第4.5章 日常少女 -Ordinary days ?-

第4.5章1話 ラビさんの子供恋愛相談室(前編)

「ねぇ、ラビっちー、協力してよー!」


 挨拶もそこそこに、美鈴はそう切り出してきた。

 ……なんでトンコツにしろ美鈴にしろ、私に頼み事しようとするときにいきなり切り出してくるんだろうなぁ……いや、別にいいけど。


”ん……まぁ、いいけど……”


 状況を説明しよう。

 どうも美鈴が私に話があるということで、千夏君を通じてありすには内緒でひっそりとコンタクトを取ったのだ。

 で、お互いに都合のいい時間を調整して集まったというわけである。

 場所は美鈴の部屋だ。彼女の家の場所はわからなかったので千夏君に連れてきてもらった――初めて美鈴の家に来たけど、割とありすの家と近い。ゆっくり歩いても10分はかからないんじゃないかな?

 ちなみに千夏君はというと、私を美鈴に預けるとそのまま帰って行ってしまった。薄情者め。


”もしかして、『ゲーム』絡みの話?”


 まぁ千夏君が帰るのを引き留めようとしなかったことから考えても、別に彼がいなくても問題はないのだろう。

 それはそれとして、美鈴が私に何かを相談しようとするとなると……『ゲーム』絡みのことくらいしか思い浮かばない。

 が、私の予想に反して美鈴はきょとんとした顔をし、


「え? ……あー、そうねー……そっちもいつか相談したいことできるかもねー」


 と軽く流してしまう。

 ……『ゲーム』の話じゃないの? じゃ、一体何の話なんだろう。正直、『ゲーム』以外での相談なんて私にする必要もないと思うんだけど。


”んん? じゃあ、何の話?”


 『協力して』というからには私に何かしてもらいたいんだろうけど……。

 私の問いかけに、美鈴は恥ずかしそうに顔を赤らめてもじもじとしている。

 うん、それはそれで美鈴の印象にそぐわないけど、可愛い。


「えーっと……その、ね……」

”うん”

「実は、あたし――千夏のことが、ね……好きなの……」

”うん”


 知ってた。


「……お、驚いた?」

”え? いや、別に……”


 だってこの間マックマックスフーズで会った時に速攻で理解したし。

 まぁ同時に千夏君にはその気は全くない――というか千夏君はあやめが好きだっていうことも理解しちゃったけど。

 ……あれ? 協力って、もしかして『そっち』方面の話?


”んー、協力って、美鈴と千夏君をくっつけるのを協力してくれとか、そういうこと?”

「………………うん……」


 真っ赤な顔で小さく頷く。

 ……えー……?


”何で私にそんなこと頼むのさ……”


 正直、恋愛相談とかされたって困る。

 二人をくっつけるのを協力するっていっても何すればいいのかわからないし……。


「うぅ……だって、もう他に頼れる人がいないんだもん……」

”いやぁ、そんなことないでしょ? クラスの友達とか、部活仲間とかいるんじゃないの?”


 こういうのはまず身近な人間からじゃないのかな。

 だが美鈴はどんよりとした表情で「あはは……」と乾いた笑みを浮かべる。


「そっち方面はもう使ったわよ……」


 お、おう……。


「それでも千夏は全然振り向いてくれないし、それどころかライバルが増えちゃって……」

”へぇ? 千夏君、結構モテるんだねぇ……”


 意外といったら失礼かもだけど、意外だ。

 見た目は別に取り立てて良いわけでもないし、背もそこまで高いってわけでもないし、子供だから当然お金持ってるわけでもないし――いや最後のはちょっと大人視点すぎるか。まぁとにかく、正直女の子にモテるタイプとは思えないけど。

 モテる、と聞いた途端美鈴の顔が輝く。


「そうなの! あいつ、あれで結構モテるのよ!」


 ……なんで嬉しそうなの?

 あ、自分の好きな男の子が人気あるってなれば、嬉しく思わないわけでもないってことかな。


「そりゃ、モテモテで年中女の子から言い寄られてるっていうわけじゃないんだけど」


 ……年中言い寄ってるであろう女子が私の目の前に一人いるんですけど……。


「わかる人にはわかる魅力っていうか、一部の女子には人気あるのよ、あれで」

”ふーん……”

「まぁそれでも大半は『友達として』なら、みたいな感じだし。学年で話題になるような美形とかってわけじゃないけどさ」


 褒めてるのか貶しているのか微妙な言い回しだな……。

 んー、まぁ何となく美鈴の言わんとしていることはわかるかな。

 明確に女子から人気があるっていうのとはちょっと違ってて、一部の人(特に私の目の前にいる子)からは熱烈に好かれているんだけど、全体からしてみるとまぁ普通? 安パイ? って感じ。

 ……悪い言い方をするなら、二番手三番手の男かなぁ……。あんまりこういう言い方したくないけど。


「……で、あたしが相談したりすると、その子も段々千夏のことが好きになっちゃったりして……」

”あー……それは――いや、うん、まぁ……”


 言いかけて途中で言葉を濁す。

 完全に私の妄想だ、言わない方がいいだろう――多分、その相談した子の中には美鈴への当てつけで千夏君狙っている子もいるだろうなぁ、とか。

 幸い美鈴は気づかずにぶつぶつと過去のことを思い返しては呟いている。

 ……難儀な子だなー、この子も……。

 そーいえば、私の知る範囲では和芽ちゃんも何かちょっと怪しい雰囲気だったんだよなー。メガロマニア戦後に一回顔を合わせただけで、以降は会ってないから本当のところはどうなのかよくわからないけど。


「――でさぁ、今度という今度は本当にヤバいの!」

”……何が?”


