第5章94話 少女たちの帰還
* * * * *
色々とあったけど、全員無事に片付いた……かな?
倒しても倒しても押し寄せて来る蟲の群れには辟易とさせられたけど、流石に相手も無限にいるわけじゃない。
地道にアリスとヴィヴィアン、そして回復したジェーンや凛風と協力して倒していった。
……流石にジュリエッタやアビゲイルたちは掃討戦には参加しなかった。多少は体が動くようになったとはいえ、彼女たちの受けたダメージは大きすぎる。
特に長いこと
というわけで、アリスたちだけで頑張ってモンスターの群れと戦っていたというわけだ。
……もういっそある程度倒したところで皆揃ってゲートまで移動しようか、と少し思ったけども、
「ん? ダメだぞ、使い魔殿。こいつらは
何を言っているのかわからない、と言った風に首を傾げつつ物騒なことを言うアリスの言葉もあり、かつヴィヴィアンたちもそれに同意したためにひたすら戦う羽目になってしまっていたのだ。
まぁ、ともあれ敵の群れは途切れたし、強敵も全て片付けたし……一段落と言っていいだろう。
今私たちはヴィヴィアンの呼び出した召喚獣に乗ってゲートまで移動中だ。
クエストはクリアしているので脱出アイテムを使ってしまおうかとも相談したのだけど、
”……ごめん、あたし持ってない……”
とバトーが言ったため、ゲートまで移動することにした。
気にせず先に脱出してくれとも言われたけど、ここまで来てはいさよなら、とは流石に言いたくない――幸い、トンコツとヨームも理解を示してくれたし、仮にモンスターが襲ってきたとしても私たち四チームが揃っていればよっぽどのことがない限りは何とかなるだろう。
ちなみに、バトーが脱出アイテムを持っていなかった理由は簡単で、この『冥界』のクエストでは常に『ポータブルゲート』を使っていたからだ。脱出アイテムを使ってしまったらクエスト失敗になって挑戦できなくなってしまうかもしれない、ということで用意していなかったのだとか。
ともあれ、ゲートまでは敵の妨害がないとは言え結構な距離がある。歩いて移動するのも何なので、ヴィヴィアンの召喚獣に頼らせてもらうこととした。
アリスとジェーンは余力があるのと、空飛ぶ妖蟲が襲ってきた時に備えて自力で飛行している。
ヴィヴィアン(と私)とシャルロットが《ペガサス》に跨り、残りのメンバーは新たに呼び出した鳥型の召喚獣《グレート・ロック》の背中に乗っている。
多分、ロック鳥の召喚獣なんだろう。ヴィヴィアン曰く、『輸送能力特化』の召喚獣らしく、戦闘力は低いものの背中に沢山物を乗せて安全に運ぶことが出来る、という能力を持っているとのことだ。
「……疲れたー……」
で、本当なら自力で飛ぶことも出来るジュリエッタだが、今はぐったりと寝転んでいる。
……肉体に受けたダメージは最後までアトラクナクアと戦っていた凛風やアビゲイルと同じだろうけど、その後のアンジェリカ戦でもかなりのダメージを負っていた。
もう大きな戦闘は起きないだろうし、戻るまではゆっくりと休んでいてもらいたい。
…………ちなみに、今ジュリエッタはぐったりと寝転んでいるわけだが、彼女の身体をクッションのように後ろから抱き留めているのはアンジェリカだったりする。
彼女は体内に巣くっていた妖蟲を倒したにも関わらず、未だに成長した姿のままだ。ただ、意識自体はちゃんと元のアンジェリカに戻っているようなので、多分問題はないだろうというのがヨームの見解だ。
「ゆっくり休んでくださいね、ジュリエッタ♪」
「……んー……」
にこにこと笑顔を浮かべながらジュリエッタを抱きしめているアンジェリカ。
……何というか、彼女の中で何かが吹っ切れたらしい。少なくとも悪い方向ではないようだけど……うーん……。
「しっかし、アンジェリカ……おっきくなったアルなー。ワタシよりおっきくなってるアルよ」
確かに。
前のアンジェリカは十代の前半……下手すると十歳以下くらいの小さな女の子の姿だったけど、今や立派な成人女性にしか見えない。
凛風は十代半ばくらいかな? 現実世界の時も含めて、凛風よりも大きいのは確かだ。
……特に、その……胸とか。
アンジェリカよりもかなり小柄なジュリエッタを抱きしめている状態なのだが、体格差もあって丁度ジュリエッタの後頭部がアンジェリカの胸に埋まっているような体勢になっている。
……むしろアンジェリカの方が積極的に胸を押し付けているように見えるのは気のせいではあるまい。
「えへへ……何か気が付いたら大きくなってました」
出発前に簡単に話を聞いただけだが、アンジェリカは『
『
どうも肉体が成長したことに伴って、上げた覚えのないステータスも大きく伸びているようだ。
……もしかしたら今ならガチでジュリエッタと戦ってもいい勝負が出来るかもしれない。なんてね。
それはともかく、ジュリエッタは抵抗する気もないようでアンジェリカにぬいぐるみよろしく抱きかかえられたままぐったりとしている。本当に疲れているみたいだ……無理もないけど。
”……しかし、結局なんだったんだろうな、このクエスト”
”そうだね……クリアはしたけど、謎は何一つ解けてないんだよねぇ……”
トンコツの呟きに私はそう返すしかない。
そう――謎は何一つ解けていないのだ。
何でありすたちはこのクエストに来たのか――これはアトラクナクアが『幽霊団地』で見かけたありすたちを無理矢理連れてきた、とか理屈づけることは不可能ではないんだけど……。
だとしても、クエストそのものに干渉する能力はどうやって得たのか? それに、私たちが参加したクエスト……『救援要請』とは結局何だったのか?
