第3章1節 王威に抗うもの
第3章2話 勇者と肉壁
ここからはヴィヴィアンの魔法についてわかったことを語ろう。
さて、ヴィヴィアンの持つ魔法だが、これは対戦した時からわかっていた通り三種類である。アリスもホーリー・ベルも三種類の魔法を持っていたし、もしかしたらユニットは全員固定で三種類の魔法なのかもしれない。シャロやジェーンにも聞いてみたいところだ……トンコツが教えることを許可するかは微妙なところだけど。
まずは彼女のメインとなる魔法『
私たちとの対戦で使ったのはほんの一部にすぎず、実に様々なものを召喚することが出来る。
この魔法の大きな特徴は、アリスの魔法を超える『持続性』にあると言えるだろう。とにかく、一度召喚したら後述する『リコレクト』を使わない限り残り続ける。流石に破壊されたら消えてしまうが、どの召喚した魔獣等――ひとまとめに今後は『召喚獣』と呼称する。ちなみにアリスの発案だ――も元ネタに限らずかなりの硬度、そして耐久性を持っている。生半可な攻撃ではびくともしない。
更に召喚獣には独自の意思があり、ヴィヴィアンが特に指示をしなくても勝手に動くことが出来るのだ。もちろん、ヴィヴィアンが個別に指示を出すことも可能だ。《ペルセウス》なんかは特に高い知能を持っていて、呼び出しさえすれば後はしばらく放っておくだけでモンスターの群れを自分で殲滅したり、危ないと思ったら回避したり、またヴィヴィアンに危険が迫ったらガードしたりしてくれる。
……ぶっちゃけ、この魔法、破格もいいところの性能だと思う。『とりあえず』で召喚獣を呼び出すだけで、大抵のクエストをクリアできてしまうくらいだ。対戦にしても、アリスみたいな攻撃力が高い相手でなければ、おそらく突破することは難しいだろう。
ただ、完全無欠というわけではない。
ネックとなるのは『魔力消費の高さ』にある。
呼び出す召喚獣によってそれぞれ消費は異なるのだが、高性能な召喚獣になればなるほど消費は増えていく。アリスの『神装』と違い割合消費ではないものの、一気に複数召喚するのは難しいものが多い。
また、消費にも様々な違いがあって、呼び出す時点で魔力を消費するタイプと、呼び出した後に消費するタイプがある。後者は私たちの対戦で使った《ハーデスの兜》や《ヘルメスの靴》が該当するようだ。大抵の場合は、前者の呼び出した時点での魔力消費となる。
更にアリスの神装と違い、魔力がマイナスになって変身が解けてしまうと、呼び出していた召喚獣も消えてしまうということがわかった。確かに以前の対戦で一度ヴィヴィアンが魔力切れを起こした時があったが、その時使っていた《ハーデスの兜》は変身解除と共に消えていた記憶がある。変身が解けると同時に召喚獣も消えてしまうということは、アリスの神装のように魔力切れ覚悟で使うのはかなり危険――というかほぼ無意味だということだ。気を付けなければ。
尚、同時に複数の召喚獣を呼び出すことは魔力切れにならない限りは可能である。消費の低い召喚獣を複数呼び出すか、消費の高い強力な召喚獣を呼び出すかは状況によって判断が求められるところであろう。ただし、同じ召喚獣を重複して呼び出すことはできない。《グリフォン》のように元から三匹セットになっているものは別として、魔力を回復して《ペルセウス》を二体同時に呼び出す、ということはできないようだ。
複数の召喚獣を呼び出す際に気を付けなければならないことはまだある。それは、召喚獣同士の接触が出来ない、ということだ。仲が悪いからというわけではなく、召喚獣Aと召喚獣Bを同時に呼び出して、AとBが何かの拍子に接触してしまった場合、お互いに弾かれてしまうのである。
……この性質はちょっと厄介だが腑に落ちたことがある。私がヴィヴィアンと対戦していた時に危惧していた『《イージスの楯》を構えたまま《ペガサス》で飛び回る』という戦法だが、対戦時には使って来なかった。その発想がなかったとは思えなくて何でだろうと思っていたのだが、こういう理由があったためである。
