第5章9話 復讐戦 4. 第一回戦、決着

「……とどめ、刺す」


 対戦の結果はもうほぼ見えたかな……?

 凛風は退場、アンジェリカももう体力は残り少ない。

 対してジュリエッタはほぼダメージを受けていないという有様だ。

 ここから逆転するのは厳しいだろう……


「……ライズ《フレイムコート》、ライズ《アクセラレーション》」


 更にここでライズを重ね掛けと来た。全く以て容赦がない!

 アンジェリカの魔法が『炎』に関するものと戦っていてわかったのだろう、炎防御フレイムコートで防御を固めつつアンジェリカが対応できないようにスピード強化までかけているという念の入れようだ。

 ……はっきり言って、今のジュリエッタの実力からしてみればアンジェリカも凛風も『格下』だと言わざるを得ない。それはジュリエッタもわかっているだろうが、彼女は決して油断しない。

 格闘能力で勝っている上に防御魔法で属性を防ぐことは出来るし、更にステータス強化まで出来るのだ。真っ当な手段では勝ち目はないだろう。


 ――だから、アンジェリカは手段に頼るのだ。


「……イグニッション《フレイアムルジェイル》!」


 ジュリエッタの動きを目で見てかわしたりすることは出来ないと悟ったアンジェリカが、自分自身を取り囲むように炎の『檻』を作り出す。

 彼女の魔法の一つ、『イグニッション』によるものだ。凛風のブロウと同じく、一つの属性に特化した魔法に

 というのも、この魔法……点火イグニッションの名の通り、単純に『炎を操る』魔法というわけではないのだ。

 彼女の周辺の地面そのものが燃え上がり、火柱を立ち上げる。


「……むっ」


 《フレイムコート》を使って防御しているとは言っても、完全にダメージをカットできるわけではない。

 アンジェリカの魔法の詳細自体はわかっていないためジュリエッタは一瞬炎の海の中へと飛び込むことを躊躇した――その判断自体は間違いではない。

 だが、折角の《アクセラレーション》による加速が、この躊躇した一瞬無駄となった。


「フィクスト!!」


 更にもう一つの魔法『フィクスト』を使用する。

 すると、ジュリエッタの周囲で燃え盛る炎が『固定』化され、名称通りの『炎の檻』を形成する。

 アンジェリカの二つ目の魔法『フィクスト』――これもなかなか変わった魔法だ。名前からすると固定化魔法フィクストとでも言うのだろうか、効果としては『魔法を固定化する』というそのまんまだ。

 固定化……というとちょっとわかりにくいが、例えば今のように『炎』を物質として固定化することが出来る魔法である。

 上手く使いこなせればなかなか強力な魔法だろう。イグニッションで生み出した魔法の炎をフィクストで固定化し、相手の動きを封じ込めつつ継続してダメージを与える炎の檻や、氷の魔法とかでも簡単に突破できない炎の壁を作ったり、空中に伸びた炎の柱を固定化して足場にすることなどが出来る。使い方次第だ。


「そこだぁぁぁぁっ!! 【復讐者アヴェンジャー】!!」


 ジュリエッタの動きが止まった隙をアンジェリカは逃さなかった。

 火柱の向こう側のジュリエッタへと向けて、アンジェリカは自身のギフトの効果を発動させる。

 アンジェリカの叫びに応え、大鎌が白い光を放ち一直線にジュリエッタへと向かう。

 ――彼女のギフトの名は【復讐者アヴェンジャー】。その効果はちょっと変わっていて、戦闘開始時点から受けたダメージを倍にして返す、というものだ。要するに『カウンター』である。

 このギフトの恐ろしいところは、アンジェリカの体力が削れるほど威力を増すというのもあるが、一切の方法がない、という点だ。

 例えばアンジェリカの体力の最大値が100だとして、90までダメージを受けたとしよう。その場合、【復讐者】は180のダメージを与えることが出来る。これが普通の攻撃であれば、防御魔法を使って120まで軽減できるのであるが、【復讐者】の効果は防御魔法とかも貫通してしまうのだ。つまり、絶対に180のダメージを受けるということだ。

 更に言えば、『受けたダメージ』とは累積分を示している。戦闘中にグミを使って体力を回復したとすれば、更に倍返しするダメージが増えていくことになる。さっきの例であれば、100→10になった時点で回復し、もう一度100→10まで体力を減らされたとしたら累積したダメージは180……それの更に倍の360ものダメージを相手に与えることが出来るという計算になる。

