第1.5章 ■生少女 -Die for your sins-

第1.5章1話 悪性転移

 ――あたしは、『因果応報』なんて信じない。

 ――だって、それならあたしは本当なら『地獄』に落ちているはずだから。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 かつてあたしは、■■■■■という名前で生きていた。

 そこでどんな生活をしていたかというと……自分で言うのも何だけど、『勝ち組』の人生を送っていたと思う。

 生まれた家は裕福だったし何不自由しない生活だった。少なくとも、お金に関して苦労した覚えはない。

 容姿にも恵まれていたし、学業も優秀。運動も特に得意というものはないものの、大抵のものはさして苦労なくこなすことが出来た。

 ただ――自覚はしているが、あたしは『悪人』であったと言える。優等生の皮を被った悪魔と言ったところか。

 バレないように虐めをするなんて普通のことだったし、女友達を騙して『商売』して小遣い稼ぎをしたり、あるいは自分自身で男を騙して稼いだり……。

 まぁ、他にも色々とやったが、とにかくそういうことだ。

 だから、因果応報というのであれば……間違いなくあたしは『地獄』行き確定だろう。自覚しているから別にどうでもいいけど。




 けれど、現実はそうはならなかった。

 あたしの行った悪事はバレず――あるいはバレてもスケープゴートに押し付けることで責任を問われなかったり……。

 そんなこんなで、あたしは表向き優等生のまま順調に人生を歩んでいた。

 ……はずだった。




 あたしの人生に『異変』が起きたのは、もうすぐ高校の卒業式を迎えようとしていた頃だった。

 他の学校はどうかはわからないけど、あたしの通っていた高校は三年生の三学期はほぼ学校に通う必要はない。

 だから本当はあたしも学校へと行く必要はなかったのだけど、その日は大学の合格報告のために行ったのだ。

 そしてその帰り道――何となく気分で通学に使っていた電車の駅には行かず、一駅分くらい歩いて行こうとしていた。

 今振り返ってみても何でそんなことをしようとしたのかわからない。あの時普通に電車に乗っていれば、あたしの人生は変わっていたのだろうか……いや、結局時期が変わるだけで、結末は同じだったかもしれない。

 結論から言おう。あたしはその日の帰り道、『拉致』された。

 人気の少ない、けれど人目の全くない場所というわけではないところで、男たちに無理矢理車に押し込められ、連れ去られてしまったのだ。

 相手は――多分、あたしに嵌められた男たちだろう。正直、顔も覚えていない。向こうはしっかりとあたしのことを覚えていたようだから、多分そうなんだろうと思うだけだ。

 正直、『失敗したなぁ』としか思わなかった。今もそうだ。バレていないと言っても、大多数があたしのことを悪く思わないですんでいた代わりに、被害を被った側であたしが原因だと理解していた人もいたということだ。気づかれたあたしが甘かった。

 だからと言って、神妙に『罰』を受けることを良しとはしない。




 ――その後、車で移動中、が、男が運転を誤り大事故を引き起こした。

 車は横転どころか大破。他にも何台か巻き込んだようだった。

 ……あたしはというと、後部座席で逃げられないように男たちに両脇を固められており、皮肉なことにそいつらが『クッション』となったことで奇跡的に大した怪我も負わずに済んだ。

 もっとも、その後車の中から脱出することができなければ……男たちと同じような運命になっただろう。

 というのも、その時あたしは息苦しさに耐えかねて気絶をしてしまって何がどうなったのかは自分の目で見てはいないからだ。

 そして目が覚めた時――病院ではなく、『街』の片隅にいたのだった。



 どんな理由があったのかはわからない。

 ただ事実として、あの時の事故の衝撃であたしは――『異世界』へと飛ばされたのだった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 『異世界』であたしは■■■という■■■■■、■■■■■■■ことになった。

