第1章37話 ホーリーギフト
さて、本題のギフト――【殲滅者】についてだ。
その効果については『クエスト中にモンスターを倒す毎にユニットの能力値を上昇させる』となっている。
まずはこの『能力値の上昇』幅についてだ。
これはモンスター図鑑を参照しながら色々なモンスターを倒してみた結果、モンスター図鑑上での分類で上昇値は固定で決まっているようだった。
数値自体は私からも細かく見えないのであくまで仮のものとしてだが――
『小型』モンスターを倒すと『1』、『中型』モンスターだと『7』、『大型』ならば『15』である。
まぁあくまで現時点で戦えるモンスターとの結果なので、今後もそうとは限らないが……小型モンスターだが氷晶竜のような強さのモンスターがいないとも限らないし。
アリスの体感ではあるが、『5』程度の上昇で大分変わってくるようだ。それ以下だと能力値の上昇はあまり感じられないらしい。
そしてこの能力値の上昇の条件だが、
昨日ホーリー・ベルに協力してもらって試したところ、倒す直前までアリスが攻撃してホーリー・ベルがとどめを刺した時は上昇せず、逆の場合は上昇した。また、アリスが一度も攻撃しないうちに倒したモンスターがいても、やはり上昇しなかった。
この辺りは微妙に使いづらいと言えば使いづらい。ホーリー・ベルと協力プレイをする上で、敵を倒すタイミングを見計らう必要が出てくるだろう――もっとも、【殲滅者】の恩恵を無視するのであればその限りではないが。
一番気になる上昇値の引継ぎだが、これは『30』まで上がると、『1』が引き継ぎされることがわかった。大型モンスターなら二匹倒せばいいということだが、大型モンスターが複数出てくるクエストはそこまで数多くないため小型や中型も倒さなければならないので少し厳しい。『60』になったら『2』引き継げるのかどうかは今のところ不明だ。『60』稼げるだけのモンスターが登場するクエストは、今のところ天空遺跡のクエストしかなかったからだ。
コツコツと戦闘を繰り返していけばステータスアップにジェムを一切使わずにカンストまで持っていける……と思いたいところだが、ちょっと難しい。そもそも、『30』を超えるまで稼げるクエストが稀にしか出てこない。大型と中型も一緒に出てくることは少ない。小型は結構いっぱい現れるのだが、十匹以上となると珍しい部類である。無限湧きのクエストももしかしたらあるかもしれないが……。気になるところだと、アラクニド戦の時にいた子蜘蛛がどうなるかかな。モンスター図鑑の分類だと『超小型』となっている――そこまで小型ではなかった気はするけど。
とまぁ、引き継ぎ可能であるかはともかくとして、クエストに挑んでいる最中の能力値の上昇幅はかなり大きい。敵を倒すだけで《
「……ん、大体わかった」
簡単なクエストを何度もこなしてギフトの性能を確かめ終えた私たちは一旦戻ることにする。
あとはジェムを使ってのパラメータ強化やアイテム購入をして、午後になったらホーリー・ベルと合流して新しいクエストに挑もうと思う。
【殲滅者】は最初微妙という評価であったが、今ではアリスの中でも評価は上方修正されているようだ。それでも『まぁ悪くない』程度の評価らしいけど。
”それじゃ、アイテム買おうか”
天空遺跡で手に入れた大量のジェムのおかげで、ありすも納得するであろう程度にはステータス強化が出来た。まだ単騎で氷晶竜を相手にするには辛いだろうが……。
余ったジェムは貯金も残しつつアイテムの補充に充てる。天空遺跡は実入りも多かったが、大分グミやキャンディを消費してしまっていた。それに、『神装』の実験でもキャンディを結構使っている。
「脱出アイテム、忘れないで」
”……そうだね……”
天空遺跡では脱出アイテムがなかったことにより、危うく最悪の事態となるところだった。忘れずに購入しておかなければ。
他に目ぼしいアイテムはないかと売り物一覧を見ていたら、一個面白いアイテムを見つけた。
”ありす、これいいんじゃない? ちょっと高いけど”
「んー? ……うん、いいと思う」
ありすも同意する。
私たちが見たアイテムは『アイテムホルダー』というもので、これはプレイヤーではなくユニットが持つアイテムだ。
効果は名前の通り、任意のアイテムを
アリスが持っていれば、私じゃなくてアリスが自由にアイテムを使えるようになるのだ。私たちが離れ離れの位置にいる場合や、素早い状況判断が求められるようなアリスの判断ですぐに回復をしたい場合に使えるだろう。そんな状態にならないことが一番だが、何が起こるかわからない。