 あ、いかん。途中から美鈴の話を聞き流していた。


「だから、うちのクラスの女が本気で千夏のこと狙ってるの!

 ……ヤバいわ。ぶっちゃけ、鷹月センパイよりもの方がヤバいわ」

”そうなの? こう言っちゃなんだけど、千夏君ってあやめのことが好きなんでしょ? 状況的には別にその子も美鈴も大して違いないんじゃない?”


 めっちゃ残酷なことを言ってしまった気もするが、美鈴はそれにも気づいていない。


「いや……あの女は本気でマズいわ。もう、何て言うか……猛烈にアタックというかアピールがスゴイの」


 うーん、やっぱり美鈴も同じじゃないかなぁとも思うんだけど。


”どんな子なの?”


 放置して美鈴に拗ねられるのもなぁ、と思いとりあえず話に乗ってみる。

 相談に乗るにしても何にしても情報が足りなければどうしようもないし。


「……うちの学校の超有名人なんだけど――」


 ほうほう。

 ……って、なんだかんだで美鈴も有名人ではありそうな気はするなぁ。本人がどう思っているのかは知らないけど。


「成績超優秀で運動も出来る」

”ふんふん”

「性格も明るくて、男女問わず人気ある」

”ほうほう”

「で、おっぱいが……おっきい」

”お、おう……”

「あと語尾に『にゃー』ってつける」


 痛い子じゃないか!

 顔については特に言及はしなかったけど、まぁこの分じゃ結構可愛いんだろうなぁとは想像がつく。

 ……その点についてアドバンテージがあるというわけでもないのか。美鈴並みに美形というのも何だか想像つきづらいけど……。

 で、わざわざ胸について言及したわけは……。

 ずーん、とまた暗い顔をして美鈴は自分の胸に手を当てている。


「……そんな子が人目もはばからず好き好き光線出しながらスキンシップしてくるんだよ……?」


 その胸は、つつましやかだった。いや、まぁ年齢相応! 平均平均!! ……多分。

 うーん、つまりは――


”千夏君がその子の色仕掛けに転ぶのも時間の問題、と?”


 こくり、と美鈴は頷く。

 ……まだ知り合ってそんな時間もたってないけど、千夏君のイメージとしては『生真面目』なんだよね。剣道部の部長やってるって話だし、何と言うか……こう、『硬派』な今時珍しい男子な印象なのだけど。

 その千夏君が胸の大きな女の子に好意全開でベタベタされて鼻の下を伸ばしている姿が、何だか想像できないや。


「ねぇ、どうしよう!?」

”えー……? どうしようって言われても……”


 学校内のことについては私は何も出来ないし、協力するにしても出来ることなんてたかが知れてると思うんだけど……。


「しかもそいつ、双子なのよ! つまり――」

”同スペックのライバルがもう一人ってこと?”

「うん……まぁ、あっちの方は多分千夏のこと何とも思ってないだろうけど……。でも、学年トップの頭脳が二人して結託してきたら……」


 テストの点数と恋愛は関係ないと思うけど……。

 まぁ多分学校の成績だけでなく、本当に『頭そのものがいい』んだろう、そのライバルの双子は。

 単独でも色々と強敵だというのに、同じ程度の頭脳がサポートについたとしたら……と美鈴は考えているわけだ。現状、単独でもその子は超強敵っぽいけど。


”でも……美鈴、告白して玉砕したんでしょ? ならしつこくするってのも逆効果じゃない?”


 再度残酷なことを言うようだが、口にせねばなるまい。

 振った相手にしつこくされるのも辛かろう。


「う……」


 だが、美鈴の様子がおかしい。

 目が泳いでいる。

 え? うそでしょ? まさか……。


”……美鈴? もしかして……千夏君に直接『好き』って伝えたことないの!?”

「…………うん……」


 ダメじゃないか!


”はぁ!? ダメダメじゃない!”

「うぅ……」


 えー? こりゃいかんぞ。

 何がいかんて、千夏君的には美鈴の立ち位置って『昔からの幼馴染腐れ縁で仲は悪くないけど、しつこく自分に絡んでくる鬱陶しいやつ』なんじゃないか、これ?

 つまりは、好感度はマイナス――とまでは言わないけど決して高くないってことだ。せいぜいが良くて『付き合いの長い女友達』程度の可能性が非常に高い。


”この状態で協力って……私に出来ることなんて何もないよ……”


 下手すると逆に美鈴の好感度を下げる羽目になりかねないし。

 匙を投げかける私に美鈴が泣きつく。


「そ、そんなこと言わないでよラビっちぃ~! ね? お願い、友達でしょ!?」


 ……んもー……。

 『友達』と言われちゃ仕方ないなぁ……。


”んー……しょうがないなぁ……”


 ――ま、そうだね。友達だし……仕方ないよね。

 出来る限りのことはしてあげますかぁ……。




 ……あれ? 私は私で結構チョロい?

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