第3章25話 ラストバトル ~魔神エンデ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……いよいよ、だね……」
休憩を挟んでわいわいと話しながらドラゴンハンターに興じること更に一時間強。
美藤はついにドラゴンハンターのラストボス――『魔神エンデ』へと挑むこととなった。
ありすたちのアドバイス通り、まずはグレイファントムを狩って素材を収集。一式装備を整える。武器はまだすぐには決められそうにない、ということで変更なしだ。
「よっしゃ、美藤ちゃん、頑張って」
「ん……ミドー、頑張れ」
二人は『本気装備』を解除して再び美藤の援護に徹している。
グレイファントム装備の性能はかなり高く、その後に登場した新モンスターも難なく撃破。いよいよ『魔神エンデ』との決戦である。
――ドラゴンハンターの今作のストーリーは、辺境の村にて確認された人類の敵対種族『魔族』との戦いを描いたものとなっている。人類の支配地域へと侵攻しようとする魔族と、その尖兵のモンスターとの戦いが主軸だ。
そして『魔神エンデ』は『魔族』側の切り札として用意された古代の破壊兵器である。『魔神エンデ』が封印されていたのが、物語の舞台となる辺境の村近くの遺跡だったという設定だ。
この『魔神エンデ』を倒せば、ストーリー上のエンディングだ。尤も、狩りゲー故にその後もポンポンと復活する『魔神エンデ』は素材のために狩られ続けることになるのだが……。
「う、うおー、何これ!?」
ストーリーパートが終わり、『魔神エンデ』登場のムービーが流れる。
村近くの遺跡――が地下から這い出た『魔神エンデ』によって崩され、巨大な『穴』が出現する。
その『穴』の中から、合計九本の巨大な蛇が出現する。『穴』の周囲を取り囲むように現れた九匹の蛇――胴体は『穴』の中にあり移動はしてこないが、全方位へと『蛇』が出現している。その大きさは一口でアバターを呑み込める程の巨大さだ。
うねうねと『穴』から現れた蛇が執拗にプレイヤーを追い回す。逃げようとしても、他の蛇が逃げ道に立ち塞がり挟み撃ちを受けてしまう。
更に巨体故に攻撃範囲が広く、薙ぎ払いを左右同時に食らってしまうと楯でのガードも出来ない。また、地面へと倒れ込んで押しつぶそうとしたり、口から毒液の塊を吐き出したりもしてくる。
圧倒的攻撃力、範囲、そして手数の多さを誇る難敵である。
どこを攻撃すればいいのかわからず、そもそも攻撃する隙もなく美藤はパニックに陥っている。
「ぎゃー!?」
反撃の糸口どころか回避もままならず、ぎゃーぎゃーと騒ぐ美藤を二人は微笑ましくも生温い目で見守っている。
「うーん、いいねぇ美藤ちゃん、すごくいい! 今めっちゃ楽しんでる!」
「ん。わたしたちにも、あんな頃がありました……」
「ひぃぃぃっ!? た、助けてぇ!」
微笑ましく見守る二人にヘルプを求める。
……求めたところで気が付く。
「……あれ? 二人とも攻撃受けてない……?」
二人のプレイヤースキルがあるから、というわけではない。攻撃自体がそもそも二人に届いていないのだ。
「――あっ、そうなんだ!」
どうやって倒すか、あるいは今までのモンスターのように攻撃を楯で受けつつ隙を探るかばかり考えていた美藤だったが、ごく単純なことに気が付く。
攻撃範囲は広いし手数も多いが、相手は『穴』の中から出てこない。つまり、フィールドの端まで逃げてしまえば大半の攻撃が届かなくなるのだ。
毒液飛ばしだけは届くが、楯持ちの美藤のキャラならノーダメージで凌げる。楯を持っていない二人は毒液が飛んできた時だけ移動してかわしている。
「お、おぉ……危なかった……」
安全地帯というわけではないが、端にいれば大半の攻撃がかわせる。
そしてここからなら相手の動きをじっくりと観察することが出来る。
『魔神エンデ』の動きを観察すると――
「んん? これ、割とパターン通りの動きしてるっぽい?」
「ん。正解」
『魔神エンデ』の動きは苛烈なのは確かだが、ある一定のルーティーンであることが分かってきた。
戦闘フィールドは中心に『魔神エンデ』の出てきている円形の『穴』があり、それを取り囲むように同じく円形となっている。多少の『歪み』はあるが、大まかな形状は中央の輪の小さなドーナツ型だ。
