第3章59話 エピローグ ~神を殺した少女
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……ん……」
ありすが目を覚ました時、一瞬どこにいるのかがわからず混乱する。
「んぅ……」
何か苦しい、と思ったら自分の左隣に桃香が抱き着いたまま眠っている。
そこで、ようやくありすは昨夜は桃香の家に泊まったのだということを思い出す。
”おや、おはよう、ありす”
「ん……おはよう、ラビさん」
ベッドには入らず、クッションの上で丸まっていたラビがありすの起床に気付く。
ありすはいつもと変わらずぼんやりとした表情のまま起き上がる――起きることは起きるが、寝起きはそういい方ではない。今は本当にぼんやりとしているのだ。
「……あふぅ……おはようございます……」
「ん、トーカもおはよう」
ありすが起き上がったことで桃香も目が覚めたようだ。こちらもかなり頭がぼんやりとしている。
「……どうなったの?」
ベッドの上でぼんやりすること数秒。急速に意識の覚醒したありすがラビに尋ねる。
オーディンへと最後の一撃を食らわせたところまでは覚えているのだが、それ以降のことが記憶に全くない。
いつクエストを終えて戻って来たかもわからない状態だ。
”外、見てみようか”
もう既に結果はわかっているのだろう、優しい声でラビがそう促す。
目覚めたありすと桃香が雨戸を上げ、部屋の窓を開けると……。
「まぁ……!」
「ん、いい天気……」
昨日の大嵐などまるでなかったかのような、雲一つない青空が広がっているのを二人は目にした。
* * * * *
結局、昨夜はクエストを脱出してもありすは目覚めることはなかった。
クエスト内でしばらく待っていても目が覚めないのであきらめて現実世界へと戻って来たのだが、それでも目が覚めなかったのには少し焦ったが、どうも普通に寝ているっぽかったのでちょっと怖かったけどそのまま寝かせていたのだ。
私たちがクエストから帰って来た時には、既に深夜0時を過ぎてしまっていた。桃香もそのまま寝かせて――ものすごく眠そうだった――私は一旦あやめと合流し、状況の把握に努めた。
で、どうなったかというと……。
”嵐はもう過ぎ去ったみたい。特に大きな被害もなく、無事にね”
クエスト内での時間と現実での時間の紐づけが難しいのではっきりとしたことはわからないけど、日付の変わる前には急に雨風が弱くなり避難の必要はなくなっていたみたいだった。
すぐに爆弾低気圧そのものが消えることはなく、その後もしばらくは雨が降っていたみたいだけど、割とすぐに消えてしまったらしい。
……出現も唐突で不可解だったが、消滅もまた不可解な嵐である、とニュースとかでは言っている。まぁ私たちとしては爆弾低気圧の原因が『嵐の支配者』だということは何となくわかっていたし、クエスト内で倒したことによるものだとは思うんだけど……それは流石に他の人に言っても通じないし、言う必要もないだろう。
色々と謎はあるが、一先ずは無事に済んだことを喜ぼう。
”よく頑張ったね、二人とも”
他にもジェーンやケイオス・ロアたちが手伝ってくれた。
彼女たちの活躍により、桃園は救われたのだ。誇張なしに私はそう思う。
「ん」
ちょっとだけ困ったようにありすが首を傾げる。
……ひょっとして照れているのだろうか。
まぁ『ゲーム』で遊んだだけで町を救った、と言っても実感がないかもしれない。
”ありす、美奈子さんが心配しているだろうから、後で電話かけておこうね”
「ん、そうする」
まだちょっと時間が早い。もう少ししたらでいいだろう。美奈子さんも多分起きているとは思うけど……。
後は美藤さんとか美鈴とか、知り合いに声をかけてみるのもいいだろう。美藤さん――ジェーンには大分助けられたし、そのお礼も言っておくべきだ。美鈴――ケイオス・ロアについてはありすにはまだ黙っているので、本当に安否確認くらいしか出来ないが。
本当に――長い戦いだった。よく勝てたものだと思う。
「ラビさん」
”うん?”
ありすが私を抱きかかえ、真剣な表情で言う。
何だろう? 何か気になることでもあるのかな?
……ああ、オーディンの謎とか、《ラグナレク》の後遺症についてとか――あるいは、実はケイオス・ロアのことに気付いているか、とか……?
ありすの真剣な態度に、私も、隣にいる桃香も表情を引き締める。
「……ジェム、一杯もらえた?」
……そっちかい。そりゃ気になるところではある。
”んふっ……ふふっ……”
とはいえ、私の方も思わず笑みを浮かべてしまう。
流石に今回のクエストは稼げた。いや、それでは足りない。超稼げた。稼ぎまくった。
”何と――180万ジェムももらえたよ!”
「……おー……」
「す、すごいですわね……」
文字通りのけた違いの額である。
クエスト攻略の報酬が150万。それに無数の風竜たちを倒したことにより、プラス30万。普通のクエスト100回分以上の額をもらえたのだ。
……ただ、気になるのは、今後レベル9――嵐の支配者と同レベル帯のモンスターが頻繁に現れるようになった時もこのくらいの額が普通になるのだろうか、ということだ。この額がデフォルトになるということは……今後の成長やアイテム補充にもかなりの額がかかるんだろうなぁ、というのが気になるところなんだけど……今そんな先を考えても仕方ないか。
「ん、よし」
抱きしめた私をナデナデしつつ、ありすがにんまりと笑う。
「……楽しい成長タイム……! その後、クエストも行きたい……!」
町を救った実感よりも、大量のジェムをもらえたことの喜びの方が勝っているらしい。
いつも通りのありすと言えばその通りだ。
「はい! わたくしも楽しみですわ!」
ジェムが一杯あればその分成長できる。
クエストの終わりに『もっと強くなりたい』と願っていた桃香としても、大量のジェム取得はやはり嬉しいものなのだろう。こちらも満面の笑みを浮かべている。
”はいはい。まずはあやめにおはようしてからね”
昨夜色々とバタバタしていたし、あやめだけでなく桃香のご両親もどうしていたのか気になる。
何にしても、まずはちゃんと起きて色々と準備してからだ。
わくわくが止まらないと言った風の二人に対して、私は苦笑いを浮かべるのであった。
* * * * *
以上が、神獣『
ヴィヴィアンとの出会い、クラウザーとの戦いを経て、『嵐の支配者』との戦い――そして、アリスが『神殺し』へと至った顛末だ。
姿を消したクラウザーはどうしているのか? なぜ、突如他のモンスターと比べて強すぎる『嵐の支配者』が現れたのか? 『嵐の支配者』の本体と思われるオーディンとは結局何者だったのか?
そして――再び魔法少女となった
この時の私たちには全くわからないことだらけであった。
ただ一つわかっていたことは、この『ゲーム』はまだ続くこと……それだけである。
とはいえ、私たちは悲観してはいなかった。
……そんな私たちへと対抗するように、『ゲーム』は私たちへと更なる牙をむきはじめるのだ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――報告。
――受諾。
――承認。
――確認。
第3章『神獣少女』編 完
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