第1章45話 さよなら、魔法少女 3. 神装オーバーロード
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アリスが『
最初にテュランスネイルへと使おうとした攻撃系の『神装』は、一撃でほぼ全ての魔力を消費する上に『溜め』が必要となる。その反面、威力は絶大だ。
もう一つ、攻撃系ではない『神装』というものもある。こちらは大幅な魔力を消費するものの、攻撃系に比べれば消費は少なく、また『溜め』もない。消費の多い普通の魔法と同じように使える。
「ext《
解放された『神装』がアリスの
両足のブーツが白銀の脚甲へと変化する。
《天脚甲》《跳脚甲》等の移動系の魔法全ての効果を備え、かつより効果を高めた『神装』である。
「行くぞ!!」
一瞬でアリスの体が空高く舞い上がり、テュランスネイルへと迫る。
《
残った触腕を振り回しアリスを叩き落そうとするテュランスネイル。
しかし、《神馬脚甲》で空中を自在に飛び回るアリスは、振り回される触腕を易々とかわし続ける。
「今度こそ、決める――」
アイテムホルダーからキャンディを取り出しかみ砕き、『
使う『神装』は先程は不発に終わった、アリスの使える最大最強の攻撃魔法――
「sts『神装解放』!」
掲げた『杖』がアリスの手を離れ、『神装』の名のもとに変化を始める。
『杖』の先端は鋭い刃へと変わり、雷を纏いながら高速で回転する。目に見えるほど凝縮された魔力が青白い光を放ち、まるで小型の竜巻がそこに現れたよう――
させじとテュランスネイルが触腕を振り回し、口から粘液塊を吐き出して妨害しようとするが、今度は先程と違い《神馬脚甲》でかわしながら『溜め』ている。攻撃範囲の広い体全体を持ち上げての突撃も、ホーリー・ベルによって片方の触腕を破壊されているため使うことが出来ない。
「……ベル、おまえのおかげだ。ありがとう」
あの突撃だけは警戒すべき攻撃であった。それが使えない以上、もはやアリスの『神装』を防ぐ手立てをテュランスネイルは持たない。
そして、アリスの『神装』が完成する。
それは嵐を纏った神の槍――
「ブチ貫け!!
ext《
解き放たれた神の槍――ラビの世界における北欧神話の主神、
狙いはひび割れた殻だ。殻から露出している口を狙っても致命傷とはなりうるがとどめを刺すには至らないだろう。より確実に倒すためには、殻に守られた内臓全てを《神槍》によってズタズタに引き裂いてやらねばならない。
殻を貫けるかどうかは賭けとなる。が、ホーリー・ベルの魔法によってひび割れた今の状態ならば、『神装』の威力で貫通することも可能だとアリスは判断した。
テュランスネイルもまたこれがアリスの最大の攻撃であるとわかっているのだろう。残った左触腕を掲げ、飛来する槍を受け止めようとする。
高速回転し、触れるもの全てを斬り抉る神槍が触腕へと突き刺さり――
辺り一帯に削り取られた肉片と体液が撒き散らされ、肉の焼け焦げる悪臭、そして大気を震わせるテュランスネイルの声なき悲鳴が周囲を包む。
そして、ついにアリスの放った槍がテュランスネイルの触腕を貫き引きちぎった!
――だが、そこで《神槍》の勢いが尽きてしまう。
アリスは全魔力を使い果たしてテュランスネイルの触腕を一本落とすに留まってしまったのだ。
――勝った!
テュランスネイルに人並みの思考能力があれば、あるいは言語能力があれば、そう言ったところだろう。
「――ハッ、この程度で終わりなわけがないだろうがっ!!」
いつものように戦闘の興奮に高揚した笑みではない。
その表情は、『憤怒』に彩られていた。
「来い、『
そして――もう一発!!」
最初の《神槍》を放った時点で魔力がほぼ尽き、変身が解けてしまう前にキャンディを補充したアリスは、すぐさま自らの霊装を手元へと呼び出し、二発目の《神槍》を放つ!
今度の魔法は先程よりも更に魔力を長く『溜め』た、文字通りの『全身全霊』の一撃である。
「ext――《嵐捲く必滅の神槍》ッ!!」
――――もしホーリー・ベルが最後の力を振り絞った一撃を食らわせていなければ。
テュランスネイルには既に両方の触腕はなく、高速で飛来する神の槍を回避するほどの機動力はなく。
殻で受ける以外に道はない。
――――《神槍》は再度触腕によって受け止められただろう。
殻へと槍が突き立つと同時に、魔力切れを起こしたアリスが地上へと落下。変身が解けてありすへと戻ってしまう。
魔法を使うと同時に地上へとある程度高度を落としていたため着地することは出来たものの、それでも建物の三階くらいから飛び降りたようなものだ。いかに運動神経が優れているとはいえ、両足にかなりのダメージが来る。
「ま、だ……!」
これだけでは終わらない。
そう予感しているありすは、歯を食いしばりテュランスネイルへと視線を向ける。
ひび割れた殻へと突き刺さった槍は、触腕と同じように殻を削り取りテュランスネイルの内部へと向かおうとする。
……だが、それでもなお、殻を突き破ることが出来ない!
