第5章69話 Get over the Despair 9. 贖罪のジュリエッタ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……あー、俺ほんと何やってんだろな……。
『ゲーム』を続けるって決めたのは俺自身だし、
正直、しんどい。
今までも何度か手ごわいモンスターと戦っては来たけれど、今回は今までの比じゃない。
やっとこっちが優勢になったと思ったら次々と進化して来やがるとか、ほんとにいい加減にしろっていいたい気分だ。
……でも、まぁ。やるしかねーんだけどな!
モンスターがやって来た気配がする。
ヤバいな、早いところ決着をつけないと、アニキたちが危ない。
「メタモル……!!」
体を魔法で作り変え、
アトラクナクアとやらに攻撃するのは今は無理だ。
情けないことに、俺一人ではアレはどうにもならない……アビゲイルと凛風の二人がいなければ手も足も出ないだろう。
果たして二人は無事だろうか? 二人が瓦礫に潰されてリタイア、何てことになっていたら俺たちの負けが確定してしまう。
――大丈夫、このちっこい身体のジュリエッタが無事だったんだ。二人も無事に決まっている!
そう信じるしかない。
俺が二人を助けに行くことも出来ない。この場を離れたら、モンスターの大群……いやアトラクナクアにアニキたちが襲われてしまう。
それだけは絶対に防がなければならない。
「大丈夫……ジュリエッタが、絶対守る!」
だから、
<こーる……《あんたれす》>
くそったれ、《
前に戦った時にわかったが、どうも
これがヴィヴィアンの魔法なら、目の前に現れた召喚獣をぶっ飛ばせば済むので話は早いんだが。
泣き言言ってる暇はねーか。避けたら後ろにいるアニキたちが危ない、俺が食い止めるしかない!
「メタモル……《
アニキのユニットとなった時、またアリスと戦うのは無しと言われてはいたものの……かと言って何の対策も考えずにいられるほど俺は大人しくはしていられなかった。
メタモルを使うと共に小柄なジュリエッタの身体が巨大化する。
今までに倒した大型のモンスターの特徴を無節操に取り込んだこのメタモルは、アリスの魔法への対抗策として考えていたものだ。
見た目は《
「……ぐぅっ!?」
衝撃もダメージもかなりすさまじいが、耐えられないものじゃない。
少し後ろへと下がらされたくらいで、《赤色巨星》を受け切った。
「メタモル《
これで一安心……何て言うわけはなく、すぐさま次の形態へと切り替える。
今度は広範囲へと攻撃を繰り出すことの出来る《雷獣形態》だ。アトラクナクア本体には【
後ろにいるアニキたち――は味方だから大丈夫だけど、美藤妹二号たちを巻き込まないようにしながら、電撃を魔力の限りぶっ放して蟲共を薙ぎ払っていく。
「ジェーン、こっちはジュリエッタが守る!」
「う、うん、わかった!」
だから、ジェーンは他から来るモンスターに集中していて欲しい。
みなまで言わずとも向こうもわかってくれているのだろう、俺の背後で戦っている音が止むことはない。
……そうだ。俺に支援なんてなくてもいい。
俺一人で守ってみせる。
それがどんなに辛くても――俺はやり遂げなければならないんだ……。
まだこのクエストで、チビどもを助け出す前――
”ジュリエッタはさ……二人のことどう思ってるの?”
「どう……って……?」
ふわっとしてて何だか答えづらい質問だなぁ……とは思ったけど、何の意味もなしにアニキが聞いてくるとは思えない。きっと、何か深い考えがあるんだろうと思いなおし俺は答えた。
「…………ライバル?」
アニキのユニットとなっている以上、『敵』であるとは当然言えない。……いや、そりゃついこないだまで『敵』だったわけだが。
じゃあ『大切な仲間』とでも言えばいいのかっていうと、ぶっちゃけそんなこと言えるほど付き合いも長くない。
なのでちょっと考えた末に出した答えが『ライバル』だ。
言ってて、うん。やっぱりこれが一番しっくりくる答えかな、と思う。
”ライバルかー……”
クラウザーのユニットだった時みたいに、何が何でも倒したいってほどじゃない。でも、『負けたくない』って気持ちについてはやっぱり変わりはないんだ。
アリスの方は言うに及ばず。ヴィヴィアンにしたって、前にタイマン張った時には勝ったもののあの時はテスカトリポカを優先しなければならないという事情もあった。次に本気で戦ったら勝敗はどうなるかわからないだろう、と正直に思う。
……あれでいてなかなかガッツあるみたいだしな。
ま、口に出して言ったらあのお嬢様調子に乗りそうだし。
「うん、ライバル」
何が何でも、どんな手段を使ってでも勝ちたいとはもう思ってない。
けど、『真正面から戦って勝ちたい』とはやっぱり思っている。
最後の戦いでは
同時に、アリスやヴィヴィアンと一騎打ちをして確実に勝てるとも言えないだろう。互いに手の内をある程度は知っているという事情もあるし。
……っと、何か話が逸れた。
”ねぇ、ジュリエッタ……”
「なに?」
”……アリスたちと、まだ戦いたいって思ってる?”
