第5章6話 復讐戦 1. アンジェリカの望み

*  *  *  *  *




 対戦前には一度マイルームへと入ることとなる。

 そこで桃香と千夏君と合流。簡単に対戦の条件を説明する。


「っす。問題ないっす」

「かしこまりましたわ。わたくしはラビ様をお守りしていればよろしいのですね?」

”うん、ジュリエッタが危なくなっても手助けしちゃダメだよ”


 果たして今日の一戦でアンジェリカたちが納得してくれるかはわからないが、少なくともこちらから手助けしてしまえば間違いなく納得はしてくれないだろう。

 私の念押しにありすはこくりと頷き、桃香は輝かんばかりの笑顔で答える。


「ええ、もちろん。お願いされても助けませんわ♡」


 お、おう……。


「ふん、誰がヴィヴィアンなんぞに助けを求めるか」


 千夏君も乗らないで……。


「ふぅ……トーカもなつ兄も、頼りないから、わたしが頑張らないと……」

”いや、今回はありすも頑張らなくていいからね?”


 チームワーク、ガッタガタじゃないか、これ……?

 まぁ三人とも冗談で言っているのだと思いたい。これでいて実際クエストに行ったら息ぴったりだし……。


”はいはい。それじゃ対戦に行こうか。

 あ、念のためだけど、ありすはもうしょうがないとして、桃香と千夏君は変身を解除しないようにね。特に千夏君は魔力ゼロにならないように気を付けて」


 アリスの魔法と違ってジュリエッタの魔法はかなり燃費がいいので魔力切れには早々ならないとは思う。

 一応相手に本体の顔を見られてしまうことだけは警戒しておく――嵐と未来の二人もユニットだろうし、こっちの方がむしろ相手に警戒されてそうだけど、復讐相手である千夏君については特に気を付けておかないと。


「っす」


 軽い調子で千夏君は頷いてくれる。

 ……微妙に心配だけど、彼はまぁ脳筋ありすに比べれば大分理性的だとは思う。信じよう。




 そして三人が変身し、私たちは対戦フィールドへと赴く――




*  *  *  *  *




 対戦フィールドは事前に決めた通りコロシアム。

 その他の条件もヨームと話し合った通りで一安心だ。

 気になるBET額については、5000ジェムだった。もしかして、こっちに気を遣ってくれたのかな?


「……アンジェリカたち……」


 ジュリエッタを先頭に、アリス、ヴィヴィアン(と私)と続いてコロシアムの中央へ進む。

 私たちの反対方向からはヨームたち三人が同じく中央へと向かってくる。


”あの赤いフードの子がアンジェリカ?”

「うん」


 赤いフードを被った可愛らしい女の子――ただしその表情は暗く、手には体格に見合わない大きな『鎌』を持っている――がアンジェリカ。

 その後ろからはチャイナドレスを着たいかにも中華風な子と、アラビアンな衣装を来たセクシーな美女が続く。ヨームはアラビアン美女に抱きかかえてもらっている。

 ……ふむ、パーティ構成としてはうちと似たような感じかな。見た目だけなら、向こうの方がやや近接攻撃寄りって感じだけど。

 私たち六人と使い魔二匹がコロシアム中央で対峙する。


”さて、改めて自己紹介は必要かな?”


 私とヨームは互いにスカウターでユニットの名前も知ることは出来るけど、アリスたちにはわからないだろう。

 別にお互いの名前を呼び合うわけではないし知らなくても不便はないと言えばそうなんだけど。


「……必要ありません」


 私の問いかけに答えたのはアンジェリカだった。

 彼女の視線はジュリエッタにだけ向いている。

 ……うーん、想像以上に彼女はジュリエッタを意識しているみたいだ。仲間の仇だというのだからそれも無理はないが……。

 そんなアンジェリカに対して、笑顔を浮かべながらばんばんと肩を叩くチャイナドレスの少女――凛風リンファ


「まーまー、そうかっかしないアル。これから長い付き合いになるかもしれないし、挨拶はちゃんとするアルよ!」


 長い付き合いに……なるのかなぁ? 少なくとも復讐戦が長々と続くのはちょっと勘弁してもらいたいところなんだけど……。


「ワタシ、凛風ね! さっきも会ったケドね!」


 ……もしかしなくても、嵐の方かな?

