第1章29話 天空遺跡の冒険 7. 不死の巨人と氷の支配者(前編)
片方の水蛇竜を倒したアリスが、残り一匹を押しとどめているホーリー・ベルと合流するよりも早く、ゴーレムが出現してきた。
現れたのは、ホーリー・ベルが戦っている水蛇竜の真下――腹の下の地面からだ。
”……? 姿が違う……?”
現れたゴーレムは今までの岩石を組み合わせた人型とは異なっていた。
岩も混じっているものの、体の大半が『土』で作られているのがわかる。土と一緒に巻き込んだであろう植物がところどころに見えている。
――なるほど、
「ベル! 今行く!!」
洞窟ではゴーレムは優先的に水蛇竜を狙ってくれたが、今度もそうとは限らない。
アリスは全速力でホーリー・ベルの元へと急ぐ。
一方、ホーリー・ベル側もゴーレム出現には気づいていた。同時に、こちらの水蛇竜が倒れたことも。
「エクスチェンジ《
ためらうことなくホーリー・ベルが属性と武器を変更する。流石、彼女も判断が速い。
防御力強化の『盾』――《ベネトナシュ》を掲げ、全力で防御魔法を使う。
水蛇竜の突進とゴーレムの岩弾が同時にホーリー・ベルへと当たるが、
「くっ……」
どちらの威力もまともに食らえば致命傷になりかねない威力と衝撃だ。
《ベネトナシュ》と防御魔法でダメージ自体は抑えられたものの、衝撃で大きく吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされ、空中へと舞い上がったホーリー・ベルを飲み込もうと水蛇竜が更に追い打ちをかけるが、空中に跳ね飛ばされたと同時に再度エクスチェンジ――《
「mk《
三日月型の巨大なブーメランをアリスが放つ。
ゴーレムは地面に潜って隠れてしまうが、上空のホーリー・ベルに向かおうとしていた水蛇竜はそれをまともに食らう。背中のコブ部分にざっくりとブーメランが突き刺さった。
「ベル、回避してくれよ!!
ab《
更に突き刺さったブーメランに対して『雷』の属性を付与、電撃を放つ。
水蛇竜に電撃が通用しないのは洞窟での戦いでわかっている。使えば手痛い反撃を受けることも。
しかし、アリスの狙いは電撃によるダメージだけではなかった。
「へ? え?
――ちょっと待って!?」
電撃を受けた水蛇竜が周囲一帯に強力な電撃の嵐を放つことは事前に聞いて知っていたものの、まさかそれを積極的にするとは思っていなかったホーリー・ベルが戸惑いの声を上げつつも更に上空へと逃げる。
そして、アリスの狙い通りに水蛇竜が電撃の嵐を解き放つ。
蓄電器でもあるコブに大きな傷を負ったままの電撃は負荷がかかるのか、水蛇竜はぐったりとした様子で地面に崩れ落ちる。が、まだ死んではいない。
アリスの狙いは水蛇竜ではない――地面に潜ったゴーレムに対して、水蛇竜の電撃が届いたのだろう、這い上がってくる。
焼け焦げた土砂を身に纏ったゴーレムは、這い上がると同時に水蛇竜へと拳を振り上げ、
「うげっ……」
ブーメランが刺さったままのコブを殴りつぶす。ぐちゃり、と嫌な音が聞こえ、辺りにつぶれた水蛇竜の残骸と体液がまき散らされていった。
……ゴーレムの一撃がとどめとなり、最後の水蛇竜も沈黙した。
これで残すはゴーレムと氷晶竜となったのだが……。
「全く、何なのだあいつは……」
「まぁ何にしても、ラビっちの言う通りだったわね」
上空へと飛んだことで難を逃れたホーリー・ベルが、アリスの元へと降り立ち言う。
私の言った通り――これも作戦会議の時に私がゴーレムについて推測したことだ。
あのゴーレム、行動範囲が決まっているのかもしれないが、もう一つの可能性として『戦闘をしているとそこに現れる』のではないかと私は疑っていた。
思えば、ゴーレムが出現したのはいつも私たちがモンスターと戦っている時であった。
もちろん、私たちを追って来ているということも考えられたが、作戦会議の間に現れなかったことを思うと、どうも積極的にこちらに向かってくるわけではなさそうだと思ったのだ。
単に移動速度が遅いから追い付かなかったというのもあるだろうが、おそらくこちらを探知する力が非常に鈍いのではないかと思える。
視覚、聴覚、嗅覚――それらが岩や土で出来たゴーレムが鋭いとは思えない。全く無いなんてことはないと思うが、非常に鈍いのは間違いないと思う。
だから、水蛇竜と派手に戦っているとそのうち現れるのではないかと事前に警告しておいたのだ。これがアリスも水蛇竜と戦っている間だったらと思うと……。
尤も、ゴーレムの攻撃自体はそこまで速度があるわけではない。不意打ちでなければかわすのは容易だし、岩の塊を飛ばしてくるのであればホーリー・ベルの《鉄装》で完全に防ぐことが出来るのだが。
”ここでゴーレムも倒そう。氷晶竜との戦いの最中に乱入されたら厄介だ”
「ああ、その通りだな」
水蛇竜はすでに倒した。残る敵はゴーレムと氷晶竜――この二体は同時に相手にするのは厳しすぎる。
だからこの場でゴーレムを倒す。折角向こうから現れてくれたのだ、このチャンスを逃す手はない。
”作戦通り、アリスは防御と迎撃に専念、ホーリー・ベルは《鉄装》で!”
