第3章24話 お泊まり会をいたしましょう
* * * * *
「お泊り会をいたしましょう♡」
……唐突に桃香がそんなことを言い出す。
あやめのことを見上げてみると――そう、見上げて、だ。今の私はぬいぐるみよろしく、桃香ではなくあやめに抱かれている。いや、別にいいけどね……。
「はぁ、そうですか」
あやめは全く気のない返事だ。
”……お泊り会?”
続きを聞いてくれと言わんばかりに身を乗り出して返事を期待する桃香に、仕方なく私が答える。
あやめめ、さては私に桃香のことを丸投げする気だな?
「はい! わたくしも『ドラハン』をしますし、お泊り会すれば遊び放題ですわ!」
う、うーん……まぁ遊び放題は確かにそうなんだけど、遊び回っているだけってのもちょっと……。
「それに、わたくし、もっとラビ様ともありすさんとも仲良くなりたいですわ!」
まぁ、親睦を深めるためにも、というのもわからなくもない。
あんまり頻繁に外泊するのもどうかとは思うけど、たまになら……いいのかな?
”まぁ、親御さんの許可が下りたらね”
一人暮らしの大学生や社会人ではないのだ。ましてや桃香たちは親に養われている身、未成年でもあるのだから親の許可がなければいくら何でもダメだろう。
当然、私が許可を出すわけにもいかないし、出したところで有効になるとも思わない。
「その点は大丈夫ですわ。お父様とお母様にもちゃんと許可をいただきますから」
”それならいいけど……まぁありすの方も多分大丈夫じゃないかな”
ありすは基本的には「いい子」だし、変なことはしないだろうと美奈子さんからも信頼されていると思う。
たまの友達とのお泊り会くらいなら近所だし許してくれるとは思うけど。
”それじゃ、折角だし美藤さんも誘ったら? ほら、彼女もドラハンやってるし、それに『ゲーム』の話も出来ると思うし”
「みーちゃ――美藤さんもですか? ……そうですわね、彼女とも
……んん? 何か微妙に引っかかる物言いだけど、取り立てて反対というわけではなさそうだ。
流石に一緒にクエストに挑んだりは出来ないとは思うが、メインがドラハンなら問題ない。クエストに行かなくても『ゲーム』について話すことはできる。
……本音は、桃香とありすだけだと何か危険なことが起きるんじゃないかと心配しているので、おそらくは三人の中で一番常識人であろう美藤嬢にストッパーとなって欲しいという思いがあるからなんだけど。
うん、女子小学生にストッパーを期待するなんてどうかとは思うけど、残念ながら今の私ではありすも桃香もきっと抑えきれない――おもちゃにされるだけの結果が見える。
あやめはあやめで桃香関連は微妙に頼りにならないし……。
「そうですわ。でしたら、ラビ様」
”うん?”
「七燿桃園の敷地内はまだ余り見ていないでしょう? わたくし、案内いたしますわ」
”ほほう……”
ここには何度か来たことがあるけど、あまりにも敷地が広大なためほとんどの場所は行ったことがない。興味がないと言えば嘘になる。
勝手に入り込んで歩き回るのも悪いし、何より私一人で入り込んだら出ていけなくなりそうなくらい広い。
桃香が案内してくれるというのであれば、是非見てみたくはある。
”うん、お泊り会が出来なかったとしても、七燿桃園の敷地内はちょっと見てみたいかな”
「うふふっ、決まりですわね」
お泊り会は決まってないけどね。
……まぁ、親睦を深めるため、という名目でお泊り会が流れても集まって遊ぶくらいは確かにしておきたい。学校以外で彼女たちが顔を揃えるのが最近だとクラウザー絡みしかなかったり、ありすが風邪をひいたりで中々『ゲーム』を気にせず集まる機会がなかったことだし。
”……おや?”
と、そこで何だか久しぶりに『ゲーム』からの通知が来る。対戦機能の実装以来かな、確か。
「どうかしましたの?」
”ああ、『ゲーム』から通知が来たみたい”
無視すると痛い目に遭いそうだ。ちょっと失礼して内容を確認すると……。
”……あー、やっぱりバグだったんだ、あれ……”
ちょっとだけ苦笑いしながらつぶやく。
というのも、今回のアップデート内容は『対戦機能におけるジェムBETの不具合修正』だからだ。今回の通知は私にも内容がわかるくらい親切に書かれている。
で、肝心の内容はと言うと、私がクラウザーとの三回目の対戦の時に仕掛けた『罠』――超高額BETが不具合として修正された、というものである。そりゃそうだ、あれ、明らかにおかしかったもん。
今後はBETの上限は50万のままではあるが、手持ちのジェム以上の額は賭けられないようになるということだ。ただし、負けた側がBET額以下しかジェムを持っていない場合に負債分は『借金』となることには変わりない。私の時のように『悪用』はしづらくはなったが、これが本来の姿だろう。まぁやろうと思えば相手を破産に追い込むことは変わらずできるだろうけど、元手の準備が必要になるからすぐには無理じゃないかな。
……ちょっとだけドキドキしたけど、私たちがあの時稼いだジェムについては何も触れられていない。良かった、没収されたらどうしようと焦ってしまった。
それと、通知はもう一つある。
”えーっと、なになに……?
『全プレイヤーが複数ユニットを持ったため、クエストへのプレイヤー参加有無の決定権を開放します』……は!?”
「は!?」
最後の「は!?」は私とあやめが同時に発声した。
「? 何を驚いていますの?」
桃香は運営からの通知の意味を――言葉通りの意味ではなく、その裏の、ある『事実』について理解していないのか首を傾げる。
「あのエテ吉……!」
ぎりっと歯が鳴る勢いで憎々し気にあやめが吐き捨てる。怖い。
そう、全プレイヤーが複数ユニットを持った、ということは、当然あやめの使い魔であるマサ何とかもあやめ以外のユニットを現在持っているということになる。
私が驚いた理由はもちろんそっちではない。
桃香にもわかるように簡潔に説明する。
”全プレイヤーが複数ユニットを持った――ってことは、クラウザーもそうだってことだよ”
「……あ」
流石に今度は理解したようだ。
まぁクラウザーが私たちの知らないところでリタイアしていたら話は別なんだけど、それは多分ないと思う。
……でも、ただでさえ借金で首が回らないであろう状態のクラウザーが、わざわざ複数のユニットを持つって……どういう意図なんだろうか……? 確かにユニットが複数いればクエストも楽にクリアは出来るかもしれないが、その分消費するジェムは多くなる。体力・魔力の回復をしないというやり方ならジェムは消費しないけど……ステータスの成長も出来ないユニットを二人以上抱えてクエストに挑もうとしても、そんなに儲かるクエストにはいけないと思うし……。
――この時のクラウザーの行動の『意味』がわかるのは、私たちがやつとの『決着』をつけることになる戦いになるのだった……。
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