第3.5章2話 第一回JS座談会withラビ(前編)

*  *  *  *  *




 七燿族について、私が知ったことについて少し触れよう。

 前にも述べた通り、七燿族とはこの世界のこの国における支配者の末裔だ。実際に今も政治家等大きな影響を与える地位には七燿族の人間が少なくない。

 ただ、だからと言って全ての七燿族がそういうわけではない。身近なところでは、最近になって私も知ったことだが、あやめも七燿族であるという。しかし、あやめの家族は桜の家に使用人として仕えているだけである――これも考えようによってはすごいことだと思うんだけど。

 他にも私たちが知らないだけで、七燿族の人間はあちこちにいるらしい。多くの人は、一般人として暮らしているとのことだ。むしろ、桃香のような方が珍しいくらいなのかもしれない。

 上手い譬えかはわからないが、私の生きてた日本で言うなら……『昔は武家だった』とかに近い感覚なのかな? 珍しくないわけではないけど、『だからと言って今どうなの?』という感じか。




 そんな七燿族は、その名の通り大きくは七つの家柄に分かれている。

 『桃園とうえん』『藍鳥あいちょう』『黒堂こくどう』『赤星せきせい』『翠玉すいぎょく』『黄空こうくう』『白嶺はくれい』の七つだ。

 各七燿に属する者は、家の名とは別に、これら七燿の名を持つことになる。

 知っての通り、桃香は『七燿桃園』の桜家の娘――フルネームだと『七燿桃園桜桃香』、あやめの場合だと、『七燿藍鳥』の鷹月の娘なので『七燿藍鳥鷹月あやめ』、ということになる。オフィシャルな場でなければ、大体は七燿の方はつけないらしい。まぁ、長ったらしくてめんどくさいしね。

 四民平等(古い?)と核家族化の波はこの世界でもあるようで、今は昔ほど『七燿族だから』ということもあまりないらしく、七燿族だが別に名乗らないという家も多いらしい。

 なので、意外なところで『実は七燿族なんだ』という家もかなりあったり、お互いに七燿族だと知らないままだということも多いのだという。

 まぁ、流石に各七曜族の本家に当たる家や、それに近しい家だとそういうこともないようだし、自分たちの『陣営』に属する家のことは大体把握はしているようだが。勝手に『七燿族』を名乗って利用したりされたら事だし、当然と言えば当然か。

 後ちょっと小耳にはさんだ都市伝説というか与太話というかだけど、今の七燿族のうち、一つは本当の七燿族ではない――本来の七燿族は一つ欠けている、というのもあった。どの七燿族が偽物で、失われた『色』が何色なのかとかは諸説あってかなり怪しい話ではあるけど。




 なぜこんなことを突然言い出したかと言うと……話は『嵐の支配者』との戦いが終わった翌週の土曜日のこととなる。

 私たちが集まって話をしていた時に、七燿族についてちょっとした話題が出たためだ……。




*  *  *  *  *




「あの……以前から気になっていたのですが」


 土曜日の放課後、私とありす、それと美々香は桃香の部屋へと集まっていた――もちろん一度家に帰って昼ご飯を食べてからの集合である。

 目的は当然『ドラハン』である。ドラハン最新作は最大四人までの同時プレイが可能なので、私を含めて丁度いい人数だ。美鈴を誘うという手もあったのだが、土曜の放課後には彼女は部活があるので今回はパスとなった。

 尚、あやめも今日は何やら用事があるとかで夜までは不在だ。桃香のお世話係とは言っても、彼女には彼女の都合がある。学校を卒業して本格的に桃香の御付きとなったらどうなるのだろうか、とか将来あやめがどうするつもりなのか、とか興味はあるが……それは別の話だ。

 四人でドラハンを遊んでいたが、途中で小休止を挟んだところで唐突に桃香が言った。


「もしかして、ありすさんは――七燿黒堂の方なのではないですか?」

「……ん?」


 七燿黒堂――七燿族の一つだ。本家はこの国の西側……私の世界で言うなら、近畿地方に当たるらしい。

 でも、何でまた唐突にそんなことを?


”そうなの?”


