第4章11話 恐怖のプレデター 3. 冥獣の正体
「メタモル」
アリスへと迫ったジュリエッタが
彼女の両腕がまだら模様の獣の腕――テスカトリポカの腕へと変化する。
「姫様!」
無防備になったアリスへと襲い掛かるジュリエッタに、ヴィヴィアンが助けに入る。
巨大注射器をジュリエッタへと向けて突き出すが、インストールしているとはいえライズで強化したジュリエッタのスピードには遠く及ばない。
命中はしなかったものの、ジュリエッタの動きを一瞬だけ止めることに成功。その隙にアリスが体勢を立て直しジュリエッタへと再度魔法を使う。
「cl《
アリスとジュリエッタの間に割り込んだヴィヴィアンを巻き込まないように片手で抱きかかえて巻き込まないようにし、ジュリエッタへと至近距離から《炎星雨》を浴びせかける。
「……メタモル」
流石にこれはかわせないだろう、そう思った私たちだったが、先程と同様にジュリエッタは全身をスライム状に変化させて《炎星雨》を回避――正しくはスライム状になって地面にぼとぼとと落ちてかわしてしまった。
そしてすぐさま人型へと戻ると、
「メタモル」
再度メタモルを使う――が、今度はどこが変化したのかわからない。
「ヴィヴィアン、下がれ!」
変化した箇所がわからなくてもやることは変わりない。
アリスが前へと出て地面に降り立ちこちらを睨むジュリエッタへと鎌を振るう。言われるがままヴィヴィアンは下がり、ジュリエッタの予想外の動きに備える。
振るわれた鎌がジュリエッタの左脇へと迫る――が、なんとジュリエッタは鎌を左腕で
「げ、マジか!?」
完全に効いていないわけではない。ほんの少し刃がジュリエッタの腕に食い込んでいるのがわかる。
よく見るとジュリエッタの左腕が黒く変色している。細かい、黒い鱗がびっしりと生えているのだ。
……そんなもので全力で振るった刃物を、しかも《
彼女の
となると何かカラクリがあるはず――そして、それに私は心当たりがあった。
それは、彼女の持つギフトだ。最初にスカウターで見た時に、最後の一つの魔法――おそらくは先程テスカトリポカに変身していた魔法だと思うけど、もしかしたらあれもメタモルなのかも――だけは正体がわからなかったが、メタモルとライズについてだけでなく、ギフトについてもわかっていたのだ。
彼女のギフトは【
ギフトで吸収したモンスターの能力を、メタモルで再現している――そう考えると、ジュリエッタのあの異様な変化も説明がつくと思う。
この事実を遠隔通話ででも二人に伝えたいが、その隙がない……。
「メタモル」
鎌を受け止めると同時に、再度メタモルを使用。やはり見た目に変化はないが……。
と、ジュリエッタが何やらもごもごと口を動かすと、アリスへと向けて口から『何か』を放つ。
「うおっ!? 汚ねぇな!?」
アリスの顔目掛けて放たれたのは、どうやらジュリエッタの『唾』のようだ。
咄嗟に顔を背けてかわしたため、『唾』はアリスの左頬を掠めていっただけに終わる。
アリスもやられるだけではなく《炎星》を放って反撃をする。が、ジュリエッタは今度は素直に後ろへと下がって回避、こちらと距離を取ってしまう。
彼女の戦闘スタイルからすると距離を取ることに余り意味はない気がするけど……。
「……
そう彼女が呟くと、幼い少女の姿が一瞬のうちにジャガー型のテスカトリポカへと変化する。
……これが彼女の第三の魔法か! 条件は不明だけど、モンスターの姿へと変化する――肉体の一部分を自由自在に変化させるメタモルとは異なり、全身丸ごと変化させる、
信じがたいことに、ジュリエッタの姿がテスカトリポカとなると同時に、レーダーにもモンスター反応が現れる。私のレーダーは、ジュリエッタをモンスターとして認識しているということだ。
そして、今テスカトリポカへと変身した意図についてはすぐにわかった。またテスカトリポカたちがこちらへと向かって来ていたからだ。
”拙い、またテスカトリポカが来る! ジュリエッタはそっちに紛れ込んで不意打ちするつもりだ!”
テスカトリポカは今のところ無限湧きと思えるくらい、際限なく現れてくる。その中に紛れ込んでしまえばもうわからなくなってしまう。そうすれば、ジュリエッタは隠れつつこちらを不意打ちすることが出来るというわけだ。
おまけに面倒なことにディスガイズで変身してしまうとモンスター側からは味方と認識されるのか、攻撃されることがない。
乱入対戦にこれ以上向いた能力はないだろう。乱入対戦で一番恐ろしいのは、モンスターからも攻撃されるという点なのに、それを無効化できるというのだから。
”……アリス?”
ジュリエッタを追撃すると思いきや、アリスは動かない。
「姫様!?」
アリスの方を見ると、苦しそうな表情でアリスが膝をついている。
一体何が!?
「ぐっ……くそっ、『毒』か……!?」
確かにアリスのステータスには『毒』という表示がされている。
――さっきの『唾』か!?
直撃しなくてもいい、掠るだけでも毒状態にする唾を吐きつけ、それが命中したことを確認したからジュリエッタは下がり、モンスターの群れに紛れ込むことにしたのか。
”ヴィヴィアン、回復を!”
幸い今ヴィヴィアンは《ナイチンゲール》をインストールしている。彼女の魔法ならば毒でも何でも治すことが可能だ。
だが、アリスを回復する余裕もなく、部屋へとテスカトリポカの群れが雪崩れ込んでくる。
「ヴィヴィアン、外だ……!」
苦痛に顔を歪めつつも、アリスがヴィヴィアンに外へと逃げるように指示をする。
疑いを持つこともなく、ヴィヴィアンはアリスを抱きかかえると、先程モンスターが破った窓から外へと躊躇うことなく飛び降りる。
「cl……《
落下前にアリスが《天脚甲》で浮遊、空中でヴィヴィアンがアリスへと回復薬を注入する。
すぐには毒は治らないようだ。かなり強力な毒を受けたらしく、毒のステータスが消えない――体力の減少は緩やかになっているのだが……。
「くっそ、油断した……使い魔殿、あいつが追いかけてくる前に、能力を教えてくれ」
”う、うん……”
もっと早くに教えられれば、アリスが毒を受けることもなかったかもしれないが、今更悔やんでも仕方ない。
私は二人にジュリエッタの持つ能力――
「……一つ気になったのですが」
のんびりしてもいられない。一旦地上まで降り、見晴らしのいい場所でいつジュリエッタとモンスターがやってきてもいいように警戒しつつ、アリスの回復を待つ。
そんな時、ヴィヴィアンが疑問を呈する。
「ジュリエッタの魔法……わたくしたちのものと異なり、
”……ああ、そういえば、確かに……”
戦闘中はそれどころではなかったので気にもしていなかったが、確かにジュリエッタの魔法はアリスとヴィヴィアン、それにホーリー・ベルやジェーンたちとも異なる『法則』で発動しているようだった。
具体的には、ヴィヴィアンが言う通り『一語』――『メタモル』『ディスガイズ』のキーワードだけで魔法が発動していることだ。
私の知っている魔法少女の魔法は『二語』で発動する。例えばヴィヴィアンならば、『サモン』で使う魔法を宣言し、次に実行する魔法(召喚獣)の名を指定することで召喚魔法が発動する。アンインストールについては、インストールが自分自身を対象としているためわざわざ目標を指定しないでも使える例外かと思っていたけど、ジュリエッタの魔法を見るとどうもそういうわけではないらしい。
他にも特異な点はある。先のアンインストールのように対象が明白である場合ならともかく、『メタモル』『ディスガイズ』に関しては他の魔法を見る限りより細かな指定が必要になりそうなものだけど……。
「む……まぁ、そこは考えても仕方ない……」
アリスの言う通り、考えてもわからないものは考えるだけ時間の無駄だろう。
他の魔法のように『何をしてくるか』がわからない点を注意するしかないか。
「……それよりも、もっとヤバいことに気付いたぜ」
アリスも大分体調が回復してきたのか、顔色が良くなってきたように見える。
”ヤバいって、何に……?”
現状、ジュリエッタの攻撃は変幻自在で読みづらく、更にはモンスターと一緒になって攻撃してくる厄介なものだ、ということはわかるが……。
一体アリスは何に気付いたというのか。
「……もし、オレの予想が正しければだが――ここでジュリエッタよりも先にテスカトリポカを倒しておかないと、かなり拙いことになりそうだ」
”……どういうこと?”
そういえば、アリスはテスカトリポカについても何か気付いたんだっけ。戦闘続きでその予想についてまだ何も聞けていないんだけど。
「今使い魔殿から聞いた奴のギフト……『モンスターの能力を吸収する』というのと、メタモルの効果は
多分、ギフトで吸収したモンスターの力をメタモルで再現できるんだと思う。もう一つのディスガイズも……もしかしたらそうなのかもしれないな」
……なるほど、確かに。
テスカトリポカの体の一部分をメタモルで再現したり、ディスガイズでテスカトリポカ自身に変身したり出来る理由は、モンスターの能力を吸収するという【
「で、だ。そんなあいつがテスカトリポカ
「テスカトリポカの……本体、でございますか?」
このクエストの討伐目標となるテスカトリポカ――確かに何匹も小型のテスカトリポカは倒しているけど、一向にクリアできる様子はない。
となればどこかに大本となる『本体』がいると考えるのが自然だけど……。
「ああ。オレの予想では、テスカトリポカの本体は――」
アリスがテスカトリポカについて彼女の予想を話そうとした時だった。
ひらり、ひらりと空から小さな葉っぱが幾つも落ちてくる。
広場の遥か上空、ビルとビルを結ぶように覆う植物――そこから生えている葉っぱが落ちてきているようだ。
だが、様子が少しおかしい。
落ちてきているのは青々とした葉っぱではなく、まるで枯れ葉のような赤茶けた葉っぱだった。
ふと上空を見上げてみると、ビルとビルとを結ぶ木の根の『天井』……そこから落ちてきているようだが、『天井』の裏に何かがいるようには見えない。
だというのに、葉っぱが一杯降ってくる……? 外はともかく、この植物に覆われた『内部』ではほとんど風が吹いていないというのに……?
「! ヤバい、赤い葉っぱに近づくな! ヴィヴィアン、逃げるぞ!」
アリスが叫ぶと共に、何の疑問も持たずにヴィヴィアンは行動に移る。
降り注ぐ葉っぱから逃れるように、アリスとヴィヴィアンは建物内――ジュリエッタから逃れた方ではなく、別の建物内へと急いで逃げようとした時だった。
赤い葉っぱが、空中で突如『開いた』。
――木の葉蝶、とでも言うのか。赤い葉っぱが大きく開き、巨大な『蝶』へと姿を変える。
まさか、これもテスカトリポカだというのか!?
”……嘘でしょ……モンスター反応、多数……!?”
蝶型のテスカトリポカが正体を現すと同時に、私の視界に映るレーダーが一気に敵の反応で埋まる。
レーダーだけで見たら逃げ場がないくらいだ。
「ああ、ちくしょう!」
逃げながらも悔しそうにアリスが毒づく。
……どうやら彼女の予想は当たってしまっていたらしい。
そして、事ここに至って、私たちもテスカトリポカがどういうモンスターなのか、薄々気づき始めた。
「テスカトリポカの本体は……このステージを覆う
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