第5章8話 復讐戦 3. アンジェリカ&凛風vsジュリエッタ
ヨームと話している間、全く見ていなかったわけではない。チラ見程度はしていたつもりだ。
対戦はまずジュリエッタとアンジェリカの攻防で始まった。
アンジェリカが大鎌を振るって果敢にジュリエッタへと切り込み、息を吐かせぬ連続攻撃で畳みかける。
ジュリエッタの方はと言うと、大鎌を華麗にかわし、あるいは捌いていた。反撃する隙もないのか、それとも敢えて反撃しないだけなのかはわからないけど、自分から攻撃を仕掛ける様子はない。
そして凛風は少し離れた位置で傍観しているだけで攻撃に参加する様子はなかった。
こんな攻防が続くこと数分……正確な時間はわからないけどそこまで長い時間ではなかったはず、ともあれアリスの言う通り『動き』――変化が起きた。
「……そろそろジュリエッタからも行く」
「くっ……!」
ポツリとジュリエッタが呟くと同時に、目に見えてアンジェリカの表情に焦りが浮かぶ。
うーん、どうもジュリエッタ、わざと反撃をしていなかったようだ。余裕を見せている……つもりなのか。それとも、アンジェリカの力の程を見ていたか、凛風を警戒して様子見していたのか……。
どちらかはわからないが、とにかく様子見は終わり。これから攻撃に移るつもりらしい。
アンジェリカの焦りの原因は、今まで一方的に攻撃を仕掛けていたにも関わらずジュリエッタにダメージを与えられていないというところだ。
それも防御力が硬くてダメージを与えられない、ではなく攻撃をことごとく回避されてダメージを与えられていない、なのだ。
この事実は、少なくとも近接格闘の能力においてアンジェリカはジュリエッタより大きく劣っていることを意味している。いや、もしかしてどんな攻撃を仕掛けてもジュリエッタへと有効打を与えることが出来ない、ということすら意味しているかもしれない。
そんな状態だというのに、今度はジュリエッタからも仕掛けてくるというのだ。アンジェリカが焦るのは無理もない。
「ライズ――《インパクト》」
焦りながらも大鎌を振るい続けるアンジェリカ。
迫る大鎌の刃を体捌きだけで回避し続けるジュリエッタが、回避しつつ
ジュリエッタのライズ、この魔法は『強化魔法』という印象が強いが、その実態はかなり万能な魔法なのだ。効果時間こそ短いものの、強化幅はかなり大きいし、単純なステータス強化以外も行うことが出来る。
ライズでの強化項目は大きく分けて三つ。
《アクセラレーション》などのステータス自体を瞬間強化するタイプ。
《サンダーコート》などの一部の攻撃を防げるようになる属性防御タイプ。
そして、今使った《インパクト》のような属性付与タイプだ。
《インパクト》を使ったジュリエッタの右拳が青白い魔法の光を放つ。
それが何の意味を持つかまではアンジェリカもわからないだろうが、そのままでは危ないということくらいはわかるはず。
だと言うのに、アンジェリカは一歩も引かず、むしろ更に前へと踏み込み攻撃を続けようとする。
「メタモル……はっ!!」
アンジェリカにも何かしらの狙いがあるのかもしれない、とジュリエッタも訝しんだろうけど、だからと言って攻撃の手を緩めることはない。
振り下ろされたアンジェリカの鎌を横に動いてかわすと共に今度はメタモルをかけ、《インパクト》の光を宿す右腕を変化させる。
……どんなモンスターのメタモルなのかはわからないが、まるで『
そして、バネの力と《インパクト》――『衝撃』を加えた一撃をアンジェリカへと向かって放つ!
「うぐっ!?」
アンジェリカの胴体へとめり込んだジュリエッタの拳――その一撃で彼女の小柄な体が大きく後ろへと吹っ飛ばされる。
下手をすれば今の一撃で胴体に風穴があいてもおかしくない。そのくらいの威力だったと思う。
たった一撃で終わらせるジュリエッタではない。
吹き飛んだアンジェリカを追うように《アクセラレーション》を使って機動力を強化後にダッシュ、地面に落下するよりも早く追撃を仕掛けようとする。
「させないアルよ!」
が、ここで凛風が動き出す。
《アクセラレーション》で加速しているジュリエッタの動きを追い、横側から殴り掛かって来た。
「むっ……」
「ブロウ《
アンジェリカとジュリエッタの間に割り込むように魔法を放ち、追わせまいとする。
凛風の魔法の一つ、ブロウ。その効果は『風を操る』こと……と実に単純だ。操風魔法とでも言うべきか、ホーリー・ベルのように複数の属性の魔法を器用に使い分けるということは出来ないが、単一の属性については少ない消費でもかなり多くのことをやれる魔法なのだろう。
放たれた風の壁にまともにぶつかっては拙いと思ったのだろう、ジュリエッタが急ブレーキをかけて凛風の方へと向き直る。
「シフト《4thギア》!」
そして更にもう一つの魔法を使う。
魔法を使った瞬間、明らかに凛風が
まるでジェーンの《ベルゼルガー》のように全身に複雑な文様が現れ、赤いオーラのようなものが包み込む。
シフト……ちょっと変わった
まずこの魔法、ライズのように強化対象を選ぶことが出来ない。その点は《邪竜鎧甲》とかと同じではある。攻撃力、防御力、機動力等の全てのステータスを一括で上昇させる効果だ。
他の魔法と異なる点は、必ず段階的に強化していく、という点だ。
どういうことかというと、今凛風が使ったのは《4thギア》――名前からして『四段階目』の強化であるが、いきなりこの四段階目になることは出来ない。
具体的な魔法の名称の内訳はわからないけど、推測するに《1stギア》《2ndギア》《3rdギア》……と使っていなければならないのだ。加えて、一度シフトをしてギアの段階を上げると、しばらくの間は次のギアへと移行することが出来なくなる――クールタイムが必要というわけだ。
……なるほど、さっきまで凛風が動かなかったのは、アンジェリカがジュリエッタへと切りかかっている間にギアの段階を後ろで上げてたからかな。その戦術が正しいかどうかは……うーん、どうだろうな?
「はいやー!!」
今、四段階目までギアを上げた凛風のステータスは、数値だけ見ればかなりのものとなっているはずだ。それこそ《邪竜鎧甲》を纏ったアリスにも劣らないだろう。
先程のアンジェリカよりも更に速く鋭い連続攻撃がジュリエッタへと向かう。
……が、それすらもジュリエッタは捌き切っている。
改めてとんでもない戦闘力だな……これでまだライズはおろか《
「凛風さん!」
そこへ後ろへと吹っ飛ばされたアンジェリカが駆けつけ、ジュリエッタへと大鎌を振るう。
……あ、それはあんまり良くないな。
「うわっと!?」
「あ、ごめんなさい!?」
ジュリエッタへと二人で突っ込んでしまい、危うくぶつかりそうになる――特にアンジェリカの武器は攻撃範囲が広い。近い距離で振り回そうとすると、より近距離で戦いたい凛風の動きを邪魔してしまうのだ。
その隙を逃さずジュリエッタがメタモルで両腕を巨大化させて二人を同時に殴り飛ばす。
「くっ……!」
シフトで強化している凛風にはそれほどのダメージは入らなかったが、アンジェリカはそうではない。また後方へと殴り飛ばされ体力を大きく削られてしまっていた。
――多分、そこまでは
うーん、でも果たして彼女の思い通りに行くだろうか……? まぁアドバイスも不要と言われているし、様子を見るしかないんだけどさ。
「メタモル!」
ここで決める、とジュリエッタは決断したのか、凛風へとすぐさま追撃を仕掛ける。
メタモルで右腕を竜巻――『嵐の支配者』の竜巻触手へと変化させて凛風へと振るう。
「ブロウ《竜巻》!」
だが、相手は風属性魔法の使い手だ。同じ風属性の触手を防ぐための手段はある。
ジュリエッタの竜巻触手に対して凛風も同じく竜巻を放ち相殺しようとする。
「うわっぷ!?」
ぶつかりあう竜巻同士。
弾け飛んだ暴風が周囲の砂を巻き上げ辺りへと散らす。こちら側まで砂が飛んできた。
激突の中心にいた二人も無事では済まない――かと思いきや。
「ライズ《インパルス》」
激突とほぼ同時に竜巻触手を解除したジュリエッタは姿勢を低くし、吹き飛ばされるのを堪え切った。
そして、凛風へと接近。ライズを使用する。
先程使った《インパクト》とは似て異なる《インパルス》――その効果は……。
「メタモル!」
「ちょっ……!?」
右腕を再度巨大化させ、竜巻を相殺したことで生じた爆風に煽られている凛風へと叩きつける。
見た目はただのパンチ――サイズは段違いだが――ではあるが、まともに回避することも出来ない大勢でそれを受ける凛風。
……その身体が、大きく震え、その場に膝をつく。
「な……何、アルか、これ……!?」
膝をつくだけではなく、そのままガクガクと震え――ついに地面に崩れ落ちた。
《インパルス》――『衝撃波』の付与である。
硬さだけでは防ぎきることは難しい衝撃波を打撃と同時に叩き込んだのだろう。おそらく今凛風の体内では《インパルス》の衝撃波が暴れ回っているに違いない。
……これ、結構凶悪な魔法かもしれない。流石に《イージスの楯》であれば衝撃波ごと防げるとは思うけど、《邪竜鎧甲》や《ベルゼルガー》ではきっと防げないと思う。
その分一撃の威力は控えめのようだが、元からステータスに差がついているのだ。凛風にとっては致命傷に等しい威力だったろう。
すぐに追撃をかければ凛風はここでアウトだろうが、まだアンジェリカがいる。
「このぉぉぉぉっ!!」
予想通り復帰したアンジェリカがジュリエッタへと切りかかってくる。
《インパルス》の効果は既に切れている。新しくライズを掛けなおすよりもアンジェリカの攻撃の方が早いが――
「……メタモル」
そもそも、普通に攻撃してもジュリエッタに攻撃を当てることが出来ないのだ。
大鎌の攻撃をあっさりとかいくぐり、ジュリエッタがメタモルを使う。
彼女の肩甲骨付近から二本の細長い触手が生える――それは、雷精竜ヴォルガノフのものだ。
「――っ!!」
一瞬、激しい光が明滅――そして、悲鳴すらかき消す轟音が辺りに響く。
その後に立っていたのはジュリエッタだけであった。
《インパルス》によって瀕死まで追い込まれていた凛風の姿が消えている……多分、体力ゲージを全部削られ、消滅してしまったのだろう。
アンジェリカはまだ何とか生き残っている……が、今まで殴り飛ばされた時よりもはるかに大きなダメージを受けているのは間違いない。
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