それと――
「……あのドクター・フーという方も気になりますね」
”うん……”
ヴィヴィアンの言葉に頷く。
おそらくこのクエストの黒幕、あるいは黒幕の関係者と思われるドクター・フーというユニット……彼女も結局謎だらけの存在だ。
トンコツたちの話も含めて総合して考えると……どうも彼女は複数の場所に同時に現れていたようにしか思えない。
つまり、私たちが女王の城入口で遭遇したもの、トンコツたちを襲ったもの、そして女王の間でアトラクナクアと共にバトーたちを待ち構えていたもの……わかっているだけで三か所にドクター・フーは現れている。
超高速移動とかで何とか出来るか? とも考えたけど……流石に私たちの気付かない抜け道とかを使ったとしても不可能だろう。それに、どう考えても私たちの前に現れたのはともかく、トンコツたちのところとバトーのところには同時に存在していたとしか考えられない。
私たちを助けてくれたフランシーヌにも事情を聞いてみたいとは思うんだけど、結局あの後会うことは出来なかった。あの場に現れたドクター・フーは倒したのだろうか? それとも……。
「……で、でもドクター・フーはもう倒されたわけですし……」
”……どうだろうな……”
”だねぇ。何かまた出てきそうな気はするよ、私も”
シャルロットには悪いけど、ドクター・フーを完全に倒したとは到底思えないのだ。
まぁもちろんアビゲイルが倒したのは目にしているわけだし、あれで本当に倒れてくれていればそれに越したことはないんだけど……。
あんまり楽観的に考えない方がいいだろう、彼女については。
クラウザーと同じく、きっとわかりあうことなど出来ない『敵』なのだ……彼女と対峙した全ての者がそう思っている。
「お、使い魔殿、ゲートが見えてきたぜ!」
そうこうしているうちに、私たちの目にもゲートの光が見えてきた。
モンスターの妨害もなく、拍子抜けするくらいあっさりと戻ってこれたなぁ……。
”……何で俺たちはあそこからクエストに入らなかったんだろうな? いや、まぁあんな空中にゲートがあったら、モンスターに襲われるまでもなく落下死するが”
”そういえばそうだったね? なんでだろう?”
忘れかけていたけど、そういえば同時にクエストに入ったはずなのにトンコツとヨームは私たちとは違ってゲートからのスタートにならなかったんだっけ。
これも謎と言えば謎だ。飛行能力がないので空中にあるゲートから落っこちないように『ゲーム』側が配慮してくれた、とかクエストのスタート地点がランダムになる特殊なクエストだったとか……――実際
”ま、とにかくこれで無事皆帰れるね! 反省会とかはまた後でやろう”
”だな。おい、ジェーン。向こうに戻ったらちゃんと連絡してくれよ?”
「う、わかってるよ、師匠……」
ありすと桃香は私がすぐ傍にいるからいいけど、美々香はそういうわけではないしね。
とにかく戻ったらトンコツに遠隔通話で連絡を取ってもらおう。現実世界で無事に目が覚めた、となれば一先ず安心できるだろうし。
「皆様。このままゲートへと召喚獣ごと入りますが、よろしいでしょうか?」
やり残したこと、思い残したこと……まぁ旅行じゃないんだしそんなのないとは思うけど。
ヴィヴィアンの問いかけに(ぐったりしているジュリエッタは除いて)全員が頷く。
”それじゃ、トンコツ、ヨーム。助けに来てくれて本当に助かったよ。細かい話はまた今度”
”おう。こっちこそジェーンを助けてもらってありがとうだぜ”
”ふむ……”
相変わらず何を考えているかわからないヨームだったけど……。
”……むしろ礼を言うのはこちらの方かもしれないね、ラビ氏”
”?”
”いえ、こちらのことなので気にしないで結構だよ”
”そう?”
はて? 私がお礼を言われる謂れはないと思うんだけど……アンジェリカを助けたのはジュリエッタだけど、そもそもこのクエストに来なければ、アンジェリカも妖蟲に取りつかれることもなかったわけだし。
”あたしからもお礼を言わせてちょうだい、ラビちゃん”
ら、ラビちゃん……って。いや、いいけど。
”私の方こそバトーたちには助けてもらったし、感謝しているよ。お互い様だね”
”ふふっ、そうね。
ねぇメルク――じゃない、トンコツちゃん。もしまた皆で話すってなったらあたしも呼んでね?”