 となると、もう一人のアラビアン美女の方が――


「……フォルテと申します」


 こっちが未来、かな? 本体の時は何を言っているのかわからないくらいの小声だったけど、フォルテの声はそれに反して大きな声を出しているわけでもないのに不思議とよく通る。


「アリスだ。オレもさっき会ったな」

「……あのちびっ子アルか!? ……アイヤー……」


 あまりにも見た目だけでなく喋り方も違うためか、凛風が驚いたように言う。

 一方でフォルテの方は全く表情が変わらない――というか口元がヴェールで隠れているためいまいち表情が掴み取りにくい。


「ヴィヴィアンと申します」


 私を両手で抱えているため、スカートを摘まんでのあの挨拶は出来ないが、優雅に一礼してヴィヴィアン。


「……アンジェリカ」

「……ジュリエッタ」


 で、問題の二人はぽつりと名乗っただけだった。

 まぁジュリエッタについては向こうはもう知っているだろうが。


「それで? 一対三でいいのか?」


 事前の条件ではアリスとヴィヴィアンは対戦に加わらず観戦のみ。対してヨーム側は好きに参加となってはいたが……。


「戦うのはワタシとアンジェリカだけアル! フォルテはお留守番ね!」

「……戦闘力ありませんので、私……」


 なるほど。見た目からして何となく『占い師』みたいな感じだし、シャルロットと同じようなサポート特化型だろうか。

 仮に途中からやっぱり参戦、となってもダイレクトアタックなしだから不意打ちくらいにしかならないから、まぁジュリエッタさえ良ければ私たちとしては別にいいけど。


「……それじゃ、始める」


 ジュリエッタはやる気満々だ。

 元々復讐は幾らでも受けて立つ、と言っていたしこの戦いを拒否するつもりはないのだろう。

 ジュリエッタの宣言を受けてアリスとヴィヴィアンが下がり、フォルテも後ろへと退く。


「待ってください。始める前に、一つ条件があります」


 と、いざ対戦開始というところでアンジェリカが唐突に言い出す。

 何だろう? 対戦の条件とかは私とヨームで決めたものだけど……彼女からも何か要望があるということかな?

 ちらりとヨームへと視線を向けるが……うーん、ダメだ。彼の顔を見ても何を考えているのか全くわからない。

 あ、でも凛風が怪訝そうな顔をしている。ということは(演技でなければだけど)これはアンジェリカの独断か……。


「……なに?」


 ジュリエッタは全く気にせず聞き返す。


「……私が勝ったら、ジュリエッタ――あなたはこの『ゲーム』から降りてください!」


 それは――


「うん、わかった」


 私がちょっと待ったと言うよりも早く、ジュリエッタは即決で頷いてしまった。


”ちょっと待って、ジュリエッタ!?”


 『ゲーム』から降りるってことは……この対戦が終わったら、ジュリエッタを私のユニットから解除するということだ。

 そうすれば対戦終了後、千夏君の記憶から『ゲーム』のことは消え、そして千夏君は二度と『ゲーム』に戻ってくることはなくなる。

 ……確かにプリンの仇を取るためにはそこまでしなければならないかもしれない。対戦で勝っただけではジュリエッタは『ゲーム』に残り続けるのだから。

 でも、これは……。


「ふん、まぁそれは貴様も覚悟済みだよな、ジュリエッタ」

「うん」


 一方でアリスはこの展開を予想していたのか、全く動揺していない。

 それはジュリエッタも同じか……。


「つーわけで、使い魔殿。ジュリエッタが負けたら、アンジェリカとやらの要望通りにしてくれ」

”あのね、アリス、ジュリエッタ……”


 反論しようとしたけど、よく考えたら何を反論すればいいのかわからない。

 ……私の出る幕ではない、のかもしれない。アンジェリカに対して掛ける言葉も思い浮かばないし……。


「ま、ジュリエッタが、な」


 最後に小さくアリスは呟く。


「……他には?」


 アンジェリカはあっさりと要求を受け入れたジュリエッタに戸惑っているのがありありとわかる。

 そんなことにはお構いなしにジュリエッタは他に要求がないかを尋ねるが……。


「な、ないです……」

「そ」


 これでジュリエッタをユニットにした私たちにまで何かを求めたのであれば流石に拒否するが、それはないようだった。

 ……いや、私にとってはジュリエッタのユニット解除も結構な要求なんだけどさ。

 ジュリエッタ側からアンジェリカへの要求は特にないみたいだった。さっさと始めようとばかりに戦闘態勢を取っている。


「じゃ……今度こそ、始める」

「くっ……!! ええ、始めましょう! 凛風さん!」

「はいヨー。行くアル!」


 アンジェリカが大鎌を、凛風は拳をそれぞれ構える。

 三人が戦闘態勢を取ったことにより、対戦がスタートした――この対戦開始の合図、一体どういう基準なんだろ? アリスたちは傍観しているだけなのに……。

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