『アイテムホルダー』は任意のアイテムを合計10個まで持っておけるらしい。ありすと相談の結果、グミを3つ、キャンディを7つ持っておくことにした。脱出用アイテムはアリスが持つ必要はないとのことで、私が持ち歩くこととした。アイテムの補充はクエスト中には出来ないとの説明書きがあったので、使ったら補充を忘れないようにしないと。
……実はもう一個気になるアイテムがあった。
それは前にも見かけたが、『ユニット枠+1』というものである。効果は、『ユニットを追加で持てるようになる』というものだ。つまり、アリスだけではなくもう一人別にユニットを持つことが出来るようになるということだが……ありすとも相談したが、購入は見送っておくことにした。
理由は、私としては、やはりこの『ゲーム』に巻き込む人間は少しでも少なくしておきたいというものがある。命の危険はないとは言われているものの、やっぱり心配なのは変わりない。
……まぁ、後はユニットが増えた分、ユニット一人当たりに分配するジェムが減るという、実にアレな理由もあるのだけど。
”それじゃあ、お昼食べて美鈴を待とうか”
午前中の『実験』はこれで終わりだ。
午後からはいつも通り美鈴たちと共にクエストに挑むことになるだろう。
……一つだけ気になる点はあると言えばある。
――ジュジュのことだ。
天空遺跡での最後の場面……あれは、ジュジュはわかっていてやったのではないだろうかという疑念がある。紅晶竜が追加で現れるところまでは流石にジュジュの狙いではないとは思うが、私たちを置き去りにしていったのは明らかに狙ってやったことだ。
というのも、先程脱出用アイテムを購入した際に説明書きを読んだのだが、『自分とユニットをクエストから離脱させる』という注意書きが書かれていたのだ。これを見逃していたとは到底思えない――だから、ジュジュはわざと私たちを置き去りにしたのだろうと確信した。
一体なぜそんなことをしたのか? その理由は……実は二つくらい思い当たるのだが……。
ひとつは『嫉妬』。あの天空遺跡での戦いで、ジュジュはほとんど参加していないも同然だった。それを除け者にされたように感じたジュジュが、私に嫉妬して……というのも考えられない話ではないと思う。ただ、それだけでやるかというと……理由としては今一つだと思う。
うーん……となると、やっぱりもうひとつの理由かな……。
もうひとつの理由、それは以前に美鈴たちと直接会った時にジュジュが漏らした『私がイレギュラーである』という点だ。
『イレギュラー』だからどうだというのかはわからない。が、ジュジュは少なくとも私たちより『ゲーム』について知っている――というより、運営側の人間であってもおかしくない。『巻き込まれたプレイヤー』という立場ではありえないのはわかっている。私自身は完全に『巻き込まれた』身だというのは自覚している。たぶん、『ゲーム』の運営にとっても予想外のプレイヤーなのだろう。
……それで命を狙われるのはたまったものではない。一度死んだからといって、別に積極的にもう一回死にたいわけでもないし、理由もわからずに殺されるなんて理不尽はごめんである。
これでジュジュの動機が『嫉妬』の方であればまだ改善の余地はあると思えるのだが……。両方となるとちょっとややこしいことになる。もしかしたら、私が気づかないだけで第三の理由もあるかもしれないし、ジュジュが説明文を見逃している可能性だってわずかながらないことはない。
なので、ありすにはこのことはまだ話さないでおこうと思う。確証がないうちに余計な不安を与えたくない。
微妙に暗雲が立ち込めてきた気がするが、『ゲーム』はまだまだ続く……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――どこかの誰かのマイルームにて――
「ふーん、あのネズミ、失敗したんだー」
そのマイルームは、草原と湖を模していた。そのような『家具』を配置しているのだろう、見た目だけなら完全に外の風景である。
ルーム中央にある湖から半身を陸地に出している青い髪の少女――よく見ると湖に浸かっている下半身は人間のものではなく『魚』のそれとなっている。いわゆる『人魚』の姿だ。
少女の言葉に応える声。
”そりゃあ、まぁ偶然の出来事でどうにか出来るわけがないよ”
苦笑混じり、嘲り混じりの声は男とも女ともつかない。
”かといって、明確に敵対することも出来ない――そんなことをすれば、彼のユニットと決裂するからね”
「あー、友達になっちゃったんだっけ。うわー不幸ー」
くすくすと笑う少女にも嘲りが混じっている。
二人の会話が指しているのは、明らかにラビとジュジュのことであった。
「そもそもさー、その『イレギュラー』ってさ、本当に倒したら『ボーナス』入るの? 入るんだったら、あたしたちも行った方がいいんじゃない?」
”いや? 別に『ボーナス』なんてないと思うよ?”
