第4章48話 性能評価試験 ~ジュリエッタ

*  *  *  *  *




 気を取り直してクエストだ。

 今回のクエストは『砂漠地帯のモンスター討伐』ということで、やって来たのは砂漠ステージである。

 以前、スフィンクス相手に戦ったところとは違い、日本人が『砂漠』と聞いて真っ先に思い浮かべるような、一面砂の海となっているステージだ。なだらかな砂丘も見えてはいるが、砂で構成されているもの以外の障害物等は一切ない。

 空には眩しいばかりに輝く太陽があり、雲一つない晴天である。もし生身でこの砂漠に足を踏み入れたら、あっという間に干からびてしまうんじゃないだろうか。

 まぁこっちは特に影響はないんで問題はないけれど。

 ……何かそのうち高難度クエストとかで、暑さ・寒さ対策が必要なクエストとか出てきそうだなぁ……。ユニットの子たちはともかく、私は対策とか出来ないんだけど……。

 それはともかくとして今回のクエストだ。


”早速モンスターが来た!”


 ステージに着いて早々、レーダーにモンスターの反応が現れる。

 大きさは……小型か中型か、そこまで大きくないけれども数が結構多い。


「おう、見えてるぜ!」


 砂中から這い出てきたモンスターは、『サソリ』の姿をしていた。

 大きさが現実ではありえないくらいの巨大さであることを除けば、それ以外は全て普通のサソリと同じだ。

 となると、尻尾の先端にある毒針攻撃が少し怖いかな。

 数は全部で10。幸いにして囲まれてはおらず、一方向に10匹が展開している。


「よし、まずは雑魚掃除か。

 ジュリエッタ、行くぞ!」

「うん」


 ヴィヴィアンは《ペガサス》に跨り一旦上空へ避難。私のレーダーと合わせて高所から辺りを見回して新手の警戒を。

 アリスとジュリエッタはそれぞれの魔法を使って大サソリのモンスターを蹴散らしに行く。

 ……うん、ユニットが三人に増えたことで大分戦いやすくなった。ヴィヴィアンが私の護衛と後方支援に徹していても、アリスが一人で前衛に立つ必要はなくなったし敵の数が多くても何とでもなるようになっている。

 さて、大サソリは毒針が怖いとは言えそこまで怖い相手でもない――見た目はそりゃ怖いけど。モンスターのレベルは私からははっきりとはわからないけど、まぁ火龍より強いということはないだろう。

 私の予想通り、二人は全く苦戦することもなく蹴散らしている。

 アリスは離れた位置から魔法を放つことで毒針など全く気にする必要もないし、ジュリエッタに至ってはまるで見えているかのように頭上から襲ってくる針をかわし、更にそれを掴んで強引に大サソリを振り回して地面に叩きつけている。

 一撃の決定力で言えばアリスの方が勝っているけど、近距離における格闘能力ではジュリエッタの方がやはり一枚上手っぽい。

 本当にあっという間に、現れた大サソリの群れを全滅させてしまった。


「ご主人様、あちらをご覧ください」

”うん……? レーダーにはまだ何も映ってないけど……これは地中に潜ってるタイプ、かな?”


 ヴィヴィアンに言われて見た方――アリスたちからはまだ離れた、砂丘の向こう側の砂が何やら不気味に蠢いている。

 相変わらずレーダーは微妙にポンコツで、完全に地中に潜られると反応が捉えられないことがある。

 ……と、砂丘の向こう側から巨大なモンスターが飛び出てきた。


”何だ、あれ……?”


 さっきの砂がうごめいていた原因だろう、地中に潜っていた巨大モンスターが這い出てきたのだ。

 見た目は……蛇のようにも見えるが、頭部には目のようなものは見当たらず、頭部前面が口となっている。皮膚も周りの砂と同じく黄色っぽく、ゴツゴツとした鱗とは異なる形状だ。

 でも一番の特徴は、その大きさだろう。地上に出てきたのはほんの一部分だけで、全長がどれだけあるのかは想像もつかない。大きさだけで言えば、『嵐の支配者』の次くらいに大きいモンスターかもしれない。

 モンスター図鑑を確認してみると――


”『サンドウォーム』……巨大な砂漠のミミズ、ってことかな……?”