 ……なるほど、このギフトを頼りにしていたというのであれば、今までの二人の不合理な戦い方も頷ける面もある。

 凛風のギアを上げる時間稼ぎをしつつもアンジェリカはダメージの蓄積を狙い、アンジェリカがやられている間は凛風が立ち向かい回復の時間稼ぎをする。

 そして最終的にはアンジェリカの【復讐者】によって、ジュリエッタを一撃必殺で倒す――そんな作戦だったのだろう。

 ここまでの戦闘で彼女は何度も吹っ飛ばされ、ダメージは充分すぎるほど蓄積している。

 実のところ、ジュリエッタは体力のステータスがそれほど高くはない。体力お化けのヴィヴィアンとは比べるべくもなく、実はアリスよりも体力のステータスは低かったりする。

 敵として戦っていたころからやたらとタフだと思っていたのだけど、それはジュリエッタ自身の『テクニック』で攻撃を回避し続けていたにすぎないのだ。


「これで……っ!!」


 だから、【復讐者】の一撃を浴びればジュリエッタは成す術もなく体力を全部削られてしまう。

 ……当たれば、の話だけど。


「……えっ!?」


 火柱の向こう側にいるだろうジュリエッタへと【復讐者】の光を放ったアンジェリカ。

 一時は勝利を確信し笑みを浮かべたものの、すぐにその表情が変わる。

 なぜならば、ジュリエッタのいたはずの地点を【復讐者】は素通りして行っただけではなく、ジュリエッタの姿そのものが消えていたのだから。


「ど、どこへ!?」


 炎で足止め、ということ自体は悪くはなかったのだけど、その炎自体がアンジェリカの視界も遮ってしまっていた。

 横から見ていた私たちにはジュリエッタがどこへ消えたのか、よーくわかったんだけどさ。


「メタモル!」


 炎の柱を解除し、ジュリエッタの姿を慌てて探すアンジェリカ。

 ジュリエッタのメタモルの声は、アンジェリカの足元から聞こえてきた。

 メタモルの声と共に地面が大きく盛り上がり――地下から噴き出してきた竜巻にアンジェリカの姿が飲み込まれてゆく……。




 種明かしをすると、実に簡単なことだった。

 アンジェリカが炎の目くらましを展開したところでジュリエッタは一瞬足を止める。その瞬間に【復讐者】を使ったわけだが……。

 ジュリエッタは迂闊に炎の中へと突っ込むのを止めた後、すぐさまその場で変装魔法ディスガイズを使ったのだ。

 変化したのは、何とである。メタモルでスライムに変身してかわす、という方法は今回は取らなかったようだ――まぁすぐ目の前で炎が燃えているわけだし、危ないしね。

 で、【復讐者】はそのまま宙を薙いでいくだけに終わり、アンジェリカは自分の炎で視界を遮ってしまいジュリエッタを見失い……最後には足元からメタモルの竜巻触手でおしまい、という寸法だ。


”……ふむ、我々の完敗、ですね”


 アンジェリカの体力も尽きたのだろう。ヨームが呟く。

 ここで更にフォルテが……ということもないようだ。自己申告を信じるなら戦闘力ないみたいだしね。


”それじゃ、後は時間切れまで待ってようか”


 残り時間は……15分くらいか。戦況が動き始めてからは結構早かったな。

 乱入対戦のようにリザインで終了とかも出来ないので、ただ待つしかない。まぁ不便ではあるけど、これはおそらく体力で上回った方がそのままリザインしたのに買ってしまう、とかいうのを防ぐためなんだろう。


”ふむ……思った以上に時間が余ってしまったようですし、このまま少し話しますか”


 対戦が終わった後に少し話したい、ということだったけど、時間は結構余ってるしわざわざ現実世界でまた時間を取る必要もないだろう。

 私とヨームはその場で会話することとした――これも彼からの『お願い』に関係していることなのだ……。




*  *  *  *  *




”えー、ということで、今回の対戦の前に私からちょっとお話があります”


 一回目の対戦が終わり、ヨームと会話。

 そしてその後再度対戦を行うこととした。今度は私からヨームへと対戦依頼をかけている。

 私の目の前には――


「ほーい。よろしくお願いするアル」

「……よろしくお願いいたします」


 凛風とフォルテ、そしてアンジェリカとヨームがいる。

 アリスたちは離れた場所で待機中だ。


「……何で、敵の親玉のアドバイスなんか……」


 アンジェリカはぶつぶつと不満を呟いているが、


”アンジェリカ君”


 ヨームがそんなアンジェリカをたしなめる。

 まぁ、気持ちはわからないでもないけどね……アンジェリカにしてみれば、仇であるジュリエッタの使い魔が私なんだから、『敵の親玉』と言われても否定できない。

 ただねぇ……これもヨームからの頼み事の一つなんだよねぇ……。


”それじゃ、時間もあまりないことだし、早速だけど――”


 アリスたちから離れて私は何をしようとしているのかというと……。


”これから君たちがジュリエッタに勝てるように、私の方からアドバイスをしようと思います”


 そう、私がヨームからお願いされたことの一つとは、凛風たちへのアドバイスをして欲しい、というものであった。

 彼曰く、


『私はどうもこういうゲームに疎くてね。

 だから凛風たちにも余り上手いアドバイスが出来ないのだよ。

 そこで、恥を忍んでラビ氏にお願いしたい』


 とのことだった。

 いや、私だって別にゲーム得意なわけじゃないんだけどなぁ……と一度は断ったものの、このままだとヨームからの『お願い』を達成することも出来なくなりそうだったし、彼の『お願い』自体は私としても叶えてあげた方がいいと思うものだったことで……。

 結局、アドバイスは一度だけという条件で引き受けることにしたのだ。あ、後、今回の対戦でアンジェリカが勝ったとしてもジュリエッタの引退はしない、という条件も付けて。

 ま、実際、さっきの対戦を見てちょっと……いや、かなり言いたいことは見つかっていたしね。

 ……最悪ジュリエッタ一人に勝てるようにはなるかもしれないけど、アリスとヴィヴィアンが加われば私たちの勝ちは揺るがないだろうという安心感も、このお願いを聞いてもいいかと思った理由の一つではあるんだけど。

 それはともかく――


”じゃあ、まずは三人の持っている魔法とギフトについてざっくりと説明してくれるかな?”


 スカウターで見てはいるものの、全部の能力を見れるわけではない。

 まずは私の見えていない能力を把握することから始めよう。魔法やギフトはともかく、霊装の持っている特殊能力なんかもわからないわけだし。




 こうして、私によるヨームチームの打倒ジュリエッタに向けての作戦会議は始まった。

 ……私が自分のユニットの打倒方法を考えるってのも変な話だけど。

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