第5章45話 妖蜂乱舞(前編)
* * * * *
さて、とりあえず何をするかは決まったものの、今度はどこへ向かうかが問題となるわけだが……。
”いきなり『巻貝』に行くのは多分難しそうだし、ちょっと周囲の様子を確認してみよう”
ありすたちが見つかったことで多少心に余裕が出来た。まだジェーンを見つけるとか色々とやらないといけないことはあるんだけどね。
最終的な目的地は今のところ『巻貝』になる。
けど、そこへたどり着くためには一個大きな問題がある――超巨大ムカデが出て来ることだ。
流石にジュリエッタ一人で何とか出来る相手ではない。時間をかけて戦えば勝てないことはないかもしれないけど、今は変身できないありすと桃香もいるのだ。他のモンスターならともかく、あの超巨大ムカデは移動範囲も攻撃範囲も半端ではない、二人を庇いながら戦うのは無理があるだろう。
なのでまずは周囲の様子を探るところから始めてみることにした。
”ありすたちが捕まっていた繭はかなり大規模だったし、モンスターの拠点の一つだったんじゃないかと思うんだ”
「ん、他のモンスターにも拠点がある?」
”かもしれない。もしかしたら他の人もありすたちみたいに捕まっているかもしれないし、そうでなくても拠点を潰していけばそれだけ敵の攻撃も薄くなっていくと思う”
さっきの芋虫の拠点にはXC-10はいなかったし、蟲の卵のようなものも見当たらなかった――念のためジュリエッタのメタモルで焼き払っておいたけど――からあまり意味はなかったかもしれない。
でも、他のモンスターの拠点があったとしたらもしかしたら相手の数を減らすことが出来るかもしれない。特にやたらと数の多い蜂型とかの飛行型モンスターを減らせれば、探索は大分楽になるしどこかにいるであろうトンコツたちも安全になるだろうと期待できる。
後は私自身が言ったように、ありすたち同様に捕まっているユニットがいれば救出したい。ジェーンももしかしたら捕まっているのかもしれないし、考えにくいけどアビゲイルたちもどこかで捕まってしまったので合流できないという可能性もある――これはトンコツたちも同様だけど。
”とにかく今の私たちには情報も戦力も足りない。だから――”
「味方を集めるか、敵を減らすか……」
”うん。その過程でありすたちの『痣』を消す方法がわかれば更にいいかな”
まぁ『痣』についてはちょっと期待薄だけど。知っているとすれば、バトーたちの方かな。ミオの状態と違うことについても聞いておきたい。
それと……最終的に『巻貝』を目指すとしても、あの超巨大ムカデをどうにかする必要はあるかもしれない。あれは出来れば戦わずに避けていきたいところなんだけど、流石に戦わずに済ますのは虫のいい話かなーとも思う。
だから『巻貝』の周囲を巡るように移動してモンスターの拠点を潰すのと同時に、あのムカデの行動範囲を出来る限り調べる。向こうの行動範囲次第で、強行突破するかあるいはどうにか誤魔化して進むかを考えよう。
……というわけで、私たちは芋虫の拠点を焼き払った後に他の拠点を探しながら『巻貝』の周囲を巡っていくこととなった。
幾つかそれらしきものは見つけ、その都度軽く内部を探索、誰もいないようならモンスターを倒して拠点を破壊していく……というのを数度繰り返していく。
「んー、潰せたのは……3つ……」
「モンスターも減らせているのでしょうか……?」
”う、うーん……”
アラクニドの巣と、何だかよくわからない巣を合計で3つ程潰している。
一応体感ではモンスターの襲撃の頻度は下がったようには思えるんだけど、やはりと言うか何と言うか、根本的な解決には至らないみたいだ。
今のところ他に捕まっているユニットも見つかっていないというのは幸いと言えるけど……。
後、XC-10はまだ見つからない。それと、同レベルであろう強敵も今のところ遭遇していない。
……うーむ、もう少し拠点潰しをしたら諦めて『巻貝』に向かうべきだろうか? 超巨大ムカデの対処を考えると、もう少し戦力を増やしたいところなんだけど……。
「……殿様、何かいる」
悩みつつも先へと進んでいた時、ジュリエッタが何かに気付く。
ちなみに今私はありすに抱かれている。ジュリエッタの傍にいた方が安全なんだろうけど、やっぱり戦闘スタイル的に私がジュリエッタにくっついていると動きづらいということで、ありすと桃香が交互に私を運ぶこととなっている。
”……レーダーにも反応があるね……”
まだ少し離れているけど、幾つか反応が出てきた。
移動パターンからすると……これは飛行タイプかな? 数が多い上に空中から襲い掛かって来るタイプだと、ありすたちを守りながら戦うのは不利だ。
でも避けられるもんでもないか。
”……んん? 何か、人間の声が聞こえない?”