ちょっと確かめたいところがある。事前に二人にはゴーレムとの戦い方は伝えてある。
ホーリー・ベルの《鉄装》ならばゴーレムは簡単に倒せる……と思いたいところなのだが……。
攻撃をホーリー・ベルに任せ、アリスは防御担当だ。アリスの魔法でももちろんゴーレムと戦うことはできるのだが、硬い岩を砕くための威力を発揮させるにはかなりの魔力を消費する必要があり、効率はあまりよくない。キャンディの残量はまだあるが、氷晶竜戦のために多めにとっておきたい。温存している場合ではないとなったらその限りではないのは当然ではあるが、そうならないことを願う。
……実際、《鉄装》ならば問題ないはずだ。アリスもホーリー・ベルもそう思っているだろう、水蛇竜との戦いほど緊張はしていないようだ。
けれども、私には一点だけ不安――いや『疑念』があるのだ。それを確かめるためにも、まずは『安全策』とも言えるホーリー・ベルが攻撃、アリスが防御という布陣である。
このまま倒せるのであればそれでよし、そうでなければ……。
「アリス、行くよ!」
「おう!」
《鉄装》へと衣装を変えたホーリー・ベルが先頭に立ち、その後ろからアリスが続く。
水蛇竜を潰したゴーレムも、こちらへと向き直り、岩弾を撃ってくる。
「mk《壁》!」
飛んでくる岩弾に対して《壁》で防御。ただ受け止めるだけでは押し負けるので、斜めに傾かせた壁で攻撃を反らす。
やはり攻撃の速度自体は遅い。かわす間もないほどの弾幕もない限りは、攻撃を見てからでも余裕で防御も回避も可能そうだ。
「一気に決めるわ! ロード《ドゥーベ》!」
射程は短いが、腕力強化と威力強化が付与される
使う魔法はもちろん。
「オペレーション《ディスインテグレーション》!!」
ゴーレムに対して必殺と言っても過言ではない《ディスインテグレーション》だ。
胴体部分に向けて掌打を放つと同時に、魔法が発動。ゴーレムの胴体が一瞬で分解、消滅する。
上半身と下半身が切り離されゴーレムは崩れ落ちる――が、
「!? こいつ……」
地面に崩れ落ちた上半身がうごめき、残った下半身とくっつく。そしてすぐさま足元の土も取り込み新しい体を作り出したのだ。
「マジか。不死身か、こいつ!?」
胴体を丸ごと消されたというのにあっという間に元通りになってしまった。戻りながら足を振り上げてこちらを攻撃しようとさえしてきた。
……悪い予感が当たってしまったかもしれない。
「これじゃあ、いくら《鉄装》使っても……」
ホーリー・ベルも戸惑いの声を上げる。
そうだ、いくら《鉄装》で分解してもすぐに戻ってしまうのであれば意味がない。いずれこちらの魔力が尽きてしまい、対抗することができなくなる。
そうなってしまう前にどうすればゴーレムを倒せるのかを突き止めなければならない。
「使い魔殿、何かないか!?」
アリスが私に問いかける。この展開は予想していなかったわけではない。
”こいつは、たぶん……見た目は『まやかし』なんだと思う。どこかにゴーレムの『本体』というか、そういうのがあるはず!”
思い返せば、このゴーレムは出現した場所の岩や土で形作られていた。
だから、私たちの目に映るゴーレムを倒してもいくらでも再生できるのだろう。
かといって不死身のモンスターなんて出てくるとは思えない。もしそんなのがいたとしたらクソゲー・オブ・クソゲーだ。確定で負けることが前提となっているイベントでもない限り、そんなことはないはずだ。
ありうるのはどこかに『本体』とか『核』とか、そういうものがあるのだと思う。
――確か、ゴーレムの元ネタだと……体のどこかに彫ってあるんだか貼られているお札だったかの文字を削れば倒せるはずだったが、このゴーレムにもそういうものがあるはずだ。
残念ながら私たちのレーダーではその位置まではわからない。アリスたちに探してもらうしかない。
「よし、ならあたしがかたっぱしから《ディスインテグレーション》でこいつをバラバラにするから――」
「オレがその『本体』を見つけてぶっ叩く!!」
早速作戦変更を余儀なくされたが、やることにはそれほど違いがない。ホーリー・ベルの《ディスインテグレーション》がゴーレムの『本体』にも有効であればそれだけで片はつくが、そうそう都合よくはないだろう。アリスも積極的に攻撃にかかる。
かくして、二人とゴーレムの戦いは始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます