第5章6節 愛と復讐のメリークリスマス
第5章95話 冥界レトロスペクティブ
* * * * *
私たちが『冥界』から無事に帰還出来た翌日のこと。
私、トンコツ、ヨーム、そしてバトーの4チームは再度集まって反省会――というか振り返り会というか、とにかくそういうものをすることにした。
連絡役としては相変わらずのトンコツ先生が頑張ってくれた。彼には本当にお世話になりっぱなしだな……。
現実世界で集まるかとも考えたのだけど、色々と面倒なことが多いので今回は『バトルロイヤル対戦』で集まることとなった。
まぁこれも結構めんどくさかったけどね……外で集まろうとするよりは楽だったけどさ。
ちなみに『バトルロイヤル対戦』は私も初めてやる形式の対戦だが、内容としては3チーム以上が同時に『通常対戦』をするようなものだ。
対戦における細かい条件は対戦の参加者全員で決めることが出来る。だから、クエスト中の乱入対戦のように強制的にダイレクトアタックあり、みたいなことにはならないので安心だ。
ただし気を付けなければならない点が一つある。
それは、通常対戦の設定で『乱入可』を選択した場合に誰かが乱入してくるとバトルロイヤル対戦になってしまうのだが、この時は最初の通常対戦時の条件がそのまま適用されてしまう。
だからダイレクトアタック有りの通常対戦にうっかり乱入してしまうと大変なことになってしまう――まぁなかなかレアケースだとは思うけど。
ともかくとして、基本的なバトルロイヤル対戦のやり方としては誰かが『ホスト』となり、ホストに対して皆が対戦を挑むという始め方となる。
今回はトンコツがホストとなった――私とフレンドなのは彼だけだし、ヨームとバトーだと私から対戦が挑めないしその逆もまた然りなのだから仕方ない。
対戦時間は1時間、ダイレクトアタックなし、場所はいつものコロシアム……と話し合いメインでする対戦としてはちょうどいい条件だ。
……対戦なのに話し合いとか、何か矛盾しているような気もするけど。
今回の参加者は、使い魔は当然参加なんだけどユニットの方は各々一名ずつという条件とした。
別に誰かが途中で裏切って……ということもないとはわかっているけど、流石に全員が参加となるとかなりの人数となってしまう。
『対戦』を利用する形式上、最低一人はユニットがいればいい、ということでこうなった。ただ、トンコツだけはシャルロットを連れて来ること固定となってしまったけど、これは外部から私たちの会話を盗み聞きする輩がいないかどうかを監視してもらうためだ。まぁ別に聞かれて困る会話をするわけではないんだけど、ドクター・フーそして彼女の使い魔が絡んでこないとも限らない。念のためだ。
私のところはアリス、トンコツは前述の通りシャルロット、ヨームはフォルテ、バトーはアビゲイルをそれぞれ連れてきている。
”よし、それじゃ始めるか……つっても、まぁ話して解決するような問題ばっかじゃねーけどな”
”……トンコツ、それ言ったら今日の話終わっちゃうよ……”
まぁ彼の言ってることはその通りなんだけどさ。
情報の共有と整理をするのは決して無駄ではないと思う。
”ふむ……最初に確認しておきたいのだが、
ヨームが気にかけているのは、ありす、桃香、それとミオとアンジェリカのことだろう。
確かにこれが一番気になる問題と言えばそうだ。
”うん、まだ一日しか経ってないけど、アリスもヴィヴィアンも大丈夫そうだよ。
……まぁ、昨日は逆に寝すぎて調子悪そうだったけどね……”
寝すぎると逆に具合って悪くなるよね。昨日は三人ともちょっと調子悪かったみたいだ。シャワーを浴びて少しすっきりはしたみたいだけど。
ちなみに、昨日は結局そのまままた桃香の家に泊まっていくことになった。
私たちがクエストに行っている間に美奈子さんから電話があり、泊まりで出かけなければならなくなったという。ありすの携帯が繋がらないので桜家に直接電話を掛けてきてくれたおかげであやめが上手く誤魔化すことが出来たみたいだ。
まぁ二日続けて……というのも本当ならちょっと問題ありなんだけど、今回ばかりは仕方ない。
ありすも美々香も今日はちょっと早起きして、一度家に戻って着替えてから学校に行った。
”ミオの方も問題ないわ。まぁあの子は他の子に比べて期間も長かったけど、『ゲーム』外では特に影響なかったわね”
”そうなんだ? それなら安心……なのかな?”