 サンドウォームはまるで水を泳ぐかのように、再度頭から砂に潜って姿を隠す。

 これは足元からの不意打ちに気を付けた方が良さそうだ。


”アリス、ジュリエッタ! 砂の下にサンドウォームってモンスターがいるよ! 気を付けて!”


 大きさだけで強さは分からないが、少なくともあの口に丸呑みにされたりしたら一撃死はありえそうだ。

 二人とも私の忠告に頷くと、アリスは《天脚甲スカイウォーク》で、ジュリエッタはメタモルで翼を生やして空へと飛ぶ。


”ヴィヴィアン、他にも何かいないか確認しよう”

「かしこまりました。もう少し上昇いたします」


 こちらも心得たものだ。

 サンドウォームに遠距離攻撃がないとも限らないし、より安全に辺りを見回せるように《ペガサス》を上昇させる。

 私のレーダーと合わせて、アリス達に近づく他のモンスターがいないかを監視する。

 ……って、何かまだ遠くだけであちこちで砂が同じように蠢いている……!?


「どうやら、サンドウォームは一匹ではないようですね」

”そうだね……”


 こちらから見えるだけで、多分5匹くらい……かな? もしかしたらもっといるかもしれない。

 そのことを二人に伝えると、


「ふーむ、砂の下に潜られているのは厄介だな……」


 と数そのものについては特に気にしていないようだ。

 アリスの言う通り、砂に潜られているとこちらのレーダーでも捉えられないし、攻撃も通りにくい。《嵐捲く必滅の神槍グングニル》なら地中にいても当てられるだろうが、敵の数が不明な上に流石に魔力がもったいない。


「……御姫様、一匹、速攻で片づければ、ジュリエッタが何とか出来る……かも」

「ほう?」


 全く負ける気はしないけれど苦戦は免れなさそうだと思っていた私たちに、ジュリエッタがポツリと呟く。

 敵が複数いてもあの巨体だ。一か所に集まって暴れるというのは難しいだろう。

 まずは一匹を速攻で片づける。それは無理ではないと思う。


「よし、では一番近いやつを教えてくれ!」

”う、うん”


 何をする気かはわからないけど、とりあえず二人に任せよう。いざとなればヴィヴィアンの召喚獣も援護に向かわせることを視野に入れつつ、一番近い位置まで迫ってきているサンドウォームの位置を伝える。

 二人は一直線にサンドウォームへと向かう。

 こちらが向かって来ているのをどういう方法かはわからないが探知しているのだろう、地中からサンドウォームが飛び出し二人へと牙をむく!


「cl《巨神剣雨ギガントソードレイン》!!」


 まずは飛び出してきたサンドウォームの口目掛けてアリスが魔法を放つ。

 剣の内一本が口の中を突き刺し、残りは胴体へと突き刺さる。

 ……気持ち悪い緑色の体液をブチ撒けながら、サンドウォームがジタバタと苦悶する。


「……うん、行ける。

 ライズ《ストレングス》、メタモル――」


 すぐさまジュリエッタが追撃。使用したメタモルは、右腕を白い触手――『嵐の支配者』の眷属である竜巻の化身へと変化させ、躊躇うことなくサンドウォームの口の中へと飛び込み――


