第1章22話 JS4とJC2と中二病について

 恋墨ありすという少女について、再び私が知ることをまとめよう。




* * * * *




 美鈴とリアルで会って『友達』となったのが土曜日。

 その後、土日は彼女たちと共にクエストを何度もクリアしてジェムを稼いでいった。

 やはり協力プレイをしていると報酬は少し減るらしい。額面通りのジェムは貰えていない。おそらくは協力プレイに参加した人数で頭割りになっているのだろう――もらえる額が二分の一になっているわけではないので、多分だが1.5倍くらいにしてから割っているのではないかと思う。

 なるほど、協力プレイ不可にする設定があるのも頷ける。

 とにかくジェムを一杯稼ぎたいプレイヤーからしてみれば、協力プレイをしてもそれほどのメリットはない。

 一人では倒せないような強敵ばかりが出てくるというのであれば考え物だが、今のところそのような敵は出てきていない。私たちが戦ってきた中で一番強いのは、スフィンクスかアラクニドだろうか――配下の存在を考えれば、アラクニドが最も強敵と言えるだろう。


 だからといって協力プレイにメリットがないわけでもない。

 まず、一人でも強いユニットが二人掛かりでモンスターと戦うのだ。大抵のモンスターは鎧袖一触だ。スフィンクスレベルの敵が複数現れても連携して何とかできるし、アラクニドのような配下の小型モンスターを多く引き連れている場合でも、片方がボスを、もう片方が雑魚を掃討といったように役割分担することで効率的に敵を倒せる。

 効率的に敵を倒せるということは、クエストを短時間で何回もこなせるということだ。協力プレイをすることで減ってしまう取り分は、回数をこなすことでカバーできるということだ。この辺りはゲームデザインの意図通り……なのかもしれない。


 もう一つの、そして最大のメリットは、やはり『楽しい』ことだ。

 お互いにわいわい話しながらするゲームは楽しい。勿論、一人プレイ専用のゲームも楽しいが、複数人で遊ぶこと前提のゲームは複数人で遊ぶ方がより楽しめる。

 モンスター自体は今のところ苦戦するような敵もいない。クエストに行けばほぼ確定でクリアできるのだが、二人で挑むことで『飽き』が来ない。

 これが例えば携帯ゲーム機なんかで遊ぶのであれば、代わり映えしない敵ばかりではいずれ飽きてしまうだろう。

 しかし、この『ゲーム』は自分自身が魔法少女ユニットとなって走り回り、飛び回り、そして武器や魔法を振るうのだ。運動嫌いでもなければそれは楽しいだろう。要するに、体感型のアトラクションのようなものだ。

 もちろん、ダメージを受けたら痛みを感じるし、こちらを一口で丸呑みできてしまうような巨大な顎を広げるモンスターに恐怖を感じないわけではない。だが、それも『リスポーン』があるおかげで、恐怖というよりは『スリル』になっていると思える――まぁ、アリスたちと違って、私やジュジュは死んだら一発アウトなんだけど。

 ともあれ良くも悪くもありすと美鈴はこの『ゲーム』に夢中になっているようだ。

 ……楽しそうにしている彼女たちを見ると、大人として何かほっこりするなぁ、と思う。前世で私には子供もいなかったし、世の中のお父さんお母さんはこんな気持ちなのかもしれない。まぁ小さな子と関わりがなかったわけじゃないけどね。


「そーいえば、アリスの『霊装エーテルギア』って、名前ないの?」

「えーてる……ぎあ……?」


 それはとあるクエスト中での話だ。

 ホーリー・ベルの問いかけにアリスが首を傾げる。

 『霊装』……聞き覚えのない単語だが、何を指しているのかはわかる。アリスの持っている『杖』のことだろう。


”あー、その『霊装』っていうのは、アリスの持っている武器のことでいいんだよね? そっか、『霊装』っていうんだ……”


 私たちは単に装備とか呼んでいたけど、『ゲーム』上では『霊装』と言うらしい。


「そそ、武器と防具ね。フレンドのステータスも見れるんだけど、アリスの霊装欄が空白になってたからさ、気になって」


 フレンドのステータス欄も見れるのか。

 クエスト中は基本的にアリスのステータス管理とレーダーでの索敵に集中してたから気付かなかった。言われて視界の隅にある「i」マークのアイコンをクリックすると、確かにフレンド情報の表示欄があった。

