第2章39話 後始末 ~そして……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――現実世界におけるとある場所にて――
”――以上だ”
周囲は木々に覆われ、また草も生えており視界は効かない。
また人気もなく――彼を連れてきたユニットの少女も少し離れた場所にやっておいた。
そんな中でトンコツが誰かに向かって語り掛けている。
”……そう、色々ありがとう。『メルクリウス』――じゃなくて、今はトンコツでしたっけ?”
ふふっ、と馬鹿にしたわけでもなく軽やかに笑う声。
妙齢の落ち着いた女性の声にトンコツは顔をしかめる。
”言うなよ……まぁ仕方ねぇけどさ……”
そう拗ねたように言うトンコツ。
声だけのやり取りならば、年の離れた姉にからかわれて拗ねる弟のようにも思える。
”……ま、あんたの
やり返すようにトンコツが言うが、
”あら、私は気に入っているわよ? なにせ、私の可愛い『あの子』がつけてくれた名前だもの”
相手は全く動じることはない。また、その声に嘘は混じっていないように聞こえる。
はぁ、とトンコツはため息をつくのみだ。
――可愛い『あの子』と来たか……翻って、トンコツの名づけ親は――憎らしくもないしそれなりに長い時間共に過ごして情もあり、嫌いではないが……と少し離れたところでトンコツの指示通り待機しているであろう少女のことを思う。
『ダメな子ほど可愛い』――だっけか、そんな言葉があったな。トンコツは思う。
”それで、どうするんだ?”
この話題は続けても一方的に自分がからかわれるだけだ、とトンコツは話を切り替える。
どうする、とはもちろんクラウザーのことであろう。
”そうねぇ……”
相手は少し思案したようだが、
”しばらくは静観しましょう。いくら彼が吠えたところで、ジェムを補充する術はないわ。運営側に協力者がいても、『ゲーム』の根幹に関わるジェムの操作を行うのはリスクが高いでしょう。
彼が『場外』で何かを活動するとしても、対戦システムの是正が精々でしょう――是正がされたら、再び活動を開始したという合図にもなるわね”
”ふむ、まぁ奴がいくらジェムを持っていたかは知らないが、確かに当分は身動きは取れないか……”
”それに――”
一度言葉を切り、実に楽しそうに続ける。
”クラウザーはしばらくはあの子たちを狙うことでしょう。もちろん、だからといって絶対安全というわけではないけれど、ね”
”……うーむ……”
ラビ自身も思う通り、クラウザーの狙いは当分の間はラビたちへと向くことになるだろう。とはいっても、ラビも危惧する通り『修行』がてら他のプレイヤーが狙われないとも限らない。
しかし、最終的に彼が最も『勝ちたい』のはラビになることは確実だ。
放っておいてもラビたちはきっとヴィヴィアンを助けるためにクラウザーと戦っていただろうが、それを早める手助けをしてしまったこと――ラビがクラウザーに狙われる原因となったことに罪悪感を覚える。
以前にラビに言った言葉だが、『全てのプレイヤーが揃っている状態でも「ゲーム」に勝つことは可能』……これはトンコツが知る限り確かだ。が、それが実現するかどうかは全く別の問題だ。
このまま『ゲーム』が進んで行けば、いずれ必ずプレイヤー同士の戦いは起きる。それも、ジェム稼ぎのための対戦ではなく、ラビとクラウザーのように互いの生き残りを賭けたデスマッチがだ。
『ゲーム』がその局面まで進んだ時、果たして自分はどうするのか――今協力関係にある『このプレイヤー』とも戦うことになるのか……そこまで考え、トンコツは暗い気分になる。
『このプレイヤー』のユニットと戦う? どうやって?
……無理だ。戦う前から敗北は決定している。彼のユニットであるシャルロット、ジェーンはまだまだ成長の余地はある。しかし、どれだけ成長しても彼女のユニットには到底敵わないだろう――例えアリスであろうとも。
”全く……すぐ暗い顔をするわね、あなたは”
トンコツの心の内を読んだか、彼女が呆れたように言う。
”どうせいつか私の子たちと戦う時が来る、とか考えてたのでしょう?
……心配はいらないわ。きっと、そんな日は来ないから”
”……その前に俺が誰かに倒されるから、とかいうオチじゃないよな?”
”ふふっ、その可能性はあるかもしれないわね。でも、そうじゃないわ。
前にも言ったけど、私の目的は――”
以前にも聞かされた彼女の『目的』を再度聞く。
……にわかには信じがたい内容ではあるが、嘘をついているようには思えない。また、そんな嘘をつく必要もない。
『ゲーム』の勝者となるよりも優先される『目的』ではあるのだが……。
”あ、そうそう。あなたの話――ラビの話で一つ気になることがあったわ”
この話題を長く続ける気はないのか、今度は彼女の方が話題を変える。
”ん? 何だ、気になること、あったか?”
トンコツは特に嘘をつくこともなく、もちろん意図的に情報を隠すこともなく全てを話している。
クラウザーを取り逃がしたこと以上に気になることなどなかったかのように思っていたが……。
”ユニットの子が使った魔法で出現したモンスターが図鑑に登録されていたことよ”
”……ああ”
そういえばラビがそんなことを言っていたな、と思い出す。
トンコツはそれほど重要視していなかった話なので忘れていた。ラビの見間違いか、あるいはイレギュラー故の何かの『バグ』なのではないかと考えて記憶の隅に追いやっていたのだ。
”もしかしたら……あくまで可能性、私のただの推測でしかないけれど……。
この世界の生物に危害が加わること――ユニットの子たちが死ぬことはない、という前提――
第2章『召喚少女』編 完
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