第3.5章3話 第一回JS座談会withラビ(後編)

 それにしても、意外と七燿の人間って多いものなんだなぁ。もっと謎めいた秘密の一族的なものを想像していたけど。

 昔からある由緒正しい家柄ってくらいの考えでいいならよくある話なんだろう。その中の一部が大きな影響を与える地位についているというだけで。

 ……特殊能力云々は流石に眉唾だとは思っている。


「そういえば――」


 と、ここで桃香がふと思い出したように言った何気ない言葉が、私たちにとっての『爆弾発言』となった。


「ありすさんが好きだと以前仰っていた『マスカレイダー』……確か、あの役者の方も七燿の方でしたわね」

「……ん?」

”……え?”


 今、なんと?

 私たちの反応に気付かず、桃香は続ける。


「わたくしと同じ桃園の筋の方ですわね。何度かお会いしたことが――」

「その話、詳しく」


 がしっと桃香の両肩を掴んで、真剣なまなざしでありすは言う。

 異様なありすの迫力に流石の桃香も怯んだものの、続ける。


「え、えぇ……。

 紅梅こうめ海斗さん――でしたっけ。一応、七燿桃園の血筋の方ですわ」


 紅梅海斗とな!? 間違いない……。

 少し説明が必要だろう。

 今桃香が名前を挙げた『紅梅海斗』という人こそ、私たちが愛してやまない『マスカレイダー VVヴィーズ』の主人公である加賀美光太/キョウを演じた役者さんなのである。

 まだ18歳(この世界のウィキペディアより)の現役男子高校生であり、運動神経抜群のバリバリの体育会系でもある。マスカレイダー以外のスポーツ番組――私の世界でいう猿飛佐助的なアレっぽいやつ――にも出演し、プロアスリートと互角の勝負を繰り広げるという割ととんでもない身体能力の持ち主だ。

 そうか……彼も七燿の人間なのか……。確かに名前に『梅』が入っている、『桃園』の家だと色繋がりではなく花繋がりなのかも。

 今更な話だが、ありすも私も『VV』が好きである。大ファンと言っても過言ではない。もし私が前世と同じように仕事をしていて自分の収入があったとしたら、円盤やらムック本やら買いあさっていたに違いない――流石に変身ベルトとかまでは私は手を出さない……と思うけど。


「確か、桃園台小の卒業生ですわね。今は仕事と学校の都合で『桃京』の方で一人暮らしされているそうですが、ご実家は割と近所ですわ」


 『桃京』とはこの国の首都のことだ。日本でいう東京の東半分に当たる街である。

 ……というか、桃園台の出身なんだ。世間は狭いというか何というか……。


「おお……」


 驚きなのか感動なのか、よくわからない表情のありす。

 まぁ私も結構驚いているんだけど。


「ん? 恋墨ちゃん、海斗君のこと好きなの?」


 美々香も顔を輝かせている。

 ……彼女はどうやら海斗氏のファンらしい。イケメンだしね。

 ……ふと気付いたけど、海斗氏も中々ワイルド系のイケメンだ。ありすのお父さんとイケメン傾向は似ている。となると、美々香がファンになるのは当然と言えばそうなのかもしれない。


「ん。あの人は、実にいい」


 ありす的にはお父さんと系統同じでも気にしないらしい。やっぱりお父さん自体は嫌いではないみたいだ。

 ただ、ありすの場合は海斗氏そのものというよりは、『VV』が好きだから、という理由の方が大きいだろうが。


”そうだね。演技も上手いし、私も好きだよ”


 私も同意する。

 『VV』も最初の方は演技もそこまでではなかったのだが、回を重ねるごとにどんどん上手くなっていってるのがわかった。

 一人二役、かつ全く性格の異なる主人公二人の演じ分けも実に巧妙で、後半の方は本当に二人いるんじゃないかと思ったくらいだ。

 特に二人がマスカレイダーに変身する時には、それぞれがポーズを決めて「変身!」と叫ぶのだが、それがぴったりと合わさった時のカッコよさは異常だった。


「あー、そっか。マスカレイダーやってたもんね。あたしも見てたよ」


 海斗氏のファンならチェック済か。義務だもんね、仕方ないね。


”私もあれ見て好きになったよ。レイダー以外のドラマとかもいずれ出るかもしれないし、楽しみだねー”

「ん。わたしはレイダーの劇場版が楽しみ。絶対観に行く……!」


 毎年恒例のことなのだが、マスカレイダーは劇場版が存在する。放映中のレイダー単独の映画と、新レイダーと旧レイダー(今回の場合は『VV』と『フィオーレ』)の共演する映画の二つだ。是非私も見たいところだけど、この体で映画館に行くのは……どうかなぁ……。仮に潜り込めたとしても、タダ見するのはちょっと……。


「わたくしも多少は見てましたわ。地元出身、そして桃園の方の番組でしたし」


 意外にも桃香も『VV』は見ていたらしい。こういうのあまり見るイメージない子だけど、彼女の言葉通り『縁』のある人が出演しているわけだし、見ておかしいわけではないか。


「『VV』面白かったよねー。誰が好きだった?」


 ……と、更なる爆弾発言を美々香が投げかける。

 あれ? それ聞いちゃう?