「……ほんとだ」
まだ距離があるからはっきりと聞き取れないけど、虫の羽音とかとは全然違う、声のようなものが聞こえてくる。
もしかして、他のユニットが戦ってる? でもレーダーの反応は減る気配はないけど……。
「待って。多分、これ……罠」
急いで向かおうとする私たちだったが、それにありすが待ったをかける。
”どうして?”
「ん……モンスターの中に、人間の言葉を話すやつがいた」
「あ、確かにいましたね……確か、あの気持ち悪い蜂ですわ」
二人がXC-10に捕まる前に戦ったことがあるのだろう。
”どういうモンスターなの?”
他のユニットの子が捕まっている可能性もあるが、モンスターの疑いもあるのであれば事前にある程度情報は集めておくべきだろう。
「おっきな、蜂……」
「わたくしたちが遭遇した時は、三匹一組でしたわね。強さとしては、わたくしたちを捕らえた芋虫程ではないと思いますが……」
「空を飛んでいる上に三匹で同時に襲い掛かって来るから、結構面倒な相手だった」
どうやらありすたちも倒し切ることは出来ず(魔力の節約も考えていただろうから仕方ない)、振り切って逃げるのが精いっぱいだったようだ。
”ジュリエッタ”
「うん、聞いてた。速攻で片づける」
三匹の巨大蜂以外にも配下のモンスターもいるらしいし、相手のペースに飲まれたら厄介だ。
ここはジュリエッタの言う通り、こちらから速攻を仕掛けて一気に片を付けた方がいいだろう。
レーダーの反応を頼りに相手に見つからないように慎重に進んで行く。
崩れたビルに隠れながらこっそりと近寄って行くと、そこには……。
「……っ!!」
先頭に立ってビルの陰から相手のいる場所を覗き込んだジュリエッタがはっと息をのむ。
”……ジュリエッタ?”
ありすの腕から抜け出して私もそっと様子を見てみると――
”……うっ!?”
思わず悲鳴を上げそうになって慌てて口を押さえる。
……それは地獄絵図、というのが相応しい光景だった。
”……酷い……”
「……うん」
崩れた建物にぶら下げられるように巨大な『蜂の巣』が出来上がっている。
その蜂の巣の下の地面では、私から見える範囲で四人――おそらくは
……それだけならまだ良かった。
「うぐっ……うあぁぁ……」
「ひぃ……やめ、て……」
……その子たちは生きていた。
魔力が尽きているのだろう、変身することが出来ない状態であっても、体力が残っている限りリスポーン待ち――あるいはゲームオーバーにはならない。
相手もそれがわかっているのかどうか定かではないが、もはや抵抗すら出来なくなった元ユニットの子たちを、いたぶるように……
苦痛の悲鳴すら上げることも出来ず、弱弱しく悲鳴を上げているだけの子たち。
それを上から眺めながら、何が楽しいのか耳障りな笑い声をあげている三匹の巨大蜂……。
「殿様」
”うん”
「――やっちゃって、いい?」
”――ああ、思う存分やっちゃえ、ジュリエッタ”
私とジュリエッタがお互い冷たい声音で会話を交わす。
一体今感じているものはなんだろうか? 怒りか、恐怖か、その両方か、あるいは更に別の感情なのか……。
どちらにしろ、私たちの意見は一致している。
――
ジュリエッタがビルの陰から単身飛び出す。
それと同時に、横たわる子供たちへと噛り付いていた蜂――そしてその上をぐるぐると回りながら飛んでいた三匹の大きな蜂が、ジュリエッタに気が付き向き直る。
「待ってて、すぐ助ける」
ジュリエッタがそう呟くと共に、頭に載せた狐のお面を顔に被せる。
「メタモル――《
ジュリエッタは本気だ。メタモルの二語魔法――私も見たことがない新しい魔法を使う。
前傾姿勢を取ったかと思いきや、ジュリエッタの肉体が大きく変わる。
顔に被った狐のお面を覆うように……いや、ジュリエッタの身体全体を覆うように黒い獣毛が生える。
小柄な身体が大きく膨れ上がり、二倍以上に。骨格も変わっているのか、完全に四足獣の姿へと変わる。
お尻からは体格に見合わない程大きなふさふさの尻尾が合計五本伸びる。
九尾の狐――には尻尾の数が足りない、五尾の狐とでも言うのだろうか、とにかく《
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます