第2章17話 今後への検討と行動
シャロたちとの『取引』、そしてヴィヴィアンとの再戦を行った翌日、木曜日――
ありすはいつも通り学校へ。クラウザーのことは悩ましい問題だが、学校をサボっていい理由にはならない。また、学校に行かなかったからといって解決するような問題でもない。
幸い、ありす自身も別に学校を休むつもりもなく、いつも通り学校へと向かっていった。
……桃香嬢と話すかどうか、今回はありすに一任した。何かアドバイスをしてあげればよかったのだが、ありすも『ん……ラビさんは、今回はいい……必要があったら、後で連絡する』と言った。……あれ? もしかして私の信頼度ガタ落ちした? どうも昨日の対戦の時ぐらいから、ありすはありすで何か考えてはいるみたいだけど……意思疎通がうまく出来ていないなぁ。『保護者』気取りなのに情けない……。
と、落ち込んでいる余裕はない。私は私で、クラウザーとヴィヴィアンを引き離すための『筋書』を考えておくことにしよう。
……とまぁありすが学校に行っている間に、あーでもないこーでもないと私一人で悶々と考え込んでいたのだが……。
結論としては、やはりどうしても『クラウザーを倒す』ということに行きついてしまう。まぁ、このことはトンコツとの『取引』でもあるのでやる必要はあるのだけど。
問題なのはどうやってクラウザーを倒すかというところなのだ。
ヴィヴィアンに勝つことは、おそらく出来るだろう。絶対確実というわけではない――ヴィヴィアンの全ての魔法を見たわけではないし、サモン・リコレクト以外にも魔法を持っている可能性はある。それに、相変わらず彼女の『ギフト』についても不明のままだ。それでも、余程のことがない限りはありすならば勝てると私は思っている。ただ、ヴィヴィアンが『逃げ』や『防御』に徹した場合は少々辛いかもしれない。昨日の戦いが正にそれだった。
クラウザーを倒すには……やはりユーザーへのダイレクトアタックを行うしかない、かな。この場合、クラウザーの『対戦特化』という評価が気になるところだ。いくら何でも『神装』をどうにか出来るほどの能力は持っていないと思うが、普通の魔法なら回避、最悪耐えきる可能性もある。そして、彼が魔法に匹敵するような攻撃方法を持っている場合――これは十中八九持っていると、彼から感じた雰囲気や『圧』から予感している――ネックとなるのが私の存在だ。
私自身には何の戦闘力もない。クラウザーに狙われても逃げることしかできないが、体格差がどうにもならない。逃げ切ることも多分無理じゃないかと思う。
であれば、クエストの時のようにアリスにしがみついているしかないのだが……クラウザーの戦闘力次第では一対二の状況になりうる。
思った程クラウザーの戦闘力が高くないのであれば問題はないけど、あまり楽観はできない。そうでなければ、ジュジュやトンコツがクラウザーのことを『最強のプレイヤー』と恐れることの理由がわからない。特に、トンコツなんかはこちらと敵対する可能性もあったというのに、危険を冒してでもクラウザー討伐の『取引』を持ち掛けてきたのだ。
”うーーーーん……”
もしかして私自身を強化する機能やアイテムがないだろうか、とも考えてマニュアルやアイテムショップを何度も見直してみたが、そういうものもなかった。まぁ、そりゃ、『ゲーム』の趣旨が何かにつけて『ユニットを使って~』となっているのだから当然か。
後は可能性として低いけど、クラウザーが私たちと戦わなくなるという場合もありうる。それを避けるために、昨日はクラウザーがこちらへの興味を失わないようにしていたのだけど、可能性はゼロではない。
そうなってしまうとお手上げだ。現状、私たちからクラウザーへ対戦依頼を投げる方法がない。クエストで偶然出会った時に対戦に持ち込むという方法もあるらしいが、もしかしたら私ではそれが出来ないかもしれないし。
となると……こっちの世界にいるクラウザーを何とかして見つけ出して、直接対戦依頼を投げつけるしかない。
”……桃香嬢の家、行ってみるしかないけど、場所がわからないんだよなぁ……”
失敗だった。ありすに聞いておけば良かった……。
話を聞く限り『とても広い』ということはわかっているが、それだけだと何とも……。桃園台はいわゆるベッドタウンというのだろうか、住宅やマンションが多い。新しい街というわけでもなく、昔――この世界の歴史はまだよくわからないけど――からある古い家なんかも見える。そしてそういう家は大体広かったりする。適当に探したところで見つかるかどうか……『桜』という苗字を元に表札でも探せば見つかるか? 同じ苗字が一杯あるのでなければいいけど……。
仕方ない。クラウザーを探すのはありすが帰ってきてからだ。ありすと共に桃香嬢の家まで行ってみるのか、あるいは場所だけ聞いて私一人で行ってみるか――私一人なら仮に襲われたりしても大丈夫だろう。ありすに関しては万が一を考えてクラウザーには近づけたくない。
そうなのだ。私は前に実験した通り、多分この世界にいる限りは傷つけられる可能性は少ない。プレイヤー同士でも干渉出来ないんじゃないかと思う。『ゲーム』的には、クエストなり対戦なりでバトルすることの方が重要なのだろう。
けど、ユニットの本体の方についてはその限りではないと思われる。私はありすに触れることが出来るし、やったことはないけど頭をぺしんと叩いたら痛みを感じるはずだ。となると、クラウザーがこの世界で直接ありすを攻撃することも可能なんじゃないかと私は考えている。そうでなければ、トンコツの持ち掛けた『アリスの正体は他のプレイヤーには黙っておく』という『取引』の条件が成り立たない。ユニット本体に危害を加えることが出来ないのであれば、そんな『取引』成り立たないのだ。まぁ心情的に正体が知られているというのも気分が良くないというのはあるけど……。
うん、やはり桃香嬢の家に行く時は私一人の方がいいだろう。最悪の可能性でも私一人が犠牲になり、ありすの記憶から『ゲーム』が消えるだけで済む――ありすはそれを望まないのは分かっているが、私にとっては彼女の安全が最優先だ。
”あとは、ありすを待つしかないかな……”
長々と考え込んでいるうち、もうそろそろありすが帰ってくる時間が近づいてきた。
昨日の様子からクラウザーが再度対戦を挑んでくる可能性は高いが、律儀に待っている必要もない。ありすには家で待機してもらっておいて、私が桃香嬢の家まで行ってみるなり、行動しなければ。
『ラビさん……』
その時、ありすから遠隔通話がやってくる。
珍しいな。何だろう?
”どうしたの、ありす?”
『ん……今日、帰りにミドーの家に行ってくる』
”美藤さんの家?”
まず寄り道しないで真っすぐ帰ってきなさい、とお説教をするべきだったが、美藤嬢の家に行くという意外な展開に驚いてしまった。
何でこのタイミングで?
『それで、ね……後で合図したタイミングでクエスト、受けて……』
”……わかった”
どうも今日の学校でありすの方でも行動していたらしい。
美藤嬢=シャルロットではないとは思うが、無関係ではないと思う。具体的には、多分もう一人の『ジェーン』というユニットなんじゃないだろうか。
……これで美藤嬢がトンコツとは全然関係ないとなると、ちょっと話はややこしくなるんだけど……。
とにかく、今日はまずはありすの言う通りクエストに挑もう。そこで何か動きがあるはずだ。
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