――即答は出来るけど、ちょっと言葉に詰まってしまった。
戦いたいという気持ちに変わりはない。それはさっき思った通りだ。
でも……。
「…………そう、かも」
断言しなかったのには理由がある。
戦いたい、という気持ちは確かにある。
けど……これもさっき思った通り勝てるとも思っていないのだ。
個人の力では決して負けてはいない……はず。むしろ、三対一での戦いでもギリギリだったのだ、
何て言うんだろう? こう……『腕試し』というか、互いに切磋琢磨し合おうという気になるとか、決してネガティブな意味ではなくポジティブな意味で、戦いたいと思っている。
それを一言で表せば――『ライバル』なんだろう。
……まぁ女子小学生をライバル視するってーのもアレだとは思うけどさ。何かそういう詰まらないプライドに拘っている場合じゃないって思うんだよな。
「大丈夫、別に……敵になりたいとか、そういうわけじゃ、ない」
”そ、そりゃそうだよ”
「ジュリエッタ、強くなりたいのには変わりない。
でも――きっと、一人じゃこれ以上は強くなれないと思う」
最後にアリスたちと戦った時、一時は
それでも結局は負けたのだ。俺は、それを認めなければならない。
単なる数の力で負けたってだけじゃない。もっと、こう……数だけではない、でも数が無関係ではない、そんな俺にはまだわからない『力』で負けたんだろう。
その『力』は俺が一人で足掻いてもきっと手に入れることが出来ないものだ。
だから――それだけが理由じゃないけど――俺はアリスたちと一緒に戦うことを望んだんだ。
「アリスもヴィヴィアンも、絶対に助ける。殿様、ジュリエッタを信じて」
今、二人の魔力が尽きているらしいことをアニキから聞いている。
一瞬ひやっとしたけど、体力が残っているということはまだ無事なはずだ。
まだ間に合うはずだ。
アニキだって完璧超人ってわけじゃない。二人の魔力が尽きたって言った時には結構パニックだったぽい。
ならここは俺が冷静になるべきだ。
そして……アニキと二人で協力して、チビどもを助けてやらないと。
”うん。頼むよ、ジュリエッタ”
さっきまでのもやっとした会話なんてなかったかのように、迷うことなくアニキは
……ったく。まだ一緒のチームになって一か月も経ってないってのに。
ヨームと最初に会う時は『無条件に他人を信じるのは、無責任だ』なんて言ってた癖になぁ……。
「――任せて」
でも、悪くない。
クラウザーに言われるまま適当に戦っていた時よりも、ずっといい気分だ。
別に、強くなりたいからチビどもを助けたいだけじゃない。
仲間だから、とか、アニキのために、とかでもない。
当然、チビどものことが好きだからとかそういう話でもない。
――これはきっと、俺に与えられた『チャンス』なんだ。
本当ならクラウザーの仕業によって俺は死んでいたかもしれない。死ぬまでいかなくても、この『ゲーム』に参加し続けることは出来なくなっていたはず。
けれども俺は生きてるし、『ゲーム』を続けることが出来ている。
……全部、アニキと、
<……こーる《あんたれす》>
「メタモル!!」
再度飛んでくる《赤色巨星》を右腕だけ巨大化させて弾き飛ばす。
が、弾き切れずに
痛い……! 痛覚自体は多分生身の時よりはいくらか和らいでいるとは思うけど、痛いものは痛い。
メタモルで腕を修復することで痛みはマシにはなるが、鈍痛はいつまでも残っているのだ。
既に全身あちこちが痛みで悲鳴を上げ始めている。更に、ここまでにかなりメタモルを使っているため、【
流石に再生すら出来なくなる程消耗はしていないが、そのうち《巨獣形態》とかの大技は使えなくなってしまうかもしれない。
そうなる前に、決着をつけないと……!
後ろを一瞬だけ振り返り、アニキたちが無事でいることを確認する。
「……っ!? ありす、何もするな!!」
「……」
”え? ジュリエッタ……?”
けど説明している時間もない。
「大丈夫だから……絶対、ジュリエッタがあいつを倒すから!」
だから――絶対に
どうか俺に、おまえたちを助けさせてくれ……!
それこそが、俺のやれる、俺がやらなきゃいけない、この『ゲーム』での使命――『贖罪』なんだから。
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