次にサモンとほぼセットとなっている『
これも大概破格な性能だと思う。上手くいくかどうかは別として、実質無限に召喚獣を呼び出すことも可能なのだから。
どんなに大量に魔力を消費する召喚獣であろうとも、破壊される前にリコレクトで魔力を回収すれば、再度無傷の状態から呼びなおすことが可能だ。
この魔法自体には特に欠点はない。呼び出した召喚獣の位置さえ把握していれば、距離が離れていてもリコレクトで回収できることがわかっている。距離の制限はもしかしたらあるのかもしれないが、実験した範囲ではアリスの魔法の範囲よりも全然広い範囲で有効であった。
敢えて言うのであれば、リコレクトで魔力を回収した時にヴィヴィアンの魔力上限を上回ってしまった場合、オーバーした分は消えてしまうということか。キャンディを使って複数召喚した場合、リコレクトのタイミングによっては無駄に魔力を消耗してしまう可能性がある。まぁ、だからと言って魔力がカツカツのままだといざという時に召喚が出来なくなってしまうので考えどころではある。
ただ、このリコレクト……魔法として数えていいのかはちょっと微妙かもしれない、と思い始めている。完全にサモンとセットになっているしねぇ……。
最後に問題児である『
……これは現状封印せざるを得ない、と判断した。実際に使ったわけではなく話を聞いただけであるが、どうもヴィヴィアン自身にもインストール後のコントロールが上手くできないらしい。
インストールできるのは魔獣や英雄に限られており、一度使うとヴィヴィアンの全能力が上昇し、インストールした召喚獣の力を扱うことが出来るようになる。それ自体はすごいことなのだが、制御できないのでは危なくて使えない。
特に、私たちも戦った《アングルボザ》――これだけは何があっても使ってはならないだろう。聞いてみたところ、あの対戦中でも《アングルボザ》になっていた時の記憶は全くなく、気づいたら地面に倒れていたということだ。《フェニックス》の時はまだ意識自体はあったらしいが……。
ただし自己申告ではあるが、《フェニックス》も前に比べればまだ扱えるようになったらしい。ヴィヴィアン自身のステータスを強化していけば、いずれはインストールしても自由に制御できるようになるかもしれない。まぁ、流石にそうだとしても《アングルボザ》だけは絶対に使わせないが。
他にもちょっと使いづらい点はある。インストールを行っている間、新しい召喚獣をサモンで呼び出すことは出来なくなってしまうのだ。インストール前にサモンで呼び出しておくことは可能だが、インストール後はヴィヴィアンも召喚獣判定となってしまうのか、他の召喚獣との接触が出来なくなる。
また、インストールを解除するには『アンインストール』――これもサモン・リコレクト同様、インストールとのセットとなっている魔法としてカウントできるか?――でできるのだが、サモンに対するリコレクトとは違い、魔力の回収は出来ない。インストール自体の消費はサモンと変わらないので、かなりの消費をしてしまうことになる。この辺りが使いづらい理由……というより、サモンのいいところを潰してしまうのが一番使いづらい理由になるか。
ただ、ヴィヴィアン自身の強化が行えるというのは使いようによっては強力ではある。コントロール可能であれば、何かしら使いどころは出来てくるとは思う。ま、さっきも言った通り現状は封印だけどね。
ヴィヴィアンの魔法についてはこんなところだ。
アリスの魔法のように様々な力を発揮することは出来るものの、その全てが召喚獣に依存しているため語れるところは意外と少ない。召喚獣のバリエーションくらいだろうか。
で、その召喚獣自体についての話もあるのだ。
”……ヴィヴィアンの召喚獣って、どんなのが呼べるの?”