 試しにホーリー・ベルのステータスを見てみると……。


”あ、ほんとだ。ホーリー・ベルのステータスがわかる……”


 アリスのステータスの表示欄の下に、ホーリー・ベルのステータスが表示されるようになった。

 常に表示されるようになるのは現在の体力と魔力のゲージだけのようだ。詳細欄を選択すると、更に細かい内容がわかる。


”おお、『霊装欄』ってのがある。後、使える魔法――『スキル』もわかるんだ”


 一緒に戦っていて大体の内容は知っていたが、改めて文字情報として見れるのは嬉しい。

 ホーリー・ベルの持つスキルの詳細は、私たちの知るとおりのものだ。

 全身の服――これも霊装なのだ――を切り替えることで扱える属性を変える『属性変換』、その時の属性を矢や槍にして放出する『属性放出』、そして武器型の霊装の形態を変化させる『霊装変換』の3つである。それぞれが彼女の魔法を使う時のコマンド――『エクスチェンジ』『オペレーション』『ロード』にかかっているのだろう。


「どう? 霊装欄も見えるっしょ?

 アリスの場合、そこが空っぽなんだよねー。名前、自由に付けられるよ? 一回付けちゃうと、変更するのにジェム取られるけど」

「ほー」


 言われてアリスの方を見てみると、確かに霊装の欄には「(未設定)」が表示されている。他人からだと空白に見えるのだろう。

 ちなみに、ホーリー・ベルの方はというと――


「あたしの霊装、そういえばちゃんと紹介してなかったね。

 おいで、『天道七星セプテントリオン』!」


 ロード、ではなくそのまま彼女の霊装を呼び出す。

 ホーリー・ベルの手に、七つの玉が数珠繋ぎとなったものが握られる。


「これがあたしの霊装『天道七星セプテントリオン』ね。素のままだと使い道のない出来の悪いネックレスだけど……ロード《フェクダ》!」


 霊装変換の魔法を使用すると、数珠のうち1つが光り輝き、次の瞬間彼女の手には弓矢が握られていた。


「こんな風に、魔法を使って七種類の変形が出来るってわけね」


 私たちが見たことがあるのは、ドゥーベメラクフェクダ双剣ミザール、あとベネトナシュの5種類だったか。合計7種類あるとのことだ。

 そういえば、『セプテントリオン』とは確か『北斗七星』のことだった気がする。ということは、『フェクダ』とかは北斗七星を構成する星の名前かなんかだろうか。

 ……こういうの、何ていうんだっけか……。

 ああ、そうだ、確か――


「中二だなー」


 中二病だっけ。私が思い出すと同時にアリスも同じ言葉を口にする。まぁ、そういうアリスの魔法も大概だとは思うけど……あれ、アリス自身が考えてるのかな? それとも『ゲーム』側で勝手につけているのかな?

 言われたホーリー・ベルは口を尖らす。


「いーんですー。あたし本当に中学二年生だから正しいんですー」


 なら仕方ないね。


「ふぅむ、名前か……」


 アリスも自分の『杖』を見て思案顔をする。

 さて、アリスは自分の霊装になんて名前を付けるのか、興味のあるところだ。


”ジュ!”

”二人共、モンスター反応だ!”


 そこへ、今回のクエストのモンスターの反応をレーダーが捉えた。

 霊装の名前を考えるのは後回しだな。


「よし、行くぞ、ベル!」

「うん!」


 二人の思考も一瞬で雑談モードから戦闘モードへと切り替わる。

 そして、私たちはいつも通りモンスターとの戦闘を繰り広げるのであった……。




*  *  *  *  *




「名前……」


 更に翌日の月曜日。

 学校から帰ってきたありすはいつにもましてぼーっとしているようで、心ここにあらずの状態だ。

 霊装の名前をずっと考えていたらしい。


”決まらないの? まぁすぐに決めなくても……”


 いいんじゃないか。と続けようとしたら、ありすは首を横に振る。


「もう決めた」


 あっさりと決めたらしい。

 じゃあ何を悩んでいるのだろうか。


「決めたけど……これでいいか、ちょっと悩んでる」

”うーん?”


