第1章31話 天空遺跡の冒険 9. アリスとホーリー・ベルと死闘(前編)
* * * * *
地中を移動して氷晶竜の足元から不意打ちを仕掛けるという作戦は見事に成功した。
流石にこれだけで倒せる相手ではなかったが、それでも先制攻撃でそれなりのダメージを与えることには成功しただろう。
このまま押し切りたいところだが、さて……。
「それじゃ、行くわよ!」
ここまで穴を掘るため《
アリスも脚甲を《跳脚甲》に変えて地上戦を重視する。
氷晶竜は空中戦に特化しているわけではないのでこちらが空を飛べば上空から攻撃できるというメリットはあるのだが、短時間ではあるものの背中のブースターで《
地面に転んだ氷晶竜が立ち上がろうとする。
「オペレーション《ファイアボルト》!!」
「mk《
《メグレズ》で強化した炎の矢――いや、もはや炎の柱だ――と、水蛇竜戦でも使用したマジックマテリアルの衛星を炎の槍へと変え、二人が追い打ちをかける。
どちらも命中するが、氷晶竜が叫ぶと共に全身から冷気を噴出、すぐに消火してしまう。
やはり、炎だけで倒すのは難しいようだ。
”予定通り行こう! ホーリー・ベル、頼む!”
「ほいほい、任せて!」
基本的には《炎装》を使ってホーリー・ベルが炎で攻撃、氷晶竜の氷の鎧を溶かす。更に出来れば、氷の弾丸や刃も防げればよい。
アリスは炎属性を狙える時は狙うが、メインは氷晶竜本体への物理攻撃だ――魔法なのに物理攻撃ってどういうことなんだろうと思わないでもないが、単純な破壊力を発揮する魔法ならばアリスの方が得意だ。
それに、炎属性の付与をしない分だけ魔力の節約ができるという事情もある。マジックマテリアルを衛星として使うのはアリスの新しい戦法として有効なのだが、魔力の消費はその分だけ重くなる。削れるところは削らないと。
「ロード《アリオト》!」
先制攻撃で氷の鎧は一旦は剥ぐことができた。威力を重視していこうとすると氷晶竜に接近しなければならないので危険が大きい。ここは威力よりも範囲を優先して鞭型の《アリオト》を使うのがベターだろう。
《炎装》の効果で、特に魔法を使わずともすでに炎の鞭となっている《アリオト》で氷晶竜を打ち据える。
しかし、やはりただの打撃では威力が足りない。氷晶竜は怯みもせずに鞭を受けると、大きく口を開けて氷のブレスを放つ。
「おっと」
《アリオト》では迎撃するのが難しい。二人は左右に飛び回避する。
氷晶竜は氷のブレスを吐きつつ、ホーリー・ベルへと突進、腕にはやした氷の刃で切りかかる。
「させるか!」
氷のブレスからの接近というコンボは前回の戦いですでに見ている。
予めバラ巻いておいた『マジックマテリアル』を『鎖』へと変化させ、氷晶竜を絡めとり動きを封じる。
……が、氷晶竜のパワーはアリスの『鎖』の拘束をあっさりと振り払う。ほんの一瞬だけ足を止めることしかできない。
その一瞬で、ホーリー・ベルには十分であるが。
「オペレーション《ファイアストーム》!!」
アリスの作った一瞬の隙にホーリー・ベルが新たな魔法を発動させる。
鞭の周囲に発生した炎が渦となって絡まり、真正面から突撃してきた氷晶竜を絡めとる。
勢いは止まらない。正面衝突してはホーリー・ベルも大きなダメージを受けてしまうので、魔法発動と同時に更に横に飛んで避ける。
追い打ちとばかりに、アリスも『鎖』に炎属性を付与して氷の鎧を溶かす。
どちらもやはり冷気を噴出することですぐに消火されるが、それでも大きなダメージを与えることには成功した。
……意外といけるんじゃないか、これ? 相手の体力の残りはわからないがまだ余裕はあるだろう。しかし、それを考慮しても今のところいい感じで攻められている。最初の戦いのときほど苦戦する要素は見当たらない。
楽観視はまだできないが、勝てるんじゃないかと私は思った。
……それが甘い考えだとは、すぐに思い知らされる……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――この『敵』は強い。
彼はそう判断した。
未だ致命傷は受けていないものの、着実にダメージは積み重なっている。
本来ならば生半可な炎や熱など受け付けない氷の鎧による守護も、さほど役に立っていない。
――よいだろう。ならば、■■を先に進めるべきだ。
彼がこの地に生まれてから長い年月が経つ。その間に■■の対象となったものは今までももちろんいたが、いずれも氷の鎧の守護を破ることは出来ず、呆気なく躯を晒すこととなった。
けれども今戦っている相手は今までの相手とは全く異なる。これならば、■■を先に進める資格はあるだろう。
――かくて、『封印神殿』の守護者は、その真の姿をさらけ出す――
* * * * *
氷晶竜を縛り付けていた《アリオト》とアリスの『鎖』が、はじけ飛んだ。
「――え?」
「なんだ!?」
何が起こった!?
