第2章7話 ヴィヴィアン捜索 2. 彼女に対する考察

 考えるべきことは、実は大きく分けて二点ある。

 一つはヴィヴィアンが誰か? ということだ。これについては候補二人からどう絞るかを考える必要がある。絞れたら直接対話を試みることになるだろう。

 で、もう一つの方が私の中でより悩ましい問題なのだが……。

 というのも、もう一つの問題とは、どのようにしてヴィヴィアンに勝つか、ひいてはクラウザーとヴィヴィアンを引きはがすか、というものなのだ。

 ヴィヴィアンには昨日の対戦では勝った。それは確かなのだが、じゃあ次に戦って確実に勝てるかというと……ちょっと怪しい。昨日の勝ちは、ありすを見てヴィヴィアンが戸惑ったことによる『隙』を突いての勝利であると言っても間違いではない。彼女が何度でも動揺してくれるのであれば同じように勝てるだろうが、それは甘い期待だろう。

 なので、ヴィヴィアンに確実に勝てる方法を模索すること、より具体的には『ヴィヴィアンの魔法の秘密を探る』ことが求められている。

 そしてさらに厄介なヴィヴィアンとクラウザーを引きはがすことだ。どのような道筋をたどるかはまだ不透明だけど、最終的にはこの問題に直面することになる。クラウザーが自主的にヴィヴィアンをユニットから解除するという事態になれば何の問題もないのだが、そうはならないだろう。ジュジュとホーリー・ベルの時のようにクラウザーが一方的に愛想を尽かして離れていってくれるかと言うと……奴から感じた執念深さからして、あまりなさそうに思う。下手するとヴィヴィアンを切り捨てることはあっても、別のありすに近い人間を嫌がらせのようにユニットとする可能性もある。

 理想としては、ここでクラウザー自体を倒せることなのだが……果たしてそれが可能なのか。そして、私にそれをする『覚悟』があるのか……。

 クラウザー自体を倒すということは、前にジュジュが語った通り、プレイヤーを排除することだ。排除されたプレイヤーがどうなるのか聞きそびれてしまっていたが、下手するとプレイヤーは死亡するという可能性もある。

 ……いかにクラウザーが不愉快で気に入らないプレイヤーだとしても、個人的な感情で命を奪うという事態にはなりたくない。向こうが積極的にこちらを狙ってくるのは間違いないだろうが、それでもいい気分はしない。

 ……ん? と、そこまで考えて私は自嘲する。

 クラウザーの命を奪うことの心配をしているってことは、私はアリスがヴィヴィアンに勝てない、なんてことはないと心のどこかでは思っているということか。


”……まぁ、ヴィヴィアンの魔法についてはまだ謎が多いし、考えることは無駄じゃないよね”


 自信過剰、かもしれない。けど、やはり私はアリスの力について疑いは持っていないのだなぁ、と今更ながらに思い知る。苦笑いするしかない。

 ヴィヴィアンの魔法については推測できることはあるのだけど、ちょっと落ち着いて整理したい。優先度としては二番目かな、後で考えよう。

 一番の課題は、やはりヴィヴィアンが誰なのかというところだ。

 とにかくヴィヴィアンが誰かわからないことには話が進まない。話し合うにしろ、対戦するにしろ、だ。まぁ、私からはなぜか対戦を挑むことが出来ないようになってるんだけど……ジュジュがいれば対戦の仕方とか教えてくれ――るかなぁ……今となってはちょっと怪しい。そういえば、ジュジュは今頃どうしているのだろうか……。

 候補の二人のうち、どちらかをまず確定させたい。二人以外がヴィヴィアンの正体である可能性もあるが、それは今は考えない。二人とも違かった時に改めて考えることだ。

 ということで、美藤嬢、桜桃香嬢の二人に絞って今は考えよう。

 ……私は二人のことをほとんど知らない。

 ありすの視界を通して知っている情報と、桃香嬢には一度会ったことがあるのでその時の情報をまとめてみよう。




 まず、美藤嬢――『みどう』が苗字だ。名前の方はわからない。

 第一印象では闊達な、明るい少女だ。クラスカーストで言えば間違いなく上位。男子にも女子にも人気者……だと思う。人懐っこく、感情表現もボディランゲージ込みで分かりやすすぎるくらいだ。

 ……うーん、どうにもヴィヴィアンのあの生気のない、表情の死んでいる顔とは結び付かない。変身後は発言内容にはフィルターがかかっていることは以前にも述べたと思うが、どうも差がありすぎる気がする。尤も、現実世界では無理のないように振る舞っているだけということもありうる。

 気になる点と言えば、やはり急に『ドラハン』の話を振ってきたことだろう。ただの偶然かもしれないけど、このタイミングで『ゲーム』に近い雰囲気である『狩りゲー』の話題を急にしてくるのは……。

 もう一人の方、桜桃香嬢――前に会った時、ありすは確か『七耀桃園』の、と言っていたがどういう意味だろう?――だが、少なくとも今日の視界共有では特に変なところは見当たらなかった。まぁ、あの現実離れしたお嬢様設定とか、ヴィヴィアンであろうがなかろうが気になることはあるんだけど。

 こちらはヴィヴィアンっぽいかというと……うーん、どうだろう。美藤嬢と同じく、やっぱり結び付かない気がする。それに、ヴィヴィアンは明らかに『メイド』を模した姿をしていたし、どことなく一歩引いたような言動や雰囲気をしていた。桃香嬢はむしろメイドに傅かれる側だと思う。


”うーん……?”