私のその疑問に少し考えた後、ヴィヴィアンは答えた。
「……おそらく、魔力の範囲内であれば
中々すごい答えが返ってきた。
『召喚獣』という固定化された存在に集約されるものの、想像力次第でアリスの魔法のように魔力が続く限りは何でも呼び出せるであろうことがわかった。
召喚獣をどのように呼び出しているのかについては、これもアリスの魔法と同様にやりたいことに対して頭の中で勝手に答えが出てくるらしい。
アリスと異なるのは、『ext』や『cl』に当たるものがないという点だ。
そうなるとむやみやたらに召喚獣の種類を増やすと、似たような性能の召喚獣がどんどん増えていってしまうのではないかという危惧がある。
これについては、彼女の『霊装』が補うことが出来るようだ。
「わたくしの霊装は、一度呼び出した召喚獣を記録し、また編纂することが出来ます」
つまり、召喚獣は呼び出されたら彼女の霊装――巨大な辞書のような本――のページに記録される。そして、そのページは自由に編集することが出来るというわけだ。不要な召喚獣は間違えて呼び出さないように霊装から消すことが出来るのだとか。そして、ヴィヴィアンがやりたいことに該当する召喚獣が霊装に記載されている場合は、そちらから優先的に呼び出してくれるという。
アリスの『杖』は先端がマジックマテリアル製であること、そして魔法をかけた場合に威力を強化することという性質を持っているが、ヴィヴィアンの霊装もまた彼女自身の魔法を補強する性質を持っているのだろう。
「ふむ、ちなみに、ヴィヴィアンの霊装は何て名前なんだ?」
「え……? 名前、でございますか……?」
問われて困惑してしまう。どうやら霊装に名前を付けられることを知らなかったらしい。
まぁアリスもそうだったけど、自分の霊装に名前があるかどうかユニットからはわからないみたいだからねぇ……クラウザーもそういうところは『どうでもいい』と切り捨てそうな感じだったし。
で、迷うこと数秒。
「……『全知全能万能魔導書』、と名付けましょう」
……物凄い名前を出してきた! いや、確かに性能を表している名前と言えばそうなんだけど! ちなみに、ホーリー・ベルのようにルビは振られない。本当にそのまんま『ぜんちぜんのうばんのうまどうしょ』という名前だ。
本人がいいなら、それでいいけど……。
ちなみに服の方は『メイド・イン・ヘヴン』と名付けた。この『メイド』……まず間違いなく『made』じゃないんだろうなぁ……。
さて、少し話が逸れたので戻そう。
召喚獣自体だが、意外なことにアリスの魔法をかけることが出来る、ということがわかった。つまり、召喚獣自体はマジックマテリアル製だということだ。
とはいっても、アリスの魔法の特性上、マジックマテリアルを変換してしまうと基本的には消費しつくしてしまうため、ヴィヴィアンのリコレクトの対象とすることは出来ない。ヴィヴィアンの魔力があっという間に枯渇してしまうため、乱発することはできないだろう。
それと最も重要な点――ヴィヴィアンの呼び出した召喚獣の内、《イージスの楯》などの道具系については、ヴィヴィアン以外も扱うことが出来るというものがある。《イージスの楯》をアリスに渡して使わせるということも可能である。まぁ、《ヘルメスの靴》みたいに使うと魔力を消費するタイプの道具だと、誰が使ってもヴィヴィアンの魔力が消費されてしまうという点には気を付けなければならないが。そこにさえ気を付ければ、アリスのちょっとだけ苦手としている防御系の魔法やその他補助の役に立つだろう。
ちなみに、ヴィヴィアンの持つ召喚獣は強さによって魔力消費が変わる。強い召喚獣程魔力の消費量が増えるのだ。
でだ。彼女の召喚獣で最も『強い』――効果が高いが消費の大きいものは何かと尋ねてみた。
「そうですね……。わたくしが今呼び出せる召喚獣の中では、《ペルセウス》、《ペガサス》、《イージスの楯》……が最も消費の高いものでしょうか」
これは予想内の答えだった。
対戦した時にも思ったが、この三つの召喚獣に関しては他とは一線を画す性能だったと思う。
本人曰く、次いで《フェニックス》、《ヒュドラ》。更にその後に《コロッサス》等が続くとのことだ。
……尤も恐れていた《アングルボザ》だが、これはどうもインストール専用なのか、サモンでは呼び出せないという話である。
召喚獣は今後も新しく作ることが出来る。今後にも期待だ。
ヴィヴィアンの魔法、後ついでに霊装についてはこんなところだ。
そうそう、ヴィヴィアンが加わったことによって、私は意外なこと――というか今まで意識してなかった方がおかしいんだけど――に気が付いた。
それは『ステータス』の差だ。
今まではアリスのステータスを伸ばすだけで気にもしてなかったんだけど、このステータスはユニット毎に色々と差があるらしい。
アリスに関しては、割と平均的なステータスだ。どのステータスも普通に伸びており、大きく上がったり下がったりということはなさそうに見える。強いて言うなら、体力よりも魔力の方がやや伸びが良く、攻撃力が高めになっているか。私はそこまでゲームに詳しくないからわからないけど、アリスにこのことを伝えると……。
「あー、なるほど。『勇者』タイプって感じか? それか『魔法戦士』かな」
と言っていた。
まぁ何にしても平均的に高めのステータスだとは思う――比較対象が今までいなかったので、高いか低いかはよくわからなかったのだが。
一方のヴィヴィアンはと言うと……。
”うぇ? 何だこれ……?”
