第1章18話 ありすと魔法少女 2. 協力プレイをしよう!
* * * * *
本日最後のクエストだ。
着いた場所は初めてのフィールドだった。
「ここは……『砂漠』、か?」
「あたしも初めて来た場所だわ」
メガリスたちや火龍戦でおなじみの荒野にも似ているが、あちらよりももっと荒れ果てた『砂』の大地――見渡す限りが一面の砂の平原で、ところどころに砂丘や草木の生えていない岩山が見える。私たちが到着したベースは、そんな砂漠にある岩山の上であった。
日本人が『砂漠』と聞いてイメージする通りの、まさに『砂漠』としかいいようのないステージである。
こんなステージに出てくる敵と言ったら……。
「ふーむ、さしずめサソリ型の魔物とか、砂を使う……そうだな、『アリジゴク』みたいな魔物が出てくるか?」
アリスの言う通り、『砂漠』と聞いてイメージされる魔物はそんなところか。
あるいは――
”ジュ!”
”敵反応! これは……向こうからこっちに向かってくる!!”
私とジュジュが同時に敵の反応をレーダーに捉える。
向こうもこちらの存在に気付いているのだろう、迷わず一直線に向かってくる。今までのモンスターにはないパターンだ。
「――見えた!」
私たちの警告からすぐ、アリスとホーリー・ベルも敵を視認する。
「あれは……」
やってきた敵は、アリスの予想とは異なっていた。サソリもアリジゴクも空中を飛行して接近してはきまい。
「使い魔殿!」
”ああ”
「行くよ、ジュジュ!」
敵の接近は速い。すぐさま二人は戦闘体勢に入る。
アリスは《
「こいつは――『スフィンクス』か!」
飛んで来た敵はスフィンクス――人面に獅子の身体、そして鷲の翼を持つ魔獣だ。
とはいっても今現れたスフィンクスはというと、牙を剥いた狂暴そうな面相の『猿』の頭に獅子の鬣と身体、背にある翼、そして尻尾が巨大な蛇となっている。頭は猿、胴体が虎、尻尾が蛇、声がトラツグミ……は『鵺』だったろうか、そちらを思い出した。
ともあれ、あのスフィンクスこそが今回のクエストの敵であることは間違いないようだ。
”気をつけて、今までの敵とは全然違う!”
「ああ、わかっている!」
そうだ、このスフィンクスは今まで戦ってきたモンスターとは明らかに違う。
まず明確にこちらの存在を遠くから認識し、積極的に襲い掛かってくる点だ。今まではベースから少し離れた地点に敵がいても、こちらから探し出して接近してから戦闘が始まっていたが、このスフィンクスは私たちよりも早くこちらへと気付き接近してきていた。
もう一つ異なる点は、
「先手必勝――cl《
最初に動いたのはアリス。《剣雨》で無数の剣を投げつけて攻撃しようとする。
しかし、スフィンクスはそれをあっさりとかわす。
「くっ……やはり当たらんか」
予想したとおり、スフィンクスも空を飛んでいるということは、機動力においてこちらの有利が余りないということになる。
今までの敵は基本的には空を飛べずに地上を移動する相手ばかりだったため、空を飛べるアリスたちがほぼ一方的に攻撃することが出来る機会も多かった。
空を飛べるということは、それだけで相手に対してかなりのアドバンテージを得られるということなのだ。『制空権』なんて言葉もあるくらいだしね。
今回はスフィンクスも飛んでいるためそのアドバンテージもない。むしろ、スフィンクスの方が空中における機動力は高いかもしれない。
……拙いな、これは思った以上に苦しい戦いになるかもしれない。
”まずは相手の動きを封じよう。
アリス、ホーリー・ベル、敵の攻撃に注意しながら、『翼』を集中的に狙って!”