「光太」

”キョウ君”


 私とありすが同時に違う名を挙げる。


「……」

”……”


 そしてしばしの睨み合い。

 ……そうなのだ。私たちは『VV』が好きという点では一致しているのだが、光太とキョウのどちらが好きかという点では意見が割れている。

 ややこしいのは、光太/キョウは同じ役者さんが演じていることと、実は二人は……おっと、これはネタバレになるので触れないでおこう。

 ともかく、光太とキョウどちらが好きか? という質問は私とありすにとっては文字通りの『爆弾』発言なのである。


「あたし、東郷さんー」


 私たちの火花散らす激しい睨み合いに気付かず、のんきに美々香は言う。

 ちなみに『東郷さん』とは、物語が中盤に差し掛かったところから参入する第三のレイダーへと変身するキャラの名前だ。フルネームは『東郷あきら』。光太とキョウよりも年上の、これまた実にワイルドな男らしい男の人である。変身するレイダーの名は『ヴァンガード』――『尖兵』の名の通り、光太/キョウと敵対する『結社ソサイエティ』に雇われたいわゆるライバルキャラである。とはいえ、彼には彼なりの正義があり、時には光太たちに協力して鏡面世界の侵略者と戦うこともあった。そんなライバルであり光太たちにとっては頼れる年上の先輩でもある彼であったが、最後には――っと、これもネタバレになるので控えよう。

 ……って、海斗氏のファンなのに好きなキャラはそっちなんかい。いや、ファンかどうかと話の内容は全く別なんだろうけど。


「……わたくしは『フィオーレ』の方が……」


 と、なぜか顔を赤らめつつ桃香が参戦してくる。

 ああ、まぁ桃香は……そうかもね。『フィオーレ』は女性主人公だし、他にも女の子いっぱい出てるしね。

 美々香と桃香の参戦により、私とありすの冷戦は一時休戦。話題がまた変わる。


「んー……『フィオーレ』かー……これからどうなるか、かな……」


 ありすは若干微妙な顔をしている。

 嫌いではないのだが、やっぱりまだ始まったばかりだというのと、前作の『VV』が良すぎたというのが引っかかっているらしい。

 前にちらりとありすが言っていたが、変身後の主人公の動作が『わざとらしいくらい女の子らしい』というのも気になるポイントのようだ。私としては、そこはきっと本来の視聴者層である子供にわかりやすくしているためだと思っているので、生温く見守るつもりだが。ありす? 彼女の視点はもう大きなお友達でいいんじゃないかな。

 ストーリーは今のところ大きく盛り上がるわけでもなく、敵側の怪人が起こす事件を片づけていくという展開が続いている。まぁこれは始まったばかりなので仕方ない――多分、そろそろ最初の盛り上がりが来るんじゃないかな。具体的には敵側の幹部の登場とか、強敵との戦いでフォームチェンジしたりとか。


「あたしそっちは見てないなー」


 レイダーそのものが好きなわけではなく、海斗氏のファンだから見ていたのであろう美々香は『フィオーレ』には興味がないようだ。


”……でも、イケメンが出てきたら見ちゃうんでしょう?”

「そ、そんなこと……ない、よ……?」


 目が泳いでる。


「……ちなみに、いるの?」


 超気になってる。


”うーん、いるけど、美々香ちゃんの好みじゃないんじゃないかなぁ……”


 線の細い、『美形』という意味でのイケメンだし。彼女の好みは、もっとこう……男らしい男なんじゃないかと。

 そう考えると、ありすと美々香の好みって似ているのかもしれない。ただ、ありすの場合は『VV』が好きなのであって海斗氏が好きというわけではないんだよなぁ……この子の好みはほんとよくわからない。




 ……とまぁ、そんなこんなでドラハンをしつつ、マスカレイダー(というか途中からイケメン談義になったが)の話題で盛り上がりながら、私たちは過ごしていた。

 ――この時はまさか、あの海斗氏とあのようなことになるとは想像もしていなかったのだが……。そのことについては、機会があればいずれ語ろうと思う。

 それにしても、結局曖昧なままだったが、ありすが七燿の人間かどうかは気になるところだ。ま、だからと言って何か変わるわけではないんだけどね。

 ただ、『ゲーム』の他の参加者――ユニットに七燿の人間が絡んでいるかどうかはちょっと気にした方がいいのかもしれない。確証はないが、強力なユニットとなっている可能性が高いためだ。

 私たちが『ゲーム』のクリアを目指す以上、クラウザーもそうだが他のプレイヤーとの戦いは今後も避けられないだろう。

 その時に大きな障害となって立ち塞がることは充分ありえる話だ。

 ……神獣といい、他のプレイヤーといい……『ゲーム』の目的すら見えない現状、まだまだクリアまでの道のりは長そうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る