第4.5章3話 ラビさんの子供恋愛相談室(後編)

 ビックリするほど近所だった千夏君だった。

 とりあえず千夏君の家を確認したいだけだったと言い訳をして引っ込んでもらう。ごめんね……。

 ありすのことを覚えているかどうかは特に確認しないでいいや……それで何が変わるってわけでもないしね。


”……さて、本題に戻ろうか”


 あちこち脇道に逸れはしたものの(一部は私が原因だけど)今日の本題にようやく戻る。

 って言ってもやること・やれることはそう変わるわけじゃないけど。


”じゃあ美鈴。千夏君に告白しようか”

「えぇぇ!? ちょ、いきなり!?」


 いきなりもなにも、もうそれしかやれること残ってないし。

 わざとらしく大きくため息をついてみせる。


”まさか『好き』だと一言も言ってなかったとは思ってなかったよ、私は”

「うっ……だって……」


 だっても何もないわ。


「言わなきゃ……だめ?」

”ダメに決まってるでしょ!”


 千夏君も実は美鈴のことを……って感じなら言わないでも自然といつの間にか、ってなったかもしれないけど。

 残念ながら私の視点からするとその可能性は限りなくゼロに近いと言っていい。

 このままグダグダしていたら、永遠に進展しないどころかライバルのクラスメートに先を越される可能性の方が高いだろう。

 ライバルは今は積極的に絡んで千夏君に印象を残そうとしている段階だとは思うけど、いずれ告白してくると私は見ている。はっきりと言われれば、千夏君だって何かしら応えるはずだ。

 ……結果はどうなるかはわからないけど、少なくとも幼馴染ってだけで特に好きとも何とも言って来ない相手よりは目があると思う。


”はっきりと言わないでいいケースは、お互いに好き合ってる時くらいだよ”


 現状は、『嫌われてはいない』程度の好感度しかない。

 ぶっちゃけ、このまま百年待ってようが千夏君から美鈴に好きだと言ってくることはないだろう。


「うぅ……は、恥ずかしいし……」


 まぁ、そりゃね。


「断られたら……あたし、生きていけない……」


 くそぅ、乙女め。

 断られたら断られたらだと思うんだけどなぁ……人生まだまだ長いんだし、きっと他に合う人だっているだろうし。

 ……ってこれじゃまるで玉砕前提だな。外野の私はともかく、美鈴当人からしたら重大事なのは変わらないか。


”うーん……”


 さてどうすべきか。

 美鈴から千夏君に告白しなければ話は何も進まない――どころか後退する一方なんだけど……。

 かといって私から言うわけにはいかないし、間に入るってのもなぁ……。面倒くさいっていうより、間に入って話すほど私と千夏君自身がまだ親しいというわけでもないってのが主な理由だ。


”クリスマスとかのイベントはどう?”


 幸い季節は冬。この国にも『クリスマス』やら『バレンタイン』やらのイベントがあることは知っている。

 告白するには丁度いいんじゃないだろうか。


「う、クリスマスはうち家族で過ごす……」

”むぅ……”


 クリスマスはダメ、と。

 そんなこと言ってる場合か! と言いたいところだけど家庭の事情もあるしねぇ。特に美鈴の家はお母さんが外国の人だというし、私の想像する日本人的なクリスマスの過ごし方は基本的にしないのかもしれない。

 じゃあ次の狙い目はバレンタインか、とも思うがちょっと先の話になってしまう。その間にライバルの子が動かないとも限らない――それで言うなら、クリスマスとかに攻撃を仕掛けてくる可能性もありうる。

 んー、それなら……。


”ねぇ美鈴。今ってテスト期間中なんだっけ?”

「あ、そうね。テスト自体は来週からなんだけど……」


 千夏君からちらっと話は聞いていたが、美鈴たちの学校の期末試験が始まるのだ。

 テスト前の一週間とテスト期間中は部活動は大会とかの事情がない限りは停止となっている。その分テスト勉強しろってことなんだけど。

 そしてテスト期間中は午前中で学校は終わり、午後はフリーとなる。これももちろん翌日の科目の勉強するためなんだが。

 都合のいいことにテスト最終日も午後は学校はなく、この日まで部活動は停止となっている。


”……よし。美鈴”

「は、はい」


 緊張した面持ちの美鈴。

 期待しているところ悪いけど……頑張らないといけないのは美鈴の方なんだよねぇ。


”今から千夏君に電話して”

「な、なんで?」

”で、テスト最終日――終わったら二人でどこかに出かける約束して”


 要するにデートのお誘いをしろってこと。

 告白するならそこででいいでしょ。別に今すぐ告白できるならそれに越したことはないけど、どうせ美鈴は出来そうにないし、テスト期間中に言われても千夏君も反応に困るだろうし。