「え? わ、わたくし……何か変でしょうか……?」
戸惑いの余り思わず変な声を出してしまった。
ヴィヴィアンのステータスは……何というか、異様に体力だけが突出して伸びている。反面、その他のステータスは軒並みアリスを下回っている。防御力がアリスより上回っているくらいか。
物凄く極端なステータスをしている。
「うーむ、こりゃ完全に『肉壁』だな」
アリスも苦笑いしつつそう言う。『肉壁』って……すごい表現だな。
でもこれで納得がいった。対戦していた時、アリスの巨星系魔法を食らっても普通に立ち上がれていたのも、これだけ体力が高ければ納得だ。多分だけど、召喚獣がやたらと強力なため、ヴィヴィアン自身の戦闘力は低くなっているのだろう。それで無制限に召喚獣を乱発できないように魔力は控えめにされているのではないかと思う。体力だけがやたらと高いのは謎だけど。
これを踏まえて、今後アリスとヴィヴィアンはいかにして戦っていくか――フォーメーションを決めることにした。
で、結果。
「オレがいつも通り前に出て戦う」
「わたくしは後方で姫様の支援をいたします」
ということになった。
やはり幾ら耐久力があったとしても、積極的に前に出て戦うのにはヴィヴィアンは向いていない。彼女には後方から召喚獣を使ってアリスの援護をしてもらうのが一番良い、という結論に至った。
これに伴い私の位置も変更となった。ユニットが二人に増えたのだし、基本的に前に出るアリスと一緒にいるよりも後ろでヴィヴィアンに守ってもらう方が安全だということで、私はこれからはヴィヴィアンにくっついていくことになる。
「ご主人様――これからはわたくしが全身全霊でお守りいたしますわ」
「おう、使い魔殿を頼んだぜ、ヴィヴィアン」
慣れ親しんだアリスの肩から離れるのはちょっと寂しい気もするが、私を背負ってない方がアリスも全力を出しやすくなるだろう。
……これを機に今まで以上に無茶しなきゃいいけど……とそこだけは心配だ。
ともあれ、これで今後のことは決まった。
アリスの目的――『ゲーム』のクリア目指して、私たち三人はこれからも戦い続けるのだ。
さて――色々と検証が終わったところで、お待ちかねの成長タイムだ。
今回はクラウザー戦の副産物として、50万ジェムも獲得している。これでアリスとヴィヴィアンのステータスをかなり伸ばすことが出来るだろう。
二人分の成長をさせないといけないので、そこまで劇的に伸ばせるというわけではないのが辛いところだ。ユニットを複数持つことのデメリットと言える。もちろん、そのデメリットを補ってあまりあるほどのメリットがあるわけだけど。
アリスとヴィヴィアンのステータスをそれぞれ全体的に一回り成長させる、やっぱりヴィヴィアンは体力特化で、他のステータスは余り伸びがない。これは……クラウザーも頭を抱えただろうなぁ……。
ある程度成長させたところで、今度は買い物だ。
この機会に便利機能はある程度揃えておいて、今後はジェムを成長させるためかキャンディ補充に集中させたい。
”まずは、これかな……”
アイテムショップの品ぞろえもまた変わっている――ランダムなのか、それとも私に通知が来ないだけなのかはわからないが……。
望む望まないに関わらず今後も対戦をする機会はあるだろう。特にクラウザーとはいずれ必ず戦うことになる。その時に備えて、対戦に有利になるような便利機能があれば優先的に取得しておきたい。
私が見つけたので良さそうなのが、『
スカウターは、『他のユニットのステータスを見ることが出来る』という機能だ。これがあれば、初見の相手でも全体的なステータスや持っている魔法・ギフトの確認が出来るという優れものである。私が取得できる機能ということは、他のプレイヤーも当然取得できるということだ。こちらの情報だけ筒抜けというのは避けたいし、取っておくべきだろう。ありす先生も取得すべき、と太鼓判を押してくれている。
