第3章3節 神に牙むくもの
第3章28話 お泊まり会当日
ありすが美藤嬢――本名『美藤
この間の変則ダブルデートの時に桃香が提案した『お泊り会』は、実にスピーディに企画され、今週末に早速行われることとなっている。
参加者はホストとなる桃香、そして私とありす、美々香の四人となる。まぁホスト側にはあやめもいるけど。
日程は土曜の昼から七燿桃園に集まり、その後七燿桃園内の見学。そのまま桜邸にてお泊り。翌日曜はいつ解散かは特に決めていないが、遅くとも夕方までには帰るということになっている。
七燿桃園内の見学は除いて、後は何をするかだが……まぁおそらくはドラハンだろう。『ゲーム』の方については、美々香の方が都合がつけば、ということになる。トンコツ次第だけど……まぁ期待薄かな。後は忘れてはいけない学校の宿題。それと勉強時間も取りたい――けどこれは私も半ば諦めている。宿題は流石にやるだろうけど……。
気になる親御さんの方だったが、桃香の方は二つ返事で許可が出たようだ。娘の友達が泊まりに来るなんて! とかなり張り切っているらしい。わからないでもない。桃香に友達が少ない……というわけではなく、泊まりに来るのはちょっと敷居が高いと思うし。
で、美奈子さんの方はというと、こちらも快く許可を戴けた。流石に相手が七燿桃園ということについては驚いていたし、くれぐれも失礼のないようにとはありすに言い含めていたけど。
むしろ、私が泊まりに行く方に渋ったくらいだ。
「ありすもいないし、ラビちゃんもいなくなると寂しいわ~」
ということだったので遠慮なく振り切って私もお泊り会に参加だ。
……いや、私としては別に留守番でも全然構わなかったんだけど、ありすと桃香が絶対に連れていくと言い張ったために半ば強制参加だ。
……うん、どうして恋墨家の人々はこんなに私のことを構いたがるんだろう……冷たくされるより全然マシなんだけど。何か『ゲーム』の影響でユーザーのことを無条件で好きになるとか変な効果が及ぼされていないか、それが少し心配だ。今度機会があればトンコツにでも聞いてみよう。
そうそう、トンコツと言えば、ありすからこっそりと教えて貰ったが、美々香の家にいるようだ。美々香の姉がどうもシャルロットっぽいし、きっと彼女の部屋で私みたいにしているんじゃないだろうか。
そんなこんなでお泊り会の日なのだが……。
『ごめん、桃香、恋墨ちゃん……風邪ひいた……』
待ち合わせ場所になかなか来ない美々香を心配して電話してみたところ、そんな答えが返ってきた。
前日までは割と普通にしていた(ありす談)のだが、実のところちょっと「あれ?」と思っていたらしい。で、今日の朝起きてみたら発熱……明らかに風邪をひいていた、と。
連絡するのが遅れたことを詫びる美々香だが、そんなことより彼女の体調の方が心配だ。
残念ながら、今回のお泊り会には不参加ということになる。
『ほんとごめんね……』
「ん、気にしない」
「お大事になさってください」
二人とも美々香の体調の方が心配なようだ。
お泊り会自体中止にするか、という話も出たが、それは美々香が制止する。折角なんだから、ありすと桃香だけでも楽しく遊んでくれと。
『あー……あたしも噂のラビちゃんもふりたかった……』
……ありすは普段桃香と美々香に何を話しているのだろう……後でお説教だ。それは置いておいて、そういえば美々香と私は現実世界では顔を合わせたことはなかったかな。『ゲーム』中では何度かあるんだけど。
というわけで、お泊り会には美々香は欠席するものの、予定通り開催ということになった。
常識人枠、そしてストッパー役が不在というのが個人的には物凄く気になるんだけど……。
「残念ですわね♡」
全く残念じゃなさそうな輝く笑顔で桃香が言う。もうちょっと本音隠そう?
