第4章51話 エピローグ ~■■■■■・イン・ナイトメア?
* * * * *
「……ふや?」
あれ? 私、どうしてたんだっけ……?
何か、頭がぼんやりする……。
よく状況はわからないけど、とりあえずどうやら私はベッドの上で眠っていたようだ。
「ん……」
ベッドから
「ここは……うん?」
ちょっとだけ内装が変わっているけど、家具の配置とか壁掛け時計とか見覚えがある。
ここは、ありすの部屋だ。
ということは私が眠っていたのはありすのベッドということになるか。
「……あれ? え!?」
段々と意識が覚醒していく。
そこで私はようやく気付く。
……
いや、それだけじゃない。
「えぇ!?」
ぺたぺたと自分の身体を触ってみる。
顔、首、胸、お腹、腰……触ってみてわかる。間違いなく
「か、鏡!? 鏡はどこだっけ!?」
今の私の姿はいつもの謎生物ではない。人間のようだ。
慌てて鏡を探す――女の子なんだし姿見くらい置きなよ、といつも言っていたけど、その時はなぜか部屋にいつもはない姿見があったので、それで自分の姿を確認してみる。
「こ、これは……」
鏡に映っていたのは、見たこともない少女の姿だった。
年齢は……よくわからないけど、身長はありすと同じくらいだろうか。唯一違うのは胸のサイズか……身長の割には結構大きい。
さらさらの金色の髪に深い紫色の瞳。肌にはシミ一つない。
アリスが小さくなった姿、と言えばわかりやすいか。最初に見た印象ではそれだった。
……で、そこで遅まきながら私はまた気付いた。
「ひゃっ!? は、裸!?」
他に誰がいるわけでもないが、咄嗟に体を手で隠す。服着てないのがデフォルトだったし、うっかりしてた……。
何で!? 何で裸!? それもありすの部屋で!?
というよりも、何で私人間になってるの!?
何が何だかわからない……。
と、そこでありすの部屋の扉が開く。
「ん……? ラヴィニア?」
「え……?」
部屋の中に入って来たのは、見たことのない女性だった。
高校生くらい……だろうか。紺色のブレザーの制服を着ている。
……あれ? もしかして……?
「あ、ありす……?」
長い黒髪は私の知っているありすと同じだったが、きちんと整えていないありすと違って目の前の女性はしっかりとセットしているようで、まるで良くできた日本人形のようだ。
ぼんやりしているようなイメージはもはやなく、キリっとした凛とした雰囲気の美人になっているが……薄い紫色の眼は間違いない、ありすと同じだ。
私の問いかけに、ありすのようにかくんと首を傾げる女性。
「そうだよ? 寝ぼけてるの?」
ね、寝ぼけてる……のかなぁ……?
状況が全く把握できずに混乱している自覚はあるけど。
……って、そんな場合じゃない! まずは服! 服着ないと!
わたわたと混乱している私に向かってありすはにっこり――いや、にやぁっと笑みを浮かべると……。
「ラヴィニア、わたしが帰ってくるの、待ちきれなかったんだ?」
「へ?」
言うなり私へと飛び掛かって抱きかかえると、ベッドへと押し倒される。
この行動の素早さはまるで風呂へと私を連行する時のよう……って、そうじゃない!?
「え、え?」
「んふ、わたしも早くラヴィニアと会いたかった」
そう言いながらブレザーを脱いで放り投げ、首元の制服のリボンを片手で乱暴に外してこれも放り投げる。
あ、あれ……これ、もしかしてヤバい?
「ちょ、ちょっと待って!? ありす、何する気!?」
「んふー、ラヴィニア、わかってるくせに」
「いや、いやいや!?」
慌てて逃げようとするけど、ありすに完全にマウントを取られた姿勢となっているため動けない。
じたばたとすることしか出来ないけど、両手を掴まれ完全に押し倒されてしまう。
というか、ありすの力、強い!? 片手で私の両手首を掴んで動きを封じているよ!? ……いや、私が非力過ぎるのかもしれないけどさ。
左手一本で私の両手を封じ、フリーとなっている右手が私の胸へと伸びる。
「ぎゃー!? ちょっと待ってー!?」
「んー、待たない……学校行ってる間、ずっと待ってたー」
「うひゃあっ!?」
ひんやりとしたありすの手の感触に思わず悲鳴を上げてしまう。
優しく……はないけど、決して乱暴でもなく、ありすの手が私の胸を揉みしだく。
「ラヴィニアのおっぱいは、わたしが育てた」
「……何言ってんのこの子」
つい普通に突っ込んでしまった。
というか、さっきから「ラヴィニア」って私のことを呼んでるけど……それ、私の名前? 「ラビ」じゃなくて?
…………あれ?
呆然としている私が抵抗しなくなったのを合意と見たか、ありすが顔を近づけてくる。
「ラヴィニア、可愛い……」
……って、呆然としてる場合じゃない!
これ、マジで貞操の危機だよ!?
「ま、待って……そ、そうだ、桃香! 桃香に怒られるよ!?」
よく状況はわからないけど、『ここ』が私の知るありすの部屋であるならば引っ越しとかはしてないはず。
であれば桃香は変わらずあのお屋敷に住んでいるだろうし、二人にまだ交流はあるだろうと踏んでの発言だ。高校生くらいになっているから、もしかしたら疎遠になっているかもしれないけど、今そんな悠長なこと考えている場合じゃない。
桃香の名前を出したら、ありすは少し不思議そうな顔をして――やっぱりまたにやぁっと笑う。
「ん、トーカなら大丈夫」
「何が!?」
「トーカは、少し放っておいた方が面白いから」
手玉に取ってる!? しかも桃香は性癖更に拗らせてる!?
