第2章38話 エピローグ ~あなたに幸運を
* * * * *
「……まぁ、桃香がクラウザーから解放されたのだから、良しとしましょう」
トンコツたちとの対戦が終わった後、私とありすは桃香嬢から招かれて桜邸へとやってきていた。
昨日はバタバタとしていて、あやめには『クラウザーは桃香からは離れた』としか伝えていなかったため、色々と細かい事情の説明をする必要があったからだ。
で、クラウザーから解放されたものの、今度は私のユニットとして相変わらず『ゲーム』に参加し続けることとなった、とあやめに伝えたのだが……。
「あやめお姉ちゃん……その、これはわたくし自身が望んだことだから……」
今は私たち以外の目はない。
以前に会った時とは異なり桃香嬢はあやめのことを『お姉ちゃん』と呼んでいる。こちらの方が素なのだろう。
まーねー、実はこれ怒られると思ってたんだよねー。ありすの二つ目のお願いを渋った理由の一つが、あやめが多分怒るだろうな、というものがあったし。
「ん……鷹月おねーさん、ごめんなさい……」
”すまない、あやめ”
とはいえ最終的にありすのお願いを承諾したのも、桃香嬢をユニットにすることを決めたのも私だ。
ありす共々あやめに頭を下げる。
「あ、いえ……謝る必要はないです。誤解させて申し訳ございません」
逆にあやめが慌てて頭を下げる。皆して頭を下げるという奇妙な光景だ。
「その――桃香を助けてもらったことには本当に感謝しています。それに、『ゲーム』に参加し続けることも、桃香自身が望んでいるのであれば良いです。
……むしろ、下手に放置してまた別の性質の悪い使い魔に目を付けられるより、ラビ様のユニットとして参加する方が安心ですから」
う、うーむ、『様』付けして呼ばれるのは……ちょっと何というか……。
どうも桃香が『ゲーム』に参加すること自体はオーケーみたいだ。でも、じゃあ何か不服そうな反応だったのはなんでだろう?
「……贅沢を言えば、私が桃香と共に『ゲーム』に参加できないことが……」
ああ、なるほど。
あやめは既にマサ何とかのユニットだから、基本的には一緒には『ゲーム』に参加することは出来ないからか。特に私はイレギュラーみたいだし、COOP可能なクエストも狙ってタイミングを合わせないと一緒に参加できない。後は対戦するくらいだけど……桃香嬢と敵同士になってしまうのは不本意なんだろう。
かといってじゃああやめを私のユニットに出来るかというと、これも難しい。私自身がどう思うかという以前に、マサ何とかのユニットから解除されない限り、そもそもユニットとして選択することが出来ない。それに、ユニット解除のタイミングにもよる。桃香嬢の場合は対戦中にユニット解除、そして私のユニットとして再登録という流れが行えたが、もしそうではない場合――ユニット解除の時点で『ゲーム』の記憶を失ってしまうだろう。その時に再びユニットとすると記憶が混乱してしまうかもしれない。桃香嬢と一緒に『ゲーム』に参加するという、この時の意思が変わってしまうかもしれない。
彼女にとっては残念だろうが、私のユニットになるのは諦めてもらうしかないだろう。
――ふと気になったが、もしかして……美鈴も今ならユニットとして選択可能だったりするのだろうか? あるいは、桃香嬢のように対戦中あるいはクエスト中にユニットを再登録できなかった場合、記憶が失われると同時にユニットとなる資格を失ったりするのだろうか……? いや、このことは考えるのはよそう。
「いえ、忘れてください」
頭を振り、未練を振り払うあやめ。
そして、再び普段通りであろうクールな表情へと戻る。
「共に『ゲーム』に参加することは出来ませんが、『ゲーム』に対しての記憶や認識はあります。
ですので、私は皆さまが『ゲーム』に参加する際の現実面でのサポートをさせていただきたいと思います」
”おお、それは助かるよ”
ありすだけではなく桃香嬢もユニットとなったわけだが、私の体は一つしかない。基本的にはありすと一緒にいるつもりだけど、クエスト等には桃香嬢も参加することになる。