「おう!」
「うん!」
飛行能力がなくなれば最高だし、動きが鈍る程度でも十分だ。まずは相手の『翼』を狙って動きを鈍らせる方がよいだろう。
……成り行き上、私がなんとなく指示を出してはいるが、特に反発することなく二人は従ってくれる。まぁ、ジュジュの声はホーリー・ベルにしか届かないから仕方ない面もあるけれど。
二人は左右に分かれ、それぞれスフィンクスへと攻撃を開始する。
「……さーて、とは言っても、あたし《羽装》使ってないと空飛べないのよねー……」
身に纏っている服の属性によって使える魔法が制限されるホーリー・ベルは、空中戦をこなすためには今使っている《羽装》――本人曰く、風属性の装備らしい――を使わなければならない。他の服に切り替えてしまうと、飛行が出来ないのだ。
よって、《羽装》だけで戦う必要があるのだが、攻撃力という点では他の服よりも劣る《羽装》ではスフィンクスに大きなダメージを与えることは難しい。
「よし、アリス! あたしが援護するからそっちで何とかして!」
「うむ、心得た!」
対してアリスは服に依存しているわけではないので、いつでも好きなように魔法を発動できる。反面、《天脚甲》は飛行は出来るもののそこまで機動性が高いわけではない。
必然的に二人の取る戦術は、空中の機動力が高く攻撃力に劣るホーリー・ベルが撹乱して隙を作り、機動力がやや劣るが攻撃力の高いアリスがダメージを与えるというものになった。
「ロード――《フェクダ》!」
ホーリー・ベルが呼び出した武器は『弓』。接近戦は流石に仕掛けない。
「オペレーション――《エアボルト》!!」
放たれた不可視の矢――空気を固めた弾丸がスフィンクスへと向かう。
見えないものの、何かが向かってくるのは感じるのかスフィンクスが旋回して矢をかわそうとする。
回避先へと更に立て続けに《エアボルト》を撃ち続ける。
動きを制限され苛立つのか、低い唸り声を上げ猿面が醜く歪む。
「mk《
スフィンクスの注意がホーリー・ベルに向くのを見計らい、アリスが巨大な三日月型の刃――『ブーメラン』を射出する。《剣雨》ではなく『切り裂く』ことに特化した魔法を使い、スフィンクスの翼を切り裂こうとしているのだ。
ブーメランが狙い通りスフィンクスへと向かうと同時に、今度はスフィンクスが大きな咆哮を上げる。
「なに!?」
「バリア!?」
スフィンクスの咆哮と共にその周囲を守るように薄っすらと緑色の『膜』が現れる。
アリスの《飛刃》が『膜』にぶつかると勢いを失い墜落してしまう。
――何かしらの魔力なのか、全身を覆うバリアを発生させたようだ。アリスの魔法をあっさりと弾くほどの強度ということは、生半可な攻撃は全て防がれてしまうだろう。
攻撃力に乏しいホーリー・ベルではバリアを突き破ることは難しいし、アリスの方はと言うとそれなりに大きな魔法を使わなければならない。
これは、火龍とは比べ物にならないくらいの強敵なのは間違いない。
「オペレーション――《エアボルト》!」
それでも諦めずに再度《エアボルト》を連射しスフィンクスへと攻撃するが、そのことごとくがバリアに阻まれる。
ホーリー・ベルの攻撃はもはや脅威ではないと判断したのか、スフィンクスの猿面がアリスへと向き直る。
”アリス、来るよ!”
「ああ、わかってる!!」
猿面が大きく口を開け――
”火炎弾!?”
「ちっ――cl《
火龍のものよりも更に巨大な火球が飛来する。
飛ぶだけでかわすのは難しいと判断したアリスは、《氷壁》を張りつつ逃げようとする。
火球の直撃を受け、一瞬で《氷壁》が蒸発するが一瞬だけ勢いが弱まる。その隙に離脱しようとしたが、アリスの回避方向へとスフィンクスが同時に向かってきていた。
「――!?」
咄嗟に魔法を使おうとするものの、それよりも早く接近したスフィンクスが腕を薙ぎ払い私ごとアリスを薙ぎ払う。
”アリス!”
悲鳴を上げることも出来ず、強烈な打撃を受けてアリスが墜落する。
「ぐっ……」
意識は失っていないようだ。呻きつつも地面へと叩き落される前に体勢を立て直そうとするが、それよりも早くスフィンクスが更に火球を連発してくる。
「cl《氷壁》――ab《
《硬化》の魔法を重ね掛けした先ほどよりも更に強固な《氷壁》を展開するが……一発だけならともかく見える範囲で最低三発の火球は受け止めきれない!
更にスフィンクスは火球を発射しながらアリスへと向かってきている。逃げようとしたらまた叩き落されるだろう――さっきは幸運にも爪で切り裂かれなかったが、今度は爪の一撃を受けるか、あるいはあの醜悪な猿面の牙で噛み付かれるか……。
一瞬にして私たちは追い込まれてしまっていた。
「もう一つ、cl《硬化氷壁》!!」
更に《硬化氷壁》を出し火球を防ごうとする。しかし、それではスフィンクスの突進が避けられない。
『杖』を何かの武器に変化させてもスフィンクスの打撃を受け止めるのは難しいだろう――だが、
「ロード、《ベネトナシュ》!!」
アリスは一人で戦っているのではない。
スフィンクスとアリスの間に割って入ったホーリー・ベルが新しい武器――彼女の身長ほどもある巨大な『盾』を出現させる。
「オペレーション――《ストームウォール》!!」
『盾』を中心に突風……いや、魔法名の通りの『嵐』が巻き起こる。
火球すらも巻き込む巨大な『嵐の盾』がスフィンクスの突進を止めるだけではなく、絡め取り、動きを封じる。
「アリス、今!」
「ああ!」
如何にバリアを張っていようとも、周囲全てを覆う風の壁によって自由は奪われる。忌々しげにスフィンクスが吼え、更に至近距離から火炎を浴びせようとするが、それよりも早くアリスの魔法が完成する。
「mk《球》、ab《回転》、ab《弾丸》――更にab《
高速回転する巨大な弾丸――炎に包まれたそれは、嵐も、スフィンクスの火球すらも飲み込む……。
「ext《
燃え盛る隕石がスフィンクスの炎を飲み込み、更にバリアを破砕して直撃する!