”それは構わねぇが……”
私以外の使い魔同士なら連絡を取れる方法があるみたいだ。
……ま、私は『イレギュラー』みたいだしね。そのことはもう受け入れるしかない。
それはともかくとして、この『冥界』について話すのであれば是非バトーにも参加してもらいたい。
特に一度妖蟲に寄生され、アトラクナクアに飲み込まれてしまったミオのその後のことも気になるし。
「話は終わったか?」
”あ、ごめんね、皆”
ついつい使い魔同士で話し込んでしまった。
お礼の言い合いもまた後でやればいいか。
”それじゃ、また後日、都合を合わせて話しをしようか。
皆――お疲れ様! 現実世界に戻ろう!”
私の号令に皆がそれぞれ返事を返し――
――私たちは長い戦いを終え、現実世界に帰還するのであった。
* * * * *
「ラビ様!?」
ゲートに入った後、一度マイルームを経て私は桃香の部屋へと戻ってきていた。
戻ってきて早々あやめの驚いた声に迎えられたけど……そうか、あやめ視点だと私が突然現れたようにしか見えないのか。
”ただいま、あやめ。桃香たちは無事に助けられたよ”
そろそろ目が覚めるんじゃないかな? 一緒にマイルームから出てきたわけだし。
何て思っていたら、布団に入っていた三人がもぞもぞと動き始める。
「桃香!」
「ふぁっ!? あやめお姉ちゃん、待っ……!」
桃香が目を開くなり口を開く前に感極まったあやめがきつく抱きしめる。
……あやめには本当に心配をかけた。私たちが戻るまで気が気ではなかっただろう。
桃香に続いて、ありすと美々香も目を覚まし――って、あれ? 何か顔色が悪い、ような……?
”……ありす? 身体は大丈夫……?”
恐る恐る聞いてみる。
まさかとは思うけど、長時間クエストにいた弊害が……?
だが、私の心配は杞憂に終わる。
「………………おしっこ……」
”……は?”
「う、うぅ……トイレ、行きたい……」
目が覚めて第一声がそれか!
……い、いや、無理もないか。ありすたちが寝た時間はわからないけど、遅くても22時には寝ていたと思う――それ以上の時間は普段の生活態度からして、起きようと思ってもなかなか起きていられないはずだ――し、ふと部屋の時計を見てみると今は16時。
何と18時間も寝ていたことになるのだ。病気の時ならともかく、健康な状態では普通そこまで眠ることは難しい。その上、ただ寝ているだけなら途中で尿意で目が覚めるということもあるだろうけど、クエストに入っている間は目が覚めることもない……。
”…………早く行っといで”
無事を喜ぶにしろ、子供たちだけで勝手に『幽霊団地』に行ったことのお説教にしろ、後回しだ。
私の言葉を聞くや否や、布団から起き上がった二人がよろよろとゾンビのような足取りで部屋から出て行こうとする。
「あ、あの。私の家の方も使ってください」
「うぐ、そうする……」
桜邸にはまぁ当然と言えばそうなんだけどトイレは一つしかない。
あやめの家の方にもトイレはあるので、そちらを使えということらしい。
二人は部屋から出ていき、この危機的状況を乗り切ろうとしていた――アホらしいが、ぶっちゃけアトラクナクアよりもこっちの方が女の子としてはより重要な難敵だろう。
”……桃香は? 大丈夫なの?”
ありすたちがアレだし、桃香だってトイレに行きたいんじゃ……と思って彼女の方を見ると……。
「……うっ、うぐっ……」
あやめに抱き着かれた状態でポロポロと涙をこぼし始めている。
”桃香!?”
「と、桃香!? 大丈夫!?」
ぎゅっと布団の端を握りしめ、ぷるぷると震えているが……。
”「………………あっ」”
……私とあやめは同時に察してしまった……。
「ま、まっで、って……言っ、言っだのに……」
「そ、その、桃香……?」
「うぇ、うぇぇぇぇぇぇん……」
”大丈夫だから、ね? 桃香は別に悪くないから、ね!?”
ありすと美々香がこの場にいないのが幸いだった。
桃香を二人で宥めすかし、まだぐすぐすと泣いている桃香を私がお風呂へと連れて行くことに。
あやめは……
……あれだけ『冥界』で死闘を繰り広げた後、これかぁ……ほっとしていいもんじゃないけど、現実世界って平和だなぁ……なんてことを思うのだった。
その後、相変わらずぐすぐすと泣き続けていた桃香を必死に宥め、シャワーを浴びせることに苦労した……。
やがて桃香も泣き止んで少し元気を取り戻してきてくれたところで、あやめからお風呂にいることを聞いたのであろうありすと美々香も乱入してきた。
……女子小学生三人組に色々と玩具にされた私だったが、まぁ今日くらいはいいか……と心を無にしながら耐え忍ぶのであった……。
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