第1章20話 ありすと魔法少女 4. リア友になろう!
* * * * *
マック桃園台駅前店は二階建てである。
私たちは二階の奥まったところにある席に向かい合わせて座っている――私は相変わらずリュックの中にいるが。
ありすとホーリー・ベルはそれぞれドリンクだけを頼んでから席に着いた。
「えーっと、じゃあ、改めて。
あたしがホーリー・ベル――堀之内
改めてホーリー・ベルことミレイが名乗る。
「ん……恋墨ありす……『アリス』です。小学校四年生、です」
互いにぺこりと頭を下げて自己紹介終了。
『ゲーム』内での姿とお互いに違うことにはあまり戸惑いはないらしい。
「やっぱり、貴女が『アリス』だったのねー。いや、桃園台が地元って聞いた時、そうなんじゃないかなーって思ったんだけどさ」
「?」
どうもミレイの方はありすのことを以前から知っていたような口ぶりだ。
私たちの疑問に答えるようにミレイは言葉を続ける。
「ほら、あたしの名前って、ちょっと外国人っぽいでしょ? 見た目もこんなだし。
だからさ、小学校の時、下級生にもそんな感じの名前の子がいるって聞いたからさ。それで、ね」
なるほど。
二人は特に知り合いでもないようだ。前世の感覚では、『ありす』も『ミレイ』も日本人としてはあまりないタイプの名前だと思える。それはこの世界でも同じなのだろう。
ミレイの方は同じような名前を持つありすのことを誰かから聞いて、一方的に知っていたということだ。
「まー、別に名前のせいで苦労したってわけでもないんだけどさ。やっぱちょっと違和感があるからねー。
だから、あたしのことは『みすず』って呼んでよ。友達とかも大体そう呼んでるから」
「ん、わかった……。
わたしは、『ありす』のままでいいよ?」
まぁ、ありすの場合は読み方を変えるとか出来ないしね。
「……ん? どうしたの?」
と、ありすがじっと見つめていることに気付いたミレイ――いや、美鈴が尋ねる。
「ん、綺麗な髪……」
どうやらありすは美鈴の髪を見ていたらしい。
桃香嬢も日本人離れした美貌の持ち主だったが、美鈴の場合はまた別の意味で日本人離れしている。特に目を惹くのが見事な金髪だ。
ああ、と納得したように美鈴が頷く。
「あたし、ハーフなのよ。母親の方なんだけど、ここまで見事に金髪を受け継ぐとはねぇ……」
そういわれると、どことなく顔立ちも彫りが深いような気がしてくる。髪こそ金色なものの、瞳は黒い。やや彫りが深いような気もするが、全体的には金髪の日本美人と言える。
……うーん、ハーフだと金髪にはならないような気もするんだけど、まぁ似ていると言っても私の住んでた世界とは異なるようだし、気にする必要はないか。
「わたしも、そうだよ?」
”え、初耳なんだけど?”
唐突にありすがそう言う。
美奈子さんは名前からしても見た目からしても普通に日本人なので、父親の方が、ということなのだろうか。
……そういえば、恋墨家に住みはじめてから二週間ほどが経つが、ありすの父親はまだ見たことがない。
「お父さんは、今海外出張中」
私の内心の疑問にありすが答える。
そうか、海外出張中なら納得だ。
……それ、外で言っちゃいけないんじゃないだろうか。家にありすと美奈子さんの女性二人しかいないのがバレるのは防犯上拙い気がするけど。後で言っておこう……私は心の中のお説教メモに追加しておいた。
「あー、やっぱそうなんだ。目の色とかでもしかして、とは思ったけど」
美鈴も納得したというように頷く。
目の色……?
黒髪黒目の純日本人、な見た目だと思ったけど……。
ありすの顔を改めて眺めてみる。ありすも、私の疑問に答えるように私の方を見る。
……それで気付いた。ありすの瞳は黒ではない。よく見ないとわからないが、薄い紫色なのだ。
”あー、そっか”
私はありすについて『ぼんやりとした』という印象を持っていたが、その理由がわかった。
違和感のないレベルでだが、瞳の色が薄いため、どこか寝ているような、焦点のあっていないような印象を受けていたのだろう。
……まぁ、それを抜きにしても、ありすの立ち居振る舞いからしてやっぱり『ぼんやりした』印象は否めないのだが。
それにしてもじっくりと見なければわからないのに、よく気付いたものだ。前から気にかけていたというのはウソではないということか。
”えーっと、そういえば、ジュジュは?”
