第3章22話 ドラゴンハンター
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ドラゴンハンターについて説明しよう。
概要としては、プレイヤーのアバターを作成し、ひたすらモンスターを倒していくゲームである。倒したモンスターからは『素材』が得られ、『素材』を使って新しい装備を作ったり強化をしたりして、より強いモンスターと戦っていくという内容だ。
このゲームの特徴としてよく挙げられるのは、一度のクエスト――モンスターとの戦闘で使える武器が最大で4種類まで同時に使える、という点だ。もちろん、同時と言っても武器の切り替えをして行うものである。
右手、左手、そしてそれぞれメインとサブで2種類ずつの計4種類まで武器を選ぶことが出来る。
武器の種類は、
組み合わせは自由だ。右手にショートソード、左手にもショートソードという二刀流も出来るし、シンプルにショートソードとスモールシールドの組み合わせも使える。
それぞれの武器に一長一短あり、どのような組み合わせを選ぶかは人それぞれ千差万別である。選んだ武器によって戦い方も大きく変わるため、同じモンスターと戦っていても武器によって楽勝だったり苦戦したりで、長く新鮮さを味わえる。
この武器の組み合わせの自由さとアクションの多彩さ、そして種類の多いモンスターがドラゴンハンターが人気の理由である。
反面、やや難易度は高めで、プレイヤーの年齢層は若干高めとなっている。
もう一つの大きな特徴は、ストーリーに力を入れていることにある。
ドラゴンハンターは同系統のゲームでは後発に入る。先行するゲームとの差別化のためとして、クエスト中の武器選択だけではなくストーリーにも力を入れているのだ。
ただストーリーに力を入れているだけではない。物語の設定として、主人公(プレイヤー)の助けとなるキャラがおり、それがNPCとして活躍する。クエストで共にモンスターと戦うNPCもいるが、それよりも特徴的なのは『ベースコマンド』と呼ばれる補助的な役割をNPCが持つということだ。
これらは特別にベースNPC(BNPC)と呼ばれ区別される。ゲームのシステム上では、主にクエストの出発地点となるベースに待機し、プレイヤーの助けとなる様々な能力を駆使するバックアップキャラである。設定上では『魔術師』や『薬師』等のキャラで、この手のゲームに欠かせない『リスポーン』を行っている、ということになっている。また、複数のBNPCがおり、選んだBNPCによってリスポーン以外の様々な効果が得られるようになっている。例えば『王国』から派遣された宮廷魔術師であればモンスターへ支援攻撃を行ったり、物語の舞台となるホームタウンに住む薬師の少女ならば戦闘中に回復が行えたり等だ。
こうした複数の要素があることにより、様々なプレイスタイルが存在するドラゴンハンターではあるが、それでもやはり『鉄板』と言えるものは存在する。
「……うーん、美藤ちゃん、とりあえず装備変えよっか。
慣れるまでは、ショートソードとスモールシールド、サブにショートソードとブレスレットかな」
「ん。後、BNPCはカナリアを選択で……」
「は、はいな」
数回プレイしてみてから、美鈴とありすが美藤へとアドバイスをする。
色々と好みの調整が出来るのがドラゴンハンターの魅力ではあるが、モンスターに勝てないようであれば――特に初心者であるうちは、『鉄板』の組み合わせで挑むのが無難であろう。好きな装備・BNPCでクエストに挑むのは、ゲーム自体に慣れてからでも遅くはない。そして、ある程度やれば割とすぐに慣れるのがドラゴンハンターのいいところだ。と、美鈴もありすも思う。
美藤にアドバイスした組み合わせは、初心者向けとしては『鉄板』の組み合わせである。攻撃力は低いが
BNPCに指定したカナリアは、前述の薬師の少女である。クエスト中に体力の回復、状態異常の回復を任意のタイミングで行える回復特化のBNCPである。もちろん無制限ではなく、一度回復を使うと数十秒間は回復できなくなるという欠点はあるが。回復アイテムを使わなくても体力・状態異常回復が出来るため、初心者でなくても使っていける性能であると言える。
「おっし、それじゃ美藤ちゃんの特訓、始めようか」
「ん」
「お、お手柔らかにお願いします……」
ある程度美藤も自力で進めてはいるものの、中盤辺りからのモンスターに苦戦を強いられている。
今回の目標は美藤自身のスキルアップだ。それにはまず操作から慣れてもらわなければならないし、モンスターを自力で倒せるようになってもらわなければならない。
ありすも美鈴も、彼女たちが得意とする『本気装備』は今回は使わず、美藤のサポートへと回る。助けがあったとしても、美藤自身がモンスターと戦って倒せるようにならなければ意味がない。
「うぅ……あたし、ここでいつも詰まってたんだよね……勝てるかな……?」
挑むクエストは、巨大な狼型のモンスターの討伐だ。巨体に見合わぬ素早さでヒットアンドアウェイを繰り返し、更に配下の小型モンスターを呼び出し続ける、いわゆる攻略の『壁』となるモンスターだ。
不安そうな美藤に対し、ありすがぐっと
「ん、問題ない。わたしとすず姉がついてる」
ありすたちにとってはいざとなれば『本気装備』でなくても余裕で勝てる相手だ。最悪の場合はありすたちが倒してクエスト失敗になることは防げる。もちろん、それでは意味がないのだが。
美鈴は苦笑いしつつ続ける。
「まー、大丈夫でしょ。美藤ちゃん、まずは楯の使い方を覚えよう。攻撃よりも、楯でガードすることを意識して。で、ガードしながら相手の動きをよーっく見てごらん」
「は、はい!」
きっと今まで幾度も挑んでは破れていたのだろう。美藤の声からは緊張の色が隠せていない。
――ま、実のところ、ガードに徹してよく見てたら、ものすごくチョロい相手なんだけどねぇ。
そこまでは言葉にせず内心で美鈴は思う。
これから戦うモンスター『グレイファントム』は、先に述べた通りの強敵である。
ただし、あくまで『パターンが読めなければ』の話だが。
――そのあたりの話は、クエストやりながら話しますか。
年下ではあるものの知らない仲ではない『友人』たちとゲームに興じることに――特に同年代ではなかなかやりこんでいる者がいないので猶更だ――楽しみながら、美鈴は彼女たちを見守ることとした。
かくて、ありすと美鈴による、美藤の『特訓』は幕を開けた。
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