――――もしホーリー・ベルの一撃がなければ……。
――――槍は殻へと突き刺さることすらできなかったであろう。
深々と突き刺さった槍は抜け落ちることなく、殻に食い込んだままついに回転を止めた。
全魔力を使ったアリスとホーリー・ベルの最大魔法を以てしても、この暴君を倒すことは出来なかったのだ。
「あ、あぁ――」
ありすの口から漏れる悲鳴にも似た声。
されど、それは絶望の嘆きではなく、
「お、ああああああああああああああああっ!!!」
敵を屠らんとする獣の咆哮である。
アイテムホルダーから残りのキャンディとグミを乱暴に取り出すと一気に口に放り込み乱暴にかみ砕く。
そして、痛みを堪えテュランスネイルへと向かって駆け出す。
――無茶だ!
遠くで見守るラビも美鈴も悲鳴を上げる。
触腕がなくなったとは言えまだテュランスネイルは健在。細い触腕が岩……は周囲にないため殻に生えた棘を放り投げてくるかもしれないし、口から粘液塊を吐き出してくるかもしれない。
どちらの攻撃も変身前の生身で受けたら致命傷――どころか一発でありすは死んでしまうだろう。
二人の予想通り、テュランスネイルは岩を放り投げてありすを潰そうとする。さらには、より確実に潰そうと自らも前進を始める。
怯むことなくありすは前へと走る。
今度こそ決着をつけるために。
幾つかの棘がありすの近くへと落下し、土煙が舞う。
まだありすは変身せず、自分の足でテュランスネイルへと迫ろうとする。
――残った魔力を使って倒すには、余計な魔力を使っている余裕はない。全てを攻撃に回す必要があると考えているのだ。
そして、とどめを刺すための最後のピースは、先程の《神槍》によって撒かれている。
飛来する棘をかわし、迫りくるテュランスネイルへと向けてひたすら走る。
両者の距離が詰められ、テュランスネイルの突進の射程へとついにありすが入る。
「これで、本当に最後――」
負ける気など一切ない。
しかし命を賭けた戦いである。
「エクス――トランス!」
これが最後の変身となる。アイテムホルダーのキャンディは全部使い切ってしまったし、相棒のラビは離れた位置にいる。今ある魔力だけでとどめを刺さなければならない。
「sts『神装解放』!!」
変身しても走りは止めず、テュランスネイルの真正面へと駆ける。
狙いはただ一点――殻に突き刺さったままにしておいた『杖』だ。
「ext《
アリスの纏う『麗装』が再度姿を変える。
肩に纏うケープが硬質化し、更に巨大化して二本の『腕』となる。
《力帯》の『神装』版――だが単純な腕力強化だけでは限界があると感じたアリスが作り出した、戦神の剛腕を具現化したものだ。アリスの腕とは別に、自在に動きかつ更に強い力を持つ腕だ。
「狙うはただ一つ……っ!」
突き刺したままの『杖』へと向かい、ジャンプする。
もちろんそれだけでは届かない。
飛び掛かるアリスを叩き落そうと、千切れた触腕を振るうテュランスネイル。
向かってくる触腕を《剛神力帯》で掴み、踏み台として『杖』の元へと跳ぶ。
「オレの残り全魔力――ついでに借金分も全部持ってけ! ext《嵐捲く必滅の神槍》!」
突き刺さったままの『杖』がその場で
『神装』を使うだけの魔力はもはや残っていなかったはずなのに使ったということは――魔法を発動するのに不足している分の魔力は
尤も、キャンディの追加を望むことのできない状況なのだ。残り魔力がマイナスになろうが構わない、というつもりでアリスは無茶な『神装』解放を行ったのである。
「これで――」
そして魔力が尽きるよりも早く剛腕を振り上げ、
「終わりだ!!」
突き立った『杖』――いや、『槍』の石突へと拳を叩きつける!
拳が殻へと叩きつけられる。その勢いで、槍が深々と殻を破り突き刺さり――
……声にならない悲鳴を上げ、テュランスネイルの体が跳ね回る。
「ぐっ……時間切れ、か……っ!?」
振り落とされたものの地面に着地したアリスだが、そこで魔力が尽き――マイナスへとなり変身が解ける。
本来ならば変身が解けた時点で魔法も全て解除されてしまうのだが、ホーリー・ベルのデコレーション同様、『神装』は発動させて魔力がマイナスになるのが確定した時点で、そのまま残り続ける。
――テュランスネイルの狂乱が更に激しくなる。《神槍》が発動し、更に深くテュランスネイルの殻を破り、ついに『中身』にまで到達したのだ。
「そのまま……っ!」
――死んでしまえっ!!
バタバタと暴れていたテュランスネイルであったが、やがて大きく体を震わせると共に全身から力が抜け、地面へと崩れ落ちる。
荒野に君臨する暴食の帝王は、ついにその命を絶たれたのだった。
もしも、ホーリー・ベルが全ての力を使っていなければ、アリスの『神装』はテュランスネイルを穿つことは出来なかったであろう。
彼女が時間を稼いでいなければ、アリスはリスポーン直後にテュランスネイルたちに襲われ、そのまま終わっていたであろう。
――この戦いは、二人の力を出し尽くしたが故の勝利である。
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