夏君だけは若干居心地が悪そうだ――まぁ女子小学生の中に一人だけ男子が混じってるわけだしね、気持ちはわからないでもない。
でも、まぁ『ゲーム』関係者だけの集まりだし、千夏君だけ呼ばないのも仲間外れにしているみたいで嫌だったしね。
……実のところ、千夏君には出来れば来てもらいたい事情があるんだけど、まぁそれはもう少し秘密にしておこう。
本当は昨日の方が良かったのかもしれない。今日月曜日だしね……。
ただ、昨日だと千夏君が部活があったので今日にしてもらったのだ。私とあやめの方の
幸いありすたちも千夏君も、学校は先週で終わりで今は冬休み中だ。時間の都合自体は皆問題なかった。
”えーっと、皆に飲み物は行き渡ったかな?”
桃香の部屋には既にあやめが準備してくれた色々がある。
……なんで飲み物のグラスが、紙コップとかじゃなくてワイングラスなのかは問い詰めないでおこう……。
ちなみに中身は当然ジュースだ。私も含めて――いや、流石にこの場でお酒飲みたいとか言わないし。
あやめも含めて全員のグラスにジュースは行き渡っているようだ。
”それじゃ、改めて。メリークリスマス”
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
なぜか私が音頭を取っているけど、まぁいいか。
乾杯をしてから、ささやかなクリスマスパーティーは始まった。
その後は和やかに時は過ぎて行った。
今日は夕方あまり遅くならないうちに解散の予定だし、皆夜ご飯があるので料理はそこまでいっぱい出すわけではない。おやつくらいの量に留めておいた。
「……これ、あやめ姉さんが作ったの?」
「はい。ラビ様に教えていただきながら、ですが」
「おー……」
メインディッシュ……というか、本日の主役はあやめ特製のクリスマスケーキだ。まぁ、特製と言っても単に手作りケーキってだけだけどね。
「……ラビ様、本当にお疲れさまでした……」
”……うん、本当にね……”
こそっと桃香が私に耳打ちをしつつ哀れみの視線を向けて来る。
ああ、まぁ桃香は知っているか……。
このケーキを作るまで、本当に長い道のりだった……思わず私も遠い目をしてしまう。
何というか、車の運転を見た時から薄々感じていたんだけど、あやめって見た目の印象の割には物凄く不器用なんだよね。料理以外の家事は普通に出来てたから意外だったけど。
多分、一度覚えたこととかは機械のように正確に――その上で自己流にアレンジを加えてどんどん効率よくこなしていくことは出来るんだけど、初見のものに関しては本当に何も出来ないってタイプみたいだ。見様見真似、とかも無理っぽい。
だからまぁ……そのうち料理も上手くなるんじゃないかなとは思うんだけど、何かケーキ以外はロクに作れないとかになりそうな予感もしている。
”もうね、私は疲れたよ……”
「そ、そんなにですか……」
”私とあやめの話だけで、一本の映画が作れるくらいのドラマがあったんだよ……”
「ま、またまたぁ」
いや、冗談抜きで。
苦労した甲斐はあって、何とか今日ちゃんとしたものを作れることは出来るようになった。
「蛮堂さんは甘い物は大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫っす!」
千夏君が来ることも事前にわかっていたから、どうしようかとあやめと相談はしていたんだけどね。
幸い、千夏君も甘い物は別に嫌いというわけではないみたいだ……多分。
「流石に一人で1ホール全部とかは無理っすけど」
”そりゃあね”
逆にそれだけ食べたらびっくりする。
「ん……もしかして、ラビさんたちが忙しくしていたのって……これのため?」
おっと、ありすが気付いてしまったようだ。
”んー、どうしよっか、あやめ?”
「……そうですね。もうよろしいのではないでしょうか?」
ありすたちの不満の元である私たちが構ってあげられない――色々と用事で出かけたりしていた理由について、そろそろ語るべきか、とあやめと確認し合い……私たちは種明かしをすることにした。
”うん。じゃあ、あやめ、よろしく”
「はい。皆様、少々お待ちくださいませ」
そう言うとあやめは一旦部屋から出ていく。
何をするつもりなのかわからず、ありすたちは首を傾げるが――5分もしないうちにあやめが戻ってくる。
その手には、プレゼントボックスを携えて。
「お待たせいたしました」
”ありがとう、あやめ。
えーっと、内緒にしててごめんね。実は折角だし、何か皆にクリスマスプレゼントが用意できないかなって思っててさ”
「……ん、ラビさんは赤ちゃんだから、もらう側……」
まだそれ言うか。
”ま、まぁとにかく。あやめと美奈子さん――ありすのお母さんにも色々と協力してもらって、クリスマスプレゼントを用意してみました!”
