第4.5章2話 ラビさんの子供恋愛相談室(中編)
さて、まぁ協力するとは言ったものの……一体何をどうすればいいのやら。
「ね、ねぇラビっち……」
”うん?”
「あのさ、気になってたんだけど……その、ありすはどうなの?」
”ありす?”
……ああ、ありすと千夏君がどうにかなっちゃうんじゃないかって心配か。
うーん、それねぇ……。
”将来的には100%ないとは言い切れないけど、少なくとも現時点では全くないね”
「ほ、ほんとに?」
まぁ正確にはありす→千夏君のラインが全くないってだけなんだけどね。
千夏君がありすのことをどう思っているかは……正直今のところわからない。元々は一方的にライバル視していたんだけど、その点について果たして千夏君は納得したのかどうかも実はわからない。
”ありすが千夏君のこと、どう評しているか教えてあげようか?”
「う、うん!」
”……『へたれ』”
「……はい?」
”だから、『へたれ』”
「…………マジで?」
マジなんだよなぁ、これが。
正確にはありすはこう言っていた。
『ん……なつ兄はちょっとへたれ。だから、わたしが鍛え直す』
ちなみにこれ、千夏君本人にも言ってたりする。滅茶苦茶本人凹んでたけど……まぁ言われるだけの自覚はあったのだろう、特に反論はしなかった。
「なんでまた……そんな評価に……?」
”うーん、それなんだけど……”
美鈴に果たして言っていいものか悩んだが、とりあえず千夏君の名誉を守りつつ、私たちのユニットとなった経緯を説明した。
そりゃあね、小学生相手に『嫉妬』して(『ゲーム』内とは言え)喧嘩を吹っかけて……他所の子を引退まで追い込んだ、なんてダサいわな……。
ありす的には『ゲーム』内でならいくらでも喧嘩は買うし、同じチームになったとは言え対戦は拒否するつもりはないらしい。
けど、まぁ……クラウザーに騙されてというか乗せられてた面もあるし、同情の余地はないわけではないんだよねぇ……。
とりあえず美鈴には、千夏君が意地張ってありすに対抗しようとして負けた、といった感じで伝えておいた――いや、これも結構アレな言い草だけど。
「あー……」
美鈴は失望するでもなく、ちょっとだけ苦笑いして納得したようだ。
「あいつねー……負けず嫌いってのもあるんだけど、ちょっとコンプレックスあるみたいだからねぇ……」
”コンプレックス?”
この場合は『劣等感』を持っているという意味の方かな?
確かにちょっと気になるところだ。彼が『ゲーム』を続けたい理由の一つは『強くなりたい』というのもあったことだし。
本人のいないところで聞いてしまうのもマズいかもしれないけど、逆に本人には聞きづらい内容である。
「あたしたちが『剣心会』で一緒だったの知ってるよね? でさ、『剣心会』ってこの辺の地区では強豪なのよ」
”ふんふん”
美鈴が言うには、彼女たちが所属していた『剣心会』は地区内でも有数の強豪――というよりもほぼ一人勝ちの状態が続いているらしい。
それで地区大会なわけだが、剣道なので団体戦は当然五名(補欠も一応いるらしいので六名程度)が代表として出場することになる。
で肝心の千夏君はというと……残念ながらこの団体戦に出るメンバーとして選ばれることはなかったようだ。
彼自身は別にそこまで弱いというわけではない。個人戦ではそれなりの成績を残しているし、もし『剣心会』以外に所属していたとしたらまず間違いなく大将に選ばれるくらいの実力はあるみたいだ――それだけに『剣心会』の異様な強さの方が目立つ。
ただタイミングが悪かった。千夏君と美鈴の世代は、例年に比べて子供の数が多く、そのいずれもがなかなかの実力者揃いであったという。それでも千夏君たち以前の世代に比べると『平均は高いが突出した子はいない』という団栗の背比べ状態だったみたいだけど。
団栗同士とは言えいくらかの差はあった。結局、千夏君は団栗の中で埋もれてしまったというわけである。
「それに加えてねぇ……実は千夏よりもむっちゃん――千夏の弟がスゴイ強くてね……」
”お、おう……”
千夏君には弟がいる。で、この子の世代は千夏君の時ほど子供の数は多くないのだが、『突出した子が多い』世代なのだという。
弟君はその『突出した子』であり、当然のように団体戦にも出場して活躍しているとのことだ。
流石に年齢の差もあってまだ千夏君の方が強いらしいけど、同じ年齢の時と比べると弟君の方が多分強いんじゃないかと思っているらしい。
「実畑中には『剣心会』出身は千夏とあたしだけだし、うちは先輩方が……ちょっとね、アレだったから、中学から始めた初心者の面倒とかも全部千夏が見ててね……。結果として、今年になってようやく中学の地区大会でも表彰台に登れるようにはなったんだけど、どうしても優勝とかはできなくてねぇ……」
なんでも『剣心会』の同世代のうち、団体戦のレギュラーになっていた子たちは別の中学――すぐ隣の校区なんだけど――に固まっているらしく、そこには全く勝てないようだ。
まぁそれでも万年一回戦負けだった実畑中学剣道部が、大会に行く度に表彰状もらって帰ってくるようになった、と実は学校からは注目されているみたいだ。千夏君も表面上は喜んでいるようだけど……長い付き合いの美鈴からすると、やっぱり優勝したいと常々思っているんだろうなぁというのは丸わかりらしい。
なるほどねぇ。『強さ』に対する劣等感の理由は何となくわかるかな。
よく言えば向上心というか野心がある、悪く言えば僻みっぽいなんだな。本人が理性的なので表立って他人に嫉妬したりとかの態度は見せないんだけど、『ゲーム』内ではっちゃけっちゃったって感じかなぁ。
”うーん、まぁ千夏君がどういう子かはちょっとわかったかな。ありがとう、美鈴”
これで彼の全てがわかったと思うつもりはないけど、彼の『ゲーム』に挑む動機については納得できた。
うん、前に和芽ちゃんが言った通りだ。
彼は『負けず嫌い』なんだ。それがたとえ『ゲーム』であったとしても。
……あるいはクラウザーに乗せられてたとは言え、他人をゲームオーバーにしてしまったことを恥じているのかもしれない。口には出さなかったけど、だから『ゲーム』を続けたいと思ったのかもしれない。流石に本音はわからないけどね。
”まぁ話が大分逸れちゃったけど、ありすについては気にしないでも大丈夫だよ”
「う、うん……」
さっきも言ったけど、千夏君がどう思うかまではわからないけどねぇ……少なくとも、彼、口に出して『好き』と言われない限りは意識すらしないんじゃないかな。
ちなみに桃香については論外だ。見た目だけなら文句なしの美少女なんだけど、中身が……ねぇ? まだ大して二人は会話していないけど、まぁすぐにわかるでしょ。
さて、話が逸れちゃったし元に戻そう。
”けどさぁ……未だに一回も『好き』って伝えてないって……それはどうなのさ?”
