第2章 召喚少女 -Struggle for resistance-
第2章1話 一夜明けて……
私たちが『ゲーム』を進めていく上で、避けては通れない強敵との戦い――
氷晶竜、テュランスネイル、雷精竜ヴォルガノフ……いずれも何とか勝利することは出来たものの、今後は更なる強敵が現れないとも限らない。
もうホーリー・ベルの助けは得ることは出来ない。これからはアリスが一人で戦っていかなければならないのだ。
”うーん……仲間か……”
欲しいか欲しくないかで言えば、圧倒的に『欲しい』に寄っている。
ホーリー・ベルと共に戦ってきた期間はそこまで長くはないが、随分と彼女には助けられた。きっと、氷晶竜ともテュランスネイルとも、アリス一人では勝てなかっただろう。
けど、悩ましいのが同じようにこちらに協力的なプレイヤーがいてくれるかどうかわからない、という点だ。まぁジュジュも結局はアレだったわけだけど……。
この『ゲーム』の目的は相変わらず不明だが、プレイヤー全員が等しく勝者になれるというようなものではないとは思う。
その理由は、ついさっき追加された新機能『対戦モード』の存在だ。
……まさかとは思うけど、ユニットは別としてプレイヤー間では互いに蹴落とし合い殺し合うデスゲームなんじゃなかろうか、という疑念もないわけではない。対戦モードが後追いで実装されていることから考えると、そこまでデスゲームではないとは思いたいが。
『ゲーム』の情報自体も私にはわからないことが多いし、誰か協力してくれるプレイヤーがいてくれればいいんだけど……そもそもジュジュ以外のプレイヤーと遭遇したこともないんだよなぁ……。
”となると、ユニットを増やすという手もあるんだけど……うーん”
『ゲーム』の目的自体が不明な現状、積極的に巻き込む人間を増やしたくない、という思いは変わらない。
そりゃありすの身の安全には代えられないとは思うんだけど、だからと言ってそのために他の人を巻き込むのも躊躇われる。ありすのことは大切だけど、他の人をぞんざいに扱っていいわけはない。
……結局、いい方法は思い浮かばずにその日は終わる。
仕方ない。今はなるようになる、とでも思っておこう。
ありすのことを脳筋と言えないかな、私も……。
* * * * *
雷精竜ヴォルガノフとの戦いが終わった翌日。火曜日――
前日の雷雲が嘘のように外は晴れ渡り、実にいい天気だ。10月ということもあり、気温もそれほど高くもならずかといって寒いというほどもなく、ちょっと着るものに困るけれども過ごしやすい季節だ。
……まぁ、私は暑さも寒さも私は感じないんだけれど。季節を感じられないというのはちょっと寂しくもある。
それはともかくとして。
テュランスネイル戦、更にその後のヴォルガノフ戦で大量のジェムを稼いだので、今後のことを見越してジェムを使う必要がある。
「……ステータス強化、必要」
すっかりといつもの調子に戻ったありすは強硬にステータス強化を訴える。
相変わらずと言えばそうなのだが、その心の内にはテュランスネイル戦のことがあるのは間違いないんだろう。
攻撃力がもっと高ければ、『
”そうだね……今回はアリス自身だけじゃなくて、『霊装』の強化もしておこう”
幸いジェムには大分余裕が出来ている。言葉通り、アリスのステータスを全て強化しつつ、更に『
加えて幾つかの便利機能も追加しておく。
今回追加するのはアイテム所持数の上限数アップだ。残念ながらユニットのアイテムホルダーの上限は変わらず、ユーザー側の所持アイテム上限を上げるものである。マイルームにはアイテムを無限に保管できる『アイテムボックス』というものが設定されているのだが、クエスト内に持ち込めるアイテムの数は限られている。今のところ持ち込みアイテムを使い切る程のことはないが、いざという時に備える意味でその上限を伸ばせるのはありがたい。
レーダー共有機能については見送り。ありす曰く、私が傍にいればそれで問題ないし、離れていたとしても既に持っている強制転移で合流できればそれでいいとのことだ。これには私も同意見なので後回しとしておく。
