第4章12話 恐怖のプレデター 4. 反撃開始
思い返せば不自然な点はあった。
このステージ全体を覆う植物――通路を塞いだりしているものもあったが、それらはアリスの魔法で排除することが出来ていた。まず、これがおかしい。
今回のクエストは『オブジェクト破壊不可』というルールがある。
最初によく確認しなかったのが悪いのではあるけど、まず『オブジェクト』とは一体何を指すのか?
……結論から言うと、この『オブジェクト』とは、『モンスター以外の全て』だと私は思う。
てっきり私たちは建物だけが対象だと思い込んでいたが、そうではないのだ。建物、岩、地面……それに
そう考えると一点、不自然なことがあったのがわかる。
最初にピラミッド型ビルへとアリスが《赤色巨星》を撃ち込んだ時、
オブジェクト破壊不可、かつオブジェクトに植物も含まれるというのであれば、なぜこの時に植物だけがアリスの魔法で吹き飛んだのか。そして、あくまで
だからこう思うのだ。
あの時吹き飛んだ植物はオブジェクトではなく、吹き飛ばなかった方はオブジェクト――つまり、
すなわち、その植物に見える何かこそがモンスター……このクエストの討伐目標であるテスカトリポカなのではないか。アリスはそう考えたのだ。
「来るぞ!」
ひらひらと舞い落ちてきた葉っぱ――が空中で蝶のような姿へと変わり、建物内に逃げ込もうとした私たちを追いかけてくる。
一匹ずつは今まで戦ったどのモンスターよりも小型だが、数が多すぎる。
建物内へと逃げ込もうにも、私たちは囲まれてしまった。
”ヴィヴィアン、《フェニックス》を!”
「かしこまりました! オーバーライド《フェニックス》!」
《フェニックス》でまとめて焼き払い、突破口を開こうとする。
だが、
「……メタモル」
舞い落ちてきた葉っぱの中からジュリエッタの声が聞こえていた。
「くそっ!」
アリスが声の聞こえた方――ヴィヴィアンの背後へとすぐに回り込み、『杖』でジュリエッタの攻撃を受け止める。
どうやらディスガイズで葉っぱへと化けて紛れ込んでいたようだ。
……本当に厄介な能力だ。モンスターと一緒に襲ってくる上、ジュリエッタ自身はモンスターから攻撃されない。更には私のレーダーでも判別が出来ないときている。
メタモルも何をしてくるのか読みづらいし、毒やらのモンスターの持つ特殊能力を再現することも出来る。
……そうか、アリスがさっき言いかけたことが何となくわかった。
この戦い、まずはテスカトリポカを倒さないとこちらが不利だということの意味――まずはテスカトリポカの圧倒的な物量に紛れ込んでくるのが厄介だ。それは今身を持って体験している。いくら何でも、大量のモンスターと同時にジュリエッタの相手をするのはきつい。
そしてもう一つ……もしもジュリエッタがテスカトリポカ本体を【
【捕食者】の言う『モンスターを吸収する』の意味がどこまでの範囲を指しているのかは不明だ。もしかしたら吸収されてもそこまで困ったことにはならないかもしれない――そんな楽観はしていられないのはわかっている。
何にしろ、モンスターと同時に襲い掛かってくるこの状況を何とかするのが先決だ。そのためにも、まずはテスカトリポカ本体を先に倒す……その順序は間違っていないと思う。
「cl《炎星雨》!」
ジュリエッタと蝶型テスカトリポカを巻き込むようにアリスが範囲攻撃を仕掛ける。
蝶型はアリスの魔法と《フェニックス》の炎で簡単に燃え尽きていくが、ジュリエッタは右腕を楯――亀の甲羅のような姿に変えて真正面から《炎星雨》を受け止め、更に接近してくる。
流石に避けずに受け止めてくるとは思わなかったか、アリスの対応が遅れた。
「姫様!」
そこへ今度はヴィヴィアンが回り込み、ジュリエッタへと炎の翼を叩きつけようとする。
「……むぅ」
一点の攻撃はともかく、ジュリエッタの小柄な体全てを包み込むような炎は流石に防げないのだろう。今度は受け止めることはせずに素早く後退してかわす。
「危なかった……助かったぞ、ヴィヴィアン」
「いえ……」
やはり、二人で組んで戦うにしても、モンスターと一緒に襲われては辛いか。早めにテスカトリポカを何とかしないと……けど、ジュリエッタがそれを簡単に許すとは思えない。
「……ご主人様、姫様」
「ん? どうした、ヴィヴィアン」
ジュリエッタから目をそらさず、炎を周囲にまき散らしながらヴィヴィアンが静かに宣言する。
「ここはわたくしが受け持ちます。ご主人様たちは、テスカトリポカ本体を討ってくださいまし」
――それは……。
「……よし、わかった。ヴィヴィアン、ジュリエッタは任せたぞ」
私が答えに悩むものの、アリスはすぐさまヴィヴィアンの言葉に頷く。
ここでヴィヴィアンがジュリエッタの相手をして足止め、その間にアリスがテスカトリポカ本体を叩きに行く――作戦としては悪くない。テスカトリポカ本体がどのような能力を持っているのかはわからないが、強大なモンスターを単独で相手にするのであればアリスの方が向いている。
でも……ヴィヴィアンが一人でジュリエッタと戦うというのも不安が残る。召喚獣が強力とは言え、ヴィヴィアンは決して一人での戦闘が得意というわけではないのだ。
そんな私の不安等気にすることなく、二人はそうすることが当然とばかりにわかりあっている。
……アリスとヴィヴィアンは互いに信頼し合っている、ということか。
”……わかった。それでいこう”
私が二人を信じないわけにはいくまい。
ここはヴィヴィアンに任せ、手っ取り早くテスカトリポカを倒して合流。そしてジュリエッタと戦う――これが今のベストだ。
「お任せください。
ふふっ、足止めだけでなく、倒してしまっても構わないのでしょう?」
そりゃ、ヴィヴィアンがジュリエッタをここで倒してしまえれば理想的だけど……そのセリフ、何か凄い不安になるんだけど……。
とにかく、ヴィヴィアンはオーバーライドを使って魔力を大分消費している。この後ジュリエッタと一人で戦うにしても彼女の魔力消費は大きい、ここで回復しておこう。
私はヴィヴィアンにキャンディを与えると、アリスの背に掴まる――何か久しぶりのアリスの背中だなぁ。
「……ヴィヴィアンが、ジュリエッタと戦う……?」
話している間にもヴィヴィアンは炎の翼を振り回してジュリエッタをけん制していた。こちらの会話も聞こえていたのだろう、ジュリエッタは首を傾げる。
おそらく、ヴィヴィアンではジュリエッタの相手は務まらない、と思っているのだろう。実力をなめているわけではないだろうが……これは癪に障る。
”よし、行こう、アリス!”
「うむ!」
とにかくここはヴィヴィアンに任せる。
ヴィヴィアンがジュリエッタを相手に足止めするにしても、小型テスカトリポカの群れは相変わらず襲ってくるだろう。
ならば一刻も早くテスカトリポカを倒せば、ヴィヴィアンも大分楽になるはずだ。
私とアリスはすぐにその場を離れ、テスカトリポカ本体を目指す。
ジュリエッタは追いかけてこようとはしない――ヴィヴィアンに牽制されているというのもあるが、向こうとしては一人ずつ倒していけば勝利が容易になるという思いもあるのだろう。
……急がないと。
”それで、アリス。テスカトリポカ本体の位置はわかっているの?”
肝心なことを聞き忘れていた。
テスカトリポカ本体がどこにいるのかわからなければ、うろうろするだけで時間を浪費してしまう。
「あー、わからん」
”えぇ……?”
だがあっさりとアリスは本体の位置がわからないと告白する。
……のだけど、にやりと笑って続ける。
「わからんから、
……嫌な予感がするなぁ……。
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