第2章12話 ヴィヴィアン捜索 7. 取引終了
対戦で一気に稼ぐ、というのはわかる。BETの量を吊り上げることが出来れば、一回の勝利で大量のジェムを稼ぐことが可能だ。
今のところ対戦で挑まれた側がBET量も決めているので、果たしてそこまで稼げるのかという疑問はあるが……私の知らない対戦機能がまだまだあるのかもしれない。
気になるのは『本人自体が対戦特化な能力を持っている』という点だ。
”クラウザー
「はい……私も話を聞いただけなので本当かどうかはわからないですけどぉ……クラウザーって、使い魔の割には物凄く大きな体だし、もう見た目からして『猛獣』って感じですよねぇ?」
それには全く以て同意だ。
ぶっちゃけ、メガリスやらアクマシラ程度ならクラウザー一人で倒せるんじゃないかってくらいだ。
「正にその通りですぅ」
私の言葉にシャルロットがうなずく。
「プレイヤーへのダイレクトアタックを可能にしても、他のプレイヤーと違って自分で自分を守れるし、時にはユニットに攻撃も出来るし、相手プレイヤーを潰せるくらいの戦闘力を持っている……それがクラウザーということらしいです」
……うーん……嘘はついていないと思う。まぁ、彼女が全貌を知らされていない可能性が高いか。
でもそれだけで『最強』とは言わないんじゃないかなぁ……まぁ、何にしてもかなりの脅威であることは間違いない。私やジュジュなんかはアリスたちに守ってもらわないと何にも出来ないくらい非力な小動物だが、あのクラウザーなら確かにちょっとやそっとの脅威は自力で排除できそうだ。
そしてその事実は、プレイヤーへのダイレクトアタックが有効な対戦では圧倒的な優位となる。私であればアリスに守られなければ、敵ユニットの攻撃を受けたら一溜まりもないだろう。しかし、クラウザーならば耐えることが出来る……どころか、むしろ反撃すらできるかもしれない。この差は大きい。
”ごめん、もう一つ。プレイヤーをダイレクトアタックで倒したとして――いや、ゲームオーバーになったとして、その場合プレイヤーはどうなるの?”
ジュジュには聞けなかった気がかりを確認しておく。
「えっと……この『ゲーム』で得られるものが何もなくなる、ということみたいです……よくわからないですけど……」
『ゲーム』で得られるものがなくなる、か……何とも言えないけど、少なくとも『トンコツ』氏は生命の危険については特に触れていないようだ。シャルロットたちのことを気遣って敢えて言わないという可能性もゼロではないが、多分嘘はないと思う。この『ゲーム』で得られるものが何なのかまではわからないけど、プレイヤーが死んだりとかはないんじゃないかな、と思える。
……命よりも重要なのがこの『ゲーム』で得られるものであれば話は別だけど、命よりも大切なものなんて私には想像もつかない。
”……わかった。どっちにしろ、クラウザーとは戦うつもりだったし、私たちの目的のためにはクラウザーを倒す必要もありそうだったからね。
彼の戦闘能力が高いということは気に留めておく。答えてくれてありがとう”
私がそういうと、はにかむようにシャルロットが照れ笑いを浮かべる。
「えへへぇ……」
……うん、程よく緊張が解けて笑顔を浮かべると、年相応に可愛らしい。
さて、そこそこ話し込んだけれど……対戦時間は残り10分程度か。折角だし、聞けるところは聞いておこう。
……っと、その前に言うべきことは言っておかないと。
”わかった。君のお師匠さんに『取引』は成立したって言っておいて。
まぁ、元々私たちはクラウザーと戦うつもりだったんだけど、有益な情報だったし感謝していると”
「はい!」
”じゃあ、残り時間は雑談でもしていようか。ちょっと質問したいこととかあるし、シャルロットが答えられる範囲で答えてくれたら嬉しいな”
「え、えへへ……私でよければ、何でも聞いてください!
あ。あの……もし良かったら、私のことは『シャロ』って呼んでください! ジェーンちゃん――私の相方とか、師匠もそう呼んでいますので!”
――チョロい!
でも可愛い!
”うん、オッケー、シャロちゃん”
ごめんね、汚い大人でごめんね。
”そういえば、シャロちゃんは戦闘能力無いって言ってたけど、対戦――はともかく、普段のクエストとかどうしてるの?”
つい先ほどちらりともう一人のユニットのことを口走っていたけど。
「はい、私に戦闘力がないのは本当ですぅ。流石にメガリスとかくらいなら何とかできますけど……。
あ、全部の魔法は教えられないです! でも、どの魔法も攻撃力はほぼないです!」
ふーん、
「師匠のユニットは、私ともう一人いるんですけど、もう一人が戦闘担当で私は補助担当になります。
でも、ジェーンちゃんもあんまり対戦向きじゃない能力なので、もっぱら二人でクエストに挑んでます」
『トンコツ』氏は既にユニットを二人持っている。一人はポンコ……超可愛いシャルロット。もう一人が『ジェーン』。シャルロットの自己申告を信じるなら、彼女はサポート特化であり、もう一人のジェーンが戦闘担当らしい。
曰く、ジェーンも戦闘は戦闘でも、対戦ではなくクエスト向きの能力だという。
ふむ……翻って我がユニットのアリスはどうだろう? 割と万能な能力を持っているけど、まぁ明らかに戦闘系だね。対戦とクエストだと……うーん、大技である『神装』は消費も激しいし物によっては『溜め』時間も必要となる。どちらかと言えばクエスト向き……かな? サポート担当がいれば対戦でも戦いやすくなるとは思うんだけど。
”そっか。なるほど、二人とも対戦は苦手だから、クラウザーとの戦いは避けてるって感じなのかな。
……でも、どうして君のお師匠さんはクラウザーを倒そうとしているんだろう? 『最強』だから?”