忘れてはいけない『レーダー強化』についても取得しておいた。デフォルトのレーダーは水中にいる敵や岩やら木やらに擬態している敵は反応しないので不意打ちを受けることもある。どこまで強化されるのかは書かれていないので望んだ機能ではないかもしれないが、まぁやっておいて損はないだろうということで取得した。レーダー強化は何段階かあるようなので、今後も余裕があったら取得していきたい。
そして――前から気になっていた『ユニット数+1』を今回取得することにした。
これはありすの意見だ。
……この機能を持っていれば、もしかしたら美鈴と同じような状態になった時に救えるかもしれない、という思いがあるのだろう。そうそう都合よくいくとは限らないし、私個人としては『ゲーム』から離脱出来るのであればそれでいいとも思うのだが――美鈴のように『ゲーム』に本当は残りたいということもある。『ゲーム』に残りたいのであれば残してあげたい、という気持ちもわかる。少なくともジュジュが言ったように、ユニットとなった人間に現実で危害が加えられるわけではないのだから。
それと……ありすには言わなかったが、私にはこの機能を持っておくメリットが一つだけある。それは、『現実世界において誰がユニットであるかわかる』というものだ。説明文を読むと、ユニットに出来る人間かどうかがわかるようになる、そして既にユニットである人間は選択できないとある。
私がこの機能を取ってもいいと思った理由は、ヴォルガノフ戦後に実装された新機能『対戦モード』の存在だ。もし、この『対戦モード』が普通のゲームと違って互いの生き残りを賭けた――つまり負けた方が『ゲーム』から脱落すると言った凶悪なものだとしたら、出来る限り避けていきたいところだ。とはいっても確実に対戦を回避する方法はない。けれども、事前に誰がユニットかわかるのであれば、話し合いによって戦いは回避できるかもしれない。そんな思惑が私にはあった。確実に上手くいくという保証はもちろんなく、『できたらいいなぁ』程度ではあるけれど。
また、私が取得できる機能は他のプレイヤーも取得できる機能であるということだ。となると、対戦相手が複数になる可能性だってありうる。大抵のモンスターよりも強力であろうユニットが複数襲い掛かってきて、アリスが一人一方的になぶり殺しにされる――そんな目には遭わせたくはない。
ともかく、そういう事情もあり、ジェムに余裕があることから『ユニット数+1』も取得した。使わずに済めばそれでいいんだけど……。
他に気になるものとしては、『ユニットへの強制命令』というのがあった。これを使うと、ユニットの意思を無視してプレイヤー側から魔法を発動させたり行動を強制させることが出来るようだ。私の判断で『神装』を使わせたり、逆に『神装』を止めたり出来るようになるのだろうが……正直、私たちには使い道はないかなぁ。ということで放置決定。
後は大分消費してしまっていた回復アイテムの補充をして、リスポーン代として念のため一万ほど残しておくことにする。
……この二度目以降のリスポーン代がわからない、というのが微妙にネックだ。リスポーンしなければそれでいいんだけど、何が起こるかわからない。リスポーンできなかったら最悪だが、思ったよりも安く済めばそれはそれでいい。というわけでありすと相談してとりあえずの一万というわけだ。この点について、ジュジュに聞けておければ良かったんだけど……今更言っても仕方ない。
「ん、おっけー」
諸々の準備が整い、ありすもご満悦? らしい。
……いや、本当に元気を取り戻してくれて良かった。
「じゃ、クエスト……いこ?」
”あ、うん。そうだね”
何でも、美鈴とは『リアフレ』に改めてなったとか。『ドラハン』――ドラゴンハンターだけでなく、他のゲームも一緒に遊ぶことを約束しているとのことだ。今時のゲームなら直接顔を合わせなくてもネットを介して遊ぶことが出来るし、土日になら直接会うことも出来るしでそこまで寂しくはないということだろうか。一番いいのは、一緒に『ゲーム』に参加することだったが、それはもはや叶わない。
ともあれ、美鈴が無事で良かったと喜ぶことにしよう。
そして私たちはいつも通りクエストへと向かう――
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