第4章15話 恐怖のプレデター 7. 一時合流?
* * * * *
テスカトリポカ撃破――ジュリエッタの【
正直、ジュリエッタがテスカトリポカのように無数に分身を生み出し続けるような能力を手に入れてしまったとしたら、手が付けられなくなってしまう。
まぁ流石に無制限に分身を出せるとかではなく、もう少しマイルドになっていたとは思うけど……強力なモンスターを【捕食者】で取り込む程、ジュリエッタが強くなるのは疑いようがない。
……つくづく厄介な能力だ。モンスターの能力全てをコピーできるわけではないだろうが、それでも魔法で再現できるということは攻撃方法が通常の魔法少女とは比較にならないほど豊富で、こちらの想定を超えたものを出してくるということだ。
その上で本人の戦闘力が高いと来ている。クラウザーも使っていた
敢えて言うならジェーンがやや格闘向きという感じだが、基本的に魔法少女――『ゲーム』的にはユニットの呼称だが――の扱う
近い
……まぁテスカトリポカが今回限りの敵ではなく、今後も出てくるとなると話は別なんだけど……その可能性は充分ありえそうなんだよなぁ。流石に『嵐の支配者』みたいなのは何度も出てこないとは思うんだけど……ありす曰く『ラスボス素材、美味しいです』らしいからなぁ……。
「さて、とりあえずテスカは倒したが……ヴィヴィアンの方はどうだ?」
”あ、と。そうだね”
いつもなら討伐目標を倒したことだし、この後は『ゲート』に飛び込めば済むけれども、今回はそういうわけにもいかない。
ジュリエッタとの対戦をこのまま放棄しても別に損はないが、クラウザーとの戦いを逃げるのもなぁ……。
ヴィヴィアンのステータスを確認してみると――
”ん……かなり追い込まれてる……!!”
復帰待ち(対戦なのでリスポーンはない)になってはいないものの、体力ゲージがほぼ0に近い。
……あの体力お化けのヴィヴィアンをここまで追い込むとは……やはりジュリエッタは一筋縄ではいかない相手のようだ。
「むぅ……」
私の言葉を聞いてアリスも渋面となる。
テスカトリポカとの戦いにジュリエッタが乱入してこなかったことを考えれば、ヴィヴィアンは当初の役割を十分果たしていると言える。
対戦モードが解除されていない――私の勝利である表示が出ていないことから、まだジュリエッタは健在であることはわかるが、向こうがどの程度までダメージを負っているのかまではわからないが。
”とにかく、ヴィヴィアンを強制転移でこっちに呼び寄せよう。乱入対戦なら回復もできるし”
普通の対戦と違う点はここだ。
モンスターとの同時戦闘を想定しているためか、乱入対戦であれば
今回はクラウザーがこちらに来ていないので問題ないが、ユーザーが互いに介入してくるとなると長期戦となる恐れがある。
私は宣言通り、ヴィヴィアンを強制転移でこちらへと呼び寄せようとする。
だが――
「――その必要はございませんわ、ご主人様」
どこからともなく現れ、私たちにそう声をかけてきたのは、ほかならぬヴィヴィアンであった――
”ヴィヴィアン!? いつの間に……”
驚く私にわずかに微笑み、ヴィヴィアンは答える。
「テスカトリポカが斃れたことにより、枝の間に『隙間』ができましたので、そちらから」
……なるほど。言われて見ると足場となっていた枝の数が大分減ってかなり隙間が出来ている。
多分、探せば人間一人が余裕で通れるくらいの隙間が出来ているはずだ。
ヴィヴィアンはそちらを通り抜けてショートカットしてきた、ということだろう。
”ジュリエッタは?”
大分消耗しているのは見てるだけでわかる。あちこち傷だらけだ。
対戦が終わってない以上、こうしてのんびり会話をしている場合ではないかもしれない。それでも、おそらく直前まで彼女と戦っていたであろうヴィヴィアンに状況を確認することを怠るわけにはいかない。
私の問いかけに、少しだけ悲しそう……いや、申し訳なさそうな表情をし、ヴィヴィアンは答える。
「申し訳ございません……逃してしまいました」
”……そっか……”
どれだけの死闘を繰り広げたかはわからないが、それがどれだけ激しかったのかはヴィヴィアンの体力ゲージが物語っている。
死闘の果てにジュリエッタが一時撤退をした、といったところか。対戦がまだ続いていることから諦めてはいないようだが……。それでもおそらく向こうも無傷ではいられないだろう。
”わかった。一人でよく頑張ったね、ヴィヴィアン。
アリス、向こうはまだあきらめていないみたいだ。ヴィヴィアンと一緒に決着をつけよう”
と、珍しく
「ん? あー……」
心ここにあらず、というか何というか……余りやる気を感じられない返事をする。
……珍しい。何だろう、テスカトリポカを倒したことで満足した、とか?