 決めたけどまだ悩んでいるとか。

 あれか。テストで解答欄を埋めたものの、それで本当にいいのか迷っているという感じかな。

 迷っているということは、どこかに引っかかりを覚えているということだろう。先のテストで言うなら、うろ覚えの公式で解いてしまって自信が持てないようなものか。


”まぁジェムは使うけど後で名前変えることが出来るみたいだし、それかやっぱり保留にしておくとかでもいいんじゃないかな”

「ん、今日決める。すず姉に見せたい!」


 かつてない意気込みだ。

 『ゲーム』中では一週間ほどの付き合い、実際に会ったのは一昨日の一回限りだというのに、ありすは随分と美鈴に懐いているようだ。

 ……ちょっと嫉妬を覚えないでもないが、よく考えたら私にも最初から懐いてくれていたように思う。意外と人懐こいのだろうか。


”うーん、じゃあ、とりあえずありすが決めた名前を教えてごらん。幾つか考えてるんだったら、候補も挙げてみて、一緒に考えよう”

「ん」


 私の案にありすは頷く。

 そしてありすの挙げた名前は――


「『ザ・ロッド』」


 ……実にシンプル極まりない名前であった。というか、そのまんまの名前だった。


”お、おう……”


 とりあえず曖昧に頷く私。

 じっと私を見て次の反応を待つありす。

 霊装の名前は別に武器の性能をどうこうするものではない。いわばただの『フレーバー』に過ぎない。

 ただ、霊装はユニットの要の一つである。魔力が尽きても使うことのできる武器だし、最後の頼みの綱と言っても過言ではあるまい。だから、霊装に特別な思い入れを込めて『名前』を付けるという行為はわからないでもない。

 さて、その観点から考えてありすの挙げた『杖』という名前はどうなんだろうか。


”……シンプルでいいんじゃないかな”


 ちょっとだけ考えて私は肯定の意を示した。

 そっけない、飾り気のない、シンプルに過ぎる名前ではある。が、逆にその飾らないシンプルさが『クール』であるとも思える。

 私の答えを聞いてありすはまたもや頷く。


「ん、色々他にも考えたけど、これが一番『くーる』だと思った」


 おっと、ありすからも『クール』ときたか。

 段々わかってきたけど、この子の価値基準は微妙に男子寄りな気がしてきた。

 派手なものよりも地味、いやシックで落ち着いたものが好みらしいのは部屋を見てもわかる。

 服とかも可愛らしいとか女の子らしいとかそういう基準で選んでいないみたいだ。大体いつもシャツに短パンとかパンツとか、逆にこっちが心配になるくらいの素朴さだ。正直、服とか髪とかはもうちょっと女子として凝って欲しいと私は思う。ちなみに、美奈子さんもちょっと愚痴ってた。

 アニメやゲームも好きだが、その嗜好はやはりどちらかと言えば男子寄りだ。『プリスタ』よりも『マスカレイダー』が好きだし、ゲームもアクションやRPG、それにドラゴンハンター――通称『ドラハン』みたいな狩りゲーをやっていることが多い。でも何でロボはダメなんだろうなー。

 どうもありすの価値基準の一つには、『カッコいい』が大分大きなウェイトを占めている気がする。その『カッコいい』にも色々と種類があるが、より『クール』なのがお好みらしい。


”ちなみに、他にはどんなのがあったの?”

「んー……『万神杖』とか『仇なす魔の杖』とか『マーリンの杖』とか……」


 お、おう……。


「ちょっと、『くーる』じゃなかった」


 そうだね、どっちかというと『中二』的かっこよさだね、それは。


「それに……まだ、わたしには早いかな、って」


 言われてますよ、美鈴さん。


”ちなみに、防具……服の方も考えたの?”


