第3章 神獣少女 -Providence Slayer-
第3章1話 プロローグ ~新たなる冒険へ
私たちが一括りに『モンスター』と呼んでいる『ゲーム』の敵キャラ――エネミーであるが、モンスター図鑑を見ると幾つかの区分けがされていることがわかる。
まずは『害獣』と分類されるモンスターだ。
これは例えばメガリスやアクマシラ等が該当する。
『害獣』と言うと別にモンスターに限った話ではなく、農作物を荒らしたりする普通の獣も含むように思えるが……この『ゲーム』に関してはそちらも込みで、やはり『害獣』と定義されている。
一般的な害獣をとりあえず考慮せずに『ゲーム』内における害獣の定義を見ると、どうも通常の獣とは異なる部分を持つが、大筋としては通常の獣とほぼ同じ――やや特異な方向に進化しているものが該当するらしい。
例えばメガリスだと、生き物としては見た目通り『リス』の仲間ではあるらしい。異なるのは人間大にまで膨れ上がった巨体である。ただ、巨体なだけであって他は大体『リス』と同じような生き物であるため、『害獣』と分類されているのだ。これは、猿に似たアクマシラ、芋虫に似たリビングアーマー等も同じ事情である。
……まぁ、これらが似てるだけで普通の生き物かと言われると、私としては悩むところだが……少なくとも火を吐いたり魔法じみた能力を持っていなかったりと、普通の生き物の範疇に収まっていると言えばそうなのかもしれない。
次に『魔獣』という分類。
ここまでの間に私たちが戦った中では、火龍やスフィンクス等だ。
いわゆる『伝説の中の生き物』が含まれる。複数の生物のキメラだったりすることが条件なわけではなく、人類の知る生態系から外れた生き物が『魔獣』と分類されるらしい。
また、火を吐いたり魔法じみた能力を持っていることが多い。じゃあ電気ウナギなんかも『魔獣』なのか? とも思うが……多分、行き過ぎた殺傷能力とかでもない限りは『害獣』に分類されることになるだろう。電気ウナギの電撃のヤバさがどの程度なのか私はわからないが……まぁ、電気ウナギのサイズで『ゲーム』でモンスターとして出てきても、変身していれば脅威でもなんでもないとは思う。人間大まで大きくなった電気ウナギとかだと、もしかしたら『魔獣』扱いになるのかも? いや、電気ウナギ自体は普通にいる生物なわけだし、『害獣』分類かもしれない。こればかりは運営がどういう思惑なのかわからないと何とも言えない。
そして『冥獣』――これは正直良くわからない。
世界にとっての『敵』――ありえざる生命体という説明がされていたが、『魔獣』の分類と何が違うのかよくわからない。
私たちが戦ったことのないモンスターが該当するのか? と思っていたが、アラクニドがこれに該当するようだ。確かに、蟻と蟷螂と蜘蛛をごちゃまぜにした蟲のキメラとでもいうべき存在であった。単なるキメラなら『魔獣』になるような気もするのだが……。
分類はまだある。次が『怪獣』だ。
これは他の『害獣』等のカテゴリと重複するとのことだ。つまり、分類としては本来は『害獣』や『魔獣』なのだが、特別なため『怪獣』とも分類するケースがあるということ。
その定義はかなり明確で、『国家が総力を挙げて討伐すべき存在』なのだそうだ。この『ゲーム』で国家って何? って感じではあるが、要するに個人レベルで戦うのではなく軍隊が戦う相手ということだろう。尤も、この『ゲーム』だと個人レベルで軍レベルの性能を持つユニットが戦うことになるため、単なるフレーバーのようにしか思えないが。
『怪獣』に分類されるのは、テュランスネイルだ。あの巨体、生命力に攻撃力……確かに魔法の力を持たない普通の人間(ゲーム的には冒険者みたいな感じ?)が倒そうとするのであれば、軍隊レベルの規模で挑まなければならない相手だろう。
最後に――『神獣』という分類がある。
私たちが戦った中では、『雷精竜ヴォルガノフ』がこれに該当する。
『神獣』と言っても、『神』の遣い……という意味ではない。ある意味では『神』そのものであるという。
多くの宗教は神話において、自然の力を擬神したものがあるが、それのモンスター版と考えて間違いない。
ヴォルガノフはその名の通り『雷』の化身だという。
……となると、他にもきっと『太陽』だったり『風』だったりの化身――『神獣』が存在するのだろう。『雷』にしたって、ヴォルガノフだけとは限らない。もっと強大な化身も出てくる可能性がある。
何にしても、この『ゲーム』における大ボス級であることは疑いようがない。もちろん、『魔獣』や『冥獣』なんかにもまだ見ぬ強敵がいるであろう。
私たち――私とありすの目的である『ゲームのクリア』において、いずれその全てを倒す必要があるだろう。一体どれくらいのモンスターと戦わなければならないのか……。
未知の強敵に備えて、私たちはひたすらクエストへと挑み、ジェムを貯め、ステータスを強化して、有効な戦法を編み出していかなければならない。
道のりはまだまだ遠いなぁ……。
ちなみにだが、天空遺跡で戦った氷晶竜たちについてだが、なぜかモンスター図鑑には登録されていなかった。
倒すことの出来なかった紅晶竜や黒晶竜はともかく、クエストの討伐目標であったはずの氷晶竜が登録されないというのはちょっと不可解だ。まぁ私たちが考えてもその理由はわからないんだけど……。
図鑑に載っているのは、あくまで私たちが遭遇したことのあるモンスターに限られているため、今後新たな分類に含まれるモンスターも出てくるかもしれない。今の登録状況を見ていると、『神獣』よりも強大なモンスターはなかなか想像できないけれど。
ただ、神獣の時にも少し触れたが、この分類がイコール強さとは限らないということは注意しておきたい。
私たちが戦った中では、神獣であるヴォルガノフよりも怪獣であるテュランスネイルの方が強いモンスターだったと思う。相手の動き方がわかっている今であっても、アリス一人でテュランスネイルを倒そうとするのはかなり無理があるが、ヴォルガノフについてはおそらく今後も戦う機会があったとしてもアリス一人で十分勝てる相手だ。実際に一度勝っているからというのもあるが、基本的にこちらの魔法が普通に通じる相手であったのが主な理由だ。テュランスネイルには中々有効打を加えられなかったし、切り札となる『神装』も数発使わないと倒せなかったし。
まぁ、アリスのステータスを今後強化していけばテュランスネイルももっと楽に倒せるようになるかもしれないが……それはかなり長い道のりになりそうだ。
――話が少し逸れた。
……まず前提として、今ここで語っている『私』はアリスと共に現在進行形で戦っているラビではない。もう少し『未来』のラビである。だから、ヴォルガノフを倒した後、アリスがどのような敵と戦っていくのか、そして彼女の目的が叶うのかどうか――それに、この『ゲーム』がどういうものであったのか、全てを知っている。もちろん、それを今ここで明かしてしまうようなことはしないが……。
さて、その私が振り返って過去を思い返す時に、幾つか印象深い出来事がある。
そのうちの一つが、ある『神獣』に纏わる出来事である。
様々な戦いを繰り広げてきたが――あの『神獣』との戦いは最も激しく、そして辛い戦いであったと思う。他にも何体かの神獣と戦うこともあったし、強大な――それこそ世界を壊滅させるかのような『敵』も存在していたのだが、どの『敵』との戦いが一番印象深いか、と聞かれると、私はあの『神獣』を挙げる。聞いたことはないけれど、アリスに尋ねてもきっと同じ答えが返ってくると思……ああ、いやどうだろう。もしかしたら別の『敵』のことを挙げるかもしれない。
ともかく、これからその『神獣』に纏わる話をしようと思う。ホーリー・ベルとの出会いと別れが私とアリスにとっての始まりの物語だとして、かの『神獣』との戦いは、この『ゲーム』とアリスとの戦いの始まりの物語と言えるかもしれない。
『神獣』の物語の始まりについて語るには……まず『彼女』の話から始めるべきだろう。
私たちの新たな仲間となったヴィヴィアン――振り返ってみれば、彼女との出会いのすぐ後に、かの『神獣』との戦いは始まっていたのだ……。
* * * * *
さて、新たに私のユニットとなった桃香ことヴィヴィアンについて、色々と調べておく必要がある。
これからクエストや対戦もヴィヴィアンと一緒に戦うことになるのだ。彼女はホーリー・ベルと違って私自身のユニットなのだから、その能力についてはしっかりと把握しておく必要がある。
”――というわけで、今日はヴィヴィアンの持っている魔法について確認しようと思う”
クラウザーとの戦いから二日、トンコツへの報告を済ませた次の日――日曜日。
クエストに向かう前のマイルーム内にて、私はありすと桃香にそう宣言する。
「ん、異議なし」
「わかりましたわ」
二人とも素直にうなずいてくれる。
『ゲーム』でメインに戦うのはこの二人なわけだし、お互いに連携を取ったりする必要もあるだろう。どのような能力を持っているかは、私よりもむしろ二人の方が把握していないといざという時に困る。
……実際、ヴィヴィアンの持つ魔法についてはまだ私もありすもよくわかっていない。魔法自体は三種類とも見ているが、一体何が出来て何が出来ないのかも把握できていない状態だ。
なので、今日はジェム稼ぎのためではなく、ヴィヴィアンの力を見るためのクエストに行こうと思う。
つまりは、まぁアリスの『神装』やギフトの検証をした時と同じく、メガリスとかの雑魚モンスター相手のクエストが中心になる。
ありす的にはちょっと不満があるかもしれないけど、今日は我慢してもらうしかない。幸い、今のところは乗り気なようだし、気分が乗っているうちに行ってしまおう。
”それじゃ、行こうか”
手頃なクエストが丁度出現していたので選択、マイルームから出発しようとする。
「ん。トーカ」
「はい?」
出発しようとした時、ありすが桃香を呼び止める。
「……これが、変身の『正しい』やり方」
え、あー……そうか。
戸惑う桃香の前でありすはいつものポーズを取り――
「エクス――トランス!」
変身の掛け声をかけ、アリスへと変身する。
……さっきさらりと『正しい』やり方とか言ったな……? さては、これ、広めるつもりだな? いや、まぁ別にいいけど。
「さぁ、桃香も!」
「え、えぇ……?」
流石にこれには桃香も戸惑うようだ。
まぁ、普通はそうだよね、
”……まぁ、別にポーズも掛け声もなくても変身できるんだし、無理しなくても……”
助け船を出そうとしたが、桃香は首を横に振り、
「いえ――わたくしもやりますわ!」
と、やる気満々の表情でアリスを見返す。
……あ、このノリ大丈夫なんだ……。
見様見真似でポーズを取り――
「え、エクストランス! ですわ!」
ちょっとだけ照れが残りつつも無事変身完了した。
現れたのはメイド服を着こんだ魔法少女――ヴィヴィアンの姿だ。
「……お待たせいたしました。ご主人様、姫様」
桃香の時と比べてやや表情は硬く、動作も少しぎこちないように見える。
だが、表情が硬いと言っても以前のような生気のない死人のようなものではなく、メイドとして職務に忠実であろうと感情を押し込めているがためのように見える。
うーん、そういうアウトプットの変更、なのかな。無理をしてるんじゃなければいいけど……ちょっと気にしておこう。
「おう、それじゃ行こうぜ!」
「お供いたします、姫様」
”はいはい、それじゃ今度こそ行くよ”
こうして、謎の小動物を主とする、バーサク姫とその従者という謎の集団はクエストに出発するのであった……。
うん、何だこれ。
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