第5章67話 Get over the Despair 7. 死闘・アトラクナクア -反撃
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
女王の巣へと突入したトンコツたち一行は、ドクター・フーに襲われてしまった。
その時は凛風が一人残ってドクター・フーを食い止めることとなった。
しかし、その後アンジェリカが乱入――凛風もその場を離れ、先に逃れたトンコツたちと合流した。
合流した一行はドクター・フーにやられてなぜかリスポーン待ちとなったフォルテを復活させつつ、凛風から状況を聞いた。
その結果、とにかく戻るのは危険であると判断……ボスの反応が動いていることから誰かが先にボスの元へとたどり着いている可能性が高いだろう、ということでフォルテの復活を待って先へと進んできたのだ。
背後からドクター・フーあるいはアンジェリカが向かってくるかもしれないと戦々恐々としつつも進んでいたが、どちらも追い付いてくることもなく、またモンスターの邪魔も入ることなくすんなりと――尤も道は複雑に入り組んでいて移動に時間はかかったが――ボス、すなわちアトラクナクアの元へとたどり着くことが出来た。
「ジュリエッタ、こいつがボスあるか!?」
「うん、そう」
見ればわかるが念のため確認。
一度ジュリエッタはアトラクナクアから少し距離を取り、アビゲイル、更に凛風と合流する。
《塵旋風》も合流した時点で解除――魔力の消費が激しいためだ。
「これで、攻め手は三本……モンスターが来るまでに、決めるしかない……」
トンコツたちはラビたちの方へと移動してもらっている。幾ら手が足りないと言っても、アトラクナクア相手にフォルテとシャルロットでは戦力にならないからだ。
ただし、迫りくるモンスター相手ならばなんとかなる。ジェーンと共に使い魔たちを守ってもらう方が安心して戦うことが出来るだろう。
「急ぐアル! もしかしたら、アンジェリカがこっちに向かってくるかもしれないアルよ!」
「……アンジェリカが……」
互いに細かい状況を説明している余裕はない。それぞれが知っていることを手短に説明する。
凛風にはアトラクナクアの能力を、ジュリエッタたちにはアンジェリカがこちらへ向かって来ているかもしれないことを。
――ドクター・フーに関してはよくわからないので保留とする。凛風はどこかから回り道して追いかけてきたのだろうと思っているが……。
「よし、三人いれば何とかなるかもしれないわ。
今度こそ――あいつを倒してミオを助けるわよ!」
「うん。モンスターが来る前に片づけたい」
「了解アル! ワタシも戦うアルよ!」
最大の不安はモンスターが使い魔たちを攻撃し、ジェーンたちでも守り切れなくなってしまうことだ。
そうなると幾らアトラクナクアを倒したとしても意味がない――もっともバトーはアビゲイルと一緒にいるためまだ安全とは言えるのだが。
「ジュリエッタが前に出る。二人は好きに動いて」
細かい作戦などない。
時間がない上に敵が強大すぎるので、とにかく持てる力全てをぶつけるしかないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アトラクナクアの右側からジュリエッタ、左側から凛風が回り込む。正面にはアビゲイルが離れた位置に立ち、三方向から同時に攻撃を仕掛けようとする。
ジュリエッタとアビゲイルはともかく、凛風の魔法では瓦礫の鎧に身を包むアトラクナクアへは有効打を与えることは難しいと思われるが、
「ブロウ《塵旋風》!」
再度広範囲に砂嵐を発生させてアトラクナクアの全身を包み込む。
<……【しゃったー】>
凛風の狙いはダメージではなく、塵旋風によってアトラクナクアに【
簡単に説明を聞いただけではあるが、最も厄介な能力が【遮断者】による防御だということはすぐにわかったため、ジュリエッタに比べて攻撃力が不足していると自覚している凛風は援護を行うこととしたようだ。
それに、凛風は今 《5thギア》を使い続けている状態だ。ヨームたちには平気な顔をしてみせていたが、全身が悲鳴を上げている。