 そういえば私は未だにありすの家族――親戚関連については何も知らないことに気付いた。

 現代日本の私とその家族がそうだったように、近所に親戚がいるわけでもなく、密な付き合いがあるわけでもないようだったし、全くわからない。冠婚葬祭も私がこの世界に来てからなかったようだし。

 私と桃香の言葉に、ありすは首をかくんと傾げる。


「……そうなの?」


 何でありすが聞くのさ。

 この様子だとありすも全くわからないようだけど。


「あー、あたしもそれちょっと思ってたんだよねー」


 意外なことに桃香の疑問に対して美々香も頷く。

 何だろう、私たちが知らないだけで、何か七燿族に見える『何か』があるのだろうか。

 私たちの疑問に答えるように、桃香がなぜそう思ったかを解説する。


「その、苗字に『黒』に纏わる文字が入っておられるので、そう思ったのです」


 黒に纏わる……ああ、『墨』の字か。確かに墨だから黒だね。

 それに前々からこれは思っていたけど、『恋墨』という名前は珍しい。日本にもない苗字なんじゃないかな。『小泉』とか『古泉』ならあるんだけど。

 桃香がそう言うってことは、七燿族の家は自分の属する七燿に関する文字が苗字に含まれるということか。

 なるほど、『園』だから『桜』――どっちも色としてはピンクになる。あやめだと『藍』で『鷹月』、こちらは鳥繋がりになるのか。まぁ苗字なんて一杯あるし――特に鳥関係なんて他にもありそうだ――必ずしも七燿族であるというわけではないとは思うが。

 ただ、その点で考えても『恋墨』はかなり珍しい苗字だし、繋がりはありそうな気はする。


「んー……わかんない」


 困ったように眉を寄せてありすが応える。

 別に隠しているとかそういう態度ではない。多分、本当にわからないのだろう。


”……そういえば、ありすのお父さんって外国の人なんだよね?”

「ん」

”じゃあ、『恋墨』って……?”

「お母さんの方の苗字、って聞いたことある」


 婿養子? なのかな? あんまり踏み込んで聞くのもためらわれるけど……とりあえず『恋墨』は美奈子さんの方の家の名前だということはわかる。

 となると、美奈子さんが元々七燿黒堂の恋墨、という可能性もあるのかな? ありすは知らなさそうだけど……。


「え、恋墨ちゃんハーフだったんだ。知らなかったぁ」

「ええ。全く知りませんでしたわ」


 桃香と美々香にとってはそちらの方が初耳だったらしい。

 まぁ見た目だけだと判断付きづらいからね。美鈴みたいに見た目ですぐわかることもあるけど。


「ねぇねぇ、恋墨ちゃんのお父さんってどんな人?」

「ん……写真、見る?」


 そう言ってありすは自分の携帯電話を出し、その中に保存されていたのであろう写真を出す。

 そこには明後日の方向を向きつつ、バッチリと決め顔をした髭を生やしたワイルドな男性が写っていた。

 ……これ、かっこいい(と本人は思ってる)ポーズをわざわざ取って写したんだろうなぁ……。


「え、え? これ、本当に恋墨ちゃんのお父さん? 俳優とかじゃなくて?」

「ん、お父さん」

”そうだね……いや、本当に映画俳優みたいに見えるけど、ありすのお父さんなんだよね……”


 前に恋墨家のアルバムを美奈子さんに見せてもらったから私も知っている。確かにこの男性も一緒に写っていたし、ありすを抱きかかえていた写真とかも見た。

 美々香が戸惑うくらい、本当に美形なのだ。私は余り映画とか見ないから詳しくはないけど、映画俳優と言っても信じられるくらいのイケメンだ。

 ありす曰く『盗賊の親分』とか酷い評価だが、野性味あふれる美形、という言葉のありす的表現として受け取っておこう。


「あら、どことなくありすさんに似てますわね」

「ん……そう……?」


 言われて見ると、確かにちょっと顔立ちはありすに似ているところはある。

 ありすがもう少しキリっとした表情をすると、大分お父さんに近いんじゃないかな。男顔というわけでは決してないが、可愛いというよりは綺麗という方にありすは寄っていると思う。将来が楽しみだ。