気になっていたことを聞いてみる。
私はリュックの中に隠れていなくてもぬいぐるみの振りで誤魔化せないことはないが、ジュジュは流石に厳しいと思う。
ここでジュジュがいないとなると、私自身の目的はおじゃんになるわけだが……。
「ああ、ちゃんと来てるよ。ジュジュ?」
美鈴が自分のカバンの中に声をかけると――
”……ジュ”
カバンの中からジュジュの声が聞こえてきた。どうやらジュジュも来てくれたようだ。
”じゃあ、全員揃ったということで……。
えっと、何すればいいのかな?”
チャットの勢いで『オフ会』が開かれてしまったものの、ここからどうすればいいのやら。
『ゲーム』についての情報交換の話題に入ってから私の話をしようと思っていたが……。
「んー、とりあえず、ありす。ゲーム機持ってきた?」
「ん」
前日に言われた通りありすは携帯ゲーム機を持ってきていた。
「じゃ、とりあえず適当にゲームしてる振りしつつ、『ゲーム』の話でもしましょうか。ここ、他の店よりは『緩い』から、ご飯時じゃなけりゃそんなうるさいこと言われないし」
これで傍から見たら友人同士――髪の色とか違いすぎて姉妹はちょっと苦しいだろう――がゲームをしながら会話しているように見える、はず。
まぁ仮に『ゲーム』の話を聞かれたとしても、到底信じられない話だから結局ただのゲームの話に思われるだけだとは思うけど。
「そういや、ありすは『ゲーム』初めてどんなくらいなんだっけ?」
「……んー、二週間くらい?」
結構前のような気もするが、私とありすが『ゲーム』を開始してからまだそんなくらいしか経っていないのだ。
……同時に、私がこの世界に生まれ変わってからも二週間ということか。
向こうの世界のことを知る術はないし、そもそももし戻れたとしても既に私は死んでいる。
家族や友人、それに仕事関係の諸々とかが気になると言えば気になるが、どうにもならないと今は割り切っている。
「そっか。あたしは……確か夏休みの終わりくらいだったっけ。ありすよりちょっとだけ長くやってることになるかな」
”美鈴はどういうきっかけで『ゲーム』始めたんだい?”
私たちは訳もわからないまま巻き込まれる形で『ゲーム』を開始したが、他の人がどういう経緯でこの『ゲーム』に参加することになったのかが気になる。
「どういうも何も、いきなりジュジュが来て『魔法少女に興味はあるかい?』って……」
と言い掛けて『しまった』と言った顔をして言葉を切る。
えーっと、その言葉通りならば、つまり『魔法少女』に興味があるということで――
「ん、『プリスタ』、好きなの?」
「う……っ」
淡々としたありすの問いかけに言葉が詰まり――やがて頷いた。
『プリスタ』とは『プリズムスターズ』の略だ。私の世界で言うなら……アイドル的なあれこれなアニメと、プリティでキュアキュアなあれを足して割ったようなアニメのことである。比重としてプリティでキュアキュアな方に寄っているか。まぁ『魔法少女』物と言える気はする。
女児向けアニメではあるけど、美鈴の年齢で『好き』と公言するのは中々憚られるだろう。もっと年齢が上がれば、逆に公言しやすいかもしれないけど――それはそれでどうなんだってのはあるが。
「そうなんだ。わたし、そっちは余り見ないけど、『マスカレイダー』が好き」
『マスカレイダー』はこっちの世界の『仮面何某』と『何とか戦隊』を混ぜたようなものだ。どちらも日曜の朝にやってるところは、私の世界と変わらない。
意外なことに、ありすはこの『マスカレイダー』が大好きなのだとか。『ゲーム』中にアリスに変わる時の掛け声も、この『マスカレイダー』から取っているのだとか。
ちなみに、私の世界で言うところの『光の巨人』と『機動戦士』は入り混じって一つの作品となっているらしい。つまり、ロボットvs巨大怪獣物ということだ。ありすはロボットはそこまで興味がないようで余り熱心に追いかけてはいない(見てないわけではないけれど)。私はそっちの方が興味あるんだけど……いや、話がズレた。
「おー、レイダーか! あたしも見てるよ」
「すず姉も、レイダー派になるべき」
「いやいや、それでもあたしの本命は『プリスタ』だわ」
予想外のニチアサトークで二人が盛り上がっている。
今までに見たことがない程、ありすも饒舌になっているようだ。
とりあえずは、つかみはオッケーといったところか。趣味の話で盛り上がっている二人の邪魔をしないように私はしばし黙り込む。
『ゲーム』については色々と聞きたいことはあるが、折角の楽しい話題を邪魔することはない。別に今日でなくても話をするチャンスはあるわけだし。
「んで、ありすはどうなの? やっぱりある日いきなりラビが来て勧誘されたわけ?」
一通りニチアサトークで盛り上がった後、美鈴が尋ねてきた。
「ん……」
今度はありすの方が答えに詰まる。
”私たちの場合はちょっと特殊なのかも――”
私の方から助け舟を出す。
異世界からの転生というのはまだ置いておいて、私もありすも、いきなり『ゲーム』の中に放り出されてしまい、他の選択肢もなく参加するようになったということにしておいた。私の出自以外は全部本当のことだし。
……私のことについても話しておきたいところだけど、『ゲーム』に巻き込まれた話と関連するかわからないし、話題が取っ散らかってしまいかねないので一旦保留だ。
”……ジュジュ”
私の話を聞いてジュジュが何かを言った。
が、特に美鈴は翻訳をしない。大したことは言っていないのだろう。
「はー。そりゃまた、随分危なかったね」
”……危ない?”