私たちの理解が追い付くよりも早く、氷晶竜が動き出す。
ゴオオオオオオオオッ!!
と、天に向かって大きく吠える。次の瞬間、氷晶竜の全身が『変形』を始める。
上半身は更に大きく膨れ上がり、まるでゴリラのような体形に。全身を覆う甲殻は更に鋭く、氷の鎧を纏っていない状態だというのに全身が刃のように変化する。
そして、体の各所からは青白く輝く蒸気――超低温の冷気、いや、氷の『魔力』が漏れ出している。
明らかに今までとは全く異なる……更に危険度を増した姿だ。これが、氷晶竜の本気ということだろうか。
”二人とも! 来るよ!!”
このまま呆けていてはいけない。私の叫びに我に返った二人が動き出そうとするが、それよりも早く氷晶竜が動き出した。
全身から冷気を噴出、辺り一面が白色に染まる。
そして、キィィィン、と甲高い、モーターが回る時のような音が――
「いかん、ベル!!」
アリスが危険を察知して叫ぶのとほぼ同時に、ゴォッ、と空を割く轟音が響き、白い霧の中から氷晶竜が飛び出す。
その先にはホーリー・ベルが……。
「――!?」
咄嗟に腕を組んで防御はしたものの、魔法で防御をしたわけではない。氷晶竜の剛腕に薙ぎ払われ、岩壁にたたきつけられてしまう。
今の一撃だけで、ホーリー・ベルの体力ゲージが半分ほど削れてしまっている。その上、ホーリー・ベルはぐったりと横たわりそのまま動かない――意識を失ってしまったのか。
そんなホーリー・ベルに、更に追い打ちをかけようと氷晶竜が迫る。
「やらせるか! cl《
炎の属性を付与した《剣雨》で攻撃、更に自身も氷晶竜へと迫る。
しかし、氷晶竜は振り返りもせずに尻尾を振り回し、《炎剣雨》を弾いてしまう。尻尾を振り回すと同時に青白い冷気がまき散らされているのが見えた――厄介なことに、今までは冷気を噴出して炎を防いでいたのだが、今は何か行動を起こすたびに自動的に冷気が一緒に噴き出しているようだ。これは、生半可な『炎』の攻撃は通じないということか……。
「ちぃっ、このくらい!」
《炎剣雨》を防がれたことくらいでアリスは止まらない。
『槍』に炎を付与し、切りかかる。
接近戦ならば――と思ったものの、氷晶竜は背中のブースターから勢いよく冷気を噴出し、一気に上空へと飛び上がって回避する。
そして、空中から地上の私たちに向けて冷気の弾丸を何発も放ってきた。
「cl《
……く、使い魔殿、ベルを起こしてくれ!!」
”わ、わかった”
《炎壁》で冷気の弾丸は防げているものの、相手の連射が早すぎる。《炎壁》を何回も使って防御は出来ているが、それだけで魔力が大幅に消耗してしまう。
不安はあるが、ガードはアリスに任せて、私は倒れているホーリー・ベルの元へと向かう。
”ジュジュ、グミで回復してあげて!
ホーリー・ベル、起きて!”
うつぶせに倒れているホーリー・ベルの胸元で、身動きの取れなくなっているジュジュを助け出し、ホーリー・ベルの頬をぺしぺしと叩いてみる。
水蛇竜との戦いの時のように彼女を隠しておきながら戦えるような相手ではない。気絶したホーリー・ベルに追い打ちをかけてこようとするくらいだ、下手に放置していたら狙われてしまう。
「ん……うぅ……」
何度か頬を叩いて呼び掛けていると反応があった。良かった、すぐに目が覚めてくれそうだ。
と、そこで駆けつけてきたアリスが私とホーリー・ベルをつかむ。
”へ?”
「ヤバい、来るぞ!!」
珍しく慌てた様子のアリスが《跳脚甲》の力を全力で使ってその場からジャンプして離れた直後、私たちのいた場所が『爆発』した。
――『爆発』としか言いようのないそれは、空中から急降下してきた氷晶竜が
着弾の衝撃波によって、私たち毎アリスが更に吹き飛ばされる。
あ、危ないところだった……もし直撃を食らっていたら、今の一撃で私たちは全滅していただろう。リスポーンどころではない、私もジュジュも消し飛んでいたはずだ。
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