他に気になったものは、『ユニット間通話』だ。こちらは、ユーザーとユニット間の遠隔通話ではなく、ユニット同士の遠隔通話機能である。ありすと桃香は同じクラスだし会話する機会は普通にあるが、全てのユニットが近しい人間同士というわけではないだろう――美藤嬢とシャルロットは果たしてどうなんだろうか?――ユニット同士で話をしたい場合に有効だ。学校ではともかく、家に帰った後や土日はちょっと会話しにくいし、取っておいて損はないだろう。
レーダー共有機能は今回も見送り。私がアリスから離れることで不便があるようなら取得する予定だが、そこまで距離が離れること自体なかなかないと思うのでとりあえずはなくても問題ないだろう。
後は――ありすと桃香の希望で、再度『ユニット数+1』を取得しておいた。ユニットは最大何人まで持てるのだろうか……? それはわからないが、これがあればいざという時――今回の桃香の時のように――に使えるかもしれない。まぁ、誰がユニットかを確認することも出来るし、一応持っておいてもいいだろうと納得し、取得することにした。使う機会がなければそれが一番いいんだけどね……。
”こんなところかな?”
他に欲しいものは今のところ見当たらない。売ってないけど欲しいものと言えば、アイテムホルダーの所持数拡張や、ユニット間でのアイテム受け渡しができるようになるものなんだけど……残念ながらアイテムショップには見当たらない。もしかしたら今後出てくるのかもしれないけど、今ないものは仕方ないか。
後はいつも通りに消耗品を補充して買い物完了だ。
そうそう、忘れてはいけないがリスポーン代もしっかりと残してある。ユニットが増えた分、多めに残しておかないとね。聞けば、ヴィヴィアンはまだ一度もリスポーンしていないようだ。これからもモンスターはどんどん強くなるだろうし、絶対にリスポーンしないということもない……保険はしっかりとかけておくべきだろう。
”それじゃ、今日はこれで解散にしよう。
また明日ね、桃香”
「はい。それではごきげんよう、ラビ様、ありすさん」
「ん……ばいばい」
優雅に一礼し、桃香がマイルームを去る。
忘れてた。マイルームもちょっとだけ変化している。ユニットが増えたためだろうか、個別にマイルームに出入りすることが出来るようになったのだ。マイルームに今いる人数を確認することも出来るようになった。
都合がつかない時はマイルームに行かなければよくなったのだ。複数のユニットがいる場合はこうでなくては不便だろう。私がマイルームに入った瞬間、強制的にありすと桃香もマイルームに来てしまう、なんてことになったら大変なことになってしまう。
”それじゃ、私たちも戻ろうか。そろそろ夕ご飯じゃないかな”
「ん……」
そして私たちもマイルームを出て部屋へと戻ってきた。
……のだが、
「……」
ありすの様子が少しおかしい。
表情はいつも通りのぼんやりしたままなんだけど、顔が少し赤い気がする。
”……ありす?”
「……ん……」
これはもしかして――
ちょっとおでこを触ってみると、少し熱い。
”ありす、風邪ひいちゃったかな、これは”
「……そう、かも……」
朝から調子が良くなかったか? いや、お昼ご飯は普通に食べてたし……うーん……。
ともあれ放置するわけにはいかない。
”ごめんね、気づかなくて。
とにかくベッドで寝てなさい。美奈子さん呼んでくるから”
「うん……」
私の言うことに素直に従ってありすはベッドにそのまま潜り込む。
クエスト中やマイルーム内では普通に活動していたし、『ゲーム』内なら風邪をひいていても関係ないようだが、だからと言って体を放置して『ゲーム』をするわけにはいかない。
とにかく私は美奈子さんを呼ぶことにした――
結果、熱はそれほど高くはないが平熱でもなく、ありすは風邪をひいてしまったのであった……。
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