 美鈴曰く、霊装は武器と防具の2つがある。

 ちなみにホーリー・ベルの防具の方は『精霊の加護衣セブンス・エレメンツ』と言うらしい。こちらも――いや、何も言うまい。


「服は……『麗装ドレス』」


 こちらもとてもシンプルだった。が、アリスのあの衣装は……まぁ『ドレス』としか言いようのないものであることには違いない。

 アリスがまた頷く。


「ん……やっぱり、決めた。『杖』と『麗装』で登録、して」


 私と話をして決意が固まったらしい。

 シンプルすぎてどうしようか悩んでいたらしいが、やはりその名前の方がしっくりと来ることを再確認したらしい。


”わかった。登録しておくよ”


 ありすが決めたのならば私からは言うことはない。彼女の希望通りの名称で霊装の登録をしておくとしよう。

 美鈴――ホーリー・ベルは何と言うだろうか。彼女ならば明るく笑って『いいね、似合ってる』といいそうだ。




 ……とまぁ、ありすは見た目は華奢の少女であるものの、趣味嗜好は大分男子寄りである。

 服装も無頓着で私や美奈子さんはいつもため息をつかされる。

 身体付きは――まぁまだ年齢が年齢なので仕方ないとして、見た目で『女の子』として判別できるのはロングの黒髪くらいなものだ。それも何かお洒落のために伸ばしているというわけでもなく、おそらくは無頓着なだけだと私は睨んでいる――美奈子さんは『髪型だけは女の子らしくしてくれてるのね』と喜んでいるのであまり突っ込めないが。

 一事が万事こんな感じなので、ひょっとしたら髪の長い男の子なのでは? と出会った当初は疑ったものだが……。


「ラビさん、お風呂」

”う……”


 考え事をしていて逃げ遅れた。

 私が逃げることを予想してか、ありすはしっかりと私の両耳を握ってから声をかけてきた。学習能力が高いのはいいことだ――いや、そうではなく。


”ありす……何度も言ってるけど、私も入らないとダメ?”


 無駄だと知りつつも、何度も繰り返した問答をまた繰り返す。


「何度も言ってるけど、ダメ……ん」


 ですよねー。

 かくして、私はありすに両耳でぶら下げられながら一緒にお風呂場へと向かうこととなった。

 一応言っておくと、私はこの世界では風呂に入る必要がない。どういう仕組みなのかは全くわからないが、私の身体はようだ。前に試しに泥水の中にダイブしたことがあったが、すぐに元通りの身体に戻った。おそらく、『ゲーム』のプレイヤーはこの世界の存在ではなく、この世界からの干渉を受けないようになっているのではないだろうか。試す気はないが、仮に車に轢かれたとしても無事な気がする――『ゲーム』内でモンスターに殺されない限りは無事なままなのだろう。

 ついでに、食事の必要もない。食べ物を食べることは出来るし味を感じることもできるが、『食欲』というものがない。そして食事の必要がないということは当然排泄の必要もない。たとえ何かを食べたとしても排泄したことがないのだ。……一体、食べたものはどこに行っているんだろう……?

 というわけで、私の身体はいつでもクリーンな状態が保たれているため風呂に入る必要は全くない。

 ないのだが、ありすは異様に私を風呂に入れたがる。最初は私が気付かないだけで実は臭っているとかかな、とも思っていたのだが、どうもただ単に私をオモチャにしているだけのようだ。

 それに気付いてからは風呂時は逃亡していた。最初の方は上手く逃げることが出来ていたのだが、段々とありすも手慣れてきて最近は全然逃げられないようになってきた。

 ちなみに美奈子さんだが、『ラビちゃんがありすをお風呂に入れてくれるから、助かるわ~』と言っているので私を助けてはくれないようだ。くそう。


「♪」


 ありすが扉の向こうの脱衣所で上機嫌に鼻歌を歌いながら服を脱いでいる。

 私はというと、風呂場の中に閉じ込められている。脱衣所にはありすがいるし、風呂場の窓は大きく開かないため外には出られない。『絶対に逃がさない』という強い意志を感じさせるなぁ!