 ■は今一つ信用ならない面はあったが、それはお互い様というもの。

 あたしは見知らぬ異世界での暮らしを■に助けてもらう。■は■であたしを――世にも珍しい異世界人を利用する。お互いに利用し合う関係だ。それでいいと思う。




 互いを利用し合う、そんな関係で■と過ごして何年かが過ぎた。

 前の世界のことは気になると言えば気になるけど、それは寂しいとかそういう気持ちではなかったと思う。例えるなら、昔見たテレビ番組を懐かしむ程度のものだ。もう一度見れるなら見てもいいが、見れなくても別に問題はない。そんな感じ。向こうでの最後の出来事の後、あたしは行方不明になっているだろうけど……可哀想な被害者として認識されているはずだ。それならそれで別にいい。

 さて、あたしの異世界での暮らしは■■■の助けもあって実に平穏に過ぎていった。

 このまま静かにこの世界で生きるのも悪くはない、そんなことも思わなくもないが、やはりここはあたしの住む世界ではないのだ。

 元の世界に戻りたいという気持ちはあまりない。けど、このまま人生を過ごしたくはない。

 そんな思いを隠すことなく■には常々話している。

 大体にして、■は最初に私に向かって「■■■■■■■■■■■■■■■■」と言っていたはずだ。「それは君にしかできない、そして『■■■』ことだ」とも。

 具体的な話ができるようになるまでは待ってほしいとも言われたので待っていたけど、この世界にも大分慣れてきた。もう■がいなくてもあたし一人で生きていける程度には。

 これ以上退屈な毎日を過ごさなければならないのであれば、■■■■■■■。そう決意した時、ようやく■があたしに『■■』の■■を■■■■、■■を求めてきたのだった。




 ……それは、成功すればこの■■を■■■■■■■■■■■■■■■『■■』を■■■■■■■が出来るという『■■』だ。

 異世界と言っても、所詮はあたしとは異なる種族とは言え■■■■■■■だ。そして、■■■■■、■■■■いる世界である以上、■■■■『■』を■■■■結局『■■』なのだ。


 ――面白いじゃない。


 あたしは■■■の『■■』に乗ることにした。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 わたしがの記憶を思い出したのは、9歳の誕生日のことだった。

 最初は戸惑ったけど、わたしとあたしの意識がゆっくりと混ざっていくにつれて慣れてきた。……元々のわたしにとっては、体を乗っ取られるようなものだったかもしれない。まぁ、それについては微かに罪悪感を覚えないでもないけど、あたしだって結局はわたしなのだ。




 ――わたしの名は■墨アリ■。七■■■の傍系である■墨の家に生まれた娘。




 そして、前世の記憶を取り戻してから一年後――わたしの前に、■■■『■■■』へと■を■■■■■■がやって来た。


”やぁ、■■■――いや、今はアリ■か。どう? 覚えている?”

「ええ、もちろん覚えているわよ、■■■。待たされすぎて、むしろあなたが忘れているのかと思ったわ」


 ■とこんな会話をしたのは何年ぶりだろうか。の感覚では一年とちょっとくらいだけど、こっちの世界では十年くらい経っている。■■■だと……まぁそんなに経っていないのだろうけど。


”……それにしても、上手くいって良かった。理論としては完成していたけど、■■たち以外――君のような異世界人に試すのなんて初めてだったしね”

「そうね。これで失敗しました、何てなったら最悪だったわね」


 『■■』の第一段階として、まずはあたしが■■■■■■■として転生しておく必要がある。それはひとまず無事クリアできた。

 ここで躓いていたんじゃどうしようもなかった。まぁその時は、■■■はきっと■■■■を■■■■■■だろうけど。


「フフッ……」


 思わず笑みが零れる。

 これから始まるのは■■■だが、ただの■■■ではない。

 この『■■■』に勝利することで、わたしは全てを手に入れる。


「さぁ、■■■――『ゲーム』をはじめましょう」


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