「ありす自身も危なかったけど、ラビっちの方がヤバかったよ、それ。
モンスターの攻撃優先順って、基本的には『大きいヤツ』から順みたいなんだけど、他にターゲットがいなかったら、使い魔も狙われるからね」
そう言われるとそうだ。アラクニドとの戦いの時、荒野に一人いた私のことをモンスターは狙ってきていた。
それ以外のアリスと一緒にいるときだと、積極的に私の方を狙ってくることはなかった気がする。
まぁ、アリスにしがみ付いている状態なので、どっちが狙われているかわかりにくいといえばわかりにくいが。
「ジュジュが言ってたけど、使い魔もモンスターの攻撃とかでやられると、その時点でゲームオーバーなんだってさ。体力ゲージなんかは『ユニット』よりも大分高いみたいだけど。
あたしら『ユニット』の方はジェムさえあればリスポーンできるんだけどねぇ」
”え、そうなんだ……”
それは知らなかった。ということは、アラクニド戦の時は本当に危ないところだったんだな……あの時ホーリー・ベルたちがクエストに参加してくれなければ、私もありすも今頃どうなっていたことか……。
「……じゃあ、これからも、絶対にわたしがラビさんを守る……」
ありすが決意も新たに宣言する。彼女にばかり負担をかけてはいられない。サポート系のスキルも活用して、私も頑張らないと。
しかし、私がモンスターの攻撃に巻き込まれて死んだら一発ゲームオーバーというのは、かなり危ういな……。
”……そういえば、もしユニットがリスポーンできなかった場合って、どうなるんだろう?”
私は安全のために常にリスポーンに必要なジェムを残すようにしているが、もしもリスポーンできなかったらどうなるのか? まさか、ありす自身に危険が及ぶのではないだろうか? もしそうだとしたら、アリスが身を呈して私を守ったとしても意味がない。
既に一度死んでいる身だ。私自身がまた死ぬことにはそれほど抵抗はない――あえて言うなら、余り痛くないように死にたいものだが。今も二度目の生と言っても、望んで生まれ変わったわけでもない。もし望めるとしたら、こんな猫だかウサギだかわからない生き物で『ゲーム』をするより、普通に人間に生まれ変わることを望むだろう。
「あー、それあたしも気になったから前にジュジュに聞いたんだけど、『ゲーム』に関する記憶を失ってユニットじゃなくなるってことみたいよ」
――ジュジュがウソついてるんじゃなければ、ね。
と聞こえるか聞こえないか小さな声で付け足す。ありすやジュジュには聞こえただろうか? 何となく聞こえてない気もするが……。
なるほど、その言葉がウソでなければ、『ゲーム』に関する記憶を失うだけで済む、つまり命の危険はないということになるのか。
一応、私の一番心配していることについては解消された……ということになるだろうか。
「ん、それは……ちょっと、いや」
ありすは記憶を失うことが嫌らしい。まぁ、『ゲーム』を楽しんでいるしなぁ……。
「なーに、リスポーン不可にならないように気をつけてればいいってことよ」
「それは、そう……ん」
美鈴の楽観的だがその通りである意見にありすも頷く。
――ありすを『ゲーム』から降ろして安全を確保するために、わざとリスポーンしないという手も考えないでもないが、流石にそれは辞めておこうと思う。本格的に『ゲーム』が危険なものだとわかったら実行するかもしれないが……ありすをだまし討ちするようで気分は良くない。やるにしても本当の意味での最終手段となるだろう。
ともあれ、気をつけなければならないのは、私がモンスターにやられることくらいか。勿論、リスポーン代を常にキープするという方針に変わりはない。
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