「え、と、えぇっと……美鈴は!?」
彼女が最後の希望だ!
「すず姉も、ラヴィニアならいいって」
「美鈴ぅー!?」
どんな爛れた日常を送ってるのこの子!?
あかん、この分じゃ美々香辺りの名前を出しても動じないぞ、これ。
何かないか、と部屋の壁かけ時計を見ると、時刻は18時くらい。
――これだ!
「み、美奈子さんがもうすぐ帰ってくるから、ね!?」
いつも通りならば美奈子さんが仕事から帰ってくる時間だ。場合によってはもう少し早い時もあるけど。
流石に家に自分の親がいる状態で不埒なことは出来まい!
「んー……?」
私を押し倒したままかくん、とまた首を傾げるありす。
……あれ、この反応は……?
「お母さんはお父さんのいる国に一緒に行ってる」
「へ?」
「ラヴィニア、忘れちゃったの? もう三年くらい、この家はわたしとラヴィニアだけ」
……マジか。
ありすも大きくなったし、私もいるしということで二人揃って海外出張ってことか!?
爛れ切った日常の原因それか!
「んー、トーカとすず姉も一緒の方がいい?」
「そ、それは勘弁していただきたい……」
ただでさえヤバいこの状況に、更に人を増やすとか……言葉通り脳みそが沸騰してしまう。
「ラヴィニア」
ありすが拘束していた私の手を離し、両腕で私を抱きしめる。
抵抗できないことはないけど、とにかく呆然としててもはや私は抵抗しなかった。
「わたしは、ラヴィニアのことが一番好きだよ」
「あ、ありす……」
「ラヴィニアは? わたしのこと、好き?」
薄く笑みを浮かべ、じっと私の眼を覗き込んだままありすが尋ねてくる。
そ、そりゃ……ありすのことは好きだけど……。
「す、好きだよ……」
好きだけど、だからといって
続きを言う前に、私の言葉を聞いたありすが更にきつく私のことを抱きしめる。
「んー! ラヴィニア可愛い! ラヴィニア綺麗! ラヴィニアいい匂いー!」
「ちょ、こら、ありす!?」
い、痛い!? 抱きしめる腕の力が強すぎて痛いよ!
流石にこれは苦しい。
けど、そんな私の様子に気付くことなくありすは尚も私を抱きしめ、そして顔を寄せてくる。
「ラヴィニア……」
「え、ありす……?」
さっきまでのハイテンションはどこへやら、静かに、甘く私の名前を囁く。
あ、この雰囲気は……。
ちょっと待って!? 心の準備がー!?
もはや完全に抵抗を諦め、来たる
そして――
「かぷっ」
「ふぎゃー!?」
予想だにしない衝撃。
ありすはなぜか私の耳に噛り付いてきた……。
* * * * *
ふぎゃぁ!?
……え? 何、夢……?
”いだだだだだ!?”
スリープモードから目覚めた私を幻ではない本物の痛みが襲う。
胴体はぎゅうぎゅうに締め付けられ、耳がぎりぎりと痛む。
”あ、ありす……!?”
背中側から抱きかかえられて見えないが、どうも私はベッドの中でありすの抱き枕にされているようだ。
きっと、夜中にトイレかなんかで目が覚めた時、眠っている私を連れ込んだのだろう。
それはまぁいいんだけど……。
”ちょ、痛い痛い!?”
「むにゅー……」
ありすは完全に寝入っている……んだけど、力いっぱい私を抱きしめつつ耳に噛り付いているのだ。
しかも何か食べている夢でも見ているのか、がじがじと噛み千切るつもりかと問い詰めたいほど、耳を齧っている。
”か、勘弁して……”
折角眠れるようになったのにー!
でも無理矢理ありすを起こすのも可哀想だし……。
私はどうにか彼女の目を覚まさせずに、この地獄から抜け出ようと足掻くのだった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ラビさん、変になっちゃった」
「変……と言いますか、これは……」
「完全に威嚇してんじゃねーか、これ」
その日のマイルームにて。
困惑するありす、桃香、千夏の三人。
彼女らの視線の先には――
”しゃー!! ふかー!!”
マイルームの隅で、三人へとまるで猫のように威嚇を繰り返すラビの姿があった。
「おい、ありんこ。お前何やらかしたんだ?」
「ん……わかんない。朝起きたらこんな感じだった……」
”きしゃー!!”
ありすの言う通り、起きたら既にラビが威嚇する猫モードへとなっており、緊急で二人を呼び出してマイルームへとやって来たのだった。
「ほ、ほーら、ラビ様。怖くないですよー」
まるで野良猫を懐かせるように桃香が近づき手を差し出すも――
”しゃー!!”
とてとてと逃げて行ってしまい、また威嚇。
流石に噛みついたり引っかいたりはしてこないようだが……。
「……どうしよう」
「……どうしようもありませんわね……」
「……落ち着くまで待つか……」
極度の痛みと恐怖とよく覚えていない悪夢のストレスが限界突破し、身も心も猫と化してしまったラビを困惑して見守るしかない三人であった。
――ラビが正気に戻るまで、半日ほどかかったという。
第4章『魔獣少女』編 完
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