私の目の届かないところで桃香嬢の現実面でのサポートをしてくれるというのはありがたい。家族に対して誤魔化したりといったフォローも期待できる。
まぁ唯一の危うい点は、マサ何とかが『ゲーム』にやる気をだしてあやめを引っ張り出すことが増えたり、あるいは諦めてユニットを解除したりといったことをする可能性があることだが、こればかりは考えても仕方ない。
”……もし、君の使い魔に会うことがあれば、ちょっと話もしてみるよ”
「ええ、是非お願いいたします」
若干、殺意がこもった眼差しであやめは言う。恨まれてるなー、マサ何とかさん……。
『ゲーム』に参加することの是非は置いておくにしても、ずっと放置というものちょっとひどい話だと思うし、機会があれば話しておこうと思う。
「えっと……その、それでは――改めまして、これからよろしくお願いしますわ。ラビ様、恋墨さん」
ちょっとだけ照れたように笑い、桃香嬢が私たちに言う。
「ん。よろしく、サクラ」
”よろしくね、桜さん”
桃香の挨拶に応える私たちだったが、彼女は今度はちょっとだけ不満そうに頬を膨らませる。
……かと思ったら、今度は顔を少し赤らめてもじもじしながら言う。
「そ、その……折角一緒に『ゲーム』に挑むともだ――な、仲間になったのですから、わたくしのことは……『桃香』と……呼んで、欲しい、なって……」
最後の方は段々と尻すぼみになって聞こえにくかったが、何を言いたいのかはわかる。
「ん、わかった。トーカ」
あっさりとありすは彼女の望む通り下の名前で呼び捨てにする。
まぁ本人がいいなら問題ないか。
”私もわかったよ、桃香。
……でも、私に『様』付けは……”
ついでだ、言っておこう、と思って口に出そうとしたのだけど――
「そ、それではわたくしも『恋墨さん』、ではなく、あ、『ありすさん』とお呼びしても!?」
身を乗り出す勢いで迫る桃香の言葉によってかき消されてしまった……。
ありすはと言うと、
「ん、いいよ」
やっぱりあっさりと頷くのであった。
……ま、いいか。
ともあれ、こうしてヴィヴィアンを巡る私たちの戦いはひとまずは終わったのだった。
この時逃がしたクラウザーとは再び戦うことになるのだが、それはまだもう少し先の話である。
――最後に一つだけ、今回の件について誰にも語らなかったことがある。
それは、ヴィヴィアンの持つギフト――【
彼女をユニットとした時に各種の魔法とギフトについて確認した――詳細については追って語る機会があるだろう――のだが、このギフトについてだけ、ちょっと気になることがあった。
【祈祷者】の効果は『あなたに、幸運を』の一文しか書かれていないためはっきりとはわからない。私がイレギュラーなため詳細が読めないのかとも思ったが、アリスの【
……今回の件、非常にひっかかるところがあった。
それは――過程はどうあれ、
思い返せば色々と不自然なことが多かった。
まずはクラウザーが私と対戦をしたことだ。もちろん対戦すること自体は不自然ではない。クラウザーは対戦することを望んでいたし、トンコツにしたって私の位置がわかっていれば近くに寄って対戦依頼をすることが出来たのだから。
でも、自分で言うのも何だけど、クエストでも遭遇することが稀であるイレギュラーに対して、対戦機能実装直後に
それに、ジェーンの存在だ。ありすから聞いたが、美藤嬢がユニットとなったのは二週間程前だという――ギフトの実装後だ。桃香の幼馴染でありクラスメートである美藤嬢が、
他にも今回割と『運』頼みだった箇所があったけど、それも全て私の思惑通りの方向に進んでくれた。私の計画が完璧などと言うつもりは毛頭ない。けど、ここまで上手くいくとは思わなかった。
あやめと私が
――もっと言えば、私とありすが出会ったこと自体……ありすがいなければ、桃香はクラウザーから解放されることはなかったはずだ。そして、私がいなければありすが『ゲーム』に参加することもなかった……。いや、流石にこれはギフト実装前だし無関係だとは思うけど……。
……思うんだけど……。
『
……まさか、ね……。
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