第2章2節 オレたちは天使じゃない
第2章14話 ヴィヴィアンとの再戦
ヴィヴィアンとの二度目の対戦となる。
フィールドは前回と同じく『コロシアム』を選択、BET額は1000ジェムだ。
ダイレクトアタックは、今回も見送り。これを選択するのは、クラウザーとの決着をつける時になるだろう。
……いくら気に食わないからといって、クラウザーを『ゲーム』から排除してしまっていいのかどうか、実のところ私は悩んでいる。綺麗ごとかもしれないが……。
けど、この『ゲーム』の最終目的の一つに、他のプレイヤーを全て倒すというものが含まれていることを何となく予感してもいる。望む望まないに関わらず、いつか他のプレイヤーを倒さなければならない日がくるんじゃないかということも。
対戦時間も前回と同じ15分としておいた。ちょっと思うところがあり、短めにしようと思ったのだ。流石に10分以下だと短すぎるが……。
”……いや、今はヴィヴィアンのことに集中しよう”
迷いを振り払うように小さく呟く。
クラウザーを倒す倒さないは優先順位としては二番目だ。
私たちが今一番優先すべきは、ヴィヴィアンの救出である。そのためにクラウザーを倒すことが求められるのであれば、その時はその時だ。
……ふと思ったが、ヴィヴィアンがもしクラウザーの元から離れることを拒んだとしたら……その時はどうすればいいのだろうか。私たちは私たちの『正義感』に従って勝手にヴィヴィアンを救おうとしているが、彼女がそれを望んでいないという可能性だってある。
……考えてもわからない。まずは今回の対戦を乗り切る。そして、次にヴィヴィアンの正体である桜嬢と話してみる。今はそうするしかない。
”よし、行こう、ありす!”
「ん!
エクス――トランス!!」
変身完了、対戦フィールドへと私たちが移動する……。
対戦フィールドには既にヴィヴィアンとクラウザーがいた。
相変わらずヴィヴィアンの顔色は良くない――むしろ、前回よりも悪化しているように思える。
”ふん、来たか”
ヴィヴィアンのすぐ側にクラウザーは待機している。
今回は直接攻撃することは出来ない……わかってはいるものの、やはりそのプレッシャーは圧倒的だ。まるで、そこに一匹のモンスターがいるかのようだ。
”アリス、さっき説明した通りだ”
「おう、わかってるぜ」
ヴィヴィアンの魔法についての推測はシャロと話す前に一通り教えておいた。絶対に正しいというわけではないので油断はできないが、おそらく大筋では間違っていないとは思う。
不確定要素と言えばクラウザーの介入だが……彼が『最強』である所以が、直接攻撃禁止の条件で発揮されるのかどうかは未知数だ。
対戦特化、かつシャロ――いや、トンコツの推測では対戦機能自体が彼が勝つためのフィールドであると言っていた。途中で対戦条件を変えたり、本来介入できないはずのユニットに対して回復アイテムを使用したり出来る可能性もある。
私としてはアリスの戦闘の妨げにならないように、具体的にはクラウザーから直接攻撃を受けないように気を配ろうと思う。距離を離すくらいしかやれることはないけど……。
「さぁて、それじゃ、ちゃっちゃと始めるとするか!」
アリスが『
今回の戦いで全ての決着がつけられるとは思っていない――もちろん決着がつけばそれに越したことはないが、流石にそれは無理があると思う。
なので、今回の目的はヴィヴィアンの魔法についての推測がどこまで正しいのかを検証することが第一だ。
そしてもう一つは……。
”Ready――Fight”
空中に文字が浮かび上がり、対戦が開始される。
二人は言葉も交わすことなく戦闘開始する。
「サモン――《グリフォン》」
最初に動いたのはヴィヴィアンだ。
静かな詠唱の後に、彼女の周囲に三つの光点が出現する。
新たな召喚魔法か。
現れたのは、《グリフォン》――鷲の上半身に獅子の下半身を持つ魔獣を模したものであった。《ペガサス》の時同様、全身はエメラルドグリーンの結晶体で構成されており、ディティールは出来の悪いポリゴンのようになっているが、全体のフォルムとしては《グリフォン》らしくなっている。
それが計三体。ちょっと大きめの猫と同じくらいの大きさの小型《グリフォン》が召喚された。
「md《
一方でアリスはいつものように『杖』の先端を『槍』の穂先へと変え、それに電撃属性を纏わせる。電撃が効かない相手を除いて、大体はこの武器を使っているような気がする――掠っただけで電撃ダメージを与えることが出来るのだ、対戦では一番良い選択と思える。
「……お願いします」
ヴィヴィアンの指示に従い、召喚された三匹の《グリフォン》がアリスへと向けて飛翔する。
攻撃方法は《ペガサス》同様、高速飛行からの体当たりが主なようだ。
「ふんっ!」
三方から襲い掛かる《グリフォン》だが、アリスはそれを槍で巧みに捌き回避する。その場で動いてすらいない。
……おお、何か立派な槍使いっぽい!