「……さぁ、ご主人様、こちらへ」
私たちの方へと近づきつつ、ヴィヴィアンが手を広げる。
ジュリエッタとの対戦だけに集中すればいいのだ。ここからはいつも通りヴィヴィアンにくっついていた方がアリスの邪魔にならないだろう。
私はアリスの背から乗り出し、ヴィヴィアンの方へと向かおうとするが――
「なぁ、ヴィヴィアン」
「……なんでしょう?」
何てことのない世間話をするかのような気軽さでアリスはヴィヴィアンに語り掛ける。
「ジュリエッタは逃げたんだよな?」
「……はい。追いかけようとしたのですが、こちらへと向かっているかと思ったので合流を――」
言いかけたヴィヴィアンの腹部――鳩尾へと、アリスが無造作に『杖』を突き入れた!
「ごほっ!? ひ、姫様……っ!?」
……先端が槍とかになっていなかったのが救いだ。お腹を押さえ、呻いてはいるがヴィヴィアンは無事だった。
”ちょ、アリス! 何やってるの!?”
私の抗議の声は無視し、アリスは鋭い視線でヴィヴィアンを睨みつける。
「使い魔殿も聞いてくれ。
……ヴィヴィアンはな、確かに直接的な戦闘力はそれほど高いわけでもないし、まぁオレたちからすると出会いの印象がアレだったから弱弱しいやつに思えるが――」
……う、確かにその印象はないわけではない。
もちろん、一緒に戦っているうちにそれはただの印象であって、実際に違うということはわかっているつもりだったけど……。
アリスは続ける。
「ちょっと油断するとオレの胸を揉もうとしたり、執拗にスカート履くことを要求してきたり、体育の時間の時にねっとりと視線を向けてきたり……ああ、水泳の授業の時とか結構凄かったな……」
……ヴィヴィアン、ていうか、桃香……君は……いや、何も言うまい。いやいや、このクエストが終わったらちょっとお説教が必要だ!
ていうか、全部ありすにバレてるじゃんか! そしてやってることが悪質だよ! セクハラ親父そのものじゃん!
「後、かなりの甘ったれで人に頼るし――」
そこに関しては前回散々苦しまされた原因で知っている。望む望まないに限らず、彼女は人に助けられてしまう――まぁ彼女自身もあきらめが早くて人に頼りがちな面もあるんだけど。
「――だがな、あいつは『自分でやる』と言ったことについては、そう簡単にあきらめたりしねぇんだ」
――……。
「だからな、ジュリエッタが逃げたって言うなら、あいつはジュリエッタを追うはずなんだ。それこそ、ジュリエッタがこのクエストから脱出するか、ヴィヴィアンの体力がなくなるかしない限り、地の果てまでな」
……事ここに至り、ようやく私も気づいた。
今、目の前にいるヴィヴィアン――の姿をした『誰か』は……。
「残念だったな、
「……チッ」
無表情から一変、憎々し気に顔をゆがませて舌打ちすると、ヴィヴィアンの姿が変わる。
ドロン、という効果音が相応しい感じの煙に体が包まれたと思ったら、次の瞬間にはそこにはヴィヴィアンではなく、ジュリエッタの姿があった。
……ディスガイズの力か! モンスターに化けるのはわかっていたけど、ユニットにも化けることが出来るとは……。
”ジュリエッタ……! ヴィヴィアンはどうしたの!?”
「……さぁ?」
体力ゲージが残っているということはとどめは刺されていないのは確実だが、ジュリエッタがここにいてヴィヴィアンがいないということは……気絶させるか、あるいは何らかの方法で動きを封じたということか。
もしヴィヴィアンを完全に倒したとすれば、私が気が付く。
おそらく、ジュリエッタは――テスカトリポカをアリスが倒すのは防げないとどこかで判断したのだろう。だから、途中でヴィヴィアンを倒さずに無力化させることで動きを封じ、
……本当に厄介な相手だ。アリスが気づかずに彼女の元に私が行ってしまったら、ダイレクトアタックで倒されてしまっていたかもしれない。
『強くなるため戦う』と言っていたが、不意打ちも厭わない姿勢が特に厄介だ。
卑怯とは言うまい。『強くなる』というのは、結局この『ゲーム』で『勝つ』ことである。
そして、手っ取り早くこの『ゲーム』で勝利するためには、他の全プレイヤーを排除することだ――クラウザーがそれを目的として対戦を重視しているのだから、彼に望んで付き従うジュリエッタが
「ふん、まぁいい。で? 貴様……このままリザインして終わるのか?」
「まさか……」
アリスの言葉にジュリエッタは首を横に振って返す。
そうだよね……このまま大人しくリザインしたり、私たちがクエストから脱出するのを見送ってくれるわけないよね。
「不意打ちは失敗したけど……ジュリエッタ、お前たちを倒す」
表情自体は相変わらず無表情のまま、こちらへと鋭い視線を向けてジュリエッタは言った。
どうやら、彼女を打倒さない限り、このクエストを終わらせることは出来ないようだ……。
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