一番影響を受けたであろうミオが大丈夫なら、まぁ他の子も大丈夫だとは思えるけど……。
”ふむ。アンジェリカもおそらくは問題なかろう”
『おそらく』ってのがちょっと気になるけど……。
”うーむ、アンジェリカの場合はなぜかアバターも変わりっぱなしというのが気になるな”
”そうねぇ……まぁミオやラビちゃんのところの子とはどうも
確かに、アンジェリカ――というか『
そうでなければ、アトラクナクア戦後に現れた時にドクター・フーへと攻撃は仕掛けないと思うし……。
でも向こうの状況なんてわかりっこないし、今更といえば今更かなぁ……。
それよりも気になるのは、ユニットのアバターが変わりっぱなしという点だ。
本当に問題がないのかどうかが気がかりである。
”昨日、あの後アンジェリカを連れてクエストに挑戦してみましたが、ミオ氏のようにダメージを受けることもなく、問題なく動けていることは確認済みである。
……むしろ、以前よりもステータス等が成長しているくらいですね”
うーん……ラッキーと考えていいものだろうか……?
「アンジェリカについてですが――」
と、ここでフォルテが口を挟んできた。
相変わらず大声を出しているわけではないのによく通る声だ……本体の方は何を言ってるのか全く聞き取れないんだけど。
「例のクエストに挑戦する前に私が占ったところ、『新たな飛躍』という結果が出ておりました。
……占いですので確証はありませんが、おそらくはそれではないかと私たちは思っております」
”う、占いかぁ……”
何とも言えないなぁ……。
私たちの微妙な思いはわかっているのか、ヨームが更に続ける。
”皆の心配する気持ちもわかります。なので、アンジェリカについてはもうしばらくは様子見をさせていただきたく”
”……一日二日で結果はわからない、か。まぁそうだよねぇ”
”ええ。もし何かしらアンジェリカに悪影響が出ていると判断したら――その時は彼女をユニットから解除しようと私は考えています”
”あら? ヨームって、結構薄情なのね?”
ユニットを助けることを模索せずに解除するのか、とバトーは尋ねる。別に非難しているわけではないだろう。
ただ、難しいところだ。本体のことを思うのであれば『ゲーム』から離脱させてしまう方が正しい、とも言えるしね。
”……あー、一応捕捉しとくとだな。元々アンジェリカはヨームのユニットじゃねぇんだ。アルテ……プリンって別の使い魔のユニットだったんだが、事情があってヨームが引き継いだんだ”
”あら、そうなの?”
それに加えて、私はヨームから別の話も聞いている。
彼は元々、アンジェリカの復讐心の行方如何によってはユニットを解除するつもりでいたのだ。何か問題があればユニット解除は躊躇わないだろう。
……別に彼が冷たいというわけではないと思う。彼にとっては、それが『最善』と思えるのであれば否定は出来ない。
私だって、『ゲーム』を続けることでありすたちの身に危険があるというのであれば、ユニット解除を選択する場面はあるかもしれないのだから。
”まぁあたしが口出すところじゃないわね。悪かったわね、ヨーム”
”いえ。バトー氏の言うことは誤りではないよ。
……ふむ、どうも私は少々ドライらしい”
やや自嘲するようにヨームはそう言った。
その後は『冥界』について互いに知っていることを共有し合った。
まぁ、予想通りほとんど何もわからない、ということが改めてわかっただけだったけど……。
ただ一つ気になったことはある。
”……まさか、
トンコツの言葉は私以外の二人に向けてのものだろう。
うーん、彼らの正体が本当にわからないので何とも言えないけど、きっと『ゲーム』の根幹に触れるものなんだろうなぁ……。
”……可能性としてはありえる。ルール的には問題ないが……倫理的にはあまり喜ばしくないはずだがね……”
”うーん……というよりも、あいつがこの『ゲーム』に参加したとして、目的がわからないわねぇ。特に興味を持つとも思えないし、勝ったとしても意味がないはずだし……”
むむぅ、何か三人だけで分かり合っているみたいだ。
”……ねぇ、その『あいつ』って言ってる人、誰なの?”
答えてくれるとは思えないけど、目の前で意味深に話されては気になって仕方がない。
思い切って聞いてみた。
”…………そうだな……事態が事態だし、話してもいいか?”
トンコツがヨームとバトーに確認する。
お? もしかして、話してくれる?
”ふむ……禁則事項に触れるものでなし、構わないのでは?”
”いいんじゃない? ま、話しちゃいけないこととの線引きだけはしっかりね”
”あ、俺が一人で説明すること前提なのか……”
がんばれ、トンコツ先生!
”はぁ~、まぁいいか。
じゃ、説明できるところだけ説明するが――”
”うん”
これは割とチャンスなのでは?
『ゲーム』自体謎だらけだし、それについての情報は得られないままの状態が続いていたけど、ここでトンコツが話してくれる内容は結構重要な情報となりえそうだ。
……特に、私以外の使い魔の本当の姿について。
”俺たちが気にしているのは――ユニットの
”アバターを作った人……?”