流石にアリスの全力の攻撃魔法を防げるほどの強度はないらしい。顔面から諸に直撃を食らい、スフィンクスが悶絶する。
だがまだとどめには遠い。更に上空へと上がり距離を取ろうとするスフィンクスだったが、
「ロード――《ミザール》!」
すぐさまホーリー・ベルが追撃をかける。
呼び出した武器は左右二対の剣――右手に持つ剣の方のがやや長いものの、武器でいうなら『ショートソード』というものになるのだろうか、片手で振り回すことが容易な小型の剣だ。私たちが今まで見たことのあるホーリー・ベルの武器は『爪』『槍』『弓』、そして先ほどの『盾』とこの『双剣』の5種類。本人曰く、計7種類あるらしい。
「オペレーション――《アクセラレーション》!」
離脱しようとするスフィンクスの背後へと加速して回り込む。
既にバリアはない。背に降り立ったホーリー・ベルにスフィンクスが気付いた時にはもう遅い。
「切り裂け! オペレーション――《バーストソード》!!」
ホーリー・ベルを中心に突風――いや、爆風が巻き起こる。
目には見えない風の刃がホーリー・ベルを中心に全方位へと射出されたのだ。
それを至近距離から浴び、スフィンクスの背中、更に翼が大きく切り裂かれる。
しかし……それでもまだ足りない!
スフィンクスは一瞬バランスを崩しつつもすぐに体勢を立て直し、ホーリー・ベルを振り解こうともがく。更に、大きく咆哮し再度バリアを張ろうとする。
「いくぞ、使い魔殿!」
ホーリー・ベルが作った一瞬の隙を見逃すアリスではない。
アリスの言葉と共に魔力回復のキャンディを使って回復、大火力の魔法を叩き込もうとする。
「md《
様々な形態に変化することのできるアリスの『杖』だが、攻撃魔法の威力はその時々の『杖』の形態によってある程度変わることがわかっている。
中でも『槍』は攻撃力もさることながら、見た目通り『貫通力』と『射程』を強化することに長けた形態である。
さて、アリスがやろうとしている魔法は――
「cl《
”え、ちょっ……!?”
ブーツを変化させたが、付与した魔法からして――
「振り落とされないように注意しろ!」
言われるまでもない! 私はアリスの首へと更にしっかりしがみ付く。
それとほぼ同時に、アリスの変化させた脚甲、その脚の裏に当たる部分から勢いよく炎が噴き出し、まるでロケットのようにアリスを撃ちだす!
「ab《
更に重ね掛けした魔法は『槍』の切れ味強化だけだ。つまり、アリスのやろうとしていることは『槍』と『脚甲』の2箇所へと魔法を使った更なる合成魔法――
「ext《
要するに、ただの『突撃』だ、これ!?
けれどもこれがそれなりに有効だったりもする。短時間、かつ一方向にしか移動できない《飛脚甲》だが、その勢いを利用して『槍』を突き立てるという一撃は強力である。
突然の高速移動にホーリー・ベルの方へと意識の向いてたスフィンクスは対応できない。咄嗟にかわそうとしたものの、右肩の付け根へと深く『槍』が突き刺さる。
「md《
『槍』を突き刺すと共に今度は『鞭』へと変化。『鞭』を器用にロープのように扱いスフィンクスの背中へと乗り込む。
二人を振り落とそうとするスフィンクスだが、至近距離までアリスの接近を許した時点で態勢は決した。
「md《
ここまで接近してしまえば魔法を使うよりも武器で切り裂いた方が速い。
『杖』の先端を鋭い大鎌へと変化させ、翼を根元から切り裂こうとする。
「こっちも――オペレーション《ソニックエッジ》!」
アリスが右側の翼を、合わせて左側の翼をホーリー・ベルの刃が切り裂く。
根元からの切断は出来なかったものの、羽をズタズタに引き裂かれスフィンクスの体勢が乱れ――
「よし!」
地面へと落下してゆく!
二人はすぐにスフィンクスから離れ、それぞれ飛行系の魔法で後を追う。
墜落していったスフィンクスだが、地面に激突はせずすんでのところで体勢を立て直し魔法のバリアを張って衝撃を軽減させていたようだ。ややよろめいてはいるが、まだ生きている。
「まずは使い魔殿の狙い通り、やつを地上に引き摺り下ろすことは出来たな」
「後は――」
そこから先は特に語るべきこともない。
火龍よりも生命力、火力、全てが上回っており、こちらの攻撃を防ぐバリアを張ることが出来ると言っても『無敵』ではない。
制空権をこちらに握られたことでスフィンクスに勝ち目はなく――後はほぼ一方的にアリスたちの集中攻撃を受けて、ほどなくスフィンクスは撃破された。
* * * * *
私たちとホーリー・ベルがフレンドになった後の緒戦は、苦戦らしい苦戦もせず、ほとんど余裕の戦いで終わったと言える。
もう少し強い敵が出てきたとしてもほとんど問題はないだろう。
……そんな私たちの間に劇的な変化が起こるのは、彼女たちとフレンドになってから四日後、つまりフレンドになってから迎える初めての週末のことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます