第4章10話 恐怖のプレデター 2. 急襲
* * * * *
”こんな時に……! またモンスターがやってくる!”
ジュリエッタが姿を消してすぐ、こちらへと向かってくるモンスターの反応があった。
少し離れた位置にいたのは把握していたのだが、どうやら戦闘の音を聞きつけてきたようだ。
「……ここで迎え討つ」
消えたジュリエッタがどこから現れるかわからない。かといって、ここから移動しても特に有利になるわけではない。
だったら多少はスペースのあるこの場でそのままモンスターと交戦、ジュリエッタを迎撃する方がいい。
”わかった。ヴィヴィアン、今のうちに《ナイチンゲール》のインストールを”
「かしこまりました」
さっきはヴィヴィアンのサモンとオーバーライドでうまい具合に凌げたが、モンスターはともかくジュリエッタには二度目は通じないだろう。
だったらもうヴィヴィアンはインストールで自身を強化しておいた方がいい。
こちらの準備は整った。後はモンスターとジュリエッタを迎撃するだけ……というところで、異常事態が起きていることを私は気づいた。
”え……?”
「ん、どうしたのだ、使い魔殿?」
”い、いや……モンスターの数が……どんどん増えてくる!?”
遠くからこちらに寄ってくるものもいるのだが、レーダーの中にいきなり現れてきた反応が幾つもあるのだ。
文字通り、どこからか湧いてきたとしか思えない現れ方だ。
「……ふむ……?」
だが、アリスは私の言葉を聞いて思案顔をする。
彼女にとってはモンスターが急に湧き出すこと自体は特に疑問に思うようなことではないのだろうか。
……まぁ、確かにドラハンとかのゲームでもモンスターってそういう湧き方をすることあるし、そういうものだと考えれば疑問にもならないのかもしれないけど。
「――もしかして……」
”アリス?”
「……このクエストの
え? このタイミングで?
私とヴィヴィアンのそんな思いは伝わったのか、アリスは苦笑いを浮かべる。
「ああ、まぁもしかしてってレベルだ。
それに――ジュリエッタとの決着をつけてからじゃねぇと、終わらせられないしな」
そうアリスは言う。
……ジュリエッタとの対戦については、クエストクリアまで持っていければ決着をつける必要もなくなる。ゲートまで逃げ切る必要はあるが。
でも、アリスたちはきっちりと決着をつけたがるだろう。そういう子たちだともうわかっている。
今回は私としても出来れば決着をつけておきたいという思いもある。クラウザーとの再戦でもあるのだ。
”うーん……わかった。とにかくまずは向かってくるモンスターを倒そう。クエストのボスをどうするかはその後で!”
結局、問題の先延ばしということになってしまう。
ジュリエッタと先に戦うか、クエストのボスと先に戦うか――まぁクエストのボスはまだアリスの予想でしかないし、ジュリエッタに妨害される恐れを考えれば、やはりジュリエッタとの対戦を優先した方が安全ではあるが……問題はジュリエッタに勝てるかどうか、かなぁ……。
ただ、私としては一点気にかかっていることがある。
それはスカウターで見たジュリエッタの能力――魔法は2つが判明、1つは不明だが、ギフトについても実はわかっている。
彼女のギフトは――と、ここでモンスターが私たちのいる部屋へとたどり着いた。
”来るよ!
……やっぱりジャガー型のテスカトリポカか!”
部屋の入口から侵入してきたのは、前まで戦っていたジャガーの姿をしたテスカトリポカだ。その数は5体。だが、更に続々とやってくるのがレーダーの反応でわかる。
「よし、蹴散らすぞ!」
”ジュリエッタがどこから来るかもわからない、気を付けて”
対戦の時に相手ユニットがレーダーに映らないのは不具合だと思うんですけど! ……まぁ、直接戦闘力が低くて、姿を隠しつつ戦うというような戦法を取るユニットがいた場合、レーダーで丸わかりとかなったら悲惨なことになっちゃうか……。
それはともかく、ジュリエッタの不意打ちを警戒しつつ、今はモンスターを迎撃しなければ。
攻撃はアリスに任せ、ヴィヴィアンと私は後ろから援護、およびジュリエッタの警戒だ。
「cl《
まずは部屋に侵入してきたテスカトリポカを一掃。
続けて後からどんどん湧いてくる敵を片っ端から片づけていく。
……うん、やっぱりモンスターはテスカトリポカしかいないようだ。象型の方が出てきたら少し手間取るが、ジャガー型ならばアリスの魔法で簡単に倒せる。数が多いのが問題と言えば問題だけど、『嵐の支配者』の時みたいな無茶な数出ない限りは、私の回復が間に合うはず。
そのまましばらくはやってくるモンスターを迎撃していたのだが……。
”! アリス、窓の方からも来るよ!”
「おう!」
部屋の入口以外のところからもモンスターがやって来ようとしていた。
外壁を伝って、窓――は既になく植物で覆われているだけだが――のあった場所から植物をこじ開けて入って来ようとしているのだ。
……あれ? 実はこの部屋、窓から入られたら結構拙い?
”……しまったな、モンスターが植物の壁をこじ開けてくるとは思ってなかった……”
むしろなぜその可能性に気付かなかったのか。迂闊だった。
「あー、まぁ仕方ねぇ。つーか、こっちはオブジェクト破壊不可で色々制限されているのに、向こうはお構いなしなのがなー」
それゆえの高難度と言われればそうなのかもしれないが、理不尽と言えば理不尽だ。今に始まったことじゃないけど……。
あ、いやでも、植物の壁は一応こっちも魔法で壊せることは壊せるか。
”ヴィヴィアン、アリスの背後を守って!”
「かしこまりました!」
全方位を一人で受け持つことは――まぁアリスなら出来ないこともないけど、ジュリエッタの不意打ちも警戒する必要がある。任せられるところはヴィヴィアンに任せた方がいい
二人は背中合わせとなり、侵入してきたテスカトリポカたちを迎え撃つ。
「md《
アリスは『杖』を炎の鎌へと変化させ、現れたテスカトリポカを纏めて薙ぎ払う。
通路ならともかく、この室内であれば十分鎌を振り回すだけのスペースはある。
最初に現れた五匹に続いて現れた分も一蹴、ついでにあちこちの植物も焼き払う。
「はっ!!」
アリスの背後を守るヴィヴィアンも負けてはいない。
まだ《ナイチンゲール》をインストールしたままだが、サポート向きとは言っても戦闘力は通常のヴィヴィアンの比ではない。
巨大注射器を振るいテスカトリポカを串刺しにし、あるいは『毒素』を注入して動きを止める。
そこへ、手の空いたアリスの攻撃でとどめを刺す。
ここまでは問題ない。むしろ順調なくらいだ。
……しかし、相手の数は一向に減ることがない。むしろどんどん増えていっているように見える。
このまま戦い続けていても消耗し続けるだけにしか思えない。『嵐の支配者』戦と同じ展開だ。
”……いっそ、ジュリエッタは放置して、アリスの予想を確かめに行くか……?”
どうせ放っておいてもジュリエッタはこちらへと向かってくるだろう。
彼女を警戒しながらというのは危険もあるかもしれないが、このまま消耗し続けるわけにもいかない。
というより、ジュリエッタの狙いはむしろ私たちの消耗なのかもしれない――私たちだけ狙われてジュリエッタが狙われない理由はわからない。何かテスカトリポカの攻撃を回避する方法があるのかもしれないが……。
テスカトリポカの襲撃は全く止む気配がない。ただ、窓の外からは余りやってこず、部屋の入口から来るのがほとんどにはなっているので対処はやりやすくなった。まるでもぐらたたきみたいだけど。
「ふむ……中々あいつは現れないな……なら、いっそこっちから動いてしまうというのもありか」
テスカトリポカは相手にならない。出てくる傍からアリスの鎌によって切り裂かれている。
魔力の消費はほぼない。強いて言うなら『面倒』というくらいか。
前言撤回。場所が限定されていて、かつテスカトリポカが風竜よりも強くないことを考えると、『嵐の支配者』の時ほどの脅威や焦りは感じないな。
ジュリエッタの狙いが私たちの消耗であるなら、現状は時間がかかるだけで大した意味はない。むしろ、アリスの【
……うーん、このままアリスのステータスを上げ続けるか、それともこちらから動いてジュリエッタを誘い出すか……。
私たちが次の行動を決めようと悩んでいた時、既にジュリエッタは次の行動に移っていた。
「む!?」
部屋に侵入してきたテスカトリポカをアリスが鎌で薙ぎ払った――その時侵入してきたのは四匹だったのだが、そのうち一匹がアリスの鎌を回避した。
テスカトリポカは入ってくるなり私たちに向けて飛び掛かって来たのだが、回避した一匹はアリスへとすぐに飛び掛からず、他の三匹を前に出して後ろで踏みとどまったのだ。
大鎌の利点は攻撃範囲の広さにあるが、逆に欠点として大振りにしかならず、一度振り抜いた後に再度返す刀で切り付ける、ということがしづらい点にある。
そこまでわかった上での行動かは定かではないが、あの一匹のテスカトリポカだけ、アリスの攻撃を回避したのだ。
アリスが鎌を振り抜いた瞬間、踏みとどまったテスカトリポカがアリスへと飛び掛かる。
「チッ……cl《
だがその程度で相手の攻撃を食らうアリスではない。
振り抜いた不安定な姿勢なものの、すぐさま魔法を使いテスカトリポカを迎撃しようとする。
向かってきた相手に対して直撃するコースだ。流石にこちらはかわせない――そう私たちが思った瞬間、
「……ライズ《アクセラレーション》」
テスカトリポカが、そう呟いた。
これは……ジュリエッタの魔法!?
魔法を使った瞬間、テスカトリポカの姿が消える……いや、姿がジュリエッタへと変わった。
――見えなかった三つ目の
加速したジュリエッタが《炎星》をかわしながら、アリスへと迫る――
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