今更だけど、『ゲーム』なんだからきっと開発者はいるはずだ。
そのうち、ユニットのアバターを作った人が疑わしき人物……ということだろうか。
まぁ確かに妖蟲がアバターに色々と干渉していたことを考えると、アバターの製作者が疑わしいか。アバターの製作者ならば、モンスターにアバターへの干渉能力を持たせることも出来るだろう。
”細かいことは話せないが、まぁ『ゲーム』開発陣の一人だと思ってくれればいい”
”開発陣か……”
『開発陣』に対して何だか他人事みたいな言い方をしているように思える。
ってことは、トンコツたちは『開発陣』じゃないってことなのかな? まぁヨームとかはともかく、トンコツやバトーにそんな感じ全くしないからそこは納得だけど……って何気に失礼なこと考えちゃったな、私。
それはともかく、開発陣か……今更だけど、やっぱりこの『ゲーム』は誰かしらの手によって作られたものなんだな。『ゲーム』を実現させている超技術力とか、はっきり言って想像の遥か外側の存在な気はするけど……そこはきっと突っ込んでも答えてはくれないだろう。
”開発者が『ゲーム』に参加しているってこと?”
”まぁ……その可能性はないわけじゃない。けど、参加する理由がわからないってことだ”
”うーん? 『ゲーム』の開発者なんだったら、デバッグ目的とかで参加するとかはありそうじゃない?”
というより、むしろ積極的に参加するべきなんじゃないかと思うんだけど。
”いや――うーむ、何と言ったらいいか……。
そうだな……そいつはあくまでアバターを作る技術を提供しているだけで、『ゲーム』そのものの開発には携わっていない……制作会社の『外側』のヤツなんだ、って言ったらわかるか?”
”……なんとなく”
つまりは、こういうことか?
この『ゲーム』の制作を、仮に『会社A』とでもしておくとして、そこが行っている。
で、トンコツたちが疑っているアバター技術者は、この『会社A』に外部から素材の提供をしている――そうだな、普通のゲームだとすれば、フリーのイラストレーターみたいな位置づけなんだろう。
……まぁ、それならデバッグ目的で『ゲーム』に参加、というのはちょっとなさそうな気はするかな。『会社A』の社員がデバッグする、というのならともかく。
よくわからないけど、トンコツたちが疑っている何某は少なくともデバッグ目的で参加することはなさそうだということ。
であるならば、トンコツたち同様の参加者なのだろうけど……そうする理由がわからないってことかな。
それに外注だとしても開発側の人間が普通に『ゲーム』に参加しているというのは、ヨームが言った通り倫理的にはどうなんだろうって感じか。どうもこの『ゲーム』、最終勝者には何かしらの特典があるらしいし、仮にその人が勝者になったとしたら開発外の参加者からしたら『なんだそれ』って言いたくもなる。
……ただ、なんだかんだでトンコツたちを含めた『ゲーム』の参加者そのものも謎なので反応に困る、というのが正直なところだ。
”とにかく、そいつが妖蟲を作り出していた犯人?”
”――の可能性が高いってだけだ。妖蟲みたいなモンスターそのものは他にも作ることが出来るヤツがいるかもしれねーが、アバターへの干渉が出来るとなるとな……”
むぅ……容疑者止まりってところか。
でも限りなく怪しいのには変わりない。
「そいつ、何て名前だ?」
頭を悩ませる私たちに対して、アリスがざっくりと切り込む。
容疑者の名前か。きっと使い魔としての名前とは別なんだろうけど、知っておけば何かの時に役に立つかもしれない。
三人は顔を見合わせ、やがて頷くと代表としてトンコツがその名を言った。
”――ヘパイストス、だ。『ゲーム』内では別の名前だろうけどな……”
ヘパイストス……それが、私たちの『敵』かもしれない人の名か……。
”念のため聞いておくけど、そいつってクラウザーとは
”ああ。とはいっても、裏でつながってないとも限らないけどな……”
うーん……そうか……クラウザーと同一人物ではなかったか。
そうなると要注意人物がまた一人増えるってことなんだけど、まぁこれはクラウザーにしろヘパイストスにしろ、私が文句付けたところでどうなるもんでもないか……。
それにまだヘパイストス氏が『冥界』の黒幕と決まったわけではないし。
厄介なのは、ヘパイストス氏が黒幕だとしても『ゲーム』中ではきっと別の名前であろうということ。それを私たちが知るすべがないというところか。
他は特に有力な情報はなかった。
まぁ私たちにとって一番重要なのは、妖蟲に取りつかれた子たちが無事でいるかどうか、という点だったし、その辺は確認できたので良しとしよう。
……内心、もう数日は様子を見ようとは私は思っているけど。
”ラビ氏、少しいいかね?”
ヨームが私に声を掛けてきたのは、対戦時間がもう間もなく終了するということで解散しようとしていた時だった。
”うん? 何、ヨーム?”
……って返事してから思いついた。アンジェリカのことに決まってるよね。
”ふむ……一つ提案があるのですが――”
”……”
こうも改まって言われると、ちょっと身構えてしまうなぁ……。
私の嫌な予感に違わず、ヨームはある悩ましい提案をしてきたのだった。
”……『ゲーム』ではなく現実世界で、アンジェリカとジュリエッタを会わせることは出来ないかね?”
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