「ん、残念」
こちらも全く表情が変わらず頷くありす。こっちはまぁ多分本当に残念に思っているだろう。
お泊り会までの間、クエストに挑む傍ら、美鈴と美々香とはドラハンで何度も遊んでいる。
『ミドーもなかなか「できる」ようになってきた」
と師匠面して満足そうに言っているのを聞いている。今日もドラハンで遊ぶのを楽しみにしていただろう。
離れていても通信で遊ぶことは出来るけど、今日の美々香は風邪で寝込んでいるのでそれもなしだ。またの機会だね。
「それでは、一度わたくしの家へと参りましょう」
「ん」
”わかった。親御さんにもご挨拶しないとね”
今日明日とお世話になるのだから、しっかりと挨拶をしておかなければ。といっても、私はぬいぐるみのふりをしているだけだけど。
予定としてはまずは桜邸へ。親御さんへ挨拶をして荷物を置いたら、七燿桃園の敷地巡りだ。
ありすもあまり七燿桃園の内部は詳しくないらしく、ちょっと楽しみにしているようだ。
神道沿いにある正門から入場、そこから真っすぐ進んでいったところに桜邸はある。
ここに来るまでに大きめの建物や体育館――あるいは何かのホールか――らしきものが目に付く。ちなみに桜邸前までは道路がそのまま通っており、車での移動が可能だ。駐車場もちゃんとある。
背の高い木が街路樹替わりに植えられており少し薄暗い感じもするが、もっと暑い季節だったらきっと涼しくて散歩しやすいだろう。
ほどなく桜邸へと到着。
さて、桃香の親御さんとのご対面だ。
今までも何度か来たことはあるんだけど、たまたま親御さんが出かけているとのことで会ってはいない。不在の時に入り込むのはちょっとなぁとも思うが、まぁあの時は色々と状況が特殊だったからなぁ……。
「あらあら、いらっしゃい! あなたがありすちゃんねぇ!」
私たちを出迎えたのは桃香の母親なのだが……。
……何というか、似ていない。
桃香はまだこれから成長期というのもあるが、かなり小柄でほっそりとした少女だ。ありすも似たようなものだけど。
対して桃香の母親は――うん、色々と言葉を選ぶのも難しいので失礼を承知ではっきりと言うと、ものすごく恰幅がいい。背も結構高めで、あやめと同じくらいか……いや、美鈴に近いかもしれない。
髪の色も桃香と違って黒。ロングの黒髪がパーマをかけているのか、もじゃもじゃっとしている。
……何だっけ、名前を憶えていないんだけど、『恐ろしい子っ!』って言っている漫画のキャラに似ている。あのキャラをもっと若々しく、そして横に伸ばした上で表情を柔らかくした感じかな。
桃香の普段着が現実離れしたドレスのようなものばかりなのでどんなものやらと思っていたが、服装はいたって普通。
桃香の母親だということを知らなければ、普通のおばちゃんだと思っていただろう。
「……お世話に、なります」
勢いに飲まれることなく普段通りのマイペースでぺこりと頭を下げる。
うんうん、と桃香ママは笑顔で頷く。
「はい、よろしくねぇ。あら? こっちの子が噂のラビちゃんね!」
ありすに抱かれた私へと視線を注ぐ。
ぬいぐるみのふり、ぬいぐるみのふり……。
「あらぁ? この子はクラウザーちゃんみたいにおしゃべりできないの?」
”……はい?”
まさかのクラウザーの名に思わず返事をしてしまった。
よりによって『クラウザーちゃん』と来たか……。
「あら、やっぱりおしゃべりできるのねぇ。賢い子ねぇ」
”は、はぁ……。あの、よろしくお願いします……”
喋れるのがバレているのであれば私も挨拶をしておくべきだろう。戸惑いながらも挨拶をする。
……何だ、この世界では『ちょっと賢い』なら動物が言葉を喋ってもおかしくないのか……? いや、そんなバカな……。
「さぁ、こんなところで話し込んでいないで、荷物を置いたら七燿桃園をご案内いたしますわ」
「あら、そういうお話だったわね。
桃香、あやめ。わかっているとは思うけど、兵隊さんの邪魔だけはしないよう」
「わかっていますわ、お母様」
「はい」
……はい?
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