ここ一か月近く、裏でこそこそとやっていたことの正体は、これのことなのだ。
私が前世みたいに人間で、社会人だったら何か買って済ます……とかだったかもしれないけど、今は見た目が小動物だし、お金ないし、そもそも買い物出来ないし……。
でも何もしないってのも寂しいし、皆のおかげで異世界に放り出された私でも楽しく生活出来ているわけだし……。
せめてもの恩返しも兼ねて、私に出来ることをやってみた。
”はい、これはありすに”
「ん……! ありがとう……!」
白いリボンで口を縛った小さな紙袋をありすに。
”これは、桃香だね”
「まぁ、ありがとうございます、ラビ様」
ピンク色のリボンのは桃香。
”で、これが千夏君の”
「え!? 俺もっすか!? あ、ありがとうございます」
まさか自分の分もあるとは思わなかったのだろう、千夏君は驚いているようだ。彼に渡したのは黒いリボンの紙袋だ。
「……開けていい?」
”いいよ”
家まで待ってもいいんだけど、別にこの場で開けても全然問題ない。
私の言葉に三人が一斉に袋を開けて中を確かめてみる。
ふっふっふ、恐れおののくがいい! ……いや、恐れられてもおののかれても困るけど。
「……ふぉっ!?」
「……まぁ!?」
「……え、これマジで?」
三人が中身を見て驚きの声を上げる。
……うふっ、その反応だけで頑張った甲斐があったというものだ。
「おおおおおお、
「か、可愛らしいですわ♡」
「あ、これキーホルダーになってるんすね」
大きさとしてはそこまででもない。握りしめたら掌に隠れてしまうくらいの小さなマスコットだ。
一体何をプレゼントすればいいだろう? と色々と考え、あやめや美奈子さんとも相談した結果、手作りマスコット――私たちは同じチームなんだし、何かそれを象徴するようなアイテムにもなればいいな、と思ったという理由もある――を作ることとした。
材料は美奈子さんに買ってもらったけど、作ったのは私一人だ。流石にこの小動物の身体で裁縫するのは大変だったけどね。
ありすには『白ラビ』、桃香には『ピンクラビ』、千夏君には『黒ラビ』のマスコットをそれぞれプレゼントした。
……正直、自分自身をマスコット化するのは気恥ずかしい思いもあったんだけど、これもあやめと美奈子さんからのアイデアである。特にスポンサーである美奈子さんの意向には逆らえないから仕方ないね。
”千夏君にはどうしようかなぁって思ったんだけど……”
「いえ、嬉しいっす! 何か、こう……仲間同士で同じもの持ってるって感じで」
お世辞ではなく、多分本当にそう思ってくれているのだろう。彼の口元が綻んでいる。
……うん、良かった。
「おぉー、桃香たちいいなー」
”んっふっふ、そう来ると思って、実は美々香ちゃんの分もあったりするんだよね”
「え、ほんと!?」
元々今日のクリスマスパーティーに、私のユニット三人だけでなく美々香も参加することはわかってたし、ここで美々香にだけ何もなしなんて可哀想なこと絶対にしない。
で、美々香には縞々模様のリボンの袋を。
「あ、あたしも開けて良い?」
”もちろん”
で、彼女には何を上げたかというと……。
袋を開けて中を見た美々香が驚きに目を見開き、そして――
「ぷっ、うははははっ!? すごーい!」
大爆笑していた。
そうそう、その反応を待っていたんだよ。
「師匠だこれ!」
美々香にプレゼントしたのは、トンコツの顔――というか、まぁ牛さんだね――のキーホルダーだ。流石にトンコツ全部をマスコット化するのは時間も足りなかったので顔だけになってしまったけど、そこは勘弁してほしい。
”和芽ちゃんの分もあるから、持って帰ってあげて”
「うん! ありがとう、ラビちゃん!」
うんうん、喜んでくれて何より。
ちなみに和芽ちゃんは、今日は学校の友達との先約があるということで不参加になってしまった。
……千夏君が来るって聞いてやっぱりこっちに来る、って最初は言っていたみたいだけど。
「……あら? もう一つ袋がありますが……」
”あ、それはあやめの分”
「わ、私にもですか!?」
”もちろん。あやめにはいつもお世話になってるしね”
あやめには青いリボンの袋だ。中身は、『青ラビ』人形である。
……彼女は私のユニットではないから、本当だったらマサ何とかにするべきなのかもしれないけど……ぶっちゃけ、マサ何とかの姿もわからないしあやめともあんまり仲良さそうじゃないし、ってことであえてラビ人形にしておいた。
それに、心情的にはあやめはもう私たちの『仲間』なのだから。
「恐縮です。ありがたくちょうだいいたします」
これで私が用意したプレゼントは行き渡ったな。
あ、ちなみに流石に美奈子さんにはプレゼントはない。クリスマスプレゼントだしね――まぁ代わりに色々お手伝いしたり晩酌に付き合ったりと色々やってるからそれで許してもらおう……。
喜んでくれて何よりだけど、これを作るためにありすたちをちょっと放置してしまったのは問題だったなぁ……。今後は気を付けないと。
「……トーカ、ミドー、なつ兄」
「はい♡」
「うん、おっけー」
「ああ」
……ん?