「おおう……すげーな」


 体内で竜巻が暴れ回り、サンドウォームの頭部を体の内側から引きちぎってしまう。

 しばらくは胴体も暴れ回っていたが、やがてピクリとも動かなくなる。

 中々危険なことをするが、『速攻で倒す』であれば今のような方法を取らざるを得ないか。ミミズの化物の割には、皮膚はゴツゴツとして硬そうだったしね。


「……【捕食者プレデター】」


 一匹を速攻で倒して何をするのかと思いきや、ジュリエッタは彼女のギフト【捕食者】を発動させる。

 このギフト、アリスやヴィヴィアンのものとは違い、自動ではなく任意で発動させるタイプらしい。

 ジュリエッタの体から黒い煙……? いや、無数の小さな『何か』が沸き上がったかと思うと、それらが一斉にサンドウォームの死骸へと群がり――ほんの数秒の内にサンドウォームの死骸が跡形もなく消え去る。


「……ごちそうさまでした」


 黒い『何か』が再びジュリエッタの体へと戻る。

 ――これが彼女の【捕食者】の力か。どういう内容かは知ってはいたけど、発動シーンを見るのは初めてだったので少々面食らってしまった。

 前から少し疑問に思っていたけど、ジュリエッタのメタモルだが明らかにジュリエッタの肉体の容量をオーバーする変化も可能にしていた理由がこの【捕食者】にあるらしい。

 【捕食者】で喰ったモンスターの肉(質量)をどこかに保存しておき、メタモルで大きな変化をするときはそれを消費しているようだ。つまり、【捕食者】でモンスターを喰わないと、いずれメタモルでの変化が行えなくなってしまうのだろう。

 能力を吸収する必要のないモンスターでもこまめに喰って行かないと、いざという時に困ってしまうことになる。


「ふん、なるほどな」


 ジュリエッタの狙いがアリスにはわかったのだろう。

 というよりも、私にもわかった。


「それじゃ、残り、片づける」

「おう、とりあえず地上に放り投げてくれれば、後はオレが魔法で殺るぜ」

「うん」


 こくりと頷くとジュリエッタがメタモルを唱え、まるでプールに飛び込むように砂へと潜っていく。

 なるほど、サンドウォームを『喰った』ことにより、砂の海でも自在に泳げる能力を獲得したということか。

 そのまま地中でサンドウォームを相手にするのはいくら何でも厳しいだろう。目的は、地中にいるサンドウォームを地上へと追い出すことだ。

 地上まで登って顔を出しさえすれば、後はアリスの魔法でもぐらたたきよろしく叩いていくだけである。


「……どうやらわたくしの出番はなさそうですね」

”……そうだね”


 微妙にヴィヴィアンがほっとしているように思えるのは気のせいではないだろう。


「……む、虫はちょっと……」


 あ、そういうこと?


”私も虫は苦手だけど……何か、あのくらい大きいともう何とも思わないようになっちゃったよ”


 いや、そりゃ別に虫が得意になったわけではないんだけどさ。

 気持ち悪いというよりもむしろ、今の私の身体のサイズだと丸呑みにされそうで怖い、という感情の方が先に立つ。


「……姫様とジュリエッタがいれば、問題ありませんわ」

”まぁ、そうだけでね……”


 丸投げかい。

 とはいっても、この三人が全力で立ち向かわなければ勝てないようなモンスターは早々現れはしないと思うけど……。


”まぁ、まだ油断は出来ないし、私たちは二人が不意打ちを受けないように注意しよう”


 監視だって立派な役割だ。

 サンドウォームも何匹いるかわからないし、またあの大サソリが現れるかもしれない。

 ……地中でジュリエッタが暴れているのだろう、次々と地上へと打ち上げられ顔を出すサンドウォームとそれを一匹ずつ潰していくアリスの様子を見ながら、私はそう言った。




 う、うーむ……それにしても、ジュリエッタが加われば大分戦力が増すとは思っていたけど、これは想像以上かもしれない。

 『嵐の支配者』レベルのモンスターもいずれいっぱい出てくるかもしれないし、戦力増強は必要だったけど……現状、過剰戦力とも言える。

 このまま楽勝で『ゲーム』を進めていければいいんだけど……そういうわけにはいかないんだろうなぁ。


 ……という私の思いは、意外と早い段階で的中するのであった……。

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