「ラビさん、お待たせ」


 風呂の扉を薄く開けてその隙間から『にゅるっ』という感じでありすが滑り込んでくる。以前、扉を開けた瞬間に外へと逃げ出したことを警戒してのことだ。

 ああ、もう逃げられないなぁ。


「じゃあ、洗いっこしよ」

”……わかったよ”


 観念する。

 私がありすの背中を洗い、ありすが私の全身をもみくちゃにして洗う。とってもくすぐったい。

 ――まぁ、こうして一緒に風呂に入っていることで、ありすが確実に『女』であることはわかったんだけど。

 それにしても本当に無頓着な子だ。

 一昨日、私が異世界でありすたちと同じ『人間』であることを告白した時、内心では『これでありすも一緒に風呂入るのを辞めてくれるかも』という淡い期待があったのだが、半ば予想はしていたものの何も変わらなかった。

 そういえば私が前世で男か女か言ってないような気もしたが……正直言ったところで変わりはない気がする。

 体や頭を洗ったりしながら、私たちは色々と話をする。ありすの学校の話だったり、ありすにせがまれて私の前世での話をしたり、後は大体『ゲーム』の話をしている。まるで親子の語らいみたいだ、これはこれで悪くはないんだけどね……。


「はい。終わった。

 お湯、入ろ」

”はいはい”


 ありすに抱きしめられながら一緒に湯船に入る。

 気恥ずかしさはあるものの、こうして湯船にゆったりと浸かれるのは気持ちがいい。今の私の身体だと、ちょっと油断するとおぼれてしまうような深さなんだけど。

 私がおぼれないように抱きかかえてくれているのだ。こういうところは気が利くんだが、出来れば私と一緒に風呂に入ることはそろそろ諦めて欲しい。


「ねぇ、ラビさん」

”ん?”


 風呂に入ること自体が好きなのだろう。湯船に浸かっていつも以上にぼんやりと弛緩した声でありすが語りかけてくる。


「……楽しいね」


 私をお風呂のオモチャにすることがか!?

 ……というのは勿論冗談で。


”……そうだね”


 色々と理解できないことが多いものの、『ゲーム』自体はやはり楽しいのだろう。

 私とありすだけで挑んでいた時も楽しかったが、今は美鈴という『友達』もいる。

 楽しくて楽しくてたまらないのがわかる。

 私はと言えば……やはりまだ不安の方が大きい。不安の原因の一つであったありすの身の安全については、とりあえずジュジュの言葉によれば保証はされていることがわかったので払拭された。

 とはいっても『ゲーム』そのものの目的が不透明なことはそのままだ。また、この世界の人間を魔法少女ユニットにするという、超技術も謎のままだ。『ゲーム』の目的次第では、やはりありすたちに危険が及ぶ可能性がある――例えば最終目的がモンスターをこの世界に呼び出してありすたち自身に戦わせるとかいうものであれば……。

 アリスと一緒に現実世界ではお目にかかれないフィールドを駆け回ったりするのは爽快だし、モンスターとの戦いも言葉は悪いがスリル満点のアトラクションのようなものだ。楽しいと感じないわけではない。

 裏にある『何か』を勘繰ってしまって素直に楽しむだけではいられない……これが『子供』と『大人』の差なのかな。


「……大丈夫」


 私の内心を知ってか知らずか、ありすが私をぎゅっと強く抱きしめる。


「わたしたちなら、絶対に大丈夫。モンスターなんかに、負けない」

”……そうだね”


 何の確証もない言葉ではあったが、不思議と確信させられた。

 何だろう、こう……雰囲気がイケメンなせいか、アリスだけでなくありすにも不思議と頼りがいがある。何の根拠もない言葉なのに、ありすが言うと妙な説得力があった。

 最後には上手くいく――『ゲーム』でモンスターと戦ううちに傷ついたり怖い思いをしたり、時にはリスポーンすることもあるだろう。

 それでもきっと最後にはいい思い出が出来るだろう……この時の私たちはそう思っていた。




 ありすと知り合ってから三週間程度だろうか。そのくらいの付き合いだが、もう随分長いこと一緒にいる気分になってくる。学校にいる時以外のほとんどの時間を一緒に過ごしているのだから、当然と言えば当然かもしれない。

 まだまだ彼女については知らないことが多い。ちょっとしたことで気付く新しい発見に驚かされることも多い。

 『ゲーム』の謎なんかよりも、彼女のことの方がよっぽど素敵な謎であることには違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る