が、喜ぶのもつかの間、《グリフォン》はその後もしつこくアリスへと襲い掛かろうとする。
流石に前後左右から絶え間なく襲い掛かられては余裕を見せてはいられない。アリスは槍で捌きつつ、自らも動いて《グリフォン》の攻撃をかわし、また槍で突いて攻撃しようとする。
槍は命中している……のだが、《ペガサス》の時と同じでそれ一撃では相手を倒せていない。見た目は小さくても、体の硬さは《ペガサス》と同じく非常に硬いようだ。
「cl《
防戦一方のアリスではない。
《グリフォン》を捌きつつ、少し離れた位置に立つヴィヴィアンへと向けて魔法を放つ。
ヴィヴィアンの体力がどの程度あるのかはわからないが、まともに食らえば致命傷となる一撃だが、
「サモン《ヘルメスの靴》」
新たな召喚魔法を使う。今度の召喚は名前からして『靴』だ。ヴィヴィアンの足に羽付きのサンダルが装備され、その場から飛び立ち《炎星雨》をかわす。
魔法一つで限界かと思っていたが、大きさから見て《グリフォン》や《ヘルメスの靴》は消費が少ないのだろう。やろうと思えば同時に幾つかの召喚が出来るというわけか。
一個ずつしか召喚できないわけではないらしい。まぁ、流石にそこまで甘くはないか……ただ、《ペガサス》や《イージスの楯》みたいな強力な召喚魔法は同時に使えないとは思うけど。いや、キャンディで回復すればいけるか……?
ともあれ、アリスの攻撃は不発に終わる。
「なるほどな、色々と厄介な魔法だ……!」
《炎星雨》がかわされたこと自体はさして気にもしていないように振る舞う。
それもそうだ。アリスは今回はまだほとんど力を使っていないのだから。これからが本番だ。
「cl《
瞬間速度重視の脚甲を纏い、《グリフォン》の包囲を強引に突破。ヴィヴィアンへと突撃する。
今までの召喚魔法の内容を見ると、ヴィヴィアンの使える召喚魔法はどうも私の世界で言うギリシア神話系に偏っているように思える。接近戦に持ち込めば、魔獣召喚されても強引に押し切れるか?
「リコレクト《グリフォン》――サモン《火尖槍》!」
接近してくるアリスに対して、ヴィヴィアンは今度は逃げずに真っ向から立ち向かう。
《グリフォン》を消すと共に自らの手に三又の槍――その穂先が炎で燃え上がる槍を手にする。
……ギリシア神話系だけではないか。あの武器は確か……封神演義、だったかな?
アリスの雷の槍と、ヴィヴィアンの炎の槍がぶつかり合う。穂先が絡み合い、押し合いの状態に持ち込まれるが……。
「……くっ」
押し込まれたのはヴィヴィアンの方であった。単純な力比べに持ち込めばアリスの方に分があるようだ。
「おらっ!」
三又の先端の合間に挟み込まれた槍を大きく捻り、下へ、そして上へと振り回し翻弄する。
接近戦用の武器も召喚できるようだが、ヴィヴィアン自体は接近戦に慣れているわけではないのだろう、アリスに言いようにあしらわれている。
やがて、アリスの振り回した槍がヴィヴィアンの手から三又の槍を奪い取る。
「もらった!」
ヴィヴィアンは無手だ。その隙を逃さず胸へと目掛けて槍を突き立てようとする――ほんと容赦ないな!
「サモン《グリフォン》!」
ここでヴィヴィアンが再び《グリフォン》を呼び出す。先程消したのは魔力が持たないからではなかったのか。
三匹の《グリフォン》の内一匹がアリスの槍に貫かれるが、残り二匹がアリスの両腕を切り裂く。
「ぐっ……」
咄嗟にかわそうとしたため傷は浅く済んだ。しかし、ヴィヴィアンへと突き立てようとした槍は《グリフォン》によって防がれ、ダメージを与えることは出来ていない。
そのまま接近戦をするのは不利と見たか、ヴィヴィアンは《ヘルメスの靴》《火尖槍》の両方をリコレクトで消し、地上へと飛び降りる。
「……サモン……《コロッサス》!!」
そして地上にて再度召喚――今度は身の丈5メートル程もあろうかという巨大な人型の像を召喚する。
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