「あれ? あのネズミにそんなこと言ってなかったっけ?」
”はは……あれ、適当に煽っただけなんだけどね。まさか真に受けるなんてねぇ”
「うわ、悪いご主人だ」
言いつつ少女が笑う。
話の流れからして、彼らがジュジュを煽ってラビを排除するように仕向けたようだ。
「……そもそもさ、その『イレギュラー』って、狙う必要あるの?」
”さぁ……? それはボクにも何とも。本当に『イレギュラー』かどうかもわからないね。
ただ――”
「ただ?」
”話を聞く限り、その『イレギュラー』のユニットは危険だと思った。今はまだいいけど、この『ゲーム』の終盤になった時に大きな障害になると思う”
「……それは、とても困るね」
にこにこと笑顔を浮かべていた少女が真顔になる。
「やっぱり、潰しに行く?」
さらりと言う少女だが、その声音は本気であった。
”……いや。今の状況で狙って潰すのは無理だろうね。それこそ、『偶然』に頼るしかない――それはボクたちにとってもリスクが大きい。
するにしても、もう少し待てば『新機能』が実装される。それを待って、こちらに十分な『戦力』が整ってからだ。
あの『イレギュラー』の利点は、『イレギュラー』ゆえに普通にプレイヤー検索しても引っかからないことにある……そもそも、出会うこと自体が偶然に頼らざるを得ないんだ。けれど、逆に……ジュジュからの話が正しければ、正規プレイヤーではないから『ゲーム』の正しい情報を得ることが出来ない。
だから――ボクたちの有利な点は、正確な情報を早く得られることにある”
「正確、かつ『予定されていることも知ることが出来る』、だよねー。他のプレイヤーが聞いたら怒られるだろうね、ご主人が『運営』側から情報リークされているってバレたら」
”ふふ、それだけこの『ゲーム』には価値があるってことさ。それは君もわかっているだろう”
「……そ、ね。何が何でも、『最後の勝者』となる……それで得られるものを考えたら、ズルだってしないとね……」
”他のプレイヤーにも『イレギュラー』の情報は知れることだろう。そうなれば、ボクたちが自分から危険に飛び込む必要もない。
……ま、余り期待はしてないけど。
それにしても……ジュジュには色々と感謝しないとね”
「? イレギュラーのこと?」
”それもある。まぁ、事前に知っていても、せいぜい驚かなくて済むっていうくらいだけど。
それよりも肝心なのは――彼が『最強のユニット』を見つけ出してくれたこと、だね”
「最強ねー。すいませんねーあたしが弱くてー」
口を尖らせて拗ねる少女。もっとも、本気ではなく拗ねたポーズをとっているだけだ。
それは対面している彼女の使い魔もわかっているのだろう、特に取り合わない。
”あとは、いかに早く彼が『退場』してくれるか、だね。その時を見逃さないようにしないと……”
――それからしばらく会話をした後、少女の方がマイルームから退場する。
一人残った姿無きプレイヤーがふと呟いた。
”……気になるのは、ジュジュたちが行ったというステージか……どうも今は『蓋』がされているみたいだし……。
ひょっとして、ボクみたいに『運営』側と繋がりのあるプレイヤーが他にいるってことか。
……だとして、『あの世界』には何があるというのか……さて、そっちも気になるところだね”
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