 ……まぁ、このお父さんに似るとなると、女の子らしいかわいらしさからは大分縁遠くなってしまいそうだけど。男よりも女にもてそうだ。


「……ふわー……」


 ありすのお父さんの写真を、美々香はぽーっとした表情で眺めている。

 心なしか顔が赤い。

 ……おやおや? これは――うん、まぁ正常な反応と言えば正常な反応か。かっこいいもんね、ありすのお父さん。

 ……アルバムで昔の写真を見たことのある私としては、何とも言えないんだけど。だって、変顔してありすを笑わそうとして(めっちゃありすに嫌がられて)いる写真とか、海パン姿で(本人的には)かっこいいポーズを決め顔でとっている写真とか、憂いを帯びた眼差しで明後日の方向を向きつつなぜか火の点いていないタバコを咥えている写真とか……何か妙なテンションの外人さんってイメージだし、私の中では。かっこいいんだけどね、本当に。見た目だけは。

 こういうの何て言うんだっけ……えーっと、うん。『残念なイケメン』だ。


「ね、ねぇ恋墨ちゃん……」

「ん?」

「今度……家行ってもいい?」


 あ、完全に目がハートマークになってる。


「ん、別にいいよ」

「ほんと!?」

”ありすのお父さんはいないと思うけどね”


 水を差すのも何だけど、ぬか喜びさせるのも忍びない――ありすは全く気づいてないようだし。私の方から一応言っておいた。

 私の言葉に愕然とした表情をし、ありすの方を見る美々香。

 ありすはまだ理解していないのか、またまたかくんと首を傾げ、やがて頷いた。


「ん……お父さんは海外出張中……いつ帰ってくるかわからない」


 そういえば、私がこの世界に来て約二か月だけど、一回も帰って来てないしそのようなことが話題になったこともない。

 たまーに共用PCでビデオ通話している時があるくらいか。その時もありすは「めんどーだから、別にいい」と言って素っ気ない――お父さんが泣いて美奈子さんが宥めて、それでようやく話すくらいだ。

 仲が悪いのかと心配になるが、多分ありすがドライすぎるだけだな……。


「…………じゃあ、いいや……」


 しゅんとなってありすの家への訪問を取り下げる美々香。

 何で? と言わんばかりのありす。

 ……桃香がなぜかちょっとむくれている。


”どしたの、桃香?”

「いえ……みーちゃ――美藤さんは相変わらずだと思いまして」


 ……深くつつかない方が良さそうな気がする。

 この二人の関係も意外と謎があるんだよね……向こうから話してくるまではとりあえず聞くつもりはないけど。




 初めてシャロと出会った時のことを思い出した。

 彼女はあの時、『特殊な人間を選べば優秀なユニットになる』というようなことを口にしていた記憶がある。

 当時は聞き流していたが、クラウザーが桃香を最初に選んだ理由は、彼女が『七燿桃園』の人間だからというのはありえる話だ。実際、桃香ヴィヴィアンはやや扱いづらいもののユニットとしての性能はかなり強力な部類に入ると思う。

 となると、仮にありすが桃香の言うように『七燿黒堂』の人間だとしたら、ありすアリスの異様な強さにも納得がいくかもしれない。ありすもまた『特殊な人間』ということになるからだ。ただ、二人とも強いことは強いんだとは思うけど、それで『ゲーム』をいつまでも優位に進められるかというと……やや疑問は残る。カバー可能ではあるけど欠点もないわけではないし。

 まぁ、シャロの話もあくまで噂レベルのことだったし、七燿の人間は目立たないだけで他にも結構いるようだからありすと桃香の二人だけで判断は出来ないけど。

 ……ふと、七燿族が実はこの『ゲーム』に関わっている可能性があるのでは? と私は思った。確証はない、本当に何となくレベルの思い付きだ。

 そうだとすると、七燿族はありえないレベルの技術を持っているということになるし、それならこの国だけではなくもっと手広く支配の手を広げるんじゃないかなぁと思うし、巷にあるトンデモ話の域を出ない推測だ。

 いっそ、異星人によるものだと考えた方がまだ筋が通りそうな感じもする。

 何にしても、『ゲーム』はまだまだ続くのだろう。その謎が解けるのはいつになることか……。

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