「うぅ、だって……」
”千夏君、きっと言わないとわからないよ?”
もしかしたらうっすらと『こいつ、俺のこと好きなんじゃ?』くらいは思っているかもしれないけど。
かといって千夏君があやめのことを好きな現状、言われてもいなければ美鈴のことを意識することもないだろうけどさ。
”長い付き合いなのはいいけど、だからって自然とお互いに好き合うわけじゃないでしょ”
「うっ……」
むしろ敗北フラグが立ってしまうんじゃないだろうか。恋愛対象として見れなくなるとかなんとかで。
……現時点で結構フラグが立っているような気がしなくもないが。
「で、でも……幼稚園の時とか、『みすずちゃんとけっこんするー』とか言ってたし……」
”幼稚園の頃の話持ち出すとか……完全に敗北フラグ立ってるじゃない……”
つーかさ……。
”美鈴さんや、冷静に考えてごらん? 男女逆にして考えて……幼稚園の頃結婚するって言った! って男が迫って来たら……キモくない?”
「…………キモいわね……」
”でしょ? まー、だから昔のことは昔のこと。今は今のことを考えよう”
「うん……」
流石に美鈴も幼稚園の頃の話を本気にはしていないとは思うけど。少なくとも今自分にアドバンテージ皆無なことくらいは自覚してもらいたい。
……って、話してて気になることができちゃった。また話逸れるかもしれないけど、滅多にない機会だろうし今聞いてしまおう。
”ねぇ、そういえば美鈴と千夏君って
「うん、そうよ」
あれ? ってことは……。
”もしかしてさ、千夏君もありすの小さい時のこと知ってたりしない?”
ありすと美鈴は以前近所の幼馴染だったのだ。となれば、千夏君もそうである可能性がある。
まぁありすと入れ違いに千夏君が引っ越してきた、という可能性もあるけれど。
私の言葉に美鈴は驚いた表情を見せる。
「あ、あれ……? あたし、その話したことあったっけ……?」
”あー……”
そっか、そういえば二人が実は幼馴染だったってことに気付いたことは言ってなかったっけ。
”実は――”
私は正直に昔のアルバムを見たことを告白した。ま、隠すようなことじゃないしね。
「う……も、もしかして……ありすも気づいた……?」
”いや。ありすはまだ気づいてないんじゃないかなぁ”
知ってて黙っている可能性もゼロじゃないけど、前に話した感じだと覚えてなさそうだったかな。
まぁ当時ありすは2歳……記憶になくても不思議じゃない。アルバムを見たら、流石に覚えてなくても美鈴だと気づくとは思うけど。
ちょっとだけ残念そうに美鈴はため息を吐く。
「そっか……。まぁありす、あの頃はまだ小っちゃかったからね。
――あ、一応言っておくけど、ありすには教えなくていいからね? 知られたからってどういうわけでもないけどさ」
”うん、まぁそうだね。逆に混乱させちゃうかもだしね”
知った時のありすの反応が予測つかなすぎて困る。何にしても悪い方向には転ばないとは思うが。
「で、千夏もありすのことを知ってるかだけど……うーん、どうだろ。千夏はあんまり覚えてないんじゃないかなぁ」
”あ、やっぱり千夏君とありす会ったことあるんだ?”
男の子と女の子、それも少し年が離れていることだしねぇ。
ありすが幼稚園くらいの年齢になるまで近くにいたのならもう少し接点はあったかもしれないけど、2歳じゃねぇ。
「千夏に聞いてみる?」
と言うなり部屋の窓を開ける。
……え?
「ちっかちゃーん!」
窓の向こう側には隣の家の窓が。意外と近い距離ではあるが、もちろん手を伸ばして届くような距離ではない。
美鈴の呼びかけから数秒後――
「……なんだよ」
がらりと窓を開けて顔を出したのは、不機嫌そうな顔をした千夏君であった。
……隣の家なのか!?
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