 ダメだ。情報が足りなすぎる。

 ……いや、普段の彼女たちについての情報を得たとしても、それでヴィヴィアンであるかどうかを判断することは出来ないかもしれない。

 ありすとアリスという身近な例を見ているので猶更そう思う。

 となると……二人と直接話し合うしかないだろうか……?

 いや、そうなるとヴィヴィアンではない方にありすの情報が漏れることになってしまう。フレンドではないプレイヤーに、余りありす=アリスの情報を流したくはない――ありすがユニットであることはすぐにバレてしまうだろうが、それは防ぎようがない。今から有効にフレンドになれるかと言うと……少し怪しい。『対戦』モードの実装、更にはプレイヤーを蹴落とすためとしか思えない『ダイレクトアタック』……基本的に、他のプレイヤーとはこれからは争いあうものだと思った方がいいだろう。目的次第では一時的に手を結ぶとかはあるかもしれないけど。

 ……うん、やっぱりダメだ。ヴィヴィアンの正体をどちらか一方に絞ることは現時点では無理そうだ。私は潔く諦めることにする。ありすからも二人について情報を聞いてからもっと考えることにしよう。


 となると、次に考えるのはヴィヴィアンに勝つ方法か。

 確実に勝つ――というのは対戦では難しいと思う。よっぽど実力差が開いてない限り、スポーツだろうとゲームだろうとそれは難しいだろう。実力差が開いていてさえ、偶然で勝敗が覆ることもあるのだ。

 だからここで考えるのは、『より勝率を高める』方法となる。そして勝率を高めるためには、まず相手のことをよく知らなければならない。

 昨日の対戦ではヴィヴィアンは《ペガサス》と《イージスの楯》の2種類の魔法しか使っていない。これだけの情報で果たして何がわかるかというと――さっきも述べたが、実は大体のことは推測出来ていたりする。

 彼女の持つ魔法は、おそらく『召喚』、そして『魔力の回収』だ。

 召喚の方は非常にわかりやすい。キーワード『サモン』で呼び出すものだ。昨日は2つしか召喚しなかったが、実際にはもっと多くの種類の召喚が可能だろう。

 この魔法で呼び出されたものは、一つ一つがアリスの大魔法に――もしかしたら『神装』に匹敵するかもしれないくらい強力だ。特に、《イージスの楯》の性能は凄まじい。『神装』の一撃を完全に受け切っていたのだから。

 その反面、おそらく魔力の消費は莫大なのだろう。対戦モードだと相手の魔力残量もわからないので確実なことは言えないが、おそらく《ペガサス》と《イージスの楯》は同時に使うことは出来ないくらいの消費はあるはずだ。中には消費の低い召喚もあるとは思うが、精々使えて2つか3つが同時に使える限界だと思う。

 だというのに、何度も《ペガサス》や《イージスの楯》を召喚していた秘密……それが、もう一つの彼女の魔法『リコレクト』だ。ちょっと信じがたい魔法だが、『リコレクト』の魔法の効力は『召喚した魔法生物・魔法道具を解除し、使った魔力を回収する』ことなのだと私は推測する。

 そうでなければ、もっと複数の召喚を同時に行っているだろうし、何よりも《イージスの楯》を展開しつつ《ペガサス》で蹂躙するという単純にして無敵の戦法を取ってくるはずだ。『神装』をも防ぐ《イージスの楯》の消費が少ないとは考えにくい――というか考えたくない。複数同時に展開することは出来ないが、魔力を『リコレクト』で回収することで何度でも召喚出来る――そんな魔法なのだと思う。

 まぁ昨日の対戦から見た状況証拠からの推測だし、3種類目の魔法が存在しないとも限らない。あと、ヴィヴィアンの持つギフトも謎のままだ。

 ただ、メインとして使うであろう『サモン』『リコレクト』についての推測が的外れとも思えない。そのものズバリではないかもしれないが、そこまで外してもいないだろう。

 この推測を元に――もちろん適宜修正が必要ならするが――いかにヴィヴィアンを攻略するか。

 実際に戦うのはアリスだし、対戦では私から手助け出来ないし助言も場合によっては難しいことがある。臨機応変に立ち回ってもらうことにはなるが、行動の指針ぐらいは示してあげなければ。




 ……と、色々と考えていたら、あっという間にありすが帰宅する時間となっていた。

 ヴィヴィアンの正体についてはわからないままだったが、対ヴィヴィアン戦においての考えは大体まとまった。冷たい目で見られることは避けられ……るよね、きっと?


「ん……何も考えてないんだ……そう……」


 ダメでした。

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