 美鈴はかなりキョドっている。


「い、いや、でも……出かけるって言っても……」

”別に遠出する必要はないでしょ。葦原沼あしはらぬまで適当にブラつくとか、ゲームセンターなり映画館行くなりでいいでしょ”


 遊園地とかは流石にちょっと遠い。午後が丸々空くとは言ってもそこまで遊べる時間はないだろう。

 であれば、この周辺では一番遊ぶところが多いであろう葦原沼が選択肢に入る。

 さもなければ桃園台の駅前のマックマックスフーズで昼ご飯でもいいんじゃないかな。もう二人きりで出かけるなら近所の公園でもいいや。

 ……ぶっちゃけ、中学生の恋愛なんて勢いで押しちゃえばいいんじゃないの? と思うのは、私の歳のせいだろうか……。


「う、うぅ……」


 尚も美鈴はオロオロとしてるままだ。

 さしもの自称・魔法少女も自分の恋愛関連については守備範囲外らしい。

 ……はぁ、仕方ない。ちょっと強引だけど、『協力する』と言った手前やってしまうか。

 私は意を決し美鈴が止める間もなく窓を開く。


『”千夏君、ごめんだけどちょっと窓開けて美鈴と話をしてくれないかな?”』

『はい? ……まぁいいっすけど』


 遠隔通話で語り掛けると戸惑いつつも快く返事をいただけた。

 千夏君の部屋の窓が開かれ、彼が顔を出す。


「ふぇっ!? ラビっち!?」

”ほら、美鈴”

「あん? 用があるんじゃねーのか?」


 美鈴に任せていたらいつまでたっても話は進まない。

 彼女の想いが実るにしろそうでないにしろ、もう直接話をする段階なのは間違いないだろう。

 多少強引でもその場を設けてあげなければ、一生美鈴は悶々としたまま過ごすことになると私は思った。


「う、う……?」

「……どうした、ホーリー?」

”み・す・ず!”


 小声で叱咤しつつ背中をぺしんと叩いて美鈴を押し出す。

 尚もまごまごとしていた美鈴だったが……。


「ち、千夏!」

「おう?」

「そ、その……あの……」


 がんばれ!


「…………て、テスト……」

「ああ? テストは来週だな。つか、おめーテストの成績が悪かったらソフィアさんに怒られるんじゃねーの?」


 ソフィア――は美鈴の母親の名前だろう。確か美奈子さんが『ソフィ』と呼んでた人だ。

 ……って、美鈴意外に成績悪いのか……? まぁゲームばっかりしている印象だけどさ、確かに。

 テストの話で美鈴の顔がわずかにひきつる。図星かい。


「そ、そう! テスト!! あ、あのさ!」


 ……。


「このままだと、ちょっとあたしヤバいのよね……だ、だからさ! 一緒にテスト勉強しない!?」


 ……おう……。


「あん? テスト勉強って……」

「ち、千夏なら別に期末だって余裕でしょ!? ね? お願い、あたしを助けると思って!!」


 話の流れからすると、千夏君はどうも結構成績はいいみたいだ。文武両道を実践してるってことか、なかなかポイント高いな。

 少し迷ったようだが千夏君は呆れたように息を吐くと、


「はぁ……わかった。おめーが成績悪くて部活辞めさせられたりすると、それはそれで困るしな……。

 仕方ねー。面倒みてやるかぁ」


 そ、そんなに美鈴の成績悪いのか……いや、美鈴の親御さんが厳しいだけかもしれない。もう少し様子を見よう……。


「う、うん。お願い……」

「んで? どうするよ? 今からやるのか? アニキはどうします?」


 う、流石にテスト勉強するんであれば退散するかな。

 もし何か質問されたとしても、小学生ならともかく中学生の勉強となると少し自信がない……。


「あ……いや、明日からでお願い……」

「そか。わかった。んじゃ、俺はテスト勉強するから。

 ……アニキ、帰る時はどうします? 俺、送ってきますけど?」

”あー、いや、場所わかったし、そんなに距離もないから自分で歩いて帰るよ”

「そっすか。まぁもし面倒だったら連絡してください。別に迷惑とかそんなんないんで」

”うん、ありがとう、千夏君”


 テスト勉強の邪魔するのも何だし、言葉通りそこまで遠いわけでもないから自分で歩いて帰るつもりだけど。

 その後、少しだけ話してまた千夏君は部屋に戻って行った。

 ……さて。


”美鈴”

「はい」

”正座”

「……はい」


 まー、何もしないでいるよりは一歩――いや半歩は前進したとは思うけど……。


”…………へたれ”

「……………………申し訳ございません……」


 美事な土下座であった。




 どうやらこの話は長いことになりそうだった。

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