「じゃ、鷹月おねーさん、よろしく」
「はい。かしこまりました」
……んん?
何やら私以外で合図を出し合い、またあやめが部屋から出ていき――すぐに戻ってくる。
その手には、私が用意したのとは別の、綺麗にラッピングされた紙袋を持って。
「はい、ラビさん」
”…………私に?”
「ええ。わたくしたちから、ラビ様へ」
”…………え?”
「まさかラビちゃんがあたしたちに用意してくれてるとは思わなかったけどねー」
”…………本当に?”
「嘘ついてどうするんすか」
そ、そりゃそうだ。
……あー、そういうことか!? 何か珍しくありすが朝から出かけるって言って姿を消してたのは、これを用意しに出かけてたってことか? 私も朝からあやめと最後の準備をするために会うつもりだったから、都合がいいやと思ってたんだけど……。
って、あやめもこれ知って、敢えて私を足止めするために朝から呼んだわけか……。
ちらっとあやめの方を見ると、彼女にしては珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらへとウィンクしてくる。
……くそう、サプライズはお互い様か。
「……じー」
う、ありすたちの期待の視線が私の方へと突き刺さってくる。
”あ、開けてもいい?”
あ、お礼言うの吹っ飛んでた。
でも、驚きすぎてそれどころじゃない。
私の言葉に全員が無言でうなずく。
じゃ、じゃあ早速……。
驚きと嬉しさで動揺しつつも袋の中を開けてみると――こ、これは……!?
”ふ、服!?”
更に驚かされた。
中身は、黒の燕尾服っぽい小さなチョッキに蝶ネクタイ。そして、同じく黒の小さなシルクハットが入っていた。
もしかしなくても、これ、私が着る用!?
「ラビさん、裸じゃ寒いかなって」
「使い魔の方であれば気温は余り関係ないとは伺っておりますが、お洒落は淑女の嗜みですわ」
「紳士ならシルクハットに蝶ネクタイと決まってるだろ」
……お、おう……何でそこは三人バラバラの意見なんだ……?
でもこれどうやって用意したんだ?
私の内心の疑問を見透かしたのだろう、あやめがこそっと教えてくれる。
「……どうやら、ペット用かあるいはドール用の服のようですね。ちなみに、ラビ様の体形に合わせて私が少々手直しをいたしました」
”おぅ……”
ケーキ焼いている間の待ち時間にでもやったのか……どうやら裁縫とかは料理に比べて得意らしい。
彼女たちに促され袖を通して見ると、本当にピッタリだ。緩くもきつくもなく、動きを全く妨げない。
”……うっ、ぐすっ……”
うあ、どうしよう。なんか涙が溢れて来る。
「ら、ラビさん!?」
ああ、いかんいかん、皆に心配かけちゃう……。
「ごめんね、気に入らなかった? やっぱり首輪の方が良かった?」
……それは流石に勘弁してほしい。
心配いらないってことと首輪は嫌だってことを伝えるために首を横にブンブンと振る。
……ダメだ、泣けてきちゃってロクに言葉が出てこない。
”ううん……ありがとう、とってもうれしいよ!”
これは嘘偽りない、私の本心だ。
心の底から嬉しい。きっと、その辺の石ころを渡されたって嬉しくて泣いちゃったかもしれない。
私の言葉は伝わったのか、まだ困惑しつつもほっとしたような空気が流れて来る。
まさか、私の方がプレゼントをもらうなんて思ってもみなかった……。
こうして、色々とあったものの――私たちのクリスマスは平和に過ぎていくのであった。
うわぁぁぁん! この世界に来てから一番嬉しいよ!!
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