首は三本セットで動くようになっており、プレイヤーに一番近い首が大きく頭をもたげ、左右の二本が首を低くしている。そして、左右の首が交互に薙ぎ払いを行い、中央の首がボディプレス。距離が離れたところで毒液を吐き出すというパターンである。
「んー……よし、ならこういうのでどうだ!?」
何度か薙ぎ払いに吹き飛ばされつつも相手の動きを確かめた美藤が動く。
まずは安全地帯から左斜め前へと突撃。
右側の首が薙ぎ払いを仕掛けてきた瞬間、再度端へと移動してそれをかわす。続いての左の薙ぎ払いは楯でガード。ノックバックしたところへ中央の首がボディプレスを仕掛けようとするが、その時には既に硬直は解けている。落ちてくる首に対して垂直方向へと移動してかわすと、ボディプレイス後の首へと反撃する。
……が、すぐに右側の首が再度の薙ぎ払いをかけてきて吹き飛ばされてしまう。
「うあー、ダメ!?」
「いや、それで合ってるよ美藤ちゃん。ただ、攻撃は欲張っちゃダメね。片手剣なら――二回くらい切ってすぐに退避ね」
「ん……ドラハンの鉄則。『まだいける、はもう危険』」
まだ攻撃が出来る……と思って深追いすれば反撃を食らう。それを戒める格言だ。
折角の攻撃のチャンスに大ダメージを狙いたくなるのが人情だが、相手は人間大ではない。超巨大モンスターである。怯みもせずに容赦なく反撃してくる。
己の武器の特性、この場合は攻撃スピードを理解し、適宜引くことが重要なのだ。
二人の言葉に美藤は素直に頷く。
――かくて、美藤たちと『魔神エンデ』の死闘は続く……。
「か、勝った……」
実に三十分にも及ぶ死闘を制したのは、美藤の方であった。
攻撃のタイミングをつかみ、相手の動きも読めるようになってきて「これはいけるか?」と思っていた美藤。
確かに『魔神エンデ』の首を一本ずつ順調に倒していき、勝利は時間の問題かと思われた。
だが、流石にラスボスである。五本目の首がぐったりと地面に横たわった時点でその真の姿を晒す。
『穴』の中から『本体』が這い出てきたのだ。
フォルムとしては象――いや、長い尻尾からしてどちらかというと恐竜に近いものがある。四足歩行の巨大な獣だ。頭部はなく、代わりに『穴』の中から生えていた九本の首が生えている。そして、首の付け根には巨大な『口』があり、そこから長い舌が伸びてくる。
もはや安全地帯はなく、フィールドの端に逃げても自由に動ける『魔神エンデ』の攻撃が届く。
……ただ、そこから先は通常のモンスター戦と大きな違いはない。
『魔神エンデ』の最終形態に驚きはしたものの、二人から教わったことを忠実に実行――まずは楯でガードしつつ様子を見て、それから攻撃――することを覚えた美藤は何とか『魔神エンデ』を倒すことに成功したのだった。
「いやー、ありがとう、二人とも! あたし、やったよ!」
『魔神エンデ』は倒され魔族の企みは瓦解、侵攻は阻止されたのだ。
感謝の言葉を述べる美藤に対して……。
「あはは、いやだなぁ美藤ちゃん」
「んふっ、ミドーは面白いこと言うね」
「……はい?」
二人の笑顔に何か危険なものを感じる。
「次は『上級』クエストが待ってるよ?」
「ここからが、ほんとうの『ドラゴンハンター』だ……!」
「……え?」
ドラゴンハンターのストーリーモード――というかストーリーモードしかないのだが――は
なるのだが――今彼女たちがプレイしているドラゴンハンターは、正式名称を『ドラゴンハンター3
人気作ドラゴンハンターの3作目……のいわゆる
ラビが聞いたら「いや、最初から完全版だそうよ。完全版商法は悪い文明だよ」と突っ込みを入れそうではあるが……。
ちなみに、10章~14章が『上級』、15章からは『超級』という難易度として設定されている。更には超級をクリア後には主に
当然のようにありすも美鈴も既に超級までクリアしており、今は極限級をメインにプレイしているところだ。
「…………え?」
呆然と美藤は呟くのみであった……。
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