「う、うーん……? 私にもよくわからないですぅ……」
さて、これが『話せない』からごまかしているのか、本当に彼女が理解していないからなのか……まぁ、さして答えは期待していない。
この『ゲーム』の目的は、どうせ話せないのだろうし、クラウザーの強さへの警戒が『目的』へと繋がっていることは疑いようはない。そうでなければわざわざ他のプレイヤーを『脅迫』してまでクラウザーを積極的に狙ったりはしないだろう。
『トンコツ』氏が個人的な私怨で狙う、ということもありうるが……流石にそこまではわからない。
”おっと、そういえば確認しておきたかったんだけど、私たちと対戦って簡単に出来るものなの?
こっちからだと対戦を挑んだりとか以前に他のプレイヤーの検索も出来ないんだけど……”
これは聞いておきたいことだった。
私が『イレギュラー』であるためか、どうもこの『ゲーム』の機能が十分に働いていないように思える。マニュアルが読めないのもそうだし、他のプレイヤーとの接触も出来ない。
ジュジュにしろクラウザーにしろ、向こう側から接触してきて初めてこちらも認識できるようになったのだ。『トンコツ』氏もおそらくそうだろう。
「うーんと……私たちの場合、アリスさんの正体がわかっていたので、ラビさんの居場所を特定してピンポイントで対戦依頼を送る……って師匠が言ってました」
どうやら私たちは他のプレイヤーからは基本的には見えていないらしい。遭遇するには、偶然COOP可のクエストでバッティングするか、対戦欄に出現するのを待つしかないようだ。
しかし、『トンコツ』氏はアリスの正体がわかっているため、ありすが学校から帰ってきた頃を見計らって、恋墨家付近を検索して私を見つけた――ということだろう。対戦依頼を投げるのに狙いを定めるとかはよくわからないけど……。
ちなみに、一度接触したら後はそんな面倒なことをしないでも大丈夫なようだ。ジュジュの時もクエストで遭遇した後はプレイヤー検索で私のことを見つけられるようになっていたし。
ということは――クラウザーもまたいつでも私たちに対戦依頼を投げられるということだ。
対戦をこちらから仕掛けられないというのは、クラウザーと戦いたいと思っても自由に戦うことが出来ないという意味では明確なデメリットだ――尤も、放っておいてもクラウザーの方から挑んでくるだろうとは思うが。
逆に対戦を受ける一方であることについては、メリットと言えばメリットだ。なぜなら、対戦を受けるか受けないかの決定権や対戦の細かな条件は受ける側が決められるのだ。逃げると思われるのは癪だが、戦うか否かの選択肢をこちらで持てるのはメリットと言える。
「あぁ、でもでも、気を付けてくださいね」
”ん? 何を?”
「対戦にも色々種類があるみたいなんですぅ。今私たちがしているのが通常の対戦ですが、他にも複数プレイヤーが同時に戦える『バトルロイヤル』モードとか、クエスト中に他のプレイヤーを攻撃できるようになるモードとか……」
”へぇ……?”
マニュアルが読めればいいんだけど……いや、今までの例からすると、話を聞くとマニュアルが読めるようになっていることがあったし、今なら読めるかもしれない。
とにかく対戦にも色々種類があるということだ。もしかすると、中には強制的にプレイヤーへのダイレクトアタックを可能とするモードもあるかもしれない――シャロの言う『クエスト中に他のプレイヤーを攻撃できるようになる』モードなんて、正に当てはまりそうだ。
”いや、本当に助かるよ、シャロちゃん”
「私、お役に立てました? えへへ……」
可愛いなぁ。でも、ちょっと心配だよ?
……と、気づけばもういい時間だ。残り三分程度か。
”対戦時間はもう三分くらいだけど……このまま時間切れになったらどうなるの?”
「あ、もうそんな時間でしたか。
……そのぅ、アリスさん……お手数ですが、軽く――かる~く、私に攻撃してくれませんか……?」
「ん? いいのか?」
「は、はい。対戦で制限時間を超えて、その時にお互いに体力ゲージが減っていなければドローになるんですが、ドローの場合だと挑戦者側が判定勝ちにされてしまうので……」
そうなのか。確実に『引き分け』となることはなく、必ず勝敗はつけられるということか。今回の対戦は『トンコツ』氏からの依頼で始まったわけだし、このままだと『トンコツ』氏側が勝利ということになってしまう。
『取引』を持ち掛けて私たちを利用する手前、せめて対戦の勝ちは譲ろうということかな。まぁ勝ってももらえるのは1000ジェムだけなんだけど。
「あ、あまり痛くしないでくださいね……?」
「わかったわかった。
md《
あ、それ絶対痛いやつだ。
……というか、アリスの魔法で痛くないものなんてないような……。
――シャロちゃんの可哀そうな悲鳴は、聞こえなかったことにした。
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