――そう長くはもたないアルな、これ。
体力が尽きさえしなければ『ゲーム』的には問題はないのはわかっているが、肉体の疲労だけはどうにもならない――何でそんなところは『ゲーム』的に処理しないようにしているのか文句をつけたい気分だが――のだ。
一度リスポーンすればもしかしたら疲労や肉体の疲弊もリセットされるのかもしれない。しかし、そうすると凛風はシフトを最初からやり直しとなってしまうため戦力としては各段に落ちてしまう。ブロウによる援護をするにしても、シフトで身体強化をかけて機動力等を上昇させた方がやりやすいのだから。
「……こりゃ、最後のギアも使うかもしれないアルね……」
絶えず塵旋風を起こし続けて【遮断者】を使わせつつ視界を塞ぎながら、凛風は密かにそう決意していた。
シフトの最終段階……今まで一度も使ったことのない(使う機会がなかった)段階の強化を行った時、果たして凛風の身体は耐えきれるのかどうか……一撃入れるのが精々かもしれないし、もしかしたら一撃すら入れることが出来ずに身体が限界を迎えてしまうかもしれない。
――ま、仕方ないアルね。
その時はその時だ。
アンジェリカのことは気がかりだが、今は目の前の相手に全力を尽くさなければならない。
密かな決意を胸に、凛風もアトラクナクアへと立ち向かう――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
凛風の参戦により、アトラクナクアの体力は着実に削れて行っている――それをジュリエッタは実感していた。
特に【遮断者】を使わせることが出来るのが大きい。
防御に使われることも厄介だが、何よりも防御不能の『絶対切断』攻撃をされる方が恐ろしい。
ジュリエッタのメタモルやライズでは防ぐことが難しいのだ。ある程度のダメージ軽減は出来るかもしれないし、仮に食らっても体力さえ残っていれば再生することも出来るとは言え、使われないに越したことはない。。
まだまだ油断は出来ないが、このまま攻め続けることが出来れば勝利することは不可能ではないだろう。少なくとも、戦闘開始当初に感じたほどの脅威は今は感じない。
ただし、時間がない。
モンスターの群れが到達する前に決着をつけたい。
「メタモル!」
凛風の塵旋風による目くらましは、アトラクナクアだけではなくもちろんジュリエッタたちの視界も塞いでいる。
とはいえ、相手は巨体――おおよその位置だけわかっていれば攻撃を当てることは難しくはない。
右腕を竜巻触手に変え、塵旋風を切り裂くつもりでアトラクナクアのいるであろう位置へと振り下ろす。
手応え、あり――竜巻触手がアトラクナクアの胴体を薙ぐ。
瓦礫の鎧を身に纏っていようとも関係ない。『嵐の支配者』の眷属、竜巻の化身の力は鎧を吹き飛ばし、砕き、アトラクナクア本体を深く抉る。
<ご……るお……>
今までで最も深いダメージを受け、アトラクナクアがうめき声を上げる――塵旋風の轟音に紛れて聞き取り辛いが、おそらくはそうなのだろうとジュリエッタは判断する。
そして攻撃が命中したことを確認するなりすぐさまその場から下がり距離を取る。
ジュリエッタの思い通り、先程立っていた箇所へと槍の腕が振り下ろされる。しかも声が聞き取り辛かったためわかりにくいが、
だがその場には既にジュリエッタはいない。虚しく床を穿つだけで終わった。
「ジュリエッタ!」
アビゲイルが警告すると同時に発砲――槍の振り下ろしと同時に周囲へと瓦礫を投げつけていたようだ。
「止まらず進みなさい! 凛風!」
「わかってるアル!」
細かい指示は互いに不要、とばかりにアビゲイルに躊躇いなく返す凛風。
言われた通り、ジュリエッタは再度塵旋風の中へと突っ込んでいく――それを迎撃せんとアトラクナクアが次々と瓦礫や鉄骨を投げつけて来るものの、それらは全てアビゲイルの銃弾が撃ち落し、あるいは弾いていく。
「ブロウ――《
塵旋風に加え、更に凛風がブロウを使う。
それは上空から地上へと向けて叩きつけるような吹きおろしであった。
<ぬ、ごろ……うろうら……――>
まるで上から見えない手で押さえつけられているかのように、アトラクナクアの動きが止まる。
並みのモンスターやユニットであればそのまま叩き潰されかねない暴風は、完全にアトラクナクアの動きを抑え込んでいた。
が、これも【遮断者】を使われればすぐに防がれてしまう。
それはわかりきっていることだ。
「メタモル……《
「シューティングアーツ《レイダーシューティング》!!」
一瞬でもいい。相手の動きを止めることだけが目的だ。
ジュリエッタが新たな形態――背中の肩甲骨付近から二本の触手を伸ばす。その先端は大きな剣となっていた……アリスが《
同時にアビゲイルも
アトラクナクアが【遮断者】で《山颪》を防ぎ動き出した瞬間、顔面に《レイダーシューティング》が突き刺さり大きくのけぞる。
「ライズ《アクセラレーション》!」
アビゲイルの砲撃と同時にジュリエッタも動いていた。
《アクセラレーション》で加速、アビゲイルの攻撃が命中することを想定して――当たれば意識がそちらに逸れるのはわかっているからだ――素早くアトラクナクアの背後へと回り込む。
そちら側にはサソリの尻尾があるが、単発で振り回されるだけの尻尾ならば幾らでも回避可能だ。
回り込んだジュリエッタが二本の触手を伸ばし、先端の剣を胴体へと突き刺す。
この剣だけで相手を倒すのではもちろんない。そもそも剣は瓦礫の鎧の隙間に嵌っただけで本体へは届いていないのだ。
「ライズ――《サンダーセイバー》」
そして更にもう一つライズを使う。一時的に自分の攻撃の『雷属性』攻撃力を上げるという補助的な役割のライズだ。
ジュリエッタの身体が大きく瞬き――次の瞬間、雷撃がアトラクナクアの身体を包み込む。
突き刺した剣は『電極』のような役割を果たしているのだ。当然肉体に突き刺した方が効果は大きいだろうが、これでも十分だ。
「これで……っ!!」
雷の化身である
たとえ瓦礫の鎧を身に纏っていようとも、その電撃は確実にアトラクナクア本体へと届いている。
<……っ、ぎ……ご……>
電撃の熱が『糸』を焼き、瓦礫の鎧が剥がれ落ちていく。
鎧が無くなったところを見計らってジュリエッタは剣を更に深く、アトラクナクア本体へと突き刺そうとする。
深く刺されば刺さる程、電撃はより強くアトラクナクアの全身を蹂躙してゆくことになる。
「……終わりだ……っ!!」
残る魔力を振り絞り、ジュリエッタは電撃を更に強めてアトラクナクアを焼き尽くそうとする。
【遮断者】を《山颪》に使っている現状、電撃は防ぐことは出来ずダメージを受け続けることとなる。
だが、電撃を防ごうとすると今度は《山颪》で動きを封じられてしまう。
どちらにしてもアビゲイルの砲撃は魔力の続く限り飛んできてダメージを与える――攻撃の手が三つに増えたことで、形勢は逆転していた。
このままいけばそう遠くないうちにアトラクナクアを倒すことが出来るはずだ。そう計算し、ジュリエッタは後先考えずに魔力を大きく使う《雷獣形態》――ヴォルガノフの力を完全に使いこなす形態へと変わったのだ。
――大丈夫、行ける……! モンスター来る前に決着をつけられる……!
アトラクナクアは【遮断者】で電撃を防がず、《山颪》を防ぎ続けている。動けなくなる方が拙いと判断しているのか、それとも電撃のショックでまともに動くことが出来ないのか、どちらなのかはわからないがより直接ダメージを与えられる電撃が防がれていないのは好都合だ。
どんどんと出力を強め、このまま倒すかあるいは瀕死にまで追い込んでしまおうとジュリエッタはする。
<……も…………――……うす……>
アトラクナクアの弱弱しい声も轟音にかき消され、もはや耳に届かない。
――そう、アトラクナクアの言っていることが聞こえなかった。
「!? ジュリエッタ、後ろ!!」
魔力を回復させつつ砲撃を繰り返していたアビゲイルが気付き、悲鳴混じりの警告を上げる。
その言葉にジュリエッタはすぐに反応することが出来ず――
「ぐっ